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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
29日目、思い出いっぱいなのです
314/934

彼女と過ごした街

A,C, 27/03/24



 朝起きると、アリスさんが私に覆いかぶさったままじっと見ていました。


「おはよう、アリスさん」

「はい、リッカさま」


 スリスリと、私の胸に頬擦りします。アリスさん程のものはありませんけれど、枕くらいには、なれるかも?


「んっ……」


 体の芯からぞくっとくるような感覚が奔ります。アリスさんから触れられると、よく、なります。


 このままアリスさんとの一時を満喫したいと思ってしまいます。悪夢を見る事無く、爽やかな朝です。


 明日の出発に向けての準備があるとはいえ、ゆったりと過ごしたいと、少しだけ思います。だけど、せっかく動くようになった体です。日課をこなし、体を解したいとも思っています。


「いかせません」

「アリスさん、でも、明日から日課なくなっちゃうから……」


 出発してしまっては走る余裕はありません。

 というより、いつ襲われるか分からない場所で走ってなんていられません。


 だから、今日が最後です。明日も今日も一緒という気の緩みが、どこかでツケとなって私を――。


「私と一緒に、居てください」

「分かった」


 アリスさんの切実な表情と抱きしめる力が合わさり、私の日課欲はどこかへ行ってしまいました。

 

 アリスさんの我侭は、多くないです。その殆どない我侭ですら、私の体を労わっての事なので、我侭という感じが一切しません。


 今回も、私を労わっての事でしょう。昨日無茶して、心配させてしまったのです。アリスさんのお願いは最大限叶えたいです。


 アリスさんの髪を指で梳かしながら、ふと横をみます。

 そこには、アリスさんと私のアクセサリー類が置いてあります。ブレスレットとイヤリングです。


 ブレスレットは核樹で造られた物。私達にとっては、お互いが作った物を交換した大切な物であり、核樹を介して魔法を発動させなければいけない私達の補助もこなす品です。

 核樹で出来ているのでちょっとやそっとでは壊れません。


 ですけど、イヤリングは違います。

 つあるなから造られた、月と太陽。

 月はアリスさん、太陽は私。

 このイヤリングは、壊れやすいです。激しく動いても取れない事は確認済みです。


 でも、マクゼルト戦で壊れなくて良かったです。拳圧はすさまじく、避けたはずの私に致命傷を与えました。


 イヤリングが無事だったのが不思議ですね。顔、首、心臓は守りましたけれど。イヤリングまでは、気が回らなかったのです。

 どちらも健在で、アリスさんとお揃いのままです。

 

 指輪、あの戦争で制作も遅れてそうです。

 一応、今日寄ってみましょう。もしかしたら、魔王討伐のご褒美となるかもしれませんけれど。


 私を堪能? したのか、アリスさんが顔を上げ、朝ごはんの準備をすると告げました。


 私も起き上がり、先に身嗜みを整えキッチンに向かいました。

 必要な物を話しながら、静かな朝を過ごします。

 待ち受けるのは過酷な旅ですけど、重圧も悲壮感もありません。

 

 敵の姿がやっと、ちらっと見えたのです。

 敵は魔王、マクゼルト。他にも居るのかもしれませんけれど、マクゼルトの力を考えれば、魔王は遥か高みに居るでしょう。


 数多くの魔法を使い、私達を追い詰めている魔王。でも、魔法の数も、魔力の量も、戦いでは一要素でしかありません。


 戦いは、想いの強さで決まります。

 今目の前で、笑顔のまま私を見つめてくれているアリスさんが居る限り、私の想いが魔王に負けるわけありません。

 いつも通りの私で出発しましょう。



「必要なのは、これくらいかな」

「はい。ラヘルさんの所で全て買えるはずです」


 メモを取り、他にないか考えてみます。


 後から必要となったら町に寄れば良いとはいえ、愛用品などは、そのまま使いたいですから。

 日持ちのする食品も必要ですね。その辺りはアリスさんに任せきりになってしまいます。


 シーアさんが船を出してくれるそうです。その船には簡素ながらキッチンや浴槽などの水まわりが設置されているという事です。

 元々王族用の予備船らしいですから。


 エルさんは、是非使って欲しいと言ってくれましたけれど、あれ王族の物だったんですか……。

 ライゼさんがすっごく雑に扱ってた様な。


 と、とにかく。結構快適な旅になりそうです。

 ルートは、各街を寄って行く形式をとります。

 北には確認出来ているだけで、大小含め約十六の町村、集落があるそうです。


 未確認含めれば二十は超えるだろうと、コルメンスさんとエルさんは言っていました。

 

 それを一つ一つ見ていきます。悪意感染があれば浄化し、もし北に向かう悪意があれば、その方角へ進んでいくという流れになります。


 魔王は私達の動向に気付き移動するかもしれません、悪意を誘導などして罠を用意する可能性もあります。

 それでも、確実に近づけます。


 マリスタザリアを呼び出すにしても、自身が戦うにしても、悪意が必要なのですから。


 悪意を追っていけばすぐに捉えられます。


 追い詰められて飛び出したと、魔王は思っているかもしれません。私の所為で犠牲が出る。だから、孤立させたのだと。


 ですけど私の気分としては、追い詰めたのはこちらです。方角すら分からなかったものが、分かったのですから。


「やはり、その瞳も素敵です」


 アリスさんが小声で何かを言った気がしたので、耳を澄ませてみますけれど、もはや手遅れでした。


「ご、ごめん。深く考え込みすぎちゃってた」

「集中して、前を向いているリッカさまが素敵だと、想っただけです」


 ニコリ、と微笑み、私の頬に手を伸ばします。


「魔王は確かに慎重、狡猾。全力で私達を潰そうとしている節があります」


 私の頬を撫でながら、アリスさんが囁くように言います。


「ですけど、その慎重さは私達にとっては追い風となっています」

「そうだ、ね。私の様子を見るためのマリスタザリアだったんだろうけど、そのお陰で魔法も戻ったし、悪意も持って行ってくれた」


 アリスさんの、銀色の光を灯した赤の瞳に吸い込まれそうになってしまいます。


「悪意による小さな被害より、リッカさまの状態を知ることを優先させた結果と、私は思っています」


 被害が出る前に、アリスさんと私に浄化されるかもしれなかった悪意です。浄化が間に合わずとも、変貌させるほどの物はありませんでした。


「裏目となったのは、焦っている証拠だと、私は考えます」

「魔王が?」


 アリスさんが頷きます。


「リッカさまを確実に()()()にさせるための作戦であった戦争」


 亡き者、という言葉を発すると、アリスさんに怒りの火が灯りました。


「それは失敗に終わり、リッカさまは再び立ち上がりました」


 私が頷くのを見て、アリスさんは更に続けます。


「折れてもなお、更に跳ねる様に前に飛び出したリッカさまに、魔王が何も思わないとは、私は思いません」


 言わんとすることを、私は理解しました。


「更に行動を起こすと思っています」

「私達の、追い風」

「はい。魔王が行動すればするほど、私達は魔王に近づけます」


 その行動を一つ潰す毎に、魔王に近づくだけでなく、手の内も分かり、勝利も近づくと。


「リッカさまの想っている通り。私達が追い詰めているのです」

「――うん!」


 私の返事を聞いたアリスさんが、頬を撫でていた手を顎の下に動かします。

 そして、猫にするようにごろごろと――。


「んっにゃ……」

「気を張らずに、参りましょう。リッカさま」


 クスクスと笑いながら、私の顎をくすぐります。気持ちよさと、気恥ずかしさで、目を細めて浸ってしまいます。


 すでに時間は、八時を回っていました。

 部屋の整理をしながら、お店の開店を待つとしましょう。


「……」

「アリス、さん。そろそろ」

「もう少し……」

「う、うん」


 もし私に尻尾があれば、大きくゆっくりと振っていたことでしょう。

 尻尾がなくても、私の顔をみれば、どんな感情なのかすぐ分かってしまいますね……。ふにゃぁ……。



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