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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
30日目、旅の始まり始まりなのです
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ささやかなお見送り②



 北門に到着しましたけれど、兄弟子さん以外居ますね。遅刻気味だったようです。

 でもそれ以上に、私は今感じている物の方が気になります。


「コルメンスさん、なんで核樹を持っているんですか?」


 この国の核樹は砕けてしまい、微かな存在感しか持っていません。

 そして、アリスさんと私が持っている杖、刀、ブレスレット。デリアさんに預けているものが全てのはず。


 私がこんなにも感じてしまう程の核樹は、もうないのに。


「実はこういう事になっていまして」


 コルメンスさんが取り出したのは。


「芽吹いて……」


 破片とまで言える程に小さい核樹の欠片から、葉が……!!


「わっわぁ、どうして!」


 受け取って観察します。

 

 葉脈がはっきりと。朝日に透かせば呼吸すら見えそうな程に元気です。

 水をあげたいですね。でも私に水は。いえ、ここで出来ずに何が出来ましょう。

 えっと水は――。


「お、おぉ……わぷっ!?」


 初めは良い感じにぱらぱらと出ていた水が一気に出てしまいました。流されてしまわないようにと制御した結果自分の方へ……。


「リッカさまお顔を」

「う、うん。ありがとう」


 アリスさんが拭ってくれます。

 

 水を浴びた核樹の葉はきらきらと煌いて生き生きとしています。

 さぁ光合成を!


「ふふふっ! うふふふっ」


 もう朽ちてしまうのかと思っていた核樹が、奇跡の復活です。この世界は優しさと奇跡で出来ています。

 きみもそれを強く感じていることでしょう。


「きみはどんな姿になるんだろう」


 元の姿? それとも小さい木? 核樹としての力を取り戻して、きみはどんな想いを紡ぐのでしょう。

 アリスさんに拭われているので回ることはありません。でも心はくるくるです。


「アリスさんアリスさん。すごいよ核樹の誕生だよ」

「神林の核樹も、初めはこうだったのでしょうか」

「神さまが直接携わった物だから、最初から木だったかも?」

「そうなると、核樹の赤子を見れたのは私達だけですね」


 アリスさんも一緒に喜んでくれます。そのことが私は嬉しいです。


「連れて行くことは出来ませんヨ」

「え……」


 シーアさんがぴしゃりと告げます。

 本気で落ち込んでしまいましたけど、連れて行くのはダメっていうのは分かっています。


「……」


 コルメンスさんに渡そうとしますけど手が震えてしまいます。

 渡したくないという想いと、渡さなければいけないという考えが喧嘩をしています。


「それにしても、どうして成長を」


 アリスさんが首を傾げました。もう少し持っていても良さそうです!


 色々な角度から見ようと掲げたりしながら、成長の理由を模索します。

 そういえば、病院で見せてもらった時に、存在感が強くなったような? あの時私は泣いて――。


「リッカさまの為に芽吹いたのかもしれませんね」

「そうだと、嬉しいな」


 アリスさんがクスクスと笑いながら私を後ろから抱きしめました。


「頑張り屋さんだね」

「リッカさまに似て、です」


 二人で、核樹の葉を慈しみます。




「まるで子供を愛でるようニ」

「確かにそう見えるけれど」


 レティシアが笑いながら巫女二人を見ている。エルヴィエールがレティシアの頭を撫でながら微笑ましそうにしている。


「二人のお子さんですネ」

「それだと、私はこの歳で孫が出来た事に……」

「……」


 笑いを抑えるのに必死なレティシアの言葉に、エルタナスィアとゲルハルトが困惑気味だ。


「どうやって返してもらいましょう……」


 あんなにも嬉しそうに抱いているリツカから取り上げるのは忍びないと、コルメンスは困っている。


「巫女さん経由でなら問題ないかト」


 核樹の木刀をライゼルトに渡すときの一悶着を見ていたレティシアが提案する。やっと笑いを抑えることが出来たのか、少し息が荒い。


「リツカさんたちが核樹に夢中な間、予定を聞いておいていいかな」


 コルメンスがレティシアに尋ねる。


「まず泥酔遅刻サボリ魔さんが来ない事にハ」

「遅いですねぇ」


 ため息をつき首を横に振るレティシア。あれ程朝早いと言ったのニ、とぼやいている。

 エルヴィエールが街の方を向くけれど、人影すら見えない。


「まァ、あの人には後で伝えればいいですネ」


 レティシアが地図を取り出しコルメンスの質問に答える。


「北上しますけれド、町を一つずつ回っていきまス。まずは一番近いブレマへ向かう予定でス」

「悪意を辿るんだったね」

「そうでス」

「上手く、行くかしら」


 エルヴィエールは少し不安なようだ。

 魔王がそんな簡単に、居場所を教えるような事をするだろうかと。


「巫女さんとリツカお姉さん狙いは変わって居ないでしょウ。自分から向かってくる上に、力となる悪意を得られるのでス。賭ける価値、ありまス」


 レティシアが巫女二人の方に歩いていく。そろそろ止めようと思っているようだ。


 レティシアが近づき始めた段階で、二人は気付き軽く話をしている。

 緊張など感じさせない自然体の三人に、頼もしさを覚える大人たちだけど、その反面、寂しさともどかしさも感じている。


「もっと、頼って欲しいのですけど」

「なかなか、表に出してくれませんね」


 エルヴィエールとエルタナスィアは頼って欲しいと思っている。

 頼る事無く前をずっと見据える三人の親離れを感じているのかもしれない。


「シーアも、お二人も……」

「待つ事しか出来ぬ身が、こんなにも辛いものだとは」


 コルメンスとゲルハルトは、もどかしく思っている。

 何も出来ないと思っている。何か力になれないものか、と。


 四人が、王都なり集落なり、無事で居てくれるだけでアルレスィア、リツカ、レティシアは我武者羅に前に進める。


 悔しさもあるだろうけど、コルメンスたちはしっかりと、帰るべき場所として三人の力になっている。


 昨夜リツカは、ゲルハルト、エルタナスィアを家族として強く意識した。


 アルレスィアは、リツカを受け入れてくれた二人に感謝すると共に、しっかりと帰ってくると約束した。


 レティシアは愛する姉と、その将来の夫たる兄が大好きだ。昨夜共に楽しんだ茶会。それをまたやりたいと、平和になったらもっともっとやりたいと願った。

 ここにまだ居ないウィンツェッツは、帰る家を取り戻しに行く。


 四人の旅に、不安はない。

 無力な人間など、居ない。後ろに親が居てくれるからこそ、子は前だけを見て歩ける。




 アリスさんに渡して、コルメンスさんへ。


「……」

「気にしなくて良いですヨ、お兄ちゃン」

「あ、あぁ」


 シーアさんにジト目を向けられてしまいます。

 核樹を見すぎていたのか、コルメンスさんが私をチラチラと見ていました。

 

「しっかりと育て――」

「地下になんて入れちゃ嫌ですよ?」

「はい……」


 日の当たる場所で風と水ですくすくと、です!


「何持ってんだ?」


 兄弟子さんが欠伸をしながらやってきました。後ろにはでるくさんや防衛班の仲間さんもいます。


 朝まで飲んでたとか? そんなわけ有りませんよね。このお酒臭さは気のせいだと思いたいです。


「遅いですヨ」


 シーアさんがゲシゲシと兄弟子さんの足を蹴っています。


「時間まで聞いてなかったぞ……」

「そうでしたっケ」


 けろっとした顔で舌を出して乗り切ろうとしているシーアさん。伝えなかったのは私達の責任でもありますね。

 でも、伝える前にどっか行ってしまったんですよ。


「そんで、国王は何んで葉っぱなんか持ってんだ」

「核樹ですよ」

「へー。これがね」


 兄弟子さんが無造作に手を伸ばします。


「ッ――!?」


 手刀でその手の進行を止め、唸るように威嚇します。


「何すんだてめぇ……」

「この子をそんな乱暴に扱わないでください!」

「ハァ? ただの葉っぱに何を」

「出発までの間に稽古をつけて上げます」


 この子をただの葉っぱなんて、許しません。性根を叩き直してあげます。


「さっさと謝ってくださイ、泥酔遅刻サボリ魔さン」

「なんだってんだよ」


 兄弟子さんが呆れていますけれど、呆れたいのは私の方です。


 兄弟子さんを威嚇したままコルメンスさんに核樹の扱い方をお願いします。


「中庭が丁度いいです。しっかりとのびのびと育つように、です。土の栄養はしっかりと確保してください。根が強く張れる様にお願いします。核樹は針葉樹ではなく広葉樹です。根は広く張られます。どこまで大きくなるかは分かりませんけれど、移動させたい場合は根を傷つけずに動かしてください。驚くほど葉全てに光が当たるように成長を遂げます。剪定などは必要ありませんけれど注意だけはしておいてください。幹が太くなるまではしっかりと毎日お願いします。成長も早いはずです。お願いしますよ?」

「リツカさん。私がしっかり見ておくから、その辺で」


 エリスさんは園芸が趣味と昨日聞きました。


「はい! お願いします!」


 頭を深々と下げ、お願いをしました。

 どこであっても育つでしょうけれど、元気に過ごして欲しいです。


「帰ってきたら、大きくなったきみに会いに行くよ」


 コルメンスさんが持っている核樹に笑いかけます。

 


「……」

「アリス、怖いわ」

「何のことでしょう」


 リツカの中で、核樹よりアルレスィアの方が大切というのは、すでに証明されている。けれど、あそこまで愛でられている核樹に、少し嫉妬しているようだ。

 笑顔で見ているけれど、今にも動き出したいといった様子だ。


「我慢しなくて良いのよ」

「……」


 エルタナスィアを見て、少し考え込んだアルレスィアは――。



「……」

「アリスさん?」


 アリスさんが私を後ろから抱きしめました。


「……」


 顔を私の背中に当てて居ます。ちらっと見える耳は、少し赤いです。

 いつもと逆の様な状況です。


「アリスさん」


 勢いよく振り返り、アリスさんを抱きしめます。丁度、胸に顔が埋まるような形なのですけど……。


「えへへ……ごめんね。私あまり大きくないから、気持ちよくはないかもだけど」

「い、いいいいえ」


 強い動揺を見せるアリスさんが、私を抱く力を強くしました。


「リ、リッカさまのが……良いです」

「そう? じゃあ」


 ぎゅーっとアリスさんを抱きしめます。

 アリスさんのは、ふかふかしているのですけど、私では、余りふかふか感は出せません。

 せめて、温もりを。



「……なんだったんだ?」

「はァ……これだから鈍感サボリさンハ」

「あはは……」


 困惑したままのウィンツェッツを呆れた目で見るレティシア。


 コルメンスの乾いた笑い声に、エルタナスィアとゲルハルトが頭を下げ、エルヴィエールはクスクスと笑った。


 朝のちょっとしたコミュニケーションは、この場に緊張感などないと、如実に表していた。



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