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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
30日目、旅の始まり始まりなのです
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『ブレマ』最初の一歩③



 王国に一番近いこともあって、神誕祭に来た人が多いようです。目立つ容姿であることを除いても視線が降り注ぎます。

 中には祈る人たちも居るので、”巫女”として認識されているのが分かります。

 町長さんの所に向かっていると、前から初老の男性が小走りでやってきました。


「巫女様、赤の巫女様、ようこそブレマへ。この街で町長をしております、アルノでございます」


 町長さんの方から、来てくれました。


「お初にお目にかかります。アルレスィア・ソレ・クレイドルです。北の方に用事がありまして、この街に寄らせていただきました」

「そうでしたか! ありがたい事です。どうぞ、何なりとお申し付けください!」


 深々と頭を下げる町長さんに頭を上げるように伝えたアリスさんが、人が集まる場所はどこか聞いています。


 私はしばらく周りを観察することにしました。


 視線の中に負の感情は少ないです。旅人からは興味を強く感じ、住民や市場の商人たちは安堵が強いです。


 先の戦争で、ここの人たちも大群を見ているはずですから、もっと恐怖が蔓延していると思ったのですけど。


「結構のほほんとしてますネ」

「王都しか被害がなかったっていうのは、本当だったみたい」


 この安堵感からして、不安は強かったようですけど悪意とまでは至っていません。


「俺は市場の方に行っとくからな」


 黙って離れていっていた時と違い、一言残してから兄弟子さんが去っていきました。少しは、仲間意識が芽生えてくれたでしょうか。


 アリスさんと町長さんの話が終わりました。


「やはり酒場に人が多いようです。後、馬やホルスターンはあちらの方に纏めていると」


 市場の端、その奥に馬やホルスターンが繋がれています。あちらにも、注意を向けておきましょう。


「酒場かー」

「サボリさんに任せテ、私達は市場で聞き込みをしましょウ」

「兄弟子さんも市場に用事があるみたいだし。一応私達で行ってみよう」

「それでは、こちらです」


 アリスさんについて行きます。

 

 旅人もそうですけど、この街の住民に話を聞きたいです。

 マリスタザリアの目撃情報。急に豹変したかのように性格が変わった人など。

 なんでもいいので聞きたいですけど、酔っ払い相手にどうすればいいのでしょう。

 

「酔っ払い相手なら私がしまス。お二人に何かあってはいけませんかラ」

「それはシーアさんも一緒だけど……」

「遠くから見ておいてくださイ」


 シーアさんは、酔っ払いの相手は慣れていると言って、酒場に入っていきました。


「私達も入りましょう」

「うん。もしもの時は、シーアさんを守らないと」


 入り口に手をかけ、扉を開けます。


 ガヤガヤと外まで聞こえていた会話が静まってしまいました。酒場に子供が入ってきたら、気分を害しますよね。

 シーアさんはどこでしょう。


「ちょっと聞きたいことがあるんですけド」

「なんだぁ嬢ちゃん」

「酌してくれたら教えてやってもいいぞぉ」

「構いませんヨ」


 大きい酒瓶を持って、お酌していました。

 目がジト目になるのを押さえます。相手の気分を害しては、聞けるものも聞けなくなりますし、この街に居辛くなってしまいます。


「んでぇ? 何が聞きたいんだ?」

「マリスタザリア、化け物についてでス」

「なんでそんなのを」

「こう見えてこんな仕事をしてまス」


 シーアさんが選任の証を見せています。

 途端にシーアさんを見る目が変わった男性達が、目を見合わせています。

 嫌な雰囲気は感じませんけど、何が起きるか――。


「こっちにも別嬪さんが居らぁな」

「お酌してくれよー」


 私達の傍に、酔っ払い達がやってきます。

 アリスさんを後ろに庇い、触れられないようにいつでも動ける体勢を取ります。


「そういった奉仕活動は、”巫女”の仕事ではないので」

「巫女ォ?」

「お、おいその人たち……」


 ”巫女”という言葉で、漸く気付いてくれたようです。顔が青ざめています。

 あぁ、ごめんなさい。邪魔するつもりはなかったのです。


「巫女さン、リツカお姉さン。外で待っていてくださイ」

「うん。ごめんね、シーアさん」

「後は任せました」


 外からでも気配は探れます。


 シーアさんは大丈夫そうですし、私達は市場に行きましょう。

 手を合わせてごめんね。と片目を閉じ、シーアさんに謝りまってから酒場を後にしました。




 リツカお姉さんと巫女さんが後にした酒場は、先ほどとはうってかわって静かです。

 私の事が心配だったのでしょうけど、こんな所に二人が入ってはこうなります。


 最後に私に謝るための行動。なんて置き土産をしてしまったのでしょうか。酒場の空気が固まってしまいました。


 悪気はなかったのでしょうけど、自身の行動がいかに男達の劣情を揺さぶるかをちゃんと教えた方がいいです。エリスさんに頼まれたのはこういうところでしたけど、ここまでとは。


 ”巫女”に声をかけ口説こうとしたお馬鹿さんたちは青ざめていますし、私がその仲間とわかったのか、酒場の人たちが私を見る目が変わっています。もう少し自然体の皆さんから聞きたかったのですけどね。


「嬢ちゃん、巫女様たちの……」

「まァ、一緒に旅してまス」

「……」

「取り締まろうって訳じゃないんでス。先ほども言ったようニ、情報が欲しいだけでス」


 ”巫女”だからって、昼間から酔っ払っているチャランポランを取り締まるって訳じゃないんです。

 

 美人は美人で、大変ですネ。男の脅威に常に曝されてしまいます。

 お二人の頭に”巫女”って書いた紙を張っておいた方がいいかもしれません。


 巫女さんは大丈夫でしょうけど、リツカお姉さんは心配すぎます。お酒の入った男ほど、危険な人間は居ないんですよ。


「はぁ……巫女様だったのかよ……」

「手を出したら天罰とかあんのかなぁ」

「神誕祭に行った連中の話だと、あの二人の為にアルツィア様が降臨したってよ」

「早めに気付いて良かったな」


 リツカお姉さんと巫女さんの話だと、アルツィア様はただ単に、私達含め国民達に会いたいから降臨したって話ですけど。状況とか考えると、”巫女”の為に降臨したって思うのが普通ですよね。


 天罰はないですけど、巫女さんとリツカお姉さんからの鉄槌はありますよ。


「あんな別嬪さんなのに」

「別嬪なんて安い言葉使うなよ。あれは、天使だ」

「巫女でもいつかは結婚とかすんのかな」

「するんじゃないか?」


 例え二人が巫女じゃなくても、リツカお姉さんと巫女さんの間に入るのは無理ですよ。こんなところで酔っ払っている男達なんて、絶対に相手にされません。


 酔っ払いたちの戯言が耳に入ってきます。

 巫女さんとリツカお姉さんの話を肴にお酒が進んでいますね。


 青ざめてた人たちも、近くでみた二人を思い出したのか、すっかり出来上がってます。


 酒場の空気も、元に戻ってきましたね。余計に熱狂している気がしますけど、今なら舌も回るでしょう。


「マリスタザリアの情報。それト、最近様子がおかしい人って知りませんカ」

「化け物はこの前王都に向かっていったが……」

「様子がおかしいって、具体的には?」


 巫女さんたちのお陰で酔いが醒めたようです。話しやすいですね。


「急に暴力的になったとカ、犯罪なんかしない人が犯罪に手を染めたとカ」

「あれは? 役所の」

「あー、エドゥか」

「何かあったんでス?」


 すぐ思いついたってことは、当たりっぽいです。


「役所のエドゥって奴なんだが、愛妻家で有名だったんだよ」

「それが、王都襲撃の時だな。そっから急に暴力振るうようになってなぁ。周りが説得して別居してんだよ」


 ただの夫婦喧嘩と取られてもおかしく有りませんね。

 でも、怪しいです。


「他にも聞かせてくださイ」

「いいけど、酌いいか?」

「酔い醒めちまってよ……」


 酔ってない方が聞きやすいですけど、舌に油が乗ったほうが色々聞けます。


「構いませんけド、手を出したら許しませんかラ」

「いや流石にアンタには……」

「もう娘に相手にされなくて寂しいんだよ、こいつ」


 反抗期ってやつですか。

 昼間から飲むのをやめて子供の為に時間を作るとかどうですか。

 まァ話を聞けるのなら、娘さんの変わりにお酌くらいしてあげますよ。



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