生きてる③
食事処にはすでに全員集まっていました。
口々に昨日の出来事を話す集落の人々と……アリスさんのお父様は昨日の何倍も鋭く、私を睨んでいます。
その隣のお母様は、頬に手をあて微笑ましそうに私とアリスさんを見ています。
……完全に先ほどの出来事、お父様にバレてますね。
それでも、昨日のような敵意ではなく、諦念を含んだ?
「リツカ様!!」
食事処の様子を観察していた私は、オルテさんのよく通る声で意識を切り替えました。世間話でざわついていた食事処が静まり返ります。
そして、二メートルはあろうかというオルテさんの頭が、百六十センチ程度の私の肩の下まで下げられました。九十度どころではありません。そのまま地面についてしまいそうな程、です。
「申し訳ございませんッ!! 守護者でありながら、アルレスィア様に守られ……! あまつさえ、リツカ様に押し付けてしまいッ!!」
悲痛な顔で、そのまま土下座してしまうのでは、と思ってしまうほど、オルテさんは深々と頭を下げています。
確かに、守護者としては、ダメ……なんでしょう。
でも、私はそうは思いません。
「頭を、上げてください。オルテさん……」
アリスさんは、誰にも死んで欲しくなんて、ないはずです。だから、守ったんです。そう、そのまま伝える事はできますが、オルテさんからの謝罪を素直に受け入れられません。
私にはその資格はないでしょう。だって、私は自分勝手なだけだったのです。
「私はただ、アリスさんや皆さんが……死ぬのなんて、見たくなかっただけです……っ」
震えそうになる体を必死に押さえ込みます。誰にも……アリスさんにだけは、バレないように……。
それでも、私の防波堤は崩れていき、ある感情と思いがあふれ出そうとします。
「リッカさ―――」
パンパンッ、と手が打ち鳴らされます。
「はい、後悔も反省も思うところもあるでしょうけど。そこまでになさい?」
アリスさんのお母様が、このままだと謝罪の競り市が始まりそうだった空気を払拭してくれます。
「そうだ、オルテよ。お前は仕事を全うした。お前のお陰で、集落の者たちに死者は出ていない。それで充分だ」
アリスさんのお父様がオルテさんを労います。
「アリスが飛び込んだのはアリスの意思だ……。怒りたい気持ちはあるが。結果的にはリツカ殿のお陰で大事には至らなかった。感謝を述べるならまだしも、謝るのはリツカ殿の勇気に泥を塗るぞ?」
初めて名前を呼ばれましたね……。なんて、場違いにも感慨深く思ってしまうのでした。
勇気に泥を塗る。そうは、思いません。ただ我武者羅に、アリスさんだけを守りたかっただけです。
でも、褒められて悪い気はしませんでした。
「さぁ、祈りを始めましょう。アリス」
「はい。お母様。皆さん、着席を。――リッカさま、こちらへ」
アリスさんに促されて。アリスさんの隣の席へ向かいます。
「リツカ様、ありがとうございました。あなたのお陰で命を拾うことが出来ました」
オルテさんが、改めてお礼を述べました。
「いえ、オルテさんも無事で、よか……った?」
ここで、気づきます。
オルテさんはあんなにも血塗れになるほどの重傷だったのに、今は包帯すらつけていないことに。
「?どうかなさいましたか?リツカ様」
「い、いえ、大丈夫です」
私は、疑問を投げかけようかと思いましたが、アリスさんが全部説明してくれると『約束』してくれたので、それを……待つことにしました。