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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
30日目、旅の始まり始まりなのです
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『ブレマ』最初の一歩⑧



「……」


 手足を縛られ、口も塞がれ。何も出来ません。魔法が使えればこれくらいどうってことないのですけど。


(こういう事があると想定していたから二人組みだったのに。あのサボリさんがサボりさんだったばかりに)


 兎に角、現状を理解しましょう。

 やり方は強引でしたけど、丁重に運ばれました。傷つけないようにそっとですね。まァ、私は大暴れしたので数人怪我してましたけど。


 この部屋は、結構豪華です。貴族の家でしょうか。

 私の肌や目はこの国では珍しいですし、好事家でも居るのかもしれません。


 変態に捕まっていると考えると、気分が悪くなってしまいます。何かされる前に逃げないといけません。


(リツカお姉さんに気をつけるように言っていたのに、この様ですか)


 今度から買い食いは冷たい物にしましょう。一口も小さくしないといけませんね。

 食べないという選択肢はありません。


 扉が開きました。主犯の登場ですか。どんな変態さんなのでしょうね。


「……」

(町長さん?)


 黙って入ってきたのは町長さんでした。この人が?

 理由はなんでしょう。

 なんにしても、乙女をこんな形で拉致監禁とは。義理とはいえ親子ですね。


「貴女を人質にし、巫女様達にこの街を守ってもらう」

「……?」


 狂ってるんですか。

 罪の意識でも感じているのか、脂汗たっぷりで私に告解してきます。


「仕方ないのだ。あの大群を見てしまっては、町民たちの流出は避けられん。そうなれば街としての形を維持できない」


 先の戦争の事でしょう。確かに衝撃的ですけれど、襲われたのは王都であって、この街ではありませんよ。

 過剰な反応ではないでしょうか。


「この街が襲われた時、守ってくれる人が必要なのだ」


 それを巫女さんとリツカお姉さんに?

 そうでしたね。私達以外は知らないんですよね。狙いは巫女さん達であり、二人が居る方が危ないってことは。


 こんな拉致監禁という強硬手段を取るとは思いませんでした。

 街の安全を確認後すぐに出て行こうとしていたのですけどね。

 どうにかしてお二人に伝えなければ。


「今、部下が巫女様達に話をつけに行った所だ。直に返事がくるだろう」


 本気で成功すると思ってるようです。

 無知って怖いですね。


 しばしの沈黙が続きます。


「遅いな……」


 痺れを切らしたのか連絡をとっています。繋がらないんじゃないですかね。


「”神託”の前では仲間は惜しくないと……?」


 確かに、お二人はお互い最優先ですけれど。


 ドンッと扉が吹き飛び、埃が立ちました。


「なんだ!?」


 お二人に置いていかれる程、仕事仲間って訳じゃありませんし。


「シーアさんを返して貰いに来ました」


 赤い魔力を纏ったリツカお姉さんと、目を閉じたまま静々とついてきている巫女さんが、入り口に立っていました。


「は、話を聞いていないのですかッ。町民が安心するまでの間――」

「聞いていますよ。()()()()()

「町長……本当にやってしまったのか」

「ドミニクッ……貴様どうやって」

「牧舎に運ばれていく元締めさんを、私達が助け出しました」


 元締めさんも一緒にやってきたようです。何があったのでしょう。


「聞けば、シーアさんを人質に私達を束縛しようとしたとか」

「束縛ではありません! ただ、少しの間……我々を守って欲しいだけです!」

「魔王を私達が狙っているように、魔王も私達を狙っています。私達が居た方が危ないって、考えたことありませんか?」

「な、な……」


 あーあ、言っちゃいました。

 でも、私が捕まってしまった所為ですし、反省しなければいけません。


「暈したのが悪かったですね。私達は今魔王討伐に向かっています。この街に寄ったのは悪意を取り除き、少しでも魔王の痕跡を探すため」


 リツカお姉さんが私に向かって歩き出しました。

 でも、町長さんは諦めていないのか、もはや後に退けないのか、私を盾に使っています。

 それを見て、リツカお姉さんが止まってしまいました。


「大群が来ようとも、貴女達が居れば問題ないでしょう。それに、化け物の被害は魔王関係なしに我々を襲う!」

「根本を解決しなければいけないと、私は申したはずだ!」

「倒せるか分からない魔王より、目先の脅威を取り除いてもらわねば、町民は離れる一方だ!」


 町長さんと元締めさんが喧嘩してます。

 リツカお姉さんが気を窺ってますけど、私はしっかりと押さえつけられていますし、町長さんはリツカお姉さんと巫女さんをしっかり見てます。


「一言でも発すれば、この子がどうなるか……!」

「……」


 リツカお姉さんが後ろに居る巫女さんに目配せしてます。巫女さんは、首を横に振りました、


「返事を頂きましょう」

「……」


 喋るなって言ったのに、返事を求めるってどういう。

 リツカお姉さんが、視線を動かしたり肩を動かしたりしたかと思うと、目の前から消えました。


「ッ――!?」


 私の首に回されていた腕が消え、前のめりに倒れそうになってしまいます。


「シーアさん大丈夫ですか?」


 巫女さんが受け止めてくれて、口の布を外してくれます。


「はイ」


 手足の枷も外してくれたので、やっと自由です。

 後ろに居たはずの町長さんを見ると、リツカお姉さんに組み伏せられていました。

 何したんです?


「な、何が……!」

「喋ったり動いたりしたら、腕を折ります」

「……!」


 形勢逆転、今度は町長さんが黙る番です。


「どうやっテ」

「八極拳には活歩っていうのがあるから、それで”疾風”の真似事をね」


 シーアさんに外傷はありませんね。何かをされた訳でもなさそうですし、本当に私達を束縛するための人質だったようです。


「後は、視線誘導で消えたように見えただけだよ。すごく頑張って近づいたって感じ」

「頑張りすぎでハ」

「魔力がないとここまでの動きは出来ないから」


 向こうの世界に居た時は、本当に少し初動が早くなる程度の物でしたから。


 身動ぎする町長さんの腕を極めたまま、元締めさんが拘束具を持ってくるのを待ちます。


「そんな事も出来たんですネ」

「”抱擁強化”中も、これで動いてるよ」


 地面があれば、”疾風”より圧倒的に早く動けます。


 ”疾風”のすごいところは空中でも高速移動出来る点です。活歩では空中移動出来ませんから。

 でも地面に居る限りは、魔法詠唱の必要がない活歩の方が私は早いです。


「シーアさんが無事で良かったよ。まさか攫われるなんて思わなかったから」

「魔法を使わなかったのですか? シーアさんが捕まるなんて思いませんでした」


 アリスさんが一応、シーアさんの体を見て異常がないかを確認しています。


「いヤ、えっとですネ。食べ歩きしてたラ、詠唱できなくテ……そのまマ」

「はぁ……」

「シーアさんらしいけど、気をつけてね?」


 アリスさんがため息をついてしまっています。


 魔法が使えないと、シーアさんにはキツイですもんね。

 やっぱりシーアさんにも護身術を教えた方が良いでしょうか。アリスさんにも必要かもしれません。


 戻ってきた元締めさんが町長さんを拘束していきます。

 元締めさんが少し引き攣った顔をしています。この感じも懐かしいです。


「申し訳有りませんでした。止める事が出来ず……」

「いエ。気にしていませン」


 元締めさんが、シーアさんに謝っています。


「まァ、リツカお姉さんに拘束されて良かったですネ」

「はぁ……」


 気の抜けた返事をする元締めさんに、シーアさんがニコリと言います。


「もし私が魔法を使っていたラ、皆さン――死ぬまで氷漬けだったでしょうかラ」


 ビクッと震えた町長さんが顔面蒼白といった感じに狼狽しています。


「まさかとは思いますが、王都西の大群を殲滅したのは……」

「巫女さんとリツカお姉さんト、私ですヨ」


 知らないで襲ったんでしょうか。

 知らない方が良い事もあるんですね。選任の証を持っている時点で、他の人たちより戦闘に秀でているのは、確定しているのですけど。



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