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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
28日目、想いの強さなのです
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思い出す⑦



 大通りで子供達に手を振ってもらえたり、大人達に感謝されたりと、集落二日目時の変化を見ているようです。


 守る事が出来た人たちです。

 でも、笑顔で居る人たちの傍には、悲しみを携えた人たちが居ます。


 命はあるけど、大切な人を失った喪失感。

 夢の私を、思い出します。目の前で失ってしまった私です。あれはただの夢ではありません。ありえる未来なのです。


 いつだって、死が隣にあります。

 それがアリスさんに届かないように、神経を研ぎ澄ませます。


 でも、感じるのはアリスさんの暖かさだけで、向けられるかもしれない負の感情を感じ取る事ができません。


 私は、この暖かさに、溺れていたいのでしょうか。

 そうであれば、私の魔法と感知が使えないのは、やっぱり私の意志が弱って――。


「リッカさま、南門を抜けますよ」

「う、うん」


 頭を振って、考えを外に出します。


 意志が弱っているなんて、ありえません。きっと元に戻ります。


 体の回復は済みました。走れるかは、やってみないと分かりませんけど、感覚的には万全です。


 あとは、魔法と感知です。外の空気を吸えば、戻るはずです。私はちゃんと、前を向いているんですから。



 静かな城壁横を歩きます。

 牧場までの道は思いの他綺麗です。ライゼさんが、牧場で敵を殲滅してくれたお陰でしょう。

 

 牧場は、戦場の痕がまだありました。ところどころ血痕もあります。

 それでも、風はいつもの様に綺麗です。春が芽吹いた香りがします。

 

「そろそろ、春の花が咲きますね」


 風に靡く髪を押さえながら、アリスさんが微笑みます。

 きらきらと太陽の光を反射する銀糸の髪が綺麗です。


「どんなのがあるの?」

「ハナミズキやラナンキュラス、ラクラウ、アルモミが有名でしょうか」


 ハナミズキとラナンキュラスは向こうの世界でもありますね。

 ハナミズキの花言葉は、私の想いを――受けてください。ラナンキュラスは、とても魅力的、晴れやかな魅力。


 こちらでの花言葉は、違うのでしょうけど、ドキドキしてしまいます。これは、胸にそっとしまっておきます。

 

「ラウラクとアルモミは、向こうにはないなぁ」

「ラウラクの花言葉は思い出、アルモミは大切な思い出、ですね」


 アリスさんが目を閉じ、思い出すようにしています。

 アリスさんにとっての、大切な思い出。神さまと過ごした日々でしょうか。

 出来るなら、私であって欲しいと思ってしまいます。


「リッカさまにとっての、大切な思い出はなんでしょう」

「私?」

「はい」


 少し、緊張した声音のアリスさんが、尋ねます。


「私は――アリスっさんと、初めて……会った時……」


 かっこよく言おうとしたのに、声が上擦ってしまって、段々小さく呟く様になってしまいました……。


「……」


 アリスさんが私を抱き寄せ、強く抱きしめます。


「ア、アリスさん……」


 胸に埋まるように抱きしめられているので、顔が見えません。


「私も、同じです」

「一緒、だね」

「はいっ」


 弾むような声で、アリスさんが更に力を込めます。

 ふかふかで、眠くなってしまいます。激しい心臓の鼓動が収まれば、眠れそうですね。

 



(前に進んでは来ていますけど、戦争の時よりまったりとしてますね)


 魔法もまだまだ撃てます。盾役の方達にも余裕があります。

 この違和感はなんでしょう。こちらに釘付けに? 一番それっぽいですけど……。


「解っていても、離れる事は出来ませんね」


 陽動に気付いてこちらの戦力が減った時、一気に侵攻なんてあるかもしれません。

 それに、盾を張る人たちの顔。怯えきっています。攻め込まれたら三分も持ちません。


 ここらから最も遠い戦場は、南と西。その中でも牧場が一番距離があります。

 ですけど、牧場に家畜が来るのは()()です。

 ウムロンへ行くのに半日かかりますし、商談を纏めていたら二日はかかります。


 牧場に動物が入る事はありません。そうなれば、西ですか。西にも何かあるんですかね。


 狙いはリツカお姉さんと仮定して、街事押し潰す?

 リツカお姉さんが眠っているにしても、起きているにしても、敵側準備を考えれば再侵攻と考えるのが普通。


 ですけど……。


「なんでしょう。この違和感は」


 まぁ、こちらの戦力を考えれば、こんな陽動でも効果的ですけど。


「失敗しましたね。巫女さんに連絡しておくんでした」


 ここまで拘束されるとは思いませんでした。


「減ってはいます。このまま殲滅してしまいます」


 盾役の方達の心労も気になるところですし、もたもたは出来ません。

 一体どこに、こんな大群が居たんですかね。



 疲れはしましたけど、あと四体ですね。


「もう少しでス。気を抜かないで下さイ」

「はい!」


 勝ちを確信した時、油断が生まれるのです。


 今の様に――。


「っ!」


 近くで何かが叩きつけられる音と、人の悲鳴、何かが転がる音がしました。

 横を見ると何人か倒れ伏しています。


「慌てずニ、盾を張って――」


 私に影が差しました。

 今の太陽の位置からして影は前です。だから突然現れた影は……私の後ろに何かが在るのです。


「お姉――」


 あぁ、やっぱり、連絡はしておくべきでしたね。



「シーア?」


 髪を整えているエルヴィエールが、レティシアの声を聞いた気がした。

 急いで整え、先に執務室に戻っているコルメンスの元に行く事にしたようだ。


「コルメンス様」

「エルヴィ、こんなメモが」


 コルメンスがエルヴィエールにメモを渡す。


 お姉ちゃんへ。

 共和国の情報部からの報告です。

 マリスタザリアの出現は殆どなく、平和との事です。

 どうやら周辺の動物達も使って、キャスヴァルに侵攻したようですね。

 とりあえず、共和国は無事ということですし、もう少しゆっくりしていてください。

 一応護衛はお呼びしましたけれど、まだ何が起こるか分かりません。

 安全が完全に確保されるまで、大人しく、大人しくですよ。


 追伸

 部屋の鍵はしっかりかけておいた方がいいですよ。



「シーアまさか……」

「ちゃんと鍵は確認したから、こちらの反応を楽しむ為じゃないかな」

「そ、そうですよね」


 エルヴィエールが取り乱した事を恥じるように、頬を染める。


「帰る予定、どうする?」

「……シーアもこう言っていますし、もう少し待ちましょう」


 エルヴィエールが少し考え込み、結論を言う。

 フランジールも気になるけれど、レティシアが用意してくれたであろう暇を無駄にするのも、悪いと思ったようだ。


「それがいい。もし帰ると言っても、止めていたから」

「どうしてですか?」


 コルメンスが困ったような笑みを浮かべ、エルヴィエールの決断を支持する。


「報告があったんだ。今、北でマリスタザリアが多数出現してるみたいだ」


 エルヴィエールが息を飲む。


「シーアも、今戦っている」

「シーア……!」


 部屋を飛び出そうとするエルヴィエールだけど、人とぶつかってしまう。


「どうしました? そんなに急いで」


 エルタナスィアが倒れそうになったエルヴィエールを支えた。


「シーアが北で!」


 エルヴィエールの切羽詰った様子に、エルタナスィアは、ゲルハルトと目を合わせた。


 普通ならここまで取り乱す事はないけれど、リツカの怪我を見ているし、そのリツカとアルレスィアは今、戦場に出ていない。

 嫌な予感が、エルヴィエールを突き動かしていた。




 もう死んだかと思って目を閉じて、しばらく待ちましたけど、一向に痛みは来ません。


「おい」

「――っ」


 後ろからの声に、目を開けます。

 それと同時に、お酒の匂いがしてきました。こんな昼間から誰です?


「サボリさン」

「あぁ……まぁ、言い訳は出来んな」


 酔っ払いが刀を担いでます。危険人物が私の後ろに居ます。

 ディルクさんや数名の防衛班の方が、崩れた防衛戦を代わりに築いてくれていますね。


 ……ディルクさん?


「どうしテ、貴方達が居るんでス!?」

「助けてやったのになんだってんだ」


 サボリさんが水? お酒? なんでもいいですけど飲みながらぶっきら棒に言います。

 そんな場合じゃないんですよ!


「まだ買い付けに行ってるはず――」

「話は後だ」


 サボりさんが敵陣に突っ込んでいきました。

 あぁ! もう!

 

「説明はしっかりしてもらいまス!」


 というよりあの影はサボリさんでしたか。

 無駄に死を覚悟してしまいましたよ!!



ブクマありがとうございます!

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