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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
29日目、思い出いっぱいなのです
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彼女と過ごした街⑥



 ”強化”が乗ればいい蹴りになりそうです。岩が砕けるなんて思いませんでしたけど。


 地面に転がっている岩の破片に震脚をしてみます。足を上げると、砂の様になっていました。


「魔力ってすごい」


 対人で刀は必要ありませんね。


「リツカお姉さン」

「どうしたの? シーアさん」

「パンツ見えてましタ」

「え?」


 見えないように気をつけたのですけど……見えてしまったのでしょうか。


「見えてません」


 アリスさんがシーアさんの肩に手を置き静かに教えてくれました。


「良かった。見えないように気をつけてはいたけど、見えちゃったのかと」

「冗談でス。見えてませン。でも脚は丸見えでしタ。ですよネ、お兄ちゃン」


 シーアさんが焦ったようにまくし立てます。


「あ、あぁ。そこで僕に振らないでくれシーア……」

「シーア、後でお仕置きよ」


 エルさんが窘めます。

 

 見えてなかったとはいえ、スカートを押さえ、少し気にしてしまいます。見えてなかったですよね……。


「……」

「アリス……」

「っ……なんでもありません」

「はぁ……。見すぎるとバレるわよ」


 エリスさんに呼ばれたアリスさんが動揺しています。何があったのでしょう……。


「強化なしでも、岩って砕けるのね」


 大穴が開いた岩を見ながらエリスさんがしみじみと言います。


「体内で留めた魔力を、発勁により打ち込むんです」

「地面がこんなに凹んで……」


 大穴から手前の地面に視線が移動していき、その後私に視線が集まりました。


「震脚っていうんでしたっケ」

「魔力がなかった向こうの世界だと、ちょっと強くなったかなってくらいだったけど、魔力が加わると別物だね」


 シーアさんが私の脚をじっと見ながら興味深そうにしています。


「……」


 シーアさんが私のスカートを摘んでスリットから覗き――。


「シーアさん、脚を見ても震脚の研究には……」

「残念でス」

「……」


 残念がるシーアさんの後ろにアリスさんが迫りました。


「巫女さン。ちょっとした研究欲がですネ」


 気迫に押し負けたシーアさんが焦り始めます。


「覗き込む必要、ありました?」

「実物を見ないと分からない事ってあるんでス」

「それで、どうでした?」

「しなやかで綺麗な脚って事しか――」

「……」


 笑顔のアリスさんが、更に迫っていきます。

 

 でもそれ以上迫るのはダメです。


「アリスさん」

「リッカさま……?」


 後ろから抱きしめ、これ以上の接近を止めます。


「それ以上は、()


 ダメと言おうとしたのですけど、口から出たのは()、でした。


 シーアさんは、ただの好奇心だったのです。責めすぎるのは悪いと思ってしまいます。


 だから、ダメだよ、と止めようとしたのですけど……。

 嫌というのは、アリスさんがシーアさんに近づきすぎるのが、嫌。

 その距離は、私だけの物であって欲しいんです。


「……」


 ぎゅっと力を込めます。


「リッカさま」


 スルリと、とシーアさんに向いていた体を私の方に向けてくれます。

 抱きしめ返してくれて、クスクスと笑います。


「我侭さん、ですね」

「えへへ……」


 独占欲が、止まりません。でもアリスさんは私だけの――。



「ごめんなさいね、シーアちゃん」


 エルタナスィアが苦笑いで、レティシアに話しかける。


「二人のお馬鹿さんっぷりは承知してまス」

「元はと言えば、シーアがリツカさんのスカートを捲るからでしょ」


 エルヴィエールがドヤ顔を披露しているレティシアの頭に手を置く。


「ここには男性も居るのよ」

「ゲルハルトさんもお兄ちゃんモ、見向きもしてないじゃないですカ」


 レティシアがゲルハルトとコルメンスを見る。

 

 二人は目を逸らし、ばつの悪そうな顔をする。


「……」

「見たくても、見たら私達が怖いから、よ」


 エルタナスィアがゲルハルトを睨む。


「い、いや。見たい訳では……」


 コルメンスがエルヴィエールを見ながら焦る。


「そ、それにしても! 凄まじい蹴りでしたね」

「え、えぇ。魔力を打ち込むということでしたが」


 露骨に話題を変えるコルメンスとゲルハルト。

 ゲルハルトにしてみれば、娘と同じ年であるリツカに欲情などしない。だけど、エルタナスィアの視線から逃げるにはコルメンスに乗るしかなかった。

 コルメンスも欲情はしていないけれど、リツカが扇情的であった事は自覚している。

 

「リツカお姉さんハ、この世界の人ならバ、覚えれば出来ると言っていましたヨ」

「無理だよ……」


 コルメンスが岩の溝をなぞる。

 魔法は”硬化”と”光”。それを施しただけの蹴りで岩を砕き、削り、穴を空ける。

 発勁というものが出来たとして、本当に出来るのかとコルメンスの口角がひくつく。


「マクゼルトのような、元々人間だった者に対する術という話でしたが……」

「”強化”を使えばマリスタザリア相手でも致命傷を与えられそうですな」


 男達は話題逸らしであった話から、純粋な考察に移行した。


 リツカは率先してマリスタザリアに蹴りを入れようとはしないだろう。リツカは身長が高いわけではない。脚は長いけれど、マリスタザリアのリーチ以上の長さではない。確実に相手の攻撃範囲内で戦う事になってしまう。


 この蹴撃は、あくまで刀での戦いをサポートするためのものだ。

 斬撃が来る。そう思っている相手に蹴りを入れるからこそ、刀の攻撃が生きる。攻撃手段を増やしたかっただけだ。


 あとは、対人の武器が欲しかった。

 ブレスレットのお陰で”強化”が素手でも出来るようになった。そこに蹴りも加われば、対人でも優位に立てるだろう。


 アルレスィアを守るための手段。それを手に入れることに、リツカは妥協しない。




「リツカお姉さン」

「どうしたの? シーアさん」


 少しの間アリスさんと二人だけの世界に入っていましたけれど、シーアさんがとてとてと歩いてくるのを感じて戻ってきました。


「”抱擁強化”で蹴ったらどうなるんでス?」

「やってみよっか」


 刀を抜き、”抱擁強化”を纏い、蹴撃を準備します。


「少し離れていてくださいね」


 どれくらい石飛礫が飛ぶか分かりませんから。


 行うのは、先ほどの三撃目の蹴り。

 回転の力も加え、震脚を――。


「――シッ!!」


 パンッと空気が爆ぜ、小さいソニックブームを起こします。


 岩に伝わった衝撃は、岩を粉砕し、飛礫が散弾の様に飛んでいきました。

 訓練場の壁まで飛んでいき、少し穴を開けてしまいましたね。もはや銃弾。気をつけて使わないといけません。


 脚の確認をします。痛みはありません。


 自分の”強化”が自分を傷つけないために、多少の防御の上昇が起きています。マリスタザリアやマクゼルトの一撃には、何の効果もありませんけれど。


 蹴りで自滅なんてことはなさそうです。


「私が岩を出せバ、リツカお姉さんの蹴りで広範囲を攻撃出来そうですネ」

「シーアさんが魔法で攻撃した方が早いですよ」


 アリスさんの言うとおり、二度手間ですね。

 少し体を動かします。昨日マリスタザリアを倒しはしましたけど、体の鈍りを感じましたから。



「リッカさまは少し体を動かすそうです」

「急に視界から消えたので何事かと……」


 リツカがステップを踏み始める、緩急をつけ、訓練場の中を駆け回る。


「偶にリツカお姉さんが増えて見えるんですけド」


 レティシアはリツカの動きを目で追っていく。辛うじて見える程度のものだ。


 リツカが放っている魔力が赤い線の様になっている。体を回したり右端から左端まで一足で移動してみせたりしている。


 全て、”疾風”なしで行っている。


「何やってんだ」

「泥酔サボリ魔さんも来たんですカ」

「呼ばれたからな」


 呼び名がまた変わっているけれど、それに突っ込まなかったウィンツェッツにレティシアは不満だったようだ。聞こえるように舌打ちし脹れる。


「明日出発との事ですし、話し合いの場を設けようかと」

「……来るんですか?」


 ウィンツェッツを見るアルレスィアの目は懐疑的だ。


「男手はあった方が良いと思いますけド、リツカお姉さんが心配ですネ」

「リツカさんがどうかしたんですか?」

「ゲルハルトさんの前でもお構いなしに脱ごうとしましたシ」


 レティシアがやれやれ、と首を横に振る。


「あの時は、魔法と感知が出来ない事で放心状態だっただけですから」


 アルレスィアがリツカの擁護をする。いくらリツカでも、放心状態でもなければ男の前で服を脱いだりしない。


(本当はもう一つありますけど)


 アルレスィアから表情が消えた事に気付いた人間は一人も居ない。




 兄弟子さんとアリスさんの間に入るように停止します。私を西の戦場から運んでくれたそうですけど、それはそれ、です。


「兄弟子さんも行くんですか」

「あぁ」


 もう兄弟子に突っ込まないんですね。

 ライゼさんと仲良くなっているように見えましたし、もう気にしないんでしょうかね。


 呼び方を変えろといわれても、兄弟子さんの名前、私にはどうやっても発音できませんから変えられませんけど。


「アリスさんに手を出したらその手をもらいますから」

「ガキに手なんか出さねぇよ」

「それならいいです」


 出さないとは思っていますけど、一応言っておきませんと。勘違いされても困るので。


 ただ……ガキガキと言いますけど、殆ど変わらないじゃないですか。


「船室は五つありますので」


 エルさんに船の説明を受けます。

 ()()()()があるので、関係ないと思わずにちゃんと聞きます。


「まァ、使うのは三部屋だけでス。残りは貯蔵庫にさせてもらいますネ」

「三部屋?」

「察しの悪いお兄ちゃんでス」

「え? ……あっ」


 コルメンスさんが私達を見て手を叩きます。


「程ほどになさいね?」

「お母様……」


 もはや口癖となってしまっているのか、エリスさんが私達に笑いかけます。

 何を程ほどに……?


 シーアさんのご厚意? で私とアリスさんは同じ部屋にしてもらえるそうです。

 それにしても、王族専用ってすごいです。五部屋もあるんですか。


 エルさん、シーアさんは一緒? 残りに侍従や護衛でしょうか。料理人とかも連れて行くんですかね。シーアさんのお腹を満たさないといけないとなるとかなり大きい冷蔵庫の様なものがありそうです。


「調理場とお風呂場もありますから」

「兄弟子さん」

「覗かねぇよ! あんさんらは俺の事を勘違いしとるぞ!?」


 兄弟子さんが怒り、訛りが出てきます。


 そういえば、ライゼさんもそんな事を言ってましたね。確かに勘違いでしたけど、男は皆狼ってライゼさんも納得してましたし。


 アリスさんが入っている間は私が守り抜きます。

 一緒に入れないのは、残念ですけど。



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