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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
28日目、想いの強さなのです
302/934

思い出す

A,C, 27/03/23



「ここ、は……?」

「よぉ」


 また、あの人が目の前に――。


「後ろ見てみろ」

「――ぇ」


 アンネさん、エルさん、コルメンスさん、ゲルハルトさん、エリスさん――シーアさん……。


「こっち見ろ」

「……」


 ライゼさんが持ち上げられています。


「あんさんに関わったばかりに、息子を殺さなきゃいかん」


 殺さなければ、いいじゃないですか。


「それは出来んだろ。あんさんが生きとる限り」


 ライゼさんの腹が、あの人の拳で貫かれ、ます。


「だったら私だけを殺せばいいじゃないですか!!」


 私の叫びは、届きません。

 嗜虐芯を刺激してしまったのか、あの人はニタリと笑います。


「それも出来んだろ。何しろ――」


 あの人がもう一人、持ち上げます。

 あ……あぁ……!


 刀を抜き、真っ直ぐに直進します。

 でも、魔法は発動せず、足も遅い……!


「こいつも殺さんとな」

「ダメ!」


 力が込められていくあの人の拳。


「もう私から、彼女を――」


 振りかぶられる拳。


「奪わないで……」


 振りぬかれ、そして――。




「――カっ! リッカさま!」

「あっ……あぁぁぁ……」


 私に覆いかぶさるようにして、アリスさんが抱きしめてくれていました。


「ぁ……ぅ……」


 アリスさんの背中をかき抱くようにします。

 私の力はなく、零れ落ちてしまいそうで、必死になって……。


「う……うぅぅぅぅぅぅっ」

「リッカさま……」


 頭を撫でられ、頬擦りされて、嬉しいのに――私の涙は止まりませんでした。


「アリス? どうしたの?」

「何でも、ありません。今……入ってきてはいけません」

「……? 分かったわ」


 エリスさんが病室前に居たようで、異変に気付いてしまいました。

 私を撫で、宥めながら、アリスさんが止めてくれます。

 

「ごめん……ごめんね……」

「良いのです。そのまま私に、触れていてください」

「うん……うんっ……」


 体は壊れても、心だけは折れないように……。そう思っていたのに、こんなにも簡単に、折れてしまうのですね――。


「巫女さん?」

「……」


 シーアさんも、来たようです。

 アリスさんがどうするか迷っています。


「アリスさん、もう大丈夫だから」

「はい……」


 涙を拭い、入室に備えます。


「何があったんですか?」

「朝ですから、色々とあるのですよ」

「ふむ……?」


 アリスさんがお茶を濁します。


 シーアさんもエリスさんも納得はしてませんけれど、私の様子を見て、追求は止めてくれました。

 涙の跡、ないはずですけど、表情が暗かったかもしれませんね。



「今日はどうします?」


 シーアさんが私を見て首を傾げます。


「そろそろ外を歩こうかなって」


 咄嗟に動けないのは、まずいですから。


「ずっと病室でしたから、外の空気を吸いに歩こうかと思っています」

「それでは、私が遠くから見張りましょうか。まだ戦うのは辛いでしょう」

「お願いします」

「ありがとう、シーアさん」


 まだ、辛いですからね。


「もう少し休んだほうが良いと思うけれど……」


 エリスさんはため息をついています。

 きっと、私の様子がおかしいので、それが理由です。


「少し、鈍りすぎていますから」


 三日動かさないだけで、自分の体ではないようです。


「仕方ないわね……。私の方でも気をつけておくわね?」

「ありがとうございます、エリスさん」


 私の感謝に、良いのよ、とエリスさんが微笑みました。


「院長さんに話してきます」

「えぇ、私も行くわ」


 シーアさんとエリスさんが病室を後にし、院長先生に私の事を伝えに行きました。


「リッカさま」

「うん?」


 アリスさんが、少し真剣な表情で私を見ています。


「たとえ、走れるようになろうとも……。リッカさまの魔法が戻るまで、この街から出ませんからね」


 目に涙を溜め、アリスさんが私に近づいてきます。


「でも……」

「私はっ」


 私の肩を掴み、アリスさんが、私の目をしっかりと見ています。


「リッカさまが、大事なのです!」

「……分かった、よ」

「絶対です……っ」


 アリスさんが私を心配し、私を優先します。


 私も、アリスさん優先です。

 もし今のまま街の外に出れば、私は簡単に死んでしまうかもしれません。

 でも、そうは――なりません。


 アリスさんが私を守るから、です。

 だから、無理をすれば、アリスさんが危険に曝されます。


 完全に治るまで、この国にお世話になるしかありません。敵が気付かないよう、祈りながら……。


「周辺に、マリスタザリアになりそうな動物は、もう居ません」


 アリスさんが現状確認を行います。


「ですから、すぐに攻められるとは思っていません」

「そうだね。慎重で、狡猾な魔王が、攻め時だからって無理に動くとは、思えない」


 あの戦争は無理やりに見えましたけれど、最終的な目標が私の排除だったので、それを考えれば無理どころか……最適だったのではないでしょうか。


「警戒はします。ですけど、今は、治療に専念を」


 私の手を包み込み、懇願します。


「うん。これ以上アリスさんに、心配させる訳にはいかないから」


 私の言葉に、アリスさんが微笑みます。

 私の微笑みは、少し力のないものでしたけれど、ぎこちなさのない微笑が出来たと、思います。


 外出する事を院長さんに伝えてくれたシーアさんから、”伝言”で了承を受け取ったので外に出ます。


 一昨日コルメンスさんが来院した際一騒動起きたらしく、裏口から出入りして欲しいとの事です。


 目立つのも良くないので、裏口からそっと出ます。

 眩しい……。


「大丈夫ですか?」

「う、うん」


 アリスさんが心配そうにしています。

 とりあえず、広場まで――。


「リツカ……様……?」


 私の体がビクっと震えます。


「ラヘルさん、久しぶりです?」

「もう……大丈夫なんですか……?」

「はい、今から、歩行訓練です」


 ラヘルさんであったことに、安堵します。

 声をかけられただけなのに、こんなにびっくりしてしまうなんて……。


 とにかく平常心を保ちましょう。


「リタちゃんに……報せないと……」


 ラヘルさんがお辞儀して、走っていきました。

 リタさんも、心配してたんですね。待つべきかと思いましたけど、少し歩きます。

 この調子だと、私を見つけるのは簡単だと思いましたから。


「敵から隠れるなら、病室に居た方が良かったかも……」

「歩けない方が大変ですから、歩行訓練は必要です」

「それは、そうだけど……」


 渋る私に、アリスさんが言おうか迷っていた事を話します。


「あの戦争の目的は、私達だけの秘密になっています」

「私が狙わ――むぐっ」


 アリスさんの指が私の口を塞ぎます。

 そのまま指を自分の口に持っていき指を立て、首を横に振ります。


 その動作に、少しどきどき、してしまいます。


「言ってはいけません」

「う、うん……」


 黙ったままでよいのでしょうか……。


「アンネさんですら変わってしまったのです。リッカさまを危険に曝す訳にはいきません」


 っ……。

 アリスさんは私を想ってくれています。

 私は、それに従います。


 不信感はマリスタザリアを生みます。私がその火種になってしまう……それだけは、避けないといけません。


「普段通りで居なければいけません。不信感をもたれないために」

「うん……」


 起きて、治療を終えていれば、リハビリをする。

 普通の事です。


 ずっと隠し続ける事は出来ません。隠していたという不信感は、じわじわと人々の心を蝕むでしょう。


 どうして隠していたのかを、考えさせてしまいます。

 であれば、私は普通に過ごすのが、良いのです……。


 更なる犠牲を生まないために、一刻も早く、私は取り戻さないといけないのですから。




「……」

「行きましたか」

「えぇ」


 レティシアとエルタナスィアが、病院の外の二人を見ている。


「早く歩けると良いですね」

「そうね……」

「何か気になる事でも?」


 エルタナスィアの歯切れの悪い返事に、レティシアが首を傾げる。


「リツカさんの様子が、やっぱり変なのよね……」

「ふむ」 


 エルタナスィアに言われるままに、レティシアはリツカを観察する。


「いつもより、背筋が曲がってますね」


 起きたばかりだからでしょうか、とレティシアは唸る。


「あれは、自信がないように見えるわ」

「自信ですか?」


 リツカお姉さんは慎重派ですけど、自信はたっぷりだと思うのです。


「何事もなく、帰ってきてくれれば良いのだけど……」

「私も遠目から警護します」

「お願いね? 私はこれから、リツカさんの事を陛下たちに報せに行くわ」

「はい」


 二人が別れ、病院を出て行く。


 二人には――いや、この世界の人間には、リツカの異変に気付けない。

 魔法が使えなくなるなんて、思いもしない事だから。

 生まれた時より共にあった魔法。それが使えなくなる事はない。

 だけどリツカとアルレスィアだけは、別だった。

 

 二人の持つ、”強化””抱擁””拒絶”。これらは、アルツィアですら知らない二人だけの魔法。

 リツカの身に起きた事は、アルツィアがこの場に居ても解決できなかっただろう。


 

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