生きてる⑤
何度目か分からない、公開羞恥自滅を披露し、アリスさんのお父様から再び鋭い視線を浴びます。
ですが、その視線は昨夜までの力強い父としての目ではなく。私を、心配しているような?
そんなことを考えますが、アリスさんの声で祈りに集中します。
「では、皆さん……」
アリスさんの言葉と共に手を組みます。
「―――我らが神、アルツィア様。
御名、御身の威光をもって我らを救いたまえ。
我らの罪を、赦したまえ。
我らに贖罪の機会を、与えたまえ。
我ら、祈りを捧げる者。
天にまします、我らが母アルツィア様よ。
ねがわくは、御名を崇めさせたまえ。
御身によって世界の安寧を。
我……御身の供物なり。拝」
……? ノイズが、消えて――。
「さぁ、食べましょう。皆さま」
アリスさんの言葉に我に返り、食事を開始しました。
(やっぱり、このスープおいしいなぁ。なんでこんなにおいしいんだろう)
アリスさんが私のためにと、また作ってくれたスープを飲みながら幸福感に包まれていると、広場に居たピンク髪の女性に目がいきました。
どこに居たのかわかりませんでしたけど、アリスさんのほうへ向かってきます。
『アルレスィア、説明はいつするんだい?』
何か脳に直接響くような声です。アリスさんの声とは別の意味で頭に残ります。
「はい、食後――。高台で……」
アリスさんは小声なので全ては聞こえませんでしたが、悲しみを含んだ声音で答えます。
『そうかい、じゃあそれまでその辺りをフラついてるよ。ところでアルレスィア』
結構自由人なんですね、この方。この集落では初めて見るタイプです。
『リツカの裸はどうだった?』
ゴフッと私は思わずむせてしまいます。
「な、なにをっ! コホン。リッカさま、大丈夫ですか? お水です」
顔を赤くして女性に怒りかけたアリスさんでしたが、私がむせたのを見て水を差し出してくれました。
それにしても本人が居る前でなんて話しを。
……アリスさん、私の体を拭いてくれたんでしたね。そのときに、全部、みられて。
私が自分の体に変なところがなかったか思い出そうとしていると、アリスさんの声に困惑の色が含まれていきました。
「リッカさま、どうかなさいましたか?」
アリスさんの顔を直視できません。
「い、いえ。その、アリスさんは私の裸、全部みちゃったんですよ、ね?」
もじもじと足をこすり合わせながらアリスさんに問いかけます。
「!? あ、あのえっと……はぃ、ごめんなさい」
私が怒っていると勘違いさせてしまったようです。アリスさんが肩を狭め落としてしまいます。頬を赤に染めながら、目を閉じ反省しているようです。
反省を促したかったわけではないので、すぐさま訂正を入れます。
「いえ、怒っているわけではないんです。その……変なところはなかったかな、と」
怪我もそうですけど、女性として変なところは
「は、はいっ綺麗な体で――っ。はぅっ」
アリスさんが思わず、といったように口走ってしまいます。
二人してどうしたものかと、あたふたしていると、ピンク髪の女性がくつくつと笑っていました。
『ハハハっ。まったく、見てて飽きないよ』
アリスさんは顔を赤に染めたまま、女性に怒った顔を向けます。
しかし、何か疑問に思ったのか私に向き直り、アリスさんは不安そうに私の瞳を見ました。
「あの、リッカさま、どうして今……その話を」
「いえ、”お二人”がその話をしていたので……」
そう言ってピンク髪の女性に目を向けます。
「―――ぇ」
アリスさんが驚愕に動きをとめます。
「えっと、どうかしましたか……?」
アリスさんの変化に戸惑いつつ話しかけます。
『やっぱり、見えるようになってたか。声も聞こえるようだね』
女性が私を見ながらしみじみと言います。見える? 聞こえ?
「――っ知っていたんですか!? アルツィアさまっ!」
あるちあってさっき聞こえた”神さま”のお名前?
「えっと、あなたは”神さま”と同じ名前なんですね。赤い髪は居ないって聞いてましたけど、ピンクは居たんですね」
色の系統は似ているので、ほんの少し興味がわきます。
「――。ノイズも……なくなったのですね……」
アリスさんが搾り出すように尋ねます。
「はい、なぜかはわからないんですけど」
周りがざわめいているので、周りに目を向けると、集落の皆が私を見ていました。
「どういうことですか、アルツィアさま」
アリスさんが力なく女性に話しかけます。
『どうもこうも、同じ”巫女”だよ、アルレスィア。きみが聞けるなら、リツカも聞ける』
だんだんと雲行きが怪しくなってきました。
「そうですけど、今まで聞こえていませんでした! それに姿が見えるほどの……っ。リッカさまにどれほどの魔力をっ!?」
アリスさんが、怒っています。一体なんで……?
『まったく、リツカのことになるとこんなに……反抗期は悲しいよ、アルレスィア』
女性は飄々と答えます。
「っそれとこれとは……。とにかく、説明してください」
苦虫を噛み潰したように、アリスさんの顔が歪みます。
『見えるなら丁度いい。アルレスィア、リツカ。高台にいくとしよう』
女性は飄々とした態度を崩す事無く、提案しました。アリスさんと私は、女性を見ます。
『私が説明しよう。世界のことも、リツカのことも、”お役目”も』
そう宣言し、女性は、最初からそこに居なかったかのように、消えてしまいました。
「申し訳ございません……リッカさま」
アリスさんが目を伏せ謝ります。
「アリスさんが謝ることは何も……」
謝られるようなことは何もなかったはずです。
「約束、果たせません……。”私が”説明したかったのですが」
悔しそうに、言います。
先ほどの女性が説明すると言っていましたね。私もアリスさんから聞きたかったのですけど。
「仕方ありません。有無を言わせない感じでしたし」
私は残っていた、アリスさんのスープを飲み干します。冷めきっていてもおいしいスープに頬を緩めます。
「……ふふ」
そんな私にアリスさんも、ほんの少しだけ笑顔が戻ってきたのでした。
「では、高台で参りましょう。皆さん、お先に失礼いたします」
アリスさんは食堂の皆に頭を下げて入り口へ向かいます。私もそれに倣って――。
「失礼、します」
「リツカ様」
頭を下げようとしたところで、オルテさんに止められました。
「……リッカさま外で、お待ちしています」
「分かりました」
アリスさんに了承を伝えると、オルテさんに向き直りました。
「どうしました?」
オルテさんの顔は固く引き締められています。
「リツカ様は、ピンクの髪の女性が見えたのですね……?」
おずおずとオルテさんが尋ねます。普段のきりっとし、隙のないオルテさんとはまったく違う姿に困惑しながらも
「はい」
頷きながら答えます。
「―――」
その場にいた全員、アリスさんのお父様とお母様ですら驚愕に固まっています。ですが、集落の人とご両親の違いは、ご両親は喜びに満ちているということです。
「リツカ様、その方は……我々の、”神様”です」
高台の縁に女性が座っています。
『さて、何から話そうか』




