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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
24日目、私は浮かれていたのです
261/934

一手⑥



 圧がすごいです。悪意を感じる分、余計に。

 ですが、悲壮感も絶望も感じません。一体一体の悪意はそれ程感じないです。

 前衛は、ですけどね。


 この大群の後ろに行けば行くほど、悪意の質が高まっています。前衛は、捨て駒、といったところでしょうか。


(だったら今は、減らしすぎるのは得策じゃない)


 減らしすぎれば、後衛が出張ってくるかもしれません。

 そうなれば、”盾”を作ってくれているアリスさんへの負担が増えます。


(でも、止める)


 魔法を撃たせるのは、止めないといけません。 


「少し、奥へ進んでみよう」


 何か見えるかもしれません。情報は武器です。



 リツカが赤い帯となって静かに敵軍へ急接近していたころ――。


「まだなの!?」


 冒険者たちは、もはや狂乱状態だった。一際大きい魔法の接近にすら気づかない。 


月光の輝きを(【モディク・)纏いし城壁よ(ヴォグマゥ】)()私の想(【グフュ・)いを受け聳(アウシュ】・)え立て(オルイグナス)!」


 狂乱していた冒険者の前に、銀色の城壁が出現する。


 透明感があるけれど、弱さを欠片も感じない。絶対に攻撃を通さない、そう確信出来る程の重厚さを放っている。


「ッ!?」


 正気に戻った冒険者は、いきなり現れた壁にたじろぐ。


「しばらくは安全です」


 鈴の音の様な音量でありながら、轟音渦巻く戦場でも変わらず聞こえる声音。


「巫女様……?」

「しばらくお休みになってください」


 アルレスィアの”城壁”が、全ての魔法を受けきる。



 昔、牧場で見た城壁の様な盾が、西門一帯を守るように聳え立ちました。

 あの時よりも力強さを感じます。


(あっちは大丈夫)


 前衛は密集しています。弓兵が陣形をとるように、横一列ですね。

 この大太刀でなら、二体ずつ倒せそうです。


(素早く奥まで、一直線に鋭く斬りこむ)


 出来るだけ、私に注目してくださいよ!


「――シッ!」


 気づく暇を与えず、横薙ぎで二体を巻き込む!


「!?」


 斬られた二体の隣側が異変に気づきます。いつもであれば、すぐさま次にいくところですが。


「……」

「グギュッ!」


 私に注目して欲しいので、しっかり私を認識してもらいます。

 しっかり見られた後、奥へ参りましょう。


 右袈裟。後ろからのラリアットをしゃがんで避け、回り、横薙ぎで足。倒れる敵の首を切上げ、向かってくる拳を避け胴斬り。

 四方八方からの攻撃を避けては斬り、斬っては進み、真っ直ぐ奥へ、奥へ。


(だんだんと敵が硬く、反応が速く、強く)


 まるで雑木林のような敵の大群を切伏せていきますが、一向に最奥は見えてきません。


 十体以上は倒したと思い始めた頃、敵の圧が、私に向いたのが分かりました。


(頃合かな)


 そろそろ下がります。


 ですが、このまま下がるわけにはいきません。


 注意が向くかどうかで国と”巫女”、どちらを狙っているのかを確かめる計画は、私が攻撃をした時点で破綻しました。


 敵の魔法は弱まり、アリスさんの城壁が壊れる心配はなくなりましたけど、私が戻ってしまってはまた攻撃が始まります。


(兎に角、囲まれてるのは危険だから下がろう)


 前衛ならば、シーアさんの広域魔法で八割は削れるでしょう。ですけど、中間より向こうは、一体一体が強いです。最後列ともなれば、隊商の時の熊を超えそう。


「いかに後列まで消耗なしで行くか、かな」


 まずは、アリスさんの下に戻れない現状を打破しないと……。



「リッカさま……?」


 敵の魔法が止み、冒険者達の狂乱も収まったため戦況を見極めようと敵を見据えたアルレスィアが見たものは――。


「赤の巫女様しか狙われてない……?」


 敵軍に追われ続けるリツカだった。

 

 冒険者が言ったように、敵は魔法を国へ撃ちこむ事無く、リツカだけを狙い続けている。魔法を駆使し、リツカを追い詰めていく。


 避ける事すら困難な猛攻に、辛うじて反撃を行うリツカの顔は、あくまで涼しげだけど、アルレスィアからは離れていく。


「っ!」


 自身の役目である盾を捨て、今にも駆け寄りたいアルレスィア。だけどそんな事をすれば、せっかくリツカが作ったチャンスが水の泡となる。


「皆さん、今です。体制を立て直し、早く敵へ攻撃を」

「で、でも巫女様――」

「リッカさまであれば、負けません。今は、少しでも、敵を倒してください」


 まだ困惑を続ける冒険者たちに歯噛みする。

 アルレスィアが到着するまでに折れてしまった心は、そう簡単には治せない。


「っ! リッカさま……!」


 唇を噛み、自身の衝動を抑える。

 血が出そうなほど噛んでいたけど、ハッとし、自身の唇に触れる。


「……」


 血が出ていない事に安堵し、改めてリツカを見る。

 自身が傷つくことは、痛みを伴うだけでなく、()()()()()()()()

 

(もう、()()を使うしか――)


 アルレスィアが決断しようとした時。


「どこもかしこも、だらしのない人達ばかりです」


 深い海の色が、アルレスィアの後ろから津波の様に戦場に流れ込んだ。


押し流す(【ヴァリエ】)() 激情を受(【トロン】)()我が敵(【ディセソ】)()失意の(【ヴァテ】)奔流を(・オルイグナス)!」


 極大の波が敵軍へ流れていく。


「はぇ?」


 リツカのお間抜けな声は波の音で掻き消えた。


 リツカの真後ろを波が過ぎていく。

 溝もないのに完璧な流れで敵だけを流す。

 六百メートル程の距離に居た大群は、津波によって大きく後退を強いられた。


「まだです。――時を(【トォフ)止める(・プワレ】)()氷の楔で(【グラソ】)()界に静(【スゥロス】)寂を(・オルイグナス)


 濡れた敵に、冷気が襲い掛かる。

 前衛に居た弱い敵は完全に凍りつき、倒れた者は砕け散っている。


 後ろに行くほどにダメージは小さく。最後列に居た者たちは体の一部が凍る程度で、動き難いだけのようだ。



「……危なかった」


 多分シーアさんの魔法と思いますけど、押し流されるところでした……。

 それにしても、寒いです。震えちゃいます。


「助かったことに、変わりはないから、急いで戻ろう」


 敵が凍っている間に、体勢を立て直しましょう。



「シーアさん、ありがとうございます……」

「リツカお姉さんが無事で良かったです」


 巫女さんが安堵しています。本当はすぐにでもリツカお姉さんのところに行きたいのでしょうけど、しっかり自分の役割を優先させているようです。


 私達の横で呆然としている方たちとは大違いです。


 巫女さんたちが来るまで耐えていたようですけど、肝心な時に奮い立てないようでは耐えた意味がありませんよ。


 もうこの人達は戦えないでしょう。


 仮に今から戦えたとしても、優勢なうちだけです。劣勢になったら途端に足手纏いになります。


 居ない方がいいです。


 逃げようとしていた人達はマシです。戦いが始まってから逃げられた方が余程厄介なんですから。


 働かない無能より働く無能の方が被害が多くなるのですよ。


「ギルドで何かあったのですか?」


 巫女さんが私のイライラに気づきました。リツカお姉さん以外相手でも、変化が分かるんですね。


「勇気をはき違えた上に、他人に流されるお馬鹿な自殺志願者が居ただけです」

「そこまで神格化されると、困りますね」


 巫女さんって人の心が読めるんですかね。リツカお姉さんの比ではないほどに正確に理解しているような?


「とにかく、リツカお姉さんが来たら会議の内容を話します」

「お願いします」


 まぁ、些細な疑問ですね。今考える事ではありません。

 リツカお姉さんが、なんであのような事になったのかも気になりますし。


 また無茶して、予定にないことをしたんでしょうね。

 予定通りなら、巫女さんがあそこまで狼狽する事なんてないんですから。


 

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