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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
30日目、旅の始まり始まりなのです
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『ブレマ』最初の一歩⑦



 巫女さんとリツカお姉さんが外へ行きます。

 あの変態から変なことを言われても、リツカお姉さんは気にしていないようです。


「同じ男性としテ、エドゥさんはどう見えましたカ」

「同じ男と言われる事すらムカつくってんだよ。なんだ皮って」


 サボリさんは、意外とまともですからね。

 偶に狂っているのでは? と思うこともありますけど。


「男性にとって、女性の顔って重要なんじゃないんですカ」

「どんなに赤いのの皮を被せようが、そいつは赤いのとは言わねぇだろ」

「本人であることが重要って事ですカ」

「外側と中身が伴ってこそだろ」

「ロマンチストですネ」

「喧嘩売ってんのか?」

「まさカ。見直しただけですヨ」

  

 外面だけ良くて、中身が伴ってない人なんて山ほど居ます。

 サボリさんは、それは認めないらしいです。

 エドゥさんが狂ってるのは、そういうところです。あれは逆ですけどね。


 中身さえレーネさんなら、外側は誰の物でも良いと言っているんです。

 確かに、リツカお姉さんの顔で自分の愛する人の性格って、すごく理想の人でしょう。


 だけど、それは本当にレーネさんって言えるんですかね。

 頭がおかしくなりそうです。


 悪意によって肥え太ったエドゥさんの欲望は、狂っているとしか思えません。


 レーネさんの顔を見たことはありませんけれど、元締めさんや酒場の人たちが口々に美人と言う程の人です。


 そしてエドゥさんだけを愛し、心が壊れる程に信頼していたほどの良妻。それに満足できなかった時点で、屑ですよ。


「そんで。何買うんだ」

「食料でス」

「……山ほど積み込んでるんじゃなかったか?」

「次の街まで少し遠いでス。なくなったら嫌じゃないですカ」


 大きいため息で私を見下ろしています。跪かせてあげましょうか。


「太るぞ」

「私はサボリさんと違って頭()全力で回してますから太りませんヨ」

「てめぇ……」


 口喧嘩で私に勝とうなんて百年早すぎます。


 消費した分を追加します。

 二,三日分ならば、生鮮食品も大丈夫ですね。

 さて、何を買いましょうか。




「本気ですか……?」

「あの大群を見ただろう!?」

「しかし、だからといってッ!」

「王国に行っていた者からの情報だ。巫女様と赤の巫女様、そしてもう一人誰か居たようだが……三人だけで、王都西の敵を殲滅したと!」


 町長と元締めが話し合っている。話題は巫女二人とレティシアのようだ。


「いつ、この街が襲われるか分からないのだ」

「……」

「この街に留まってもらう他なかろう!?」

「どうやって引き止めるのです! アルツィア様に全てを捧げたと、一点の迷いもなく答えた程のお方達ですぞ!? この街だけに留まる訳ありますまい!」


 町長のヒステリックに、元締めは毅然とした態度で応対する。

 

 目にこびり付いたマリスタザリアの大群。それは町民だけでなく町長の心をも蝕んでいた。

 冷静な判断とは思えない。


 しかし三人だけで、大群から王都を守りきったという伝説的な話を聞いた町長は、この方法しかないと思考を固めてしまっていた。


「あの少女を使う」

「何をお考えなのですか」

「あの少女を人質に残ってもらう」

「貴方は悪意に犯されているようだ。巫女様を呼んでまいりましょう」

「私は正常だ!」


 部屋を出ようとする元締めを止め、町長が話を続ける。


「あの少女も、巫女様達のお仲間ですぞ。我々に捕まえられるはずがない!」

「所詮は子供、あの長身の男の親類か何かであろう」

「西の戦場を戦ったというのが、あの少女かも知れませんぞ」

「……あの王都にはライゼルト様がおられる。ライゼルト様に違いない」

「そのライゼルト様も行方不明と聞きましたが」

「西の戦場を三人で戦ったのだ、それも納得であろう!」


 冷静に事を諌め様としている元締めだけど、町長は一向に退かない。


「エドゥの件を解決してくれた恩人に、その様な事をするのですか?」

「解決はしていない。レーネは戻ってきていないのだから」

「壊れた心を治せる者など居ないでしょう。しかしエドゥが戻れば、もしかすればレーネも――」

「エドゥには、もう会わせん」

「町長!」

「レーネもその方が安心できよう」


 人の話を全く聞かない町長に、元締めは歯噛みする。止めるには実力行使しかないと考え始めていた。


「お前は黙って見ていれば良い」

「何を――」


 扉が開き、数人の男が入ってくる。


「何だお前達は!」

「すんません元締め……。俺らも、怖いんですよ」

「あんたも見ただろ!? あんなのがこの街に来たら一溜りもねぇ!」

「巫女様達が居れば安心できるだろ!?」


 町民の恐怖心を煽ったのだろう。恐怖に顔を青くした男たちが元締めににじり寄る。


「お前達ッ……!」


 取り押さえられた元締めが、苦しい顔で男達を睨む。


「王都には滞在していたではないか。この街にも少しの間居てもらうだけだ」

「魔王を倒さねば根本的な解決にはなりませんぞ!?」


 目先の安心のためだけに、レティシアを捕らえ巫女達を束縛しようとしている町長に、元締めは最後の説得を試みる。


「明日も知れぬ世なのだ。町民の不安が治まるまでの間だけだ」


 もはや止まらぬと悟った元締めは、強硬手段をとろうとするも、既に取り押さえられ、口を塞がれてしまっている。

 男達に担がれ出て行く元締めを見ながら、町長は決意を固めていた。




「後ハ、巫女さんスープの材料とかですかネ。……ン?」


 返事がないので後ろを振り向いてみれば。


「何処行ったんですかねェ、サボリさんハ」


 やっぱりサボりです。

 

「……」


 レティシアの周囲に居る人間たちの目の色が変わる。

 街の連絡網によって、町長の息のかかった者達に指示が出されたようだ。

 じりじりと包囲網が狭まれて行く。

 

「それ一つくださイ」

「あいよ」


 ホットドッグでも食べながら探しますかね。すっごく、熱いです。火傷しないように注意しないと。



「おい」

「おう」


 もぐもぐとホットドックを食べているレティシアに、男達が近づいていく。

 レティシアに手が伸びていく。


「ムグ?」


 振り向いたレティシアが大きく避ける、急いで咀嚼しようにも熱いため上手くいかない。


(失敗しました。ですけど、こういう時のためにリツカお姉さんの蹴りを――)

「ムグゥ!?」


 男二人なら何とかなったかもしれない。だけど、周囲を取り囲む大人達全員を相手にするには、レティシアはまだ未熟だった。

 腕を掴まれ、口を塞がれる。


(なんです!?)


 そのままレティシアは、運ばれていってしまった。


「あのチビ何処行きやがった」


 大量の荷物を持ったウィンツェッツが探し回る。

 サボった訳ではなく、荷物のせいでレティシアを見失っただけだったようだ。


「クソッ……なんだってこんなに人が多いんだ」


 人垣に邪魔され動けないウィンツェッツが、一先ず人の少ない方を目指す。

 誘導されるように、道が開いている。


「まさか……」


 その道を歩きながらウィンツェッツの眼光が鋭くなる。

 周囲の者たちが息を飲む。


「買い食いとかしてんじゃねぇだろうな」


 ウィンツェッツはそのまま人の少ない方に進んでいく。


(船に置いてから探すか)


 図らずも、分断と時間稼ぎに乗ってしまったウィンツェッツ。市場の喧騒に、レティシアが暴れる音はかき消されてしまった。




 牧舎に異常はありませんでした。

 街の外をぐるりと周り、探っていきます。街の中にちらほらと負の感情を感じます。注意しておいた方が良いでしょう。


「ん?」


 男数人が、牧舎の端にある倉庫と思われる場所に何かを運んでいます。

 何でしょうね。布にくるまれた、横長。見覚えがあるような光景です。確か、()()()とかで――。



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