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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
31日目、モデルなのです
340/934

『カセンツ』辺境の絵描き

A,C, 27/03/26



「おはようございまス」

「おはようシーアさん」

「おはようございます」


 顔を洗っていると、シーアさんが寝ぼけ眼を擦りながらやってきました。

 

「……」


 シーアさんがじーっと私を見ています。寝癖がすごいですよ、シーアさん。


「なんデ、ぐっすり寝た私よりシャキッとしてるんですカ?」

「日ごろの賜物、かな?」


 早起きは習慣になっていますから。


「朝は苦手?」

「徹夜は出来ますけド、中途半端に寝るト、きついでス」

「低血圧の様ですね」


 シーアさんは、栄養不足という訳ではないでしょうけど、果物や魚を多く食べた方が良いでしょうね。

 一杯食べますけど、偏っていたりするのでしょうか。


「食事を少し変えましょう」

「お願いしまス」


 顔を洗い、歯を磨いてから外に出ます。


「王国内とは、空気が少し違うかな」

「少しだけ澄んでいる気がします」

「神林の空気が、少し恋しいかも」

「私も、少しだけ」


 澄んだ空気を吸ったからでしょうか。

 ”神林”の、全身を清めるかのような空気を思い出してしまいます。また、身を委ねたいですね。

 朝の静かな空気を、微笑んだアリスさんと二人で、しばし――堪能します。

 


「遅いですヨ。サボリさン」


 ゲシゲシと足を蹴りながらシーアさんが怒っています。


「阿呆……揺らすな……」


 レイメイさんが頭を押さえています。

 顔が青いです。この症状は見覚えがあります。お母さんがお酒を飲んだ次の日、あんな感じでした。


「二日酔いは自業自得ですので、治療は致しません」

「てめぇ……」


 揺れる船の上でたくさん飲んだ上に、食事の時も飲んでいました。

 お酒を覚えたての人が良くやる失敗と聞いた事があります。調子に乗って飲んで、二日酔いに苦しむまでがセットと。

 そうやって量を学ぶと、お父さんが言っていました。


「初日から、修行は出来そうにないですね」

「やる……うぷ」

「……吐かれたくないので、嫌です」


 出来る出来ないじゃなく、嫌です。


「修行出来ない代わりに、次の街ではしっかりと人間観察してください。視線の動きとか、体の動きとかです」

「あぁ……」

「言っておきますけど、バレないように見てくださいよ。捕まりたくないでしょう」

「誰が不審者だゴラ……」


 罵声もキレがありませんね。


 体を動かすのは無理でしょう。ですから、攻撃予測のための修行をしてもらいます。

 対マクゼルトを想定した場合、今必要なのは相手の攻撃を素早く予測することです。そのための訓練をしてもらいます。


「指先一つまで、しっかり見ていてください」

「捕まったらちゃんと迎えに行ってあげまス」

「絶対ぇ捕まらねぇ……」


 クふふふ! とシーアさんが笑います。置いて行くわけにはいかないので、迎えに行く事になるんですよね。

 それは嫌ですから、もう一つ追加注文しましょう。


「相手に行動を読まれない訓練も兼ねています。誰にもバレないように観察してくださいね」

「そんなんで強くなんのか……?」

「小さいことからコツコツと、です。素人にバレるようでは、マクゼルトは確実に気付きますよ」

「……分ぁったよ」


 二日酔いの貴方に出来るのは、それくらいです。



「っ……」


 私……()()……。少し、遅れていたようです。

 軽いものですけど、一応薬とかあるのか……聞いておきましょう。


「アリスさん、ちょっと」

「はい」


 物陰にアリスさんを連れて行きます。


「えっと、私……来ちゃったんだけど、薬とかあるのかな?」

「はい。用意していますよ」


 良かった、アリスさんが用意してくれていたみたいです。


「この世界特有の問題とか、あったりするかな?」

「リッカさまの世界と変わりないと思います。準備していますから、酷いのでしたらシーアさんとレイメイさんに戦ってもらいましょう」


 軽い運動は逆に良いと言いますけど、戦闘はきつそうです。戦闘は、シーアさんとレイメイさんに任せることになりそう。


「私は軽いから、もしもの時は戦うよ」

「リッカさまが必要な程の戦闘では、仕方ありませんけれど……。なるべく、ご自身を優先してください」

「うん」


 薬もあるそうですから、なんとかなるでしょう。


「アリスさんは大丈夫?」

「私は今朝から……、余りにも重いときは船で休ませて貰うことになりそうです」

「じゃあその時は、私も船で休もうかな」

「それがよろしいかと」


 ほっと胸を撫で下ろします。アリスさんにもしもがあってはいけません。


「では、部屋に参りましょう」

「うん、ありがとう」


 少し時間をもらって、身嗜みを整えます。


 アリスさんにこんな形で迷惑をかけてしまうとは……。

 日記と一緒に置いてきたバッグに、色々と入れていたんですけど、ね……。日記だけ湖に置いてきたら良かったんじゃないですか? 神さま、結構適当ですよね。




 食事を終え、次の街に向かいます。


「次はカセンツでス。普通の町ですネ」

「特に何かがある訳じゃないんだ」

「でス」

「いや」


 レイメイさんが否定します。何かを知っているようです。


「あの町は、芸術が盛んだったはずだが」

「そうなんですカ? 私が調べた限り、そういった事はなかったはずですけド」

「有名な絵描きが居たはずだ」


 失礼とは思いますけど、レイメイさんと芸術が結びつきません。


 有名な絵描きが居たため、芸術に造詣が深く、見る目があったとのことです。

 鑑定士として生計を立てたり、修繕したり、そういったものが盛んだったと。


「お前が調べたのは、どれくらいのだ?」

「三年前からの資料でス」

「俺が行った時とは違うらしいな」

「いつ行ったんですカ?」

「七年前だ」


 七年前というと、レイメイさんがライゼさんの下から去って数年後ですね。


「何があったのでしょうか」

「四年間で何かあったんだよね」

「町民に聞いてみるのが一番でス」


 美術館の品々が頭に浮かびます。

 先代が多く残した美術品。絵描きといえば、神さまの想像画もありましたね。金髪の。

 有名な絵描きさんは、どんなものを書くのでしょう。



 町が見えてきました、けど……何か、寂れて……?


「ここからですから正確には分かりませんけれど、人が少ないです」

「遠出してる訳じゃないだろうし、ブレマでもあった、住民の流出?」


 マリスタザリアの大群を見た住民達が、避難したのでしょうか。


「とにかク、行きましょウ」


 近場に船を止め、町を探ります。

 数人の視線を感じます。不信感を多分に含んだ警戒の目、ですね。


「とりあえず、一番大きい家に訪ねてみよう」

「そうですね。地主等の有力者でしょうから」


 まずは不信感を解かないといけません。


 町の奥に一際大きい家があります。ですけど、右奥、町から離れたところにもログハウスのようなものが建っています。 

 まずは、町にあるほうから訪ねましょう。


「ごめんください」

「……」 


 中から気配はします。こちらを窺っているようです。


「私はアルレスィア・ソレ・クレイドルという者です。”巫女”をやっています」

「巫女様……?」


 漸く、中から反応がありました。扉から少しだけ顔を出し、アリスさんを確認しています。


「間違いなく、巫女様のようですね」

「はい。少し、話を聞かせていただけませんか?」

「分かりました」


 家の中に招いてくれました。


「改めまして、アルレスィア・ソレ・クレイドルです」

「六花立花です。同じく、巫女をやっています」

「噂で聞いた事があります。赤の、巫女様ですね」


 神誕祭には、訪れていないようです。マリスタザリアが跋扈する時代ですから。町を出ないのも、自衛の一種です。


「レティシアでス。巫女様と共に旅をしていまス」

「ウィンツェッツだ」

「ディート・ベールです」


 自己紹介を終え、話を聞かせていただきます。


「この町は、その」

「はい。多くの若者が町を離れ、今では年寄りと病人くらいしか居ない……死を待つだけの町です」


 町長の怒りが、伝わってきます。


 ここで私は、違和感を感じました。

 もしマリスタザリアによる流出であれば、怒りよりも嘆きや、どうしようもないという諦念が滲むはず。


 それがなく、怒り。マリスタザリアは関係ないのでしょうか。


「理由を、お聞きしても?」


 アリスさんが静かに尋ねました。


「……王都です」

「エ?」


 話を聞くだけだったシーアさんが顔を上げきょとんとします。


「キャスヴァルとなって、この町は徐々に寂れていきました」


 王都の所為で、町が?



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