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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
27日目、壊れてしまったのです
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目覚め②



「エリスさん、ゲルハルトさん。シーア」

「おはようございますエルヴィ様、陛下」

「おはようございまス」


 レティシアとエルタナスィア、ゲルハルトが、駆けつけてきたエルヴィエールとコルメンスに挨拶する。


「リツカさんは?」

「大丈夫でス」


 コルメンスの心配に、レティシアが病室を見ながら答える。

 意識の混濁や、記憶障害言語障害などはない。


 体が動くかはまだ分からないけれど、リツカの様子を見る限りでは問題ないだろうとレティシアは判断している。


「もうしばらく、二人にさせてあげてください」


 エルタナスィアの懇願に、全員頷く。

 誰よりもリツカの目覚めを待っていたのは、アルレスィアなのだから。




 アリスさんの肩に体を預け手を握り、じっと顔を見つめます。

 もっと見たいのに……あんなに寝ていたのに……瞼が、落ちてきます。


「リッカさま。眠い、ですか……?」


 アリスさんが心配そうに声をかけてくれます。

 でも、アリスさんも私も同じ気持ちです。


「寝たく、ないかな」


 また、起きれなくなるかもって、思ってしまいます。


「傍に居ます、ですから――」


 アリスさんが、眠っても大丈夫と、私の目に手を当てます。


「アリスさん。私が倒れた後、何があったの?」

「それは――」


 アリスさんが、言い淀みます。

 言いたくないのは、分かります。でも、知りたいです。


「お願い……。教えて?」

「――はい」


 私の目から手を離し、握った手に添えてくれます。


「北と東も、敵が攻めてきていた様で、犠牲が多く出てしまいました」

「……どれ、くらい?」

「死者は、六十三名。負傷者は、百十五名。行方不明者、一名です」

「そんな、に……」


 西と牧場だけでは、なかったんですね……。


 あの人が、言っていました。

 アリスさんを狙えば、私が割り込む。

 私を殺すなら、アリスさんを狙えと魔王が言っていたと。


「アリスさん」

「はい」


 私は、確かめなければいけません。


「……あの敵、何か言ってなかった?」

「何か、ですか?」

「私を狙ってたって言ってた」

「……はい」

「他に、何か言ってなかった?」


 アリスさんが、迷っています。

 何かあるようですけど、本当に、言うか迷っているのです。

 絶対に、私に関係があることです。


「リッカさまを……」

「私を?」

「――狙っての、戦争だったと、言っていました」


 あぁ、私の所為で、百七十九人も――。


「リッカさまの所為では……っ」

「大丈夫。後悔もあるし、申し訳ない気持ちでいっぱい――」


 王国に留まるべきじゃなかったとか、やれる事はあったんじゃないかと、思ってしまいます。


「だけど、もう躊躇しないって、決めたから」


 この先何人犠牲が出ようとも、私は魔王を倒すためだけに進むって、決めたんです。

 手の届く範囲でしか守れない私は、目的を達成するまで止まる事を許されていません。


 アリスさんが最後まで傍に居てくれる。だから、最期まで――。


「他に、何かあった?」

「……行方不明者一名は」


 アリスさんが私の目を見て、言います。


「ライゼさんです」

「――」


 アリスさんを守るようにあの人との間に入ってくれたのが、最後の記憶です。


 最初は軽薄な、怪しい人でした。

 何度か会う内に、良い人なのかと、思い始めました。

 港の一件で、師匠という言葉が合う、年長者だと思いました。

 年長者であり、師匠であり、アリスさんと私の、良き理解者。

 時に父と重なってしまう人でした。


「行方、不明?」


 つまり、まだ死亡は確認されてないのですよね。


「……腕が、落ちていました」

「腕……?」


 腕を斬られ? いえ、あの人は徒手空拳でした。

 夢が、思い出されて――。


「ですが、腕以外はありませんでした。まだ生きていると、私は思っています」

「マリスタザリア、魔王の部下である人が、死体をもっていく理由が、ないから?」

「はい」


 生きているならば、まだ諦めてはいけません。

 取り戻さなければ……。


 私が生きている以上、ライゼさんの防衛は成功したのでしょう。

 やっぱり、ライゼさんはすごいです。あの人を相手に、守りきれるなんて。


「ライゼさんの腕を落とし、リッカさまに傷を負わせたあの人は」


 アリスさんが、あの人の事を話します。

 私には、一つの確信があります。


「マクゼルト・レイメイ。ライゼさんの父親です」


 やっぱり、ライゼさんが言っていた父親でした。


 死体は存在せず、行方不明だったという父親。

 状況がライゼさんと酷似していることが、私の不安を駆り立てます。

 もし、ライゼさんが……。

 助ける相手に、()()()()()は必要ありません。


「マクゼルト、か……」


 名前を呟きます。

 それが、あの人の名前。

 私の回避したはずの体に、何かしらの傷を与えた人。

 私の警戒を掻い潜り、アリスさんの真後ろに立てた人。

 私の渾身、掌底打ちを物ともしない力を持つ人。

 まだ魔法が残っている、底知れぬ人。


「リッカさま……」

「大丈夫。敵の名前を、刻み込んでただけ」


 大丈夫と、アリスさんに何度も言います。

 その言葉はただのやせ我慢だと、アリスさんにはしっかり分かっていると、いうのに。


「今は、これだけです」

「ありがとう。アリスさん」


 アリスさんとしても、言いたくなかったはずです。

 無理をさせてしまいました。


「ライゼさんが行方不明ってことは、アンネさんは……」

()()()は今、篭っています」


 アリスさんの言葉に、小さい棘があります。

 アンネさんとの間に何かあったのでしょうか。

 

 きっと、ライゼさんの件ですよね。

 私の所為での戦争。そして、ライゼさんは、そんな私を守るために闘ったのです。

 私のせいで、行方不明になったのです。


 そして、アンネさんは、私に何か負の感情を持ってしまったのでしょう。

 そうでなければ、アリスさんが棘を持つ事はありません。

 自意識過剰かと思いますけど、アリスさんが怒る理由は、多くないです。


「今謝っても、許してもらえるとは思わないから、ライゼさんを連れて帰ってから、謝るよ」

「……はい」


 アリスさんは、私に少し呆れているようです。

 私の所為ではないと、アリスさんは言ってくれました。だから、私が謝る必要はないと、思っているのだと感じます。


「私()アンネさんの気持ちは分かるから、ね?」

「それでも、許せないものは許せません」


 アンネさん。私に一体、何をしようとしたのでしょう。

 殺そうと、したのかな?


 頭の回転も、程よく調子が良いです。

 そろそろ、次の話題に移ります。


「アリスさん、魔王の居場所だけどね」

「リッカさま、それは皆さんと一緒に」


 一つ気付いた事を、アリスさんに伝えようと思いましたけど、アリスさんが止めます。


()()()()?」

「――はい」


 つい口をついて出てしまった言葉を飲み込むことは出来ません。

 私の現状を、知られてしまいました。

 今、私は……。


「皆さんお入りください」


 アリスさんが廊下の人達を呼び入れます。

 エリスさん、シーアさん、ゲルハルトさんコルメンスさん、エルさん。

 兄弟子さんは来るはずありませんけど、やっぱり、アンネさんは居ませんね。


「横になったままで、ごめんなさい」

「気にしないで下さい。起きたばかりなのですから」

「後遺症がなくて良かった……」


 コルメンスさんとエルさんが気遣ってくれます。

 後遺症を心配される程の怪我だったと、新情報を手に入れました。


 こうなってくると、どんなものだったのか気になってしまいますね。アリスさんが隠すほどの物なので、聞くことはしませんけれど。


「それで、アリス。どうしたの?」


 エリスさんが、アリスさんに尋ねます。もう少し二人で居たいんじゃないの? と微笑んでいます。


「リッカさまが、気付いた事があるようです」


 アリスさんはエリスさんの言葉を否定する事無く、今はこちらが重要ですからと、話し始めました。


「本当ですカ?」

「うん」


 シーアさんにも、関係があることです。

 これを言えば、私が回復し次第、旅に出ることになります。


「司祭に入っていた悪意を含んだ魔力が、北に飛んで行きました」

「どういう、ことでしょう」


 アリスさんとシーアさん以外には、ピンと来ていないようです。


「悪意は魔力に感染し、全身を毒の様に巡ります。そして浄化されると、悪意に感染した魔力事外に出て行きます。それは、普通なら消えてなくなります」


 シーアさんも黒い魔力が見えるので、そう仮定しています。


「司祭に入っていた悪意は、魔王が操作したものです。だから、魔王の下に戻っていくのではないかと、思うんです」


 クルートさんの悪意は、部屋に閉じ込めたため、どこに行ったか見えませんでした。

 でも、司祭から出て行ったのは違います。しっかりと、見ました。北へ行ったのです。


「魔王は、北に居るんじゃないですかね」


 ヨアセムと呼ばれたあの男性、北からやってきた人です。北で魔王に会ったのではないでしょうか。


「私は回復したら、北を目指そうと思います」


 賭けですけど、もう王国に留まる事は出来ません。

 また戦争の様になってしまいますから。



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