生きてる④
「リッカさま、オルテさんはなんと?」
アリスさんの隣につくと、アリスさんから質問が投げかけられました。
「感謝の言葉を、いただきました」
オルテさんが悪いわけでは決して、ありません。ですが……オルテさんから受けた謝罪と感謝、それが私の……私が必死で隠そうとしていた物が私の中で暴れています……。私の……ある、感情……。
――命をかけた、本当に一歩間違えれば死んでいた、私も、オルテさんも、集落の皆さんも――アリスさんも。
感謝されて嬉しい気持ちはあります。助けることが出来た、そう実感できますから。でも、本当に偶然なのです。
「私も、アリスさんにお礼を言わないといけません」
本当は起きてすぐ……いえ、気絶から覚めたときに伝えるべきだったことを伝えます。
あの時は、意識が朦朧としていて、しっかりと伝えられていなかったから。
「あの時、私が窪みに足をとられたとき、アリスさんが間に入ってくれなかったら……死んで……いました。ありがとう、ございます」
誰にも見えない位置、膝の上で堅く握られた拳が……耐え切れずに震えてしまいます。
でも、それは、その震えだけは、今までとは理由が違います。
「でも、でもっ……もしかしたらあの時、アリスさんが死んでいたかもしれないっ!」
今回の震えは――アリスさんを失っていたかもしれないという、絶望です。
そしてこれが、私がオルテさんからの謝罪を受けられない理由。私は、私の蛮勇で、アリスさんを失うところだったのですから。
見えない何かで守られていました。でも、棍棒による攻撃で吹き飛ばされてしまっていました。あのまま、あのまま地面に叩きつけられていたら……っ
「私っアリスさんを失いたくないです! あまり……無茶をしないでください……」
私は、そう懇願しました。
失いたくない……アリスさんが居なくなる、そう考えるだけで胸が張り裂けそうになります。
でも、私は失念していました。
「リッカさま」
私の名前を慈しむように呼びながら、アリスさんが私の頬に指をあてがいます。そして、何かを拭う動作をして。昨夜のように、涙を流していました。
「それは、私も同じです。私もリッカさまを失うところでした。私も……リッカさまを失いたく、ないです」
アリスさんは私の頬を撫でます。
「リッカさまは、昨夜言ってくださいました。”アリスさんとなら、なんでもできる”と……」
英雄になってほしいと、そうお願いしたアリスさんに対して私は、確かに言いました。
「私も、そう思っております。リッカさまとなら、出来ると。ですから……”一人”では無茶をしないでください……」
撫でていた手を離し、私を抱きしめます。
「――はぃ」
抱きしめ返しながら、私たちは約束しあいます。昨夜できなかった、”約束”を。