思い出す
A,C, 27/03/23
「ここ、は……?」
「よぉ」
また、あの人が目の前に――。
「後ろ見てみろ」
「――ぇ」
アンネさん、エルさん、コルメンスさん、ゲルハルトさん、エリスさん――シーアさん……。
「こっち見ろ」
「……」
ライゼさんが持ち上げられています。
「あんさんに関わったばかりに、息子を殺さなきゃいかん」
殺さなければ、いいじゃないですか。
「それは出来んだろ。あんさんが生きとる限り」
ライゼさんの腹が、あの人の拳で貫かれ、ます。
「だったら私だけを殺せばいいじゃないですか!!」
私の叫びは、届きません。
嗜虐芯を刺激してしまったのか、あの人はニタリと笑います。
「それも出来んだろ。何しろ――」
あの人がもう一人、持ち上げます。
あ……あぁ……!
刀を抜き、真っ直ぐに直進します。
でも、魔法は発動せず、足も遅い……!
「こいつも殺さんとな」
「ダメ!」
力が込められていくあの人の拳。
「もう私から、彼女を――」
振りかぶられる拳。
「奪わないで……」
振りぬかれ、そして――。
「――カっ! リッカさま!」
「あっ……あぁぁぁ……」
私に覆いかぶさるようにして、アリスさんが抱きしめてくれていました。
「ぁ……ぅ……」
アリスさんの背中をかき抱くようにします。
私の力はなく、零れ落ちてしまいそうで、必死になって……。
「う……うぅぅぅぅぅぅっ」
「リッカさま……」
頭を撫でられ、頬擦りされて、嬉しいのに――私の涙は止まりませんでした。
「アリス? どうしたの?」
「何でも、ありません。今……入ってきてはいけません」
「……? 分かったわ」
エリスさんが病室前に居たようで、異変に気付いてしまいました。
私を撫で、宥めながら、アリスさんが止めてくれます。
「ごめん……ごめんね……」
「良いのです。そのまま私に、触れていてください」
「うん……うんっ……」
体は壊れても、心だけは折れないように……。そう思っていたのに、こんなにも簡単に、折れてしまうのですね――。
「巫女さん?」
「……」
シーアさんも、来たようです。
アリスさんがどうするか迷っています。
「アリスさん、もう大丈夫だから」
「はい……」
涙を拭い、入室に備えます。
「何があったんですか?」
「朝ですから、色々とあるのですよ」
「ふむ……?」
アリスさんがお茶を濁します。
シーアさんもエリスさんも納得はしてませんけれど、私の様子を見て、追求は止めてくれました。
涙の跡、ないはずですけど、表情が暗かったかもしれませんね。
「今日はどうします?」
シーアさんが私を見て首を傾げます。
「そろそろ外を歩こうかなって」
咄嗟に動けないのは、まずいですから。
「ずっと病室でしたから、外の空気を吸いに歩こうかと思っています」
「それでは、私が遠くから見張りましょうか。まだ戦うのは辛いでしょう」
「お願いします」
「ありがとう、シーアさん」
まだ、辛いですからね。
「もう少し休んだほうが良いと思うけれど……」
エリスさんはため息をついています。
きっと、私の様子がおかしいので、それが理由です。
「少し、鈍りすぎていますから」
三日動かさないだけで、自分の体ではないようです。
「仕方ないわね……。私の方でも気をつけておくわね?」
「ありがとうございます、エリスさん」
私の感謝に、良いのよ、とエリスさんが微笑みました。
「院長さんに話してきます」
「えぇ、私も行くわ」
シーアさんとエリスさんが病室を後にし、院長先生に私の事を伝えに行きました。
「リッカさま」
「うん?」
アリスさんが、少し真剣な表情で私を見ています。
「たとえ、走れるようになろうとも……。リッカさまの魔法が戻るまで、この街から出ませんからね」
目に涙を溜め、アリスさんが私に近づいてきます。
「でも……」
「私はっ」
私の肩を掴み、アリスさんが、私の目をしっかりと見ています。
「リッカさまが、大事なのです!」
「……分かった、よ」
「絶対です……っ」
アリスさんが私を心配し、私を優先します。
私も、アリスさん優先です。
もし今のまま街の外に出れば、私は簡単に死んでしまうかもしれません。
でも、そうは――なりません。
アリスさんが私を守るから、です。
だから、無理をすれば、アリスさんが危険に曝されます。
完全に治るまで、この国にお世話になるしかありません。敵が気付かないよう、祈りながら……。
「周辺に、マリスタザリアになりそうな動物は、もう居ません」
アリスさんが現状確認を行います。
「ですから、すぐに攻められるとは思っていません」
「そうだね。慎重で、狡猾な魔王が、攻め時だからって無理に動くとは、思えない」
あの戦争は無理やりに見えましたけれど、最終的な目標が私の排除だったので、それを考えれば無理どころか……最適だったのではないでしょうか。
「警戒はします。ですけど、今は、治療に専念を」
私の手を包み込み、懇願します。
「うん。これ以上アリスさんに、心配させる訳にはいかないから」
私の言葉に、アリスさんが微笑みます。
私の微笑みは、少し力のないものでしたけれど、ぎこちなさのない微笑が出来たと、思います。
外出する事を院長さんに伝えてくれたシーアさんから、”伝言”で了承を受け取ったので外に出ます。
一昨日コルメンスさんが来院した際一騒動起きたらしく、裏口から出入りして欲しいとの事です。
目立つのも良くないので、裏口からそっと出ます。
眩しい……。
「大丈夫ですか?」
「う、うん」
アリスさんが心配そうにしています。
とりあえず、広場まで――。
「リツカ……様……?」
私の体がビクっと震えます。
「ラヘルさん、久しぶりです?」
「もう……大丈夫なんですか……?」
「はい、今から、歩行訓練です」
ラヘルさんであったことに、安堵します。
声をかけられただけなのに、こんなにびっくりしてしまうなんて……。
とにかく平常心を保ちましょう。
「リタちゃんに……報せないと……」
ラヘルさんがお辞儀して、走っていきました。
リタさんも、心配してたんですね。待つべきかと思いましたけど、少し歩きます。
この調子だと、私を見つけるのは簡単だと思いましたから。
「敵から隠れるなら、病室に居た方が良かったかも……」
「歩けない方が大変ですから、歩行訓練は必要です」
「それは、そうだけど……」
渋る私に、アリスさんが言おうか迷っていた事を話します。
「あの戦争の目的は、私達だけの秘密になっています」
「私が狙わ――むぐっ」
アリスさんの指が私の口を塞ぎます。
そのまま指を自分の口に持っていき指を立て、首を横に振ります。
その動作に、少しどきどき、してしまいます。
「言ってはいけません」
「う、うん……」
黙ったままでよいのでしょうか……。
「アンネさんですら変わってしまったのです。リッカさまを危険に曝す訳にはいきません」
っ……。
アリスさんは私を想ってくれています。
私は、それに従います。
不信感はマリスタザリアを生みます。私がその火種になってしまう……それだけは、避けないといけません。
「普段通りで居なければいけません。不信感をもたれないために」
「うん……」
起きて、治療を終えていれば、リハビリをする。
普通の事です。
ずっと隠し続ける事は出来ません。隠していたという不信感は、じわじわと人々の心を蝕むでしょう。
どうして隠していたのかを、考えさせてしまいます。
であれば、私は普通に過ごすのが、良いのです……。
更なる犠牲を生まないために、一刻も早く、私は取り戻さないといけないのですから。
「……」
「行きましたか」
「えぇ」
レティシアとエルタナスィアが、病院の外の二人を見ている。
「早く歩けると良いですね」
「そうね……」
「何か気になる事でも?」
エルタナスィアの歯切れの悪い返事に、レティシアが首を傾げる。
「リツカさんの様子が、やっぱり変なのよね……」
「ふむ」
エルタナスィアに言われるままに、レティシアはリツカを観察する。
「いつもより、背筋が曲がってますね」
起きたばかりだからでしょうか、とレティシアは唸る。
「あれは、自信がないように見えるわ」
「自信ですか?」
リツカお姉さんは慎重派ですけど、自信はたっぷりだと思うのです。
「何事もなく、帰ってきてくれれば良いのだけど……」
「私も遠目から警護します」
「お願いね? 私はこれから、リツカさんの事を陛下たちに報せに行くわ」
「はい」
二人が別れ、病院を出て行く。
二人には――いや、この世界の人間には、リツカの異変に気付けない。
魔法が使えなくなるなんて、思いもしない事だから。
生まれた時より共にあった魔法。それが使えなくなる事はない。
だけどリツカとアルレスィアだけは、別だった。
二人の持つ、”強化””抱擁””拒絶”。これらは、アルツィアですら知らない二人だけの魔法。
リツカの身に起きた事は、アルツィアがこの場に居ても解決できなかっただろう。
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