生きている
A,C, 27/02/26
目が覚めると、空が白んでしました。
(朝……? わた、しは……)
私の頭は、急速に昨日を思い出していました。巨大な牛のような化け物。死闘――。
(っ……ぅ)
強烈な吐き気を覚え飛び起きます。体が少し痛みましたが起き上がることができました。
「ァ……ハァっ……ハ、ぅ……」
吐くことは、ありませんでしたが、自分が死んでいたかもしれないという事実に……頭が痺れています。
胸掻き抱くように押さえ、恐怖に震えそうになる体を押さえつけました。
(私……生きてる、いきて、る……っ)
涙が溢れそうになるのを必死に耐え、生きている……ただ、そんな当たり前なことを強く実感しました―――。
しばらく動けずにいると、コンコン、とノックの音が聞こえてきました。
「は、はい……。どうぞ」
その音で我に帰り、急いで涙を拭い、招き入れました。
……声、かすれてなかったですよね?
「リッカさま、起きました、か……?」
アリスさんが私の様子を見にきてくれたようです。そういえばこのベッド、アリスさんのでした。
急に気恥ずかしさを覚え、急いでアリスさんに向き直りました。アリスさんが普通に歩けていることに安堵がこぼれます。
でも、どうしてアリスさんは入り口で立ち止まってしまったのでしょう。
「ご、ごめんなさい。呆けてしまって……。朝食の用意が出来ましたので、お呼びに……」
アリスさんが取り繕うように微笑んで言います。外をみると、もう日が昇っていました。私、どれくらいの間……。
「はい、ありがとうございます。今準備を――」
立ち上がろうと、かけられていた毛布をどけます。
……何も着てませんね。
「あ、あのっ。汚れたままでは気持ちよく眠れないと思いましてっ」
顔をほんのりと赤く染め、手をあたふたと振りながら教えてくれます。小さな日常に、私の心は落ち着いていきました。
「ありがとうございます、アリスさん。お陰でゆっくり休めたみたいです」
昨日は、起き上がることすら困難なほどに消耗していましたが、今は少し痛む程度ですんでいます。
嬉しさと感謝を伝えるために、にこやかに答えます。
「――」
そんな私に、アリスさんは……顔を赤くして、俯いてしまうのでした。
立ち上がる際、多少の立ち眩みがありました。フラついて体が流れてしまいます。
「っリッカさま!」
いつの間に私の前に移動したのか、アリスさんに抱きとめられる形で倒れこみました。
「ご、ごめんなさい。少し力が抜けて――」
私は続きを話すことができませんでした。
「ぅ……っぅ……」
アリスさんが、大粒の涙を流して、いたから。
「アリス、さん……?」
かろうじて名前を呼ぶことはできましたが、私を強く抱きしめ、嗚咽を漏らすアリスさんに私は、なんて声をかければいいのか、わかりませんでした。
だから私は、抱きしめ返すことしか出来なかったのです。
「あらあらぁ……帰りが遅いから様子を見に来たら。朝からダメよ? アリス?」
アリスさんに集中していたからか、接近に気がつきませんでした。アリスさんの、お母様の。
「―――っお母様! これはちがっ!」
私を抱きしめたまま、アリスさんが弁明しています。
(私、裸のままでアリスさんと……)
「はぅ……」
「リッカさまっ!」
私の足から力が抜け、倒れそうになります。アリスさんが私の頭を守る様に抱きしめたので、一緒にベッドに倒れこんでしまいました。
私の眼前には、アリスさんの大きな―――。私の思考は完全に止まってしまいました。
「……はぁ、程ほどになさいね?」
アリスさんのお母様の、少し呆れすら含んだ言葉もあまり耳に入らずに、アリスさんの柔らかさと香りを全身で受け止めつつ。
今目の前に居る、安心しきった顔で私を抱きしめるアリスさんの存在を、確かめるように。
私とアリスさんはしばらく、そのまま抱きしめあったまま、横になっていました。
試行錯誤して、このかたちになりました。
これで少しは読みやすくなりましたか、ね・・・?