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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
幕間
280/934

幕間 A,D, 2113/03/17 ③



「三on三の十点先取だ」

「分かりました」


 椿がシューティングガードをする。短期決戦のため、とにかく点をとるためだ。


 リツカは、ポイントガード役をすることになった。ドリブルは見たからそうそう取られないだろうし、すぐに椿にパスを出す。もう一人はパワーフォワード。センターになっても、中学生男子の身長やジャンプには勝てないため、やられる前にやる作戦だ。


 相手は、角刈りの少年と、短髪の少年、編みこみを入れた少年の3人。

 怒鳴っていた角刈りの少年ではなく、編み込みの少年がリーダーのようだ。


「本当なら一点ニ点だけど、普通にする」

「二点と三点ってことですね」


 本来であれば人数が少ない事と、ハーフコートであるため、一点ないし二点と、シュートエリアでポイントが加算される。


 でも今回は時間を取りたくないため、普通のバスケルールである、二点ないし三点。つまり、三ポイントエリアから打てば三点となる。


 下手をすれば、十分かからないだろう。


「じゃあ始めよう。そっち先行でいいぜ」


 リツカにボールを投げ渡す編み込みの少年。


「……?」

「六花さん、1回相手に渡して、戻ってきたのをキャッチしたら開始だよ」

「はい」


 ボールを編み込み少年に投げ、返ってきたボールを受け取った。


 その瞬間。


「――!」


 編み込み君が奪いにきた。

 リツカは、それを見て。


「――」


 バックビハインドで避け、中心に切り込む。


「くっ」


 速攻に失敗した編み込み君が後ろから迫る。

 カバーに入ってきた角刈り君がリツカの前進を止める。


「――っ」


 後ろから迫っていた編み込み君はそれを見て、リツカを止めに来た角刈り君が抑えていたパワーフォワードの子を抑える。


 リツカの鋭いドリブルに、椿を抑えていた短髪君が焦ってしまう。

 それを見逃さず椿がフリーになった瞬間。


「――っ!」


 椿の手元にボールが飛んでくる。


(なにっ!?)


 辛うじて取った椿は、そのままシュートする。


「小学生チームニ点!」


 小学生たちから歓声が上がる。


「……」


 椿はリツカを見ている。


(今、私を全く見てないのに……)

 

「おい、なんでフリーにしたんだよ」

「待って、目を離したの、ほんの少しだぞ!? むしろ、なんでパス許してんだよ!」

「あの生意気なヤツのほうなんか見てなかったからシュートだと思ったんだよ!」


 中学生チームが言い争っている。

 ワンプレーで敵の混乱を引き出したリツカは涼しい顔をしている。


 さっきまで、二時間走りっぱなしだったのだけどね。


「切り替えるぞ」

「あ、あぁ」


 編み込み君が気を引き締める。

 ドリブルだけの素人と思っていたけど、考えを改めたようだ。


(見極めてやるよ)


 リツカがボールを受け取って、返す。


「――!」


 ドリブルをしようと前に出た瞬間。


「ハッ!?」


 ボールが消えた。


 編み込み君はボールを探す。

 後ろからボールが跳ねる音を聞いて振り向くと。


「次私たちの番ですよね」


 リツカがボールをついていた。


(相手の手から離れた瞬間、取ったの? でも気付かないほどってどうやって)


 後ろで見ていた椿すら気付かない。


 コートの状態を見ようと、編み込み君が視線をほんの少し動かしたのを、リツカは見逃さない。

 簡単に動きを盗み、ボールを奪取した。


 ボールを投げ渡してきたリツカを睨む編み込み君。


(なんだよ、コイツ……!)


 イライラしている編み込み君。リツカはちゃんと気付いているけど、無視する。

 イラついている人間の思考は読みやすい。


「――!」


 速攻を止め、スタンダードに構える編み込み君。リツカのドリブルについていく。

 リツカが誰にも分かるようなモーションで右に居るパワーフォワードの子にパスしようとする。それを見た編み込み君、短髪君が少しだけ右に寄る。

 椿がフリーになる。


 リツカは椿を見ることなく、パスしようとしていたボールを止め、編み込み君の股下を通す。


「――っ」


 椿が構えた手に綺麗に収まったボールは、レイアップでリングに吸い込まれていく。


(間違いなく、ノールックパス……)


 椿が驚きの表情でリツカを見る。

 視野が広い人間なら、誰でも出来ると思うだろうけど。

 試合中の流れるような動きの中で、正確に人を追い、パスを出すのは難しい。


 何よりリツカは――。


(あの編み込みで、私は見えなかったはずなのに)


 編み込み君がブラインドになっていて、リツカからは椿の動きは見えなかった。

 視野が広いどころではなく、まるで、コートを上から見ているかのようだ。


(すぐ試合に出しても通用する)


 椿が笑いながら守備につく。


 試合が再開される。

 中学生チームが高さを使ってパスを回す。

 軽々とシュートを決め、二点を返した。


「高さを使われるとキツイ」

「どうします?」


 椿の言葉に、リツカが作戦を確認する。


「……このまま行きましょう。リードしてるし、押し切れます」

「はい」


 椿が力強く作戦の続行を告げる。

 作戦変更はなし。


「どうすんだ?」

「あの赤いヤツ、シュートできないみたいだ」


 編み込み君が気付いてしまう。


「生意気なヤツにパス出すのが向こうの作戦だ。こっちは気にせず、アイツだけ見てろ」

「う、うん」


 椿を抑えて、得点源を潰すようだ。


 ボールをドリブルしながら、リツカが機を窺う。


(宮寺さん、空かないです)


 編み込み君のディフェンスを避けながら、椿がフリーになるのを待つけど。


(これは、無理っぽいですね。向こうはいけそうです)


 リツカがパワーフォワードの方に狙いを定める。

 でもディフェンスが硬くパスコースが出来ない。


「六花さん! 時間が!」

(まだ秒数ルール教えてなかった!)


 椿がリツカに声をかける。


 リツカはもうすぐ二十四秒ルールにひっかかる。チームがボールを保持できる時間は二十四秒までだ。


 なんとなく早くしないといけないと分かったリツカは、自分で打つしかないと編み込み君を抜き去る。


 すでにドリブルは修得している。ロールターンで綺麗に抜く。


 このときはまだ、回転斬りなんて覚えていないけど、体を回すのは、最初から得意だったようだ。


 編み込み君が抜かれたことで、椿が少しだけ動きやすくなった。

 椿が切り込み、無理やりフリーになる。

 リツカが椿にパスを出した。


(これを入れたら六点目)

「クソ!」


 椿がシュートモーション中に突き飛ばされる。それでも、執念でシュートする。


「入れ!」


 椿が叫び、何度かリングの上を跳ねた後、入った。


「ファールでワンスローですよね」


 椿が立ち上がりフリースローラインに行く。


「チッ」


 編み込み君が舌打ちしてリバウンドに備える。

 リツカは何も分からないので、見ていた。


(ふぁーるっていうのを受けると、もう一回打てるんですね)


 リツカがぼんやりと考えていると、椿のフリースローが入った。


「七対二!」


 小学生チームリードで迎える。


「大人気ないから止めてたけど」


 編み込み君が、リツカからボールを受け取ると同時にシュートする。


「?」


 パスッという音が後ろから聞こえた。


「スリー……!」

「お前らの攻撃を一回でもとめられたら、俺達の勝ちだ。俺は外さねーぞ」


 椿が悔しそうな顔をしている。

 

「宮寺さんあれってなんです?」

「スリーポイントシュートですよ。あのラインより遠くから打てば三点入るんです」

「そういうのも、あるんですね」


 椿が指差したラインを見ながら、リツカが呟く。


「レイアップっていうのより、楽そうですね」

「――え?」


 リツカが呟き、ボールを受け取る。


 ボールを編み込み君に渡す。


「なんでこんな試合になったかは知りませんけど」

「ん?」


 リツカがこの試合で初めて、相手チームに話しかける。


「宮寺さん、()()()()()()()()()()みたいです」


 ボールを返されたリツカは、見よう見まねのシュートフォームを取る。


「六花さん!?」


 椿が驚いた声を出す。まだ六歳の自分たちに、片手だけのシュートフォームでスリーなんて無理だと。

 椿が平気な顔でシュート出来ていること自体、驚愕すべきことだろう。

 

「――シッ」


 リツカが打ったボールは高々と舞う。

 綺麗な孤を描き、リングに触れることなく、バスケットへ、吸い込まれていった。



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