思い出す⑦
大通りで子供達に手を振ってもらえたり、大人達に感謝されたりと、集落二日目時の変化を見ているようです。
守る事が出来た人たちです。
でも、笑顔で居る人たちの傍には、悲しみを携えた人たちが居ます。
命はあるけど、大切な人を失った喪失感。
夢の私を、思い出します。目の前で失ってしまった私です。あれはただの夢ではありません。ありえる未来なのです。
いつだって、死が隣にあります。
それがアリスさんに届かないように、神経を研ぎ澄ませます。
でも、感じるのはアリスさんの暖かさだけで、向けられるかもしれない負の感情を感じ取る事ができません。
私は、この暖かさに、溺れていたいのでしょうか。
そうであれば、私の魔法と感知が使えないのは、やっぱり私の意志が弱って――。
「リッカさま、南門を抜けますよ」
「う、うん」
頭を振って、考えを外に出します。
意志が弱っているなんて、ありえません。きっと元に戻ります。
体の回復は済みました。走れるかは、やってみないと分かりませんけど、感覚的には万全です。
あとは、魔法と感知です。外の空気を吸えば、戻るはずです。私はちゃんと、前を向いているんですから。
静かな城壁横を歩きます。
牧場までの道は思いの他綺麗です。ライゼさんが、牧場で敵を殲滅してくれたお陰でしょう。
牧場は、戦場の痕がまだありました。ところどころ血痕もあります。
それでも、風はいつもの様に綺麗です。春が芽吹いた香りがします。
「そろそろ、春の花が咲きますね」
風に靡く髪を押さえながら、アリスさんが微笑みます。
きらきらと太陽の光を反射する銀糸の髪が綺麗です。
「どんなのがあるの?」
「ハナミズキやラナンキュラス、ラクラウ、アルモミが有名でしょうか」
ハナミズキとラナンキュラスは向こうの世界でもありますね。
ハナミズキの花言葉は、私の想いを――受けてください。ラナンキュラスは、とても魅力的、晴れやかな魅力。
こちらでの花言葉は、違うのでしょうけど、ドキドキしてしまいます。これは、胸にそっとしまっておきます。
「ラウラクとアルモミは、向こうにはないなぁ」
「ラウラクの花言葉は思い出、アルモミは大切な思い出、ですね」
アリスさんが目を閉じ、思い出すようにしています。
アリスさんにとっての、大切な思い出。神さまと過ごした日々でしょうか。
出来るなら、私であって欲しいと思ってしまいます。
「リッカさまにとっての、大切な思い出はなんでしょう」
「私?」
「はい」
少し、緊張した声音のアリスさんが、尋ねます。
「私は――アリスっさんと、初めて……会った時……」
かっこよく言おうとしたのに、声が上擦ってしまって、段々小さく呟く様になってしまいました……。
「……」
アリスさんが私を抱き寄せ、強く抱きしめます。
「ア、アリスさん……」
胸に埋まるように抱きしめられているので、顔が見えません。
「私も、同じです」
「一緒、だね」
「はいっ」
弾むような声で、アリスさんが更に力を込めます。
ふかふかで、眠くなってしまいます。激しい心臓の鼓動が収まれば、眠れそうですね。
(前に進んでは来ていますけど、戦争の時よりまったりとしてますね)
魔法もまだまだ撃てます。盾役の方達にも余裕があります。
この違和感はなんでしょう。こちらに釘付けに? 一番それっぽいですけど……。
「解っていても、離れる事は出来ませんね」
陽動に気付いてこちらの戦力が減った時、一気に侵攻なんてあるかもしれません。
それに、盾を張る人たちの顔。怯えきっています。攻め込まれたら三分も持ちません。
ここらから最も遠い戦場は、南と西。その中でも牧場が一番距離があります。
ですけど、牧場に家畜が来るのは明日です。
ウムロンへ行くのに半日かかりますし、商談を纏めていたら二日はかかります。
牧場に動物が入る事はありません。そうなれば、西ですか。西にも何かあるんですかね。
狙いはリツカお姉さんと仮定して、街事押し潰す?
リツカお姉さんが眠っているにしても、起きているにしても、敵側準備を考えれば再侵攻と考えるのが普通。
ですけど……。
「なんでしょう。この違和感は」
まぁ、こちらの戦力を考えれば、こんな陽動でも効果的ですけど。
「失敗しましたね。巫女さんに連絡しておくんでした」
ここまで拘束されるとは思いませんでした。
「減ってはいます。このまま殲滅してしまいます」
盾役の方達の心労も気になるところですし、もたもたは出来ません。
一体どこに、こんな大群が居たんですかね。
疲れはしましたけど、あと四体ですね。
「もう少しでス。気を抜かないで下さイ」
「はい!」
勝ちを確信した時、油断が生まれるのです。
今の様に――。
「っ!」
近くで何かが叩きつけられる音と、人の悲鳴、何かが転がる音がしました。
横を見ると何人か倒れ伏しています。
「慌てずニ、盾を張って――」
私に影が差しました。
今の太陽の位置からして影は前です。だから突然現れた影は……私の後ろに何かが在るのです。
「お姉――」
あぁ、やっぱり、連絡はしておくべきでしたね。
「シーア?」
髪を整えているエルヴィエールが、レティシアの声を聞いた気がした。
急いで整え、先に執務室に戻っているコルメンスの元に行く事にしたようだ。
「コルメンス様」
「エルヴィ、こんなメモが」
コルメンスがエルヴィエールにメモを渡す。
お姉ちゃんへ。
共和国の情報部からの報告です。
マリスタザリアの出現は殆どなく、平和との事です。
どうやら周辺の動物達も使って、キャスヴァルに侵攻したようですね。
とりあえず、共和国は無事ということですし、もう少しゆっくりしていてください。
一応護衛はお呼びしましたけれど、まだ何が起こるか分かりません。
安全が完全に確保されるまで、大人しく、大人しくですよ。
追伸
部屋の鍵はしっかりかけておいた方がいいですよ。
「シーアまさか……」
「ちゃんと鍵は確認したから、こちらの反応を楽しむ為じゃないかな」
「そ、そうですよね」
エルヴィエールが取り乱した事を恥じるように、頬を染める。
「帰る予定、どうする?」
「……シーアもこう言っていますし、もう少し待ちましょう」
エルヴィエールが少し考え込み、結論を言う。
フランジールも気になるけれど、レティシアが用意してくれたであろう暇を無駄にするのも、悪いと思ったようだ。
「それがいい。もし帰ると言っても、止めていたから」
「どうしてですか?」
コルメンスが困ったような笑みを浮かべ、エルヴィエールの決断を支持する。
「報告があったんだ。今、北でマリスタザリアが多数出現してるみたいだ」
エルヴィエールが息を飲む。
「シーアも、今戦っている」
「シーア……!」
部屋を飛び出そうとするエルヴィエールだけど、人とぶつかってしまう。
「どうしました? そんなに急いで」
エルタナスィアが倒れそうになったエルヴィエールを支えた。
「シーアが北で!」
エルヴィエールの切羽詰った様子に、エルタナスィアは、ゲルハルトと目を合わせた。
普通ならここまで取り乱す事はないけれど、リツカの怪我を見ているし、そのリツカとアルレスィアは今、戦場に出ていない。
嫌な予感が、エルヴィエールを突き動かしていた。
もう死んだかと思って目を閉じて、しばらく待ちましたけど、一向に痛みは来ません。
「おい」
「――っ」
後ろからの声に、目を開けます。
それと同時に、お酒の匂いがしてきました。こんな昼間から誰です?
「サボリさン」
「あぁ……まぁ、言い訳は出来んな」
酔っ払いが刀を担いでます。危険人物が私の後ろに居ます。
ディルクさんや数名の防衛班の方が、崩れた防衛戦を代わりに築いてくれていますね。
……ディルクさん?
「どうしテ、貴方達が居るんでス!?」
「助けてやったのになんだってんだ」
サボリさんが水? お酒? なんでもいいですけど飲みながらぶっきら棒に言います。
そんな場合じゃないんですよ!
「まだ買い付けに行ってるはず――」
「話は後だ」
サボりさんが敵陣に突っ込んでいきました。
あぁ! もう!
「説明はしっかりしてもらいまス!」
というよりあの影はサボリさんでしたか。
無駄に死を覚悟してしまいましたよ!!
ブクマありがとうございます!




