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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
24日目、私は浮かれていたのです
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激闘②



 ヨアセムを打ち破り、ライゼルトに連絡をしているアンネリスをエルタナスィアたちは待っている。


「ライゼ様?」

《アンネか!?》


 一応公開設定で”伝言”しているアンネリス。ライゼルトに命じられ、無理やり来た冒険者にも聞かせないと、筋が通らないと考えての事だった。


「ヨアセム氏は、死亡しました」

『なに? 詳しく頼む。っと!』


 戦いながら軽々と会話するライゼルト。アンネリスの無事に、何時もの調子が戻ったようだ。


 アンネリスの説明に相槌を打つ余裕もある。


《そうか、良くやった。()()()()

「何普通な感じでその名で呼んでやがる」


 露骨に嫌な顔でウィンツェッツが歩き出す。


「ウィンツェッツ様どこへ?」

「あぁ、刀とってさっさとアイツのところに戻るんだよ。もう大丈夫だろ」

「ありがとうございました」

「……ハンッ」


 鼻で笑い飛ばし、武器屋に入っていった。


《ヨアセムの事は気になるが、今はいい。無事でよかった》

「……ライゼ様も、ありがとうございます」

《お、おう》


 照れた様な声がライゼルトから発せられる。

 恐らく、顔も赤いのだろう。


《ライゼてめぇ! 真面目にやれ!》

「お邪魔の様ですから、後ほど」

《あぁ》

《聞こえっぞ馬鹿共!》


 ディルクの叱咤を受け、”伝言”をきる


 任務を完遂した冒険者たちが、ライゼルトたちの戦場に戻る。


「私達も王宮へ行きましょう」


 エルタナスィアが歩き出す。


「はい」

「私はこのミイラを運んでおく」

「お願いします、アナタ」


 ゲルハルトは、近場から持ってきた布でヨアセムを持ち収容所に持っていく。


「良かったのでしょうか……」

「手伝おうって言っても、きっとあの人は黙って持って行くわ」


 ゲルハルトは、エルタナスィアにミイラなど持たせたくないのだ。


「そう、ですか」

「えぇ」


 エルタナスィアは、少し嬉しそうだ。


「王宮に着く前に、詳しくお聞きしたいのです」

「陛下の事ね?」

「はい」


 元々、アンネリスは王宮に向かっていた。

 コルメンスを叱るために。

 エルタナスィアに詳しく聞き、しっかり叱るつもりのようだ。


「そうね、陛下が――あら?」


 エルタナスィアが立ち止まる。


「どうしました?」

「いえ、噴水が……」

「え?」


 エルタナスィアに言われるままに見たアンネリスが、目を丸くする。


「なんで、光って……?」

「近づいてみましょう」

「はい」


 二人が近づき、見たものは――。


「これは」

「リツカさん……?」


 リツカが傷ついた経緯を、最初から映したものだった。


 今この王国は、擬似神林となっている。

 だから湖に見立てた噴水を使って、西の戦場を見ることも可能だ。


『……』


 本来なら、本体からの情報だけで見るところだけど。

 リツカを傷つけた理由を知った私は、我慢が出来ずに、こちら側でも見ている。

 エルタナスィアとアンネリスは、そこを通ったわけだ。


「アンネさん、陛下たちも呼びましょう」

「は、はい」


 エルタナスィアが提案する。

 我慢できずに居たコルメンスにとって、これはありがたいことだろう。

 だけど、今見ている映像を見たコルメンスは、どう思うのだろう。



 アンネリスの呼びかけに、コルメンス達がすぐさまやってくる。

 国王とは思えない程バタついているけれど、気になって仕方なかったのだろう。


「これは……?」

「恐らく、アルツィア様が見ているのでしょう。アリスから先日聞きました」


 コルメンスの疑問に、エルタナスィアが答える。


 そうこうしているうちに、何事かと国民たちが気づく。

 もしかしたらマズいかもしれないと思ったけれど、神格は落ちなかった。

 ちゃんと神林として世界が認識していたようだ。


 では、見ようか。

 リツカたちの戦いを。


「今は、リツカさんが戦っているところですね」

「えぇ」


 リツカを捉えることは難しいけれど、なんとか追えている。


「――っ!」


 エルタナスィアが息を呑む。

 今、リツカの真横に火の玉が着弾したところだ。


「今、どこから!?」


 コルメンスが目を見開く。


「後ろからの様に、見えましたけど」

「そうね……」


 アンネリスの言葉に、エルヴィエールが頷く。


「シーアが端の方に映っているけれど、しきりに周囲を見てる。きっと、敵の攻撃かどうか確認してるのね」


 エルヴィエールがレティシアの行動を読む。


「アリスは、固まってる……?」


 エルタナスィアが疑問の声を上げる。リツカが危険に曝されているのに動かないアルレスィアに納得いかないようだ。


 この時のアルレスィアは、何が起きたか分からずに頭が真っ白になっていた。

 敵の攻撃ではないとは分かったけれど、その攻撃がどこからなのか正確にわからなかった。


 リツカがあそこまで接近を許した攻撃に、困惑していた。


「あっまた!」


 いつの間にか来ていたリタが声を上げる。

 慌てて口を塞ぐけれど。アルレスィアから聞いていたのだろう、エルタナスィアが微笑む。


「リツカさんと、アリスのお友達のリタちゃん、よね?」

「えっ!? は、はい!」

「二人を、よろしくね?」

「――はい!」


 エルタナスィアの含みのある笑みに、何かを感じ取ったリタは、真面目な顔で頷いた。


 二度目の攻撃である風の刃が襲い掛かる。

 それを軽く避けるリツカだけど、正面の攻撃に気取られていて、犯人を捜しきれない。


「一体、誰が……?」

「シーアが何かに気づいて叫んでますね」

「アリスが気づいたわ。でも、リツカさんを守るのを優先したみたい」


 アルレスィアが”疾風”でリツカの前に出る。

 常に一回の”疾風”で近づける位置に居るアルレスィアは、直ぐにリツカの元にたどり着く。


 アルレスィアが魔法を盾で受け止める。


「”地割れ”?」


 エルヴィエールが尋ねる。


「そう見えますけど、威力が……」


 アンネリスが戦慄する。


「アリスもリツカさんも無事――ぁ」

「――キャアアアアアッ!!」


 リタの悲鳴が響き渡る。

 エルタナスィアは顔を青くしている。

 

 3回目の攻撃が、リツカを引き裂いた。


「誰がッ!?」


 コルメンスが怒りの目で探す。


「シーア……?」


 エルヴィエールが気づく。レティシアは、敵を狙っていないと。


「まさか、味方なの?」


 エルヴィエールの呟きと共に、雷が、味方を気絶させた。




 時間は現在に戻る。

 リツカを傷つけられ、これから戦線を維持するべく前に出ようとしているレティシアは、怒っていた。


 っ――。ハァ……。 

 まずは、落ち着きます。怒りだけでは、魔法が乱れます。


「あんなことをする必要がありません。敵の策略に決まっています」


 でも一体誰が、あのお馬鹿たちを操ったんです?


 撃ったのは、サポートの方たちです。

 最初は”火弾”でした。てっきり敵の攻撃と思って、辺りを見回しましたけど、見つけられませんでした。


 次は、”風”です。恐らく、リツカお姉さんを狙ったんでしょう。

 ここまではリツカお姉さんは避けていました。

 相変わらず、舌を巻くほどの鋭さで完璧に。


 その後、敵の主砲とも言える攻撃を巫女さんが受け止めて――。


「安心してしまったのでしょうか」


 そこまでは分かりませんけど、攻撃はついに当たってしまいました。


 お馬鹿たちは眠っています。

 ジリ貧です。

 リツカお姉さんが抜けた穴を埋めるには、少々無茶をしなければいけませんね。


「後で電気椅子の刑です。あのお馬鹿たち」


 頭の中で、リツカお姉さんの弱りきった姿が浮かび上がります。


 玉の様な汗を流し、右半身が赤く染まって、血が滲み、赤が全身に広がっていっていました。

 弱りきった顔は、何かを訴えかけるようでした。


 謝る必要なんてないのに謝った辺り、不甲斐ないと思っているのかもしれません。

 そんな、責任感の塊であるリツカお姉さんを――。


「あぁ、ダメです。イライラします」


 物に当たるのは嫌いですけど。


「少し付き合ってもらいますよ」


 まずは、嬉々として迫ってきている中間層のマリスタザリアを減らしましょう。


「お姉ちゃん?」


 ”伝言”が入ってきます。

 正直出る余裕はないのですけど、お姉ちゃんに限って、こんな状況で世間話ということはないでしょう。


「はい」

《シーア、用件だけ言うわ。増援は要る?》


 ふむ。どうやって知ったかは分かりませんけど、現状を知っているようです。

 リツカお姉さんと巫女さんを見ます。


「……必要ありません」

《そう……》


 やっぱりそうよね、とお姉ちゃんの嘆きを含んだ呟きが聞こえます。

 

 仲間を疑わなければいけない、それは悲しいことです。

 でも、後ろから急に撃ってくる人間なんて、仲間って言えるんですかね。


「後ろから撃たれた以上、不安要素は必要ありません」

《分かったわ、アンネには……そう伝える》

「ありがとうございます」


 この戦場で信じられるのは、お二人だけです。




「シーアは援軍が要らないそうです」


 エルヴィエールが一足先にレティシアに確認をとっていた。


「……」


 広場が静寂に包まれる。


「なぜ、味方が……リツカさんを」


 コルメンスが搾り出すように声を出す。


「……洗脳」

「っ!」


 エルタナスィアの言葉に、アンネリスが口に手を当てる。


「ヨアセム、だったかしら。彼が、冒険者たち全員に洗脳をかけていたら……」

「ライゼ様――!」


 アンネリスがライゼルトに連絡を入れる。


「洗脳としても、リツカさんを……!」

「アリスが居ますから、大事には至りません」


 コルメンスが声を荒げる。それを制するようにエルタナスィアが告げる。

 落ち着いた声音だけど、エルタナスィアも怒っているようだ。


「シーアが前線に出たわ。あの子が止めている間に、治療は出来るでしょう」

「はい。シーアちゃんが居てくれて良かった……」


 エルヴィエールとエルタナスィアが安堵している。


「はい、お気をつけください」


 アンネリスが”伝言”を終える。


「アンネ、ライゼさんの方は?」

「あちらは大丈夫のようです」


 心底安堵した声で、コルメンスに伝える。


「リツカさんたちの方は、シーアが倒しきりましたから」

「今の状況で後ろまで気を回してられません」


 エルヴィエールは心苦しいようだ。

 だけど、エルタナスィアは少し語調を強くする。

 洗脳されていたとしても、リツカを傷つけた人達を許せないようだ。


 広場では、アンネリスの指示する声がやけに、大きく響いていた。



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