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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
24日目、私は浮かれていたのです
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激闘⑦



「ウィンツェッツが来てくれて助かったぜ」

「だからって頼りすぎだろ!」


 北の援護に行ったウィンツェッツは、到着するなり最前線に立たされている。


「試し斬りしたいって言ってたから、戦いたいのかなって」

「確かに言ったが、感触を確かめる暇もねぇよ!」


 刀の切れ味を見たくて戦っているけれど、それを確かめる暇がないほどに戦い続けている。


(でもまぁ、いつもより疲れねぇな)


 それなりには感じているようだ。


(ライゼが言う程には、感じねぇが)


 技術の差か、ライゼルトやリツカ程切れ味の変化を実感できていない。


「まぁ、この戦場なら突破できそうだな」

(ここが終わったら西に行くか。どうせライゼも行ってんだろ)


 早々と次の予定を立てている。


 北は、当初予想していたより、ずっと敵が少ない。

 今まで北を意識させていたのは、他の方角での準備を悟らせないためだったようだ。

 そのため、他の方角では、激戦が繰り広げられている。



「おいおい、こっちに火力がいねぇぞ!?」

「誰だよ命令だしたの!」


 東では、ディルクが到着していた。

 しかし、伝達ミスか、攻撃できる人間が極端に少ない。


「アンネさんに連絡しなかったのか!?」

「ないもの強請りすんな、このまま守るぞ。ライゼかウィンツェッツに連絡する」


 ディルクが落ち着いた声で言う。


(早速後悔したぞ、ライゼ)


 剣術を覚えていれば、少しは楽になったかもしれないと、ディルクが苦笑いしている。


(そんなに甘くはねぇか)


 敵の質はそこまで高くない。

 それでも、犠牲は少なからず出ている。


 北も東は犠牲者を出しながらも、王都の城壁には、傷一つついていなかった。




「参ります」


 アリスさんの魔力が昂ぶっています。

 ついに、きます。


「光の炎、光の(つるぎ)、赤光を煌かせ! 私の魂、私の想い、私の愛を捧げる! フラス(光よ)・フラス! 光をのみ込む光よ、私を照らせ。ルート(赤く)・ルート! 白を包む赤よ、私と共に――強き想いを胸に抱いた英雄よ、顕現せよ!」


 この世界で唯一の、名前を持つ魔法。詠唱は、アリスさんの純粋な想いを謳います。

 対一、対多、どちらでも一撃の下なぎ払うこの魔法は、アリスさんの想いの強さに比例し、強ければ強いほど、より強く、想いを顕現させるのです。


「私の想いを受け、私の敵を拒絶せよ! 【アン・ギルィ・トァ・マシュ】!!」

 

 アリスさんの体が銀色に煌き、瞳は赤と銀が混じり、ほんのり桃色に光ります。


 杖を高々と掲げると、その杖から魔力が噴き出しました。その魔力は、だんだんと人の形をしていきます。

 その姿は――。


「余所見トハ余裕ダナァ!」

「――っ!」


 目の前で鬱陶しい私にキレているのか、司祭は私だけを見ています。

 チャンスですね。

 あの魔法をもう少し見たかったのですけど、後で聞きましょう。

 このまま司祭を足止めしていれば――私達の勝ちです!



「……」

「大きい()()()()()()()ですね」


 アルレスィアが顔を真っ赤にして、照れている。


 この魔法は、アルレスィアの想いを具現化し、想いの強さがそのまま攻撃力になる、”拒絶の光”の究極魔法だ。


 昔この魔法を発動させた時は、アルツィアが出てきた。

 強さは、レティシアが行う魔法で最も強いものを、少しだけ強くしたくらいのものだ。

 でも今は、リツカの姿をし、強さは、今この世界にある魔法のどれよりも――強い。

 

 この魔法は、()()()()()()()()()の具現化。()()()()()で威力が変わる。

 

 アルレスィアは、()()()()()()()()、リツカを――。


「……アン・ギルィ・トァ・マシュ!」


 照れ隠しに、アルレスィアが魔法へ命令を下す。

 リツカと戦っているイェルクに向け、巨大リツカの刀が横薙ぎに振るわれる。

 戦っているリツカ諸共。


「巫女さん!? リツカお姉さんでも避けられませんよ!」

「ご安心を」


 何度でも言おう。この魔法は、アルレスィアの想いの具現化だ。


「私の攻撃が、リッカさまに当たるわけありません」


 アルレスィアに攻撃の意思が有るかどうか、この魔法の攻撃対象は、アルレスィアが拒絶したい相手だけだ。



「ナンダ――!?」

「もう遅いです」

「気ヅカセタノガ、運ノ尽キダ」


 往生際の悪い方ですね。もう刀はそこに――。刀?

 神さまを象ってるんじゃ――。


 姿形は後ほど聞くとして、何か嫌な、予感……っ! 

 司祭がまだ、何かしています。


「保険ト言ッタハズダ」

「まさかっ!」

 


「でけぇ剣士娘だな。巫女っ娘の魔法か?」


 ライゼルトの位置からも見えているようで、空をチラと見ている。


「どんな魔法なんだありゃ――あん?」


 ライゼルトが大きく下がる。

 マリスタザリアたちが、先程と同様に苦しみだす。

 でも、先程よりずっと早く、悪意が飛んでいった。


 北のウィンツェッツも、西を見ていた。


「あんな魔法もあんだな。――あ?」


 ここも同様に、悪意が西へ行く。


 そして、東も。



「悪意が――!?」


 まだ取り込む気ですか!? 今度こそ、理性が蒸発しますよっ!


「ヌンッ!」


 更に体が肥大化し、アリスさんの魔法が振り抜く攻撃を受け止めています。体表が人の色とは思えない、土のような色になっているのです。マリスタザリア化の影響なのか、どんどん人から離れていっています。


 苦痛に歪みながらも、司祭は話す事をやめません。


「ワタシ、ハ、神、ノオンッチョ――」

「どうして、そこまで……」


 司祭はどうしてそこまで、神さまの恩寵を欲しているのでしょう。


「ワタシヲ、救っテクレ、タ、神ヘ、恩返し、シ、シタカ」

「それが、聖伐なんですか」

「ソウ、ダッ!」


 歪んでいても、この人は――信徒だったんですね。


 アリスさんに強く当たるのは、邪魔をしていたから、でしょうか。自分の信じる神さま像を崩してしまったアリスさんをへの、反抗。


 身勝手で、一方的で、間違っていますけど……この人は、利用されていただけなのかもしれません。


「言ったはずですよ」

「グ、グググ」

「そんな貴方も、神さまは愛してくれるんです」


 光が、司祭をのみ込んでいきます。

 終わりです。


「グ、グガッあ、ァァアアアアアァァ!!」

「罪を償ってください。神は赦してくれる。でしょう?」


 司祭は、光の向こうへ、消えていきました。




「はぁっ……はっ……」

「アリスさん!」


 アリスさんが肩で息をして、膝をついてしまいました。

 私は急いで向かいます、けど。


「あふっ」

「リ、リッカさまっ」


 足がもつれて、こけてしまいました。変な声まで出して……恥ずかしい……。


「二人共、何をしてるんですか」

「シーアさん、足震えてる」

「座っていいですか?」


 シーアさんも限界だったようです。


「生命剤が、ちょうど三本あります。のんでください」

「私の方も、二本ありますから、シーアさんはご自分で」

「では、ありがたく」


 アリスさんが、よろよろとしながらも、私のところに来てくれます。


「ごめんね、腰が痛くて……」

「治癒は、まだ出来ません……。もう少し我慢してくださいね?」

「うん」


 アリスさんが、ビンを渡してくれます。

 思い出したら、少しズキズキしてきました。結構、血だらけです。


 少し、歩けるようになりましたね。


「無事か!」


 ライゼさんの声が遠くから聞こえます。どうやら、直行してきたようです。


「戻りましょう、二人共」

「はい」

「うん」


 シーアさんに促されて、王都へ戻ります。


 後ろで倒れている司祭を見ます。

 どうやら、アリスさんが手加減して攻撃を当てたようです。


 司祭が予想以上に強かったのもありますけど、纏っていた悪意は全て吹き飛ばされ、肉体へのダメージは大きいです。


 あの巨大な魔力の斬撃。あれを精密に制御し、司祭を殺すことなく制圧した腕前、アリスさんの魔法技術の高さがうかがえます。

 あの人は、ギルドに任せて私たちは――。



(お前だけ、デモ)


 イェルクの意識は、ヨアセムに殆どのみ込まれてしまっている。

 だからだろう。

 魔王の脅威になりえる者を狙っている。

 

 アルレスィアに、攻撃しようとしている。

 殺意を帯びた、殺すための、魔法を向け――。


「――!」


 リツカが、ただの”強化”で跳ぶ。


「リッカさま!」


 アルレスィアの悲痛な声が、リツカを止めようとする。

 だけど、もう、止まらない。


「――シッ!」


 肉の裂ける音と共に、イェルクの喉が、斬られる。


「――ぁ! ――ぇ!」


 声を出そうとするイェルクだけど、声が出ない。

 アルレスィアの魔法のダメージもあったのだろう。どんどん精気がなくなっていく。


「……」


 リツカが震えている。

 唇は青く染まっている。


 イェルクが、正気に戻った目で、微笑んだ気がしたけれど、リツカの目には、何も映っていなかった。


「――ぁ――ぃ――ぉ」


 イェルクが何かを言った。

 それで力を使い果たしたのだろう。イェルクの命が――尽きた。




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