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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
29日目、思い出いっぱいなのです
321/934

彼女と過ごした街⑧



 鉄板が仕込まれたからでしょうか。

 靴の鳴らす音が、カツカツカツと少し高音になっています。


 土の地面であれば音は鳴らないでしょうけど、隠密時は気をつけないといけませんね。


「もし」

「うん?」


 アリスさんが小さく呟きました。


「指輪がまだ出来ていないのであれば、魔王討伐後、”神林”の湖前で……」


 恥ずかしそうに、しています。


「――うん。私達が初めて会った、あの場所で」


 もじもじとしているアリスさんが、可愛い。抱きしめたいけど、今日は一段と注目されてしまっています。


「リッカさまっ」


 弾むように、音符がついたような発音で、アリスさんが私を抱きしめました。


「アリスさん皆が見て……」

「いつもの事ですし、もう皆さん知っていますよ」

「それも、そっか」


 開き直った私はアリスさんを抱き締め返します。


「いつもの事で皆知っていてモ、そこまでの物はそんなに見てませんヨ」

「リツカさん、流されすぎですよ」

「そうだったかしら……?」


 エルさんエリスさん、シーアさんがやってきました。コルメンスさんとゲルハルトさんは居ません。


 結構、道端で抱き締めあったりしてますけれど……そういえば、人気のないところだったような? 広場ではそんなに?


「……アリスさんを抱いていたいですし」

「リツカお姉さん以外が言ったら問題発言ですヨ」


 シーアさんが意味深な事を。ハグは文化な所もありますし。


「指輪ってどんなのを作ったんですか?」

「核樹木刀の余りで、職人通りにあるお店にお願いして作ってもらっているんですけど」

「このローブの模様、アルツィアさまの紋章を彫ってもらっています」


 エルさんが考え込みながら聞いています。


「エルさんも予定が?」

「えぇ。どのような物が良いかと」


 アリスさんは気付いているのか、エルさんと指輪の事で話をしています。

 エルさんの予定、なんでしょう。


 三人はこれから街で買い物をするそうです。女子会的な? 

 三人と別れ、私達は職人通りに向かいます。デリアさんは元気でしょうか。


「いらっしゃいませーって巫女様達でしたかっ!」

「こんにちは、元気そうで良かったです」

「様子を見に来ました」

「あ、ありがとうございますっ」


 しばらく談笑をします。

 あの日デリアさんはお店に居て、アクセサリー造りに没頭していたようです。

 だから、気付いてなかったみたいです。外の異変に。

 それくらいで良いと思います。何も知らないで居た方が良い事もあります。


「あっ! お二人の指輪はまだかかってしまいます……」

「まだ期限ではありませんし、気にしてませんよ」


 やはり、まだ出来ていませんでしたね。


「実は、明日から長期で出かけるんです」

「お金は払っておきますので、私の母の方へ渡しておいて欲しいのです」

「えっと、どれ程の外出に?」


 デリアさんがきょとんとしています。


「どれくらいになるかは分からないんですよ」

「短いのであれば、お金はその時でも……」


 金銭面はしっかりとしておきたいです。宿の方は、ご厚意に預かりましたけれど。


「帰ってこれるかどうかも分からないので」


 お金を渡しながら何気なく言います。


「え?」

「出来上がりましたら、王宮に居る母までお願いします。それまで、居てもらいますから」

「は、はい」


 詳しく言うのは、辞めておきましょう。集中させてあげたいですから。

 最後まで頭上にハテナを浮かべていたデリアさんに別れを告げ、お店を後にしました。



「あれ、リツカさんにアルレスィアさん?」

「リタさんも職人通りに?」

「はい。ちょっと頼んでたものを」


 広場に戻るとリタさんと会いました。


「あ! 後でお店に来てください、お母さんが頼まれてたものを一緒に作ろうって」


 頼んでたもの。あるすくーらの押し花の事ですよね。


「時間大丈夫?」

「大丈夫です!」

「じゃあお邪魔しようかな」

「そうですね」


 せっかくですし、一緒に魔王討伐に行ってもらいましょう。

 リタさんが職人通りに向うのを見て、私達は一度宿に帰ります。


 宿の休憩所は常連さんくらいしか居なかったんですけど、いつの間にか増えていますね。


「アルレスィア様、ロクハナ様少々よろしいでしょうか」

「どうしました?」


 何かお願い事があるのか、支配人さんに呼び止められます。


「本日、最後のお手伝いをお願いしたいと思いまして」


 最後の休憩所ですか。お世話になった事ですし。

 アリスさんに目線を合わせると頷いてくれました。


「分かりました。夕方からになりますけれど、いいでしょうか」

「もちろんです。お待ちしております」


 メイド服ともお別れですね。

 いざ着なくて良いとなると寂しい物が――。


「仕事着はそのままお持ち帰りしていただいて構いませんから」

「ありがとうございます」


 アリスさんが笑顔で喜んでいます。

 可愛いとは言っていましたけれど、気に入っていたのでしょうか。

 旅の最中着る余裕はないと思いますけれど、思い出の品って感じですかね。


 このローブで大事なのは神さまの髪が含まれた模様部分ですし、メイド服に模様を編み込めばそれを巫女服に出来るでしょう。

 こんな短いスカートで戦ったら、今度こそ見えてしまうでしょうから、しませんけれど。

 それに、アリスさんの負担でしかありません。

 

「リッカさまがこのメイド服で戦いたいと言うのであれば、頑張りますよっ」


 アリスさんがきらきらとした笑みで、気合を入れるように握りこぶしを作りました。


「アリスさんとお揃いの巫女の服の方が私は好きだから、メイド服は……普段着?」

「そういうことでしたら……」


 もじもじとしながら喜んでくれています。


「暇があれば着てくださいね?」

「アリスさんだけになら、いつでも」


 私が着た服を見たいようです。満面の笑みでメイド服を見せてくれました。私だって、短いスカートを着たアリスさんも、見たいですし。


 部屋に一旦戻り、あるすくーらを花瓶から取り出します。三日、ほったらかしだったのですけど、結構元気ですね。日持ちが良いのでしょうか。

 押し花に使うんですから、もって行かないと。

 

 お店を出ると、日が高くなっていました。昼頃でしょうか。

 ロミーさんのお店に行く途中、またボールが転がってきました。昨日の子たちでしょうか。


「あっ……」


 昨日の子たちが顔を青くしてしまっています。

 また私達のところに転がってしまったからでしょう。


 結構遠くから転がってきたのか、簡素ながらバスケットのゴールの様なものが作られた公園が見えます。昨日までなかったと思うのですけど。


「あのゴール、作ってもらったの?」

「えっ。は、はい。公園を使えなくしてしまったからって、ばすけっとって言う……」


 コルメンスさんたちに、アリスさんの提案でスポーツを発展させてはどうかと神誕祭の後に聞いたんでしたね。

 早速ゴールを用意してくれたようです。


「そっか。ルールとかは知ってるのかな」

「ボールをゴールに入れたら点数が、入るんです」


 まだ細かいルールは決まっていませんけど、究極的にはゴールに多く入れたほうの勝ちです。


 魔法がせっかくあるのですから、魔法を使った競技として、こちらの世界で大いに発展して欲しいと思っています。


「そう。こうやって入れるんだ」


 三回ボールをドリブルして、シュートフォームからボールを放ちます。


「――」


 子供達がボールを目で追いかけます。

 ボールは綺麗な弧を描き、ゴールに吸い込まれていきます。

 バスッと小気味良い音が鳴り響き、ボールが二,三度地面にバウンドしました。


「もっと笑顔で」


 子供達のきらきらした目が眩しいです。だから、そのまま。


「遊ぶの、楽しいでしょう? 笑顔でいっぱい遊んでね」

「は、はいっ」


 たった一回、ボールが飛んできてしまっただけです。それを恐れて手を止めて欲しくはないです。


 バスケだけじゃないです。この世界だけのスポーツもあるそうですし、なんでもいいので、笑顔で全力で取り組んで欲しい。


 生活に根付き、戦うために振るわれる魔法。それを、人を楽しませるために振るって欲しい。

 

 子供達が私が見せたシュートを真似したり、自分達で考えながらボールをゴールに入れようと奮闘しています。

 入れば笑顔でボールを追いかけ、次へと進む。子供はやっぱり、真っ直ぐな笑顔で突き進むべきです。


「帰ってきたら、リッカさまのばすけっとぼーる、見てみたいです」

「アリスさんも、その時は一緒にやろう?」

「はい! その時は、教えてくださいね?」

「もちろんっ」


 アリスさんの笑顔を見ながら、未来を想像します。戦う必要のない世界で、ただ笑いだけのある世界で、毎日を楽しく。



「こんにちは、ロミーさん」

「さっきぶりだね、二人共。早速入っておいで」


 ロミーさんのお店につくなり、着席を勧められます。

 外から見える位置ですね。お客さんが来たら、私たちも対応出来そうです。

 すでに押し花の紙が用意されていました。

 

「それじゃ、やっていこうか」

「はい」

「よろしくお願いします」

 


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