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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
27日目、壊れてしまったのです
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目覚め⑥



「”伝言”出ませんね」


 寝ているのでしょうか。

 巫女さんも疲れているでしょうし、仕方有りません。


「仕方有りません。予定通り病院周辺を警備しましょう」


 サボリさんは、外の警備に向かいましたね。


 あれでも今戦える者では唯一の剣士です。もしもの時は、あの人をサポートし、戦闘を有利に進めるしかないです。

 リツカお姉さん、お師匠さんと違って、なんであんなにも危なっかしいのでしょう。


「レティシアちゃん、ちょっといいかい」

「どうしましタ、ロミィさン」


 神妙な面持ちのロミィさんに声をかけられました。


「王宮行きますカ、人の来ない部屋ありますヨ」

「……お願いするよ」


 少し迷って王宮行きを決めました。

 いきなり王宮では、緊張しますよね。それでも選んだ辺り、良い話ではないようです。


 門番に事情を説明して入れてもらいます。


「こちらでス」


 連れて行ったのハ。


「入りますヨ」

「うん? 誰か居るのか、い?」


 ぽかんとした表情のロミィさんが固まりました。


「シーア?」

「それと、ロミルダさん。珍しい組み合わせですね」


 お姉ちゃんは私が王宮に来た事に驚いています。まだ仕事中ですから、仕方ありません。


 お兄ちゃんはロミィさんを知っているようです。アンネさんの友人で、神誕祭の時、花束を作ってくれた方ですし、知ってて当たり前ですね。


「アリスとリツカさんのお手伝い先の方でしたね。そして、リタちゃんのお母さん」

「娘がお世話になっています」


 エリスさんとゲルハルトさんがロミィさんに挨拶します。巫女さんとリツカお姉さんがお世話になってるからでしょう。


「い、いえ。こちらこそ、娘共々お世話になっています。リタも、あの日はお世話になったようですし、ありがとうございました」


 ロミィさんが頭を下げて恐縮しています。

 噴水の映像、一緒に見てたそうです。

 そういえばリツカお姉さんを運び入れた時、西門に居ましたね。



「レティシアちゃん? どういうことだい……」

「ロミィさんが真剣な顔で私に声をかけるのハ、巫女さんとリツカお姉さんの事カ、アンネさんの事でしょうかラ」


 場所を変える提案を呑んだ時点で、この三人の話に絞られました。

 単に私への用事であれば、その場でも良かったんですし。


「話には聞いてたけど、賢い子だねぇ……」

「これでも選任ですヨ」


 得意顔で、ロミィさんを後ろから押して、執務室に入れました。



「巫女様二人と、アンネの事ということでしたが」

「アンネの事なんですけどね」


 お兄ちゃんに声をかけられて、緊張気味に答えるロミィさん。

 アンネさんの事、ですか。昨日の今日ですから嫌な予感がします。


「皆さんはもう、知っているでしょうが……。あの子、リツカちゃんに思うところがありましてね……」

「シーアから聞いていました。噂程度の物でしたけど、アンネがギルドを休んだと聞いて、確信に」


 お姉ちゃんがため息をつきつつ答えます。アンネさんとは、そこそこ長い付き合いのようですからね。

 

「その事で昨日の朝、色々話を聞いたんですが、その時は落ち着いてた様に見えたんですよ」

「そうだったのですか……。アンネがお世話になりました」

「私も、あの子の友人ですんで」


 お兄ちゃんの感謝に、ロミィさんが力なく笑います。

 

 昨日朝そんな事が。

 であれば、あの日の夜起きた事は……。


「それで、ですね。今朝また様子を見に行ったら、あの子、寝込んじまってましてね。反応すらしなくなっちまいましたよ……」

「だ、大丈夫なんですか?」

「精神的にまいってるだけで、問題ないって話です」


 そうでしょうね。アンネさんは、どうすればいいか分かってないだけです。


「それで、レティシアちゃんなら何か知ってるんじゃないかって、声をかけたんですが」


 ロミィさんが私を見ます。私の眉間には皺が寄っているでしょうね。


「シーア、知ってるのね」


 当然、お姉ちゃんには分かります。


「昨夜、アンネさんはリツカお姉さんの病室にやってきましタ」

「なんだって?」


 空気が重くなってしまいます。


「寸前で私が止めましたけド、あのままでは巫女さんに攻撃されていたでしょうネ」


 エリスさんの表情が曇りました。ゲルハルトさんも困惑してます。


「巫女さんが攻撃の意思を見せていたという事もそうですけド、アンネさんは魔力を纏っていましたかラ」

「アンネは、リツカさんに……?」

「殺意を持ってたでしょうネ。本人は分かってませんでしたガ」


 恋人を奪われ、奪った相手が判明している。だから、明確な敵意を向ける事が出来るはずなんです。ですけど、アンネさんはリツカお姉さんへの怒りを止められませんでした。

 

「どうしてライゼさんを助けてくれなかったのか、ってところかしら」

「リツカお姉さんの強さは良く知っていたでしょうシ、二人でならバ、という考えが出ちゃったのでしょうカ」


 エリスさんが予想します。ですけど、きっとそうなんでしょうね。


 リツカお姉さんとお師匠さん、巫女さん私が協力すれば、消耗した状態でもいい勝負できたかもしれません。

 ですけど、状況がそれを許しませんでした。相手がそう、仕向けたんです。


「錯乱状態のアンネさんの思考は分かりませン」


 多少の恨みならば理解できます。ですけど、アンネさん、行動力ありすぎです。


「アンネが寝込んでいるのは、リツカさんを襲おうとした自分が嫌になって?」


 お姉ちゃんが首を傾げます。


「それもあるでしょうけド、巫女さんにこてんぱんに言われたからでしょうネ」

「アリスはなんて言ったの?」


 エリスさんに請われるままに教えます。


「まだお師匠さんは死んでないと言った後ニ」


 巫女さんは、アンネさんの心を折るかのように言ったんです。


「可能性を捨テ、お師匠さんを殺しているのはアンネさんだト、言いましタ」


 少しでも行動してお師匠さんを探せってことでしょうけど、優しさの欠片もない言い方でしたね。


 リツカお姉さんを狙った人間に優しくする必要はない、ですか。アンネさんに同情するのは、私にも出来ませんね。

 

「……」


 ロミィさんが額に手をおいて、苦悩してます。

 友人の凶行が許せないようです。


「アリスが守ってますから、リツカさんは絶対に大丈夫ですけど」

「アンネリス殿は保護した方がいいでしょう。精神的に追い詰められすぎているようです」


 エリスさんとゲルハルトさんは、アンネさんも心配みたいです。気持ちだけは分かりますからね。本当に、気持ちだけは。


「今は、そっとしておいてやってください」


 ロミィさんが目を伏せてます。


「あの子、不器用なもんで……気持ちの整理がついてないだけなんです」


 確かに、気持ちの整理はついてませんでしたね。


「悪意に感染してないと巫女さんが言ってましたかラ、急ぐ必要はないかト」

「そうか……」


 お兄ちゃんも安心してます。国王補佐としてお世話になりっぱなしでしょうからね。


「ロミルダさん、お願いできますか」

「はい、アンネはお任せください」


 お兄ちゃんの言葉に緊張気味にロミィさんが応えてます。こうやって見ると、お兄ちゃんが国王って感じしますね。


「シーア変なこと考えてないかい?」

「顔がニヤけちゃってるわよ、シーア?」

「お兄ちゃんが国王っぽいナ、ト」

「見直してくれたかい?」

「その余裕がムカっとくるのデ、見直しませン」

「えぇ!?」


 お兄ちゃん弄りはここまででいいでス。


「巫女さんの方に行かないように言っておいてくださイ。()()ないでしょうかラ」

「しばらくは見張るだけにするよ」


 ロミィさん苦笑いです。

 お兄ちゃんたちとの会話の件か巫女さんの次はない発言、どっちの事で苦笑いなのかは分かりませんけど。


「ロミルダさんお茶でもどうですか」


 お兄ちゃんが笑顔でお茶を勧めてます。


「い、いえお店が――」

「リツカさんたちがどのような仕事をしてたか気になりますね」

「そうですねぇ」


 お姉ちゃんとエリスさんが逃げ道を塞ぐように続けざま言いました。


「それでハ、私は戻りまス」

「シーアもどう?」

「リツカお姉さんの病室前からいきなり人が消えたら怪しいのデ、病院中心を見張りまス」


 もしかしたら釣れるかもしれませんし。


「そこまで頭が回らなかったわ……」


 エリスさんが立ち上がろうとします。


「巫女さんが大丈夫と言っていましたシ、私がしばらくは見てますヨ」


 昨日の夜私はしっかり休みましたから。


「ごめんなさいね、シーアちゃん」

「いエ。でハ、行きまス」

「ありがとう」


 エリスさんが笑顔でお礼を言ってくれます。

 軽く会釈してから部屋を後にしました。


(そろそろ伝言も通じますかね)




 目が覚めると、アリスさんと目が合いました。


「ぅん……」

「おはようございます、リッカさま」

「おは、よう」


 少しだけ、また起きれなくなるんじゃって不安でしたけれど、安心します。


「アリスさん」

「どうしました?」

「私、いっぱい血、出たんだよね」

「……はい」


 西の戦場で、マクゼルトに攻撃を受けた時、私は大量の血を吐き、世界が赤く染まるほどの出血だったと、記憶しています。

 致死量だったのではないかと、思っています。

 

「輸血、アリスさんの?」

「どうして、そう思ったのです?」


 アリスさんをもっと感じようと目を閉じた時、自分の中にアリスさんが居るような気がしました。


「アリスさんが、中に入ってるような気がして」


 自分の胸に手を当て、目を閉じます。


「うん、感じる……」


 ほんのりと、アリスさんを感じます。


「アリスさんで、私、生きてる」

「――」


 アリスさんが私の中で、私を支えてくれています。


「感じるよ、アリスさんは……()()()()()()()()()()()()()()()()()……」

「リッカさま……っ」


 アリスさんが私を抱きしめ、笑顔で、私の頭を撫でています。ぎゅっと強く、長く、抱きしめられて溶けてしまいそうです。


 暖かな空間が、私達を包み込んでくれていて、気持ちが高揚します。


 だけど、言わないと、いけません。アリスさんは、待っているって思ってしまったから。


「アリスさん」

「はい」

「私、ね」


 アリスさんが私を抱き起こし、ゆっくりと抱きしめてくれます。


「私、感知できない」

「っ」


 少し、抱く力が強くなりました。


「魔力も、練れなくなっちゃった」

「リッカ、さま……」

「アリスさん、私――」


 自然と私の力も、強くなります。


「壊れちゃった、みたい」


 アリスさんを守る力が、なくなってしまいました……。



ブクマありがとうございます!

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