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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
30日目、旅の始まり始まりなのです
338/934

『ブレマ』最初の一歩⑨



「何処行ってたんだよ」


 レイメイさんが何食わぬ顔でやってきました。シーアさんの護衛も兼ねていたはずなのですけど。


「攫われてましタ」

「……は?」

「サボリさんがサボっている間に攫われてましタ」


 レイメイさんがこちらを見てます。

 見ても答えませんよ。しっかりシーアさんと話してください。


 周りが遠巻きに私を見ています。そうなるのも仕方ありません。

 元締めさんを助ける際、結構()()()やりましたから。


 凹んだ地面とか怯えきった町民から察して欲しいです。町民には、元締めさんが後で説明してくれるでしょう。


「買い物が中途半端ですけド、行きますカ」

「お待ちを。お詫びという訳ではありませんが、必要な物があれば申しつけください」


 元締めさんが提案してくれます。シーアさんは気にしてないようですけど、どうしましょう。


「町民たちも、誘拐に協力したと聞いています。どうか、贖罪の機会を」


 シーアさんを見て、選択を任せます。


「でハ――」


 私は、シーアさんに任せた事を少しだけ後悔することになりました。




「容赦ねぇな」

「ちゃっかりお酒を求めたサボリさんには言われたくないでス」


 贖罪の機会を与えるのは、罪人にとっての赦しとなります。そして罪人だけでなく、罪の意識を感じてしまっている元締めさんの心に安寧をもたらす物でもあります。


 ですけど。


「これは、やりすぎ」

「本当によろしいのですか? 苦しいのであればお返ししますが」


 山の様に積まれた保存食やお酒の数々。日用品も多数あります。もう、旅中の補給はいらないのではないでしょうか。

 

「いえ、構いません。貴女方の役目を蔑ろにし、お仲間を拉致監禁という大罪を犯したというのに、貴女方は町長を罪には問いませんでした」


 元締めさんが頭を深々と下げます。


「その品で、全ての罪が償えるとは思っておりません。ですが、せめてもの償いとして、受け取ってください」

「ありがたく頂きまス」


 シーアさんがそれで赦すというのであれば、私達から言う事はありませんね。

 レイメイさんには、説教が必要かもしれませんけれど。


 町長さんはしばらく拘留するようです。その後は、町長としての任期を全うしてもらうと。


 悪意による犯行ではなく、純粋に街を憂いた結果の行動でした。

 手段を大きく間違えましたけれど、原因があの大群にあるのなら、私は他人事ではないでしょう。


 自身の娘が、間接的とはいえ悪意の被害者となり、大群によって町民たちの不安は最高潮へと達しました。


 街を離れる人たちが増えたのでしょう。

 その結果として起こるのは、旅人たちがこの街に来なくなり、経済が回らなくなってしまいます。


 私達を使い、町民に安心感を与えるというのは手段としては悪くないです。


 でも、私達は……私は、マリスタザリアを呼んでしまいます。余計に不安を煽ることになるでしょう。


 それに、魔王を倒せるか分からないっていうのは、賛同しかねます。私達は絶対に、魔王を倒すのですから。


 積荷を積み込むレイメイさんを見ながら、ため息が出ます。


「はぁ……。お酒なんかいらないでしょう」

「なかったから仕方ねぇだろ」

「シーアさんへの謝罪で、どうしてあなたの分まで頼んでるんですか」


 食材と違って、お酒は嗜好品。謝罪で受け取ったにしても、シーアさんは飲めません。

 

「チッ……」


 舌打ちして積荷を積み続けています。

 関節極めましょうか?

 

「リッカさま、こちらで休憩しましょう」

「積み込みは男に任せるに限りまス」


 アリスさんとシーアさんに呼ばれるがまま、テーブルに向かいます。

 船に乗り込んだ後レイメイさんは”風”を送りながらお酒を飲むだけでしょうし、今の内に働いてもらっておきましょう。

 シーアさんの護衛も出来ていませんし。


 大勢が居る街で、シーアさんが魔法を使って制圧なんて、そうそう出来ません。

 そのために、強面で刀を持っているレイメイさんが人避けになると思っていたのですけど。


「こういうときの為の男手でス」


 シーアさん本人は、もう気にしていないようですね。


「アリスさん、シーアさん」

「どうしました?」

「護身術、どう?」


 私がずっとついているのでアリスさんには必要ないでしょうけど、自分でも対応できるっていうのは安心できるものです。

 

「一朝一夕で身につくようなものなんでス?」

「簡単なものなら、すぐにでも」

「私は、辞めておきます」


 アリスさんが申し訳なさそうに断ります。

 自分を守るためとはいえ、人を傷つける技術ですし、嫌でしょうね。配慮が足りませんでした。


「アリスさんは私が守るから、安心しててね?」

「はいっ」


 申し訳なさそうにしていたアリスさんに、笑顔が戻ってきます。


「今回の事で必要かと思いましたけド、私が気をつけていれば問題なかったのデ、私も辞めておきまス」

「そっか。じゃあ、食べ物頬張り過ぎないようにね」

「でス」


 恥ずかしいのか、シーアさんが頬を染め短く返事をしました。


「お師匠さんから聞いてますシ」

「ん?」


 頬をむにむにと触りながらシーアさんが言います。頬の朱を取ろうとしているのでしょうか。


「リツカお姉さんは教える時、実践するト」

「流石に、シーアさんにはかけないよ……」


 照れ隠しなのか、本気なのかは分かりませんけれど、実践するのが好きって訳じゃありませんよ……。


「武術には興味ありますかラ、旅が終わった後にじっくり見せていただきまス」

「それは良いけど、相手はどうするの?」

「お師匠さんとサボリさんでどうでス」


 クふふふ! とシーアさんが楽しげに笑います。それは、二人が四苦八苦するのを見たいだけなのでは?


「ライゼさんは教えて欲しいって言ってたし、大丈夫だろうけど」

「レイメイさんにはかけて欲しくありません」

「体を密着させるのはしないよ?」

「それでもですっ」

「う、うん。分かった」


 アリスさんがずいっと私に顔を寄せ、力強く拒否します。

 男性は狼と、アリスさんの方が強く理解しているのですから、私はそれを断ることはありません。


 武術による接触で劣情を抱くとは思えませんけれど、私の皮を欲しがった変わり者も居ますし、そういう人も居るのかもしれませんね。


 痛いのが良いって人も居るのでしょうか。

 世の中って、広いですね。こんな事で世の中の広さを感じたくなかったです。



 アリスさんとシーアさんとのティータイムを楽しんでいると、段々と夕暮れが見えてきました。

 少し離れた所で、晩御飯と就寝準備をしないといけませんね。


「街から四キロ程離れれば、マリスタザリアの被害は心配ないでしょう」

「次の街まデ、五キロ程でス。その中間が一番ですけド、四キロ離れるとなるト、少し王都側に戻る事になりますネ」


 地図を見ながら、停泊所の位置を決めます。


「安全第一で行こう」

「でハ、この街と王都、次の町から四キロ……この辺りですネ」

「夜の移動は危険ですから、そろそろ出ましょう」

「そうだね。レイメイさん、いけますか」

「あぁ……。とっくにな」

「声かけてくださいヨ」


 お酒を飲んでいるレイメイさんが船の上から顔を出します。私達がのんびりしていたから、声をかけづらかったのでしょうか。

 レイメイって呼ぶと嫌な顔をしますけど、兄弟子の時と一緒で何れ慣れるでしょう。


「もう酔い潰れたサボリさんに運転を任せる訳にはいきませン。”風”だけ送ってください」

「おう」


 お酒飲んでる時の方が素直ですね。この際常に酔っ払って……。流石に、ダメですね。



 遠くなっていくブレマを見ます。


「なんで、王都からこんなに近いのに、あんなにも違うんだろう」


 余裕がないと言いますか、焦っている?

 王都の牧場の人たちは何度も目の前でマリスタザリアを見たのに、酪農をやめることはありませんでした。


 それなのに、ブレマでは……。


「コルメンスさんが居るかどうかの差でしょう」

「ですネ。絶対的な統治者が居るかどうかでス」


 コルメンスさんが居ることで、心の余裕が生まれる。ということですか。

 やっぱり、コルメンスさんはこの世界。きやすばるに必要な人です。


「尊敬しなおしたかも」

「それこそ不敬だと思いますヨ。まァ、私も見直しましたけどネ」

「帰ったら、話すことが増えましたね」

「うん。自信がいまいち足りない王様に、ちゃんと話さないと」


 コルメンスさんが居ることが、この国を豊かにするんです。




 停泊予定地まで、そんなに時間がかからないみたいですから、移動中に料理を作ります。


 テントの設営もいらないのですから、後は適当な所に止めるだけですしね。

 アリスさんと厨房に向かう前に。


「見張リ、どうしまス?」

「皆寝て大丈夫だよ」

「ン? サボリさんに丸投げしますカ?」

「私一人で感知するよ」


 この状況ならば、私は()()()()()()()()()


「それっテ、寝てるって言うんですカ?」

「ちゃんと睡眠は取れるから」


 少し寝起きが良いって思ってもらって構いません。

 咄嗟の時睡眠不足なんて事になれば、チームの生存力は大幅に下がってしまいます。

 感知は私に任せてもらって構いません。


「しっかり寝て、戦いに備えていて」

「良いんですカ?」


 シーアさんがアリスさんを窺います。


「……四人という少ない人数です。見張りを交代では、一人一人の睡眠時間が短くなってしまいます」


 アリスさんが私を見ています。


「三日です。三日毎に、リッカさまの休養日を設けます」

「なるほド。でハ、その時に私とサボリさん交代で見張りましょウ」

「部屋からになりますが、私も感知します」

「分かりましタ」

「これが最大限の譲歩です」


 きっぱりと、アリスさんが告げます。絶対に変えないと、意思を込めて。


「うん。それで、いこうか」


 皆の負担が減るのですから、それで構いません。

 本当は、ずっと私だけでも良いのですけど、体調不良になんてなってしまったほうが迷惑をかけてしまいますから。



 話し合いを終え、厨房に向かいます。

 旅の初日が終わっていきます。

 最初から、色々とありましたけれど……なんとかやっていけそうです。


 王都だけでも広いと思っていました。まだ行っていない場所も、会った事のない人も居ます。

 でも王都の外は、更に広く、色々な人が居ます。


 狭い鳥かごから飛び出した鳥は、最初にどこを目指すのでしょうか。ひたすらに真っ直ぐ、本能に従い飛び立つのでしょうか。

 私も鳥の様に、本能に身を任せようと思います。


 ひたすらに真っ直ぐ、魔王の元へ。

 


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