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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
30日目、旅の始まり始まりなのです
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ささやかなお見送り③


「間に合ったようだね」


 ロミーさんたちがやってきました。

 

 アリスさんの頭を撫でるのを一旦止めます。

 満足した表情を浮かべているアリスさんを確認して、ロミーさんたちに向き直りました。


「見ましたよ! リツカさん、アルレスィアさん!」


 リタさんがずいっと近づいてきます。


「な、何を?」


 先ほどの抱擁でしょうか。


「ダンス、綺麗でした!」

「リツカ様とアルレスィア様のダンスすごかったです」


 リタさんの後ろからクランナちゃんとラヘルさんも出てきました。

 ダンス、見られていたんですね。


「誰も居ないって思ったんだけど……」

「絶妙に、気付かない位置に居たようですね」


 アリスさんが少し悔しそうにしています。

 多分、私達の感知範囲を意識してはいなかったのでしょうけど、私達が気づかない位置から見られていたようです。


「遅いと思ったらそんな事してたんですカ」


 シーアさんにジト目で見られてしまいます。


「ちょっとした、運動だから」

「運動ではあるのでしょうけド」


 流石に納得してくれません。


「あはは……ごめんなさい」

「言ってくれれば見に行ったのに」

「そう言われて、私達が伝えると思っているのですか……?」


 エリスさんは見たかったようですけど、アリスさんが言う様に、見られたいわけじゃないんです。

 

 それに――。


「歌声も綺麗でしたよ!」


 やっぱり、聴かれてますよね。


「リツカさんが歌ったの?」

「はい!」


 エリスさんが目を輝かせてリタさんに聞いています。

 いつの間に仲良くなったのでしょう。


 そういえば噴水で私達の戦いを見たって言ってましたから、その時でしょうか。

 踊るのには音楽が必要ですから、私が歌いました。なんて言いません。ここは沈黙です。


「踊るのには音楽が必要ですシ」


 シーアさんがクふふふ! と笑いながら私を見ています。

 遅刻の罰といったところでしょうか。


「所謂お嬢様学校でしたから、歌やダンスも必修科目だったんです」


 隔離された町で、皆が知らないところで徹底管理されていました。そんな町に住める人は限られています。

 私以外の出入りは自由ですけど、住むとなると調査されていましたから。


「リツカ様、お嬢様だったんですか?」


 クランナちゃんが首を傾げています。

 こちらの世界でお嬢様といえば、貴族でしたね。


「向こうの世界のお嬢様は、お金持ちだったり土地の管理者だったり? 政治家や大企業の子供だったりで、貴族じゃないんだ」


 六花は一応、名家ではあったのでしょうね。要人だったわけですし。貴族かどうかといわれると、そうではないと即答できます。

 私自身、貴族には程遠い人間ですから。


「そういった子が通ってた学校に通ってたの」

「そこでは、歌やダンスを?」

「そうだね。後は、茶道とか花道とかかな」


 勉強以外のことは、結構楽しくやってました。新しい知識を手に入れるって楽しいと、気付かせてくれた子が居たので。

 

「聴いてみたいですね」

「そんなに上手いわけではないので……」


 エルさんが興味を持ちました。多分この中では一番、音楽を聴いている人でしょうから、気になるのでしょうか。

 ですけど、私も聴くのが好きで、歌うのは得意ってわけではないのです。


「そんな事ありません! 心に響く良い歌声でした!」


 アリスさんが両手を握り締め、ズイっと私に迫ります。


「そうですよ!」

「聖歌隊みたいでした」

「……プロみたい」


 リタさんや、クランナちゃん、ラヘルさんにまで褒められて――いえ、もはや、褒めちぎられてしまいます。

 

「これは聴きたくなってしまいましたネ」

「そうねぇ」

「是非!」


 絶対に楽しんでいるシーアさんとエリスさんと違って、エルさんは純粋に私の歌に興味があるようです。

 

「じゃ、じゃあ……えっと」

「リッカさま、凱旋の時にどうです?」

「そう、だね。その時なら、高揚感で恥ずかしさも……」


 そこまでの高揚感があるかは分かりませんけれど、今は、恥ずかしいです。


「凱旋の時は呼んでくださいね? 音楽隊と一緒に参ります」

「あぁ、ちゃんと呼ぶよ」


 コルメンスさんにエルさんがお願いしてます。前より仲が?

 音楽隊と、一緒。その言葉に、コルメンスさんとエルさんから感じた違和感を考える暇がありませんでした。


「そ、そこまで大々的にしなくても……」

「楽しみですね。リッカさま」


 アリスさんは、音楽隊の演奏に合わせて歌う私を想像したのか、期待してくれています。

 やるしか、ないようです。


 やることが増えました。


 アリスさんと海を見て、共和国に行って、雪を見て、王国で歌を歌って、集落に帰って、湖で指輪を交換。

 出来るならその後、平和な世界を旅してみたいですね。

 

「リツカちゃん、ちょっと」

「どうしました?」


 ロミーさんが神妙な面持ちで私を見ます。


「ちょっと、アルレスィアちゃんを押さえててくれるかい」

「はい?」


 困惑しますけど、必要な事と思いアリスさんを抱きしめます。


「そこまでしなくても良かったんだけど、まぁいいか」


 ロミーさんが苦笑いして、北門に入っていきました。


「どうしたのかな?」

「……」


 アリスさんが顔を赤く染めたり、北門を睨みつけたりと、忙しそうにしています。

 

「さっきまでシャキッとしてたろ。今更怖気づくんじゃないよ」

「ま、待って。まだ――」

「そうやって出発まで待つつもりかい」


 聴き覚えのある声です。いつもギルドで聴いていました。


「アンネさん」

「リツカ様……」


 アリスさんから怒気が膨れ上がります。

 抱く力を強くして、抑えます。そのための押さえですか、ロミーさん。


 普段であればアリスさんを何だと思っているんですか。と、怒るところですけど、この怒気を思えば、必要であったかもしれません。


「リッカさま」

「大丈夫」


 アリスさんが心配してくれます。私の感情は、アリスさんに筒抜けです。私がアンネさんに抱いた感情、不信感も。

 でも、大丈夫です。アリスさんの温もりが私に力をくれます。


「リツカ様……申し訳、ございませんでした」


 アンネさんが頭を深々と下げ、謝罪の言葉を私に向けます。


「勝手な思い込みで、貴女に殺意を向けてしまいました」


 殺意という言葉に、クランナちゃんが吃驚してリタさんの後ろに隠れてしまいました。


 謝罪を聴いた私は――。


「私は……」


 気にしてないと言おうとしました。


 でも……。


「少しだけ、悲しかった」


 アンネさんがびくっと震えます。アリスさんの魔力が込められた、鋭い視線を感じたのかもしれません。


「だから、()()()()、許しません」


 私が居たから国が襲われ、ライゼさんは私を守るためにマクゼルトの前に立った。

 確かに私の所為でも、あります。だから、怒りや嘆きを受け入れる覚悟はあります。


 でも、ライゼさんはきっと、アンネさんの為に……立ち塞がったんだと思っています。

 それを本人から聞いた上で、私のところに来てください。


「ライゼさんと話し合って、自分の気持ちに整理をつけてから、改めて来て下さい」


 それが謝罪であっても、怒りであっても、私は受け入れます。でも、私が謝る事は、ありません。

 ライゼさんは、謝って欲しくないでしょうから。


「ライゼさんと一緒に土下座してもらいますから」


 アリスさんがしっかりと、アンネさんに怒りを伝えています。


「……はい」


 アンネさんはそれを受け入れ、顔を上げます。


 やつれていて、目の下の隈が濃く出ています。

 強い悲しみを感じます。でも、諦めた顔ではありません。

 ライゼさんの生死はまだ分かっていません。だから、最善は尽くします。


 喜びにしろ、悲しみにしろ、向ける場所は必要です。そのために、連れ戻します。生きていても、死んで……いても。

 前に進むための、一助となるために。


「私は受け入れます。アンネさんがどんな結論を出そうとも」


 しっかりと、言葉にして伝えます。


「怒りでも、嘆きでも、アンネさんの気持ちは、私にも分かりますから」


 想像したくない、未来。

 アリスさんを失った世界。

 私には、耐えられない。

 だからこうやって、前を向いたアンネさんを――私は尊敬します。


「帰ってきたとき、笑顔で居てくれる事を、願っています」


 そのために、ライゼさんを生きて連れ戻す。

 これは約束ではありません。私の、決意です。

 あの侵攻、戦争で零してしまった私でも、一人くらいは、掬いたい。


 アンネさんとのことが、完全に解決したわけではありません。でも、一歩前に進めたと思います。


 ロミーさんが連れてきてくれたのでしょうか。

 あのまま出発では、私にしても、アンネさんにしても、良い事にはならなかったでしょう。


 ロミーさんに会釈し、感謝を伝えます。

 完全な解決は、私達がこの国に帰ってきてからです。だけどお互いに、前に進むための準備は出来ました。

 


 いよいよ、出発ですね。



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