一手④
「やっぱリツカ様強ぇ……」
「お怪我はございませんか?」
「うおゎ!?」
リツカが周囲を探っている姿を見ていた、一塊になっている者たちの後ろにアルレスィアが立っていた。
「怪我はありません。助かりました」
ディルクが代表して頭を下げる。
「安心しました。牧場の方たちの方は――」
「はい、私達も無事です!」
アルレスィアが怪我人の確認をしていく。
治療の形跡がある。”盾”の中で治癒していたようだ。
「防衛班の皆さんのお陰ですね」
「あ、ありがとうございます!」
アルレスィアの言葉に防衛班たちが喜び、今にも小躍りしそうだ。
アルレスィアが来るより先にリツカが片付けた形だが、リツカのお願いで、アルレスィアはいつでも”盾”を展開できるように魔力を練っていた。
どんな形であれ、この場で死者は出なかっただろう。
「早かったですね、助かりました」
でるくさんが私のところに来ました。
「”伝言”の場に居たので」
「まだ運は尽きてねぇようだ」
でるくさんが微笑しています。
長い事冒険者をやるには、運も必要なのですね。
私は、幸運の塊のようですけどね。
アリスさんに会えただけで、今後の人生全て幸運のまま歩めるのですから。
「なんだ、もう終わってたのか」
ライゼさん、シーアさん、兄弟子さんが遅れてやってきました。
「状況ハ?」
シーアさんに状況を伝えます。
「撃破数は六体、魔法を使う固体が四体程。炎を使う奴と風を使う奴が同時に発動させようとしてたよ」
「まだ、複合連鎖のような複雑な魔法は出来ないようですが、確実に知恵をつけてきています」
距離が近い状態で魔法を撃つ迂闊さがなければ、少し苦戦したでしょう。
まだ伸び代を残していると思われるマリスタザリア。一体、どこまでいくのでしょうか。
「あんさんら、今日は外出禁止だ」
「な、何故ですか?」
牧場の人にライゼさんが事情を説明しています。
とりあえず、今日は王国内で待機してもらいましょう。六体が一気に出るなんて、異常事態――。
「っ!」
なんです? 悪意が膨らんでいって……?
「ディルクさん、牧場の方達を王国内までお願いします」
「どうした巫女っ娘」
「追加です、ライゼさん。周辺の全ての動物がマリスタザリア化しました」
悪意しか、感じません。
感知なんて意味ないですね。
「悪い報せがもう一つだ」
ライゼさんが刀を抜き放ちながら言います。
「西から化けもんの大群だ」
「どれ程の?」
「さぁな、少なくとも百や二百じゃねぇらしいが」
流石のライゼさんも、焦っています。
「どうする?」
牧場と西、誰が、どう対処するか、ですね。
「俺が牧場を対処してやる。馬鹿弟子、お前もこっちだ」
「はぁ……」
ライゼさんが提案します。
「理由はなんでス?」
「こっちの方が少ねぇからだ」
シーアさんの質問に答えたライゼさんの言葉は、ともすればサボりたい人間の言葉ですが、そうではないと思ってます。
「西の方が多いんだ。魔女娘と巫女っ娘が必要だろう」
しっかり考えがあるようです。
「そんで、遠距離主体の二人じゃ、近寄られたらやべぇからな。剣士娘もいけ」
「はい」
言われなくても付いて行こうとしていましたが、ライゼさんが理由をくれました。
「こっちをさっさと片付けて合流する」
「分かりましタ」
「お願いします」
シーアさんとアリスさんは異論ないようです。
「シーアさんは先に、ギルドでアンネさんに報告と会議に参加して欲しい」
「どうしてでス?」
「多分、冒険者での総力戦になるから、連携を取りたいの」
誰でもいいので、アンネさんと一緒に方針を決めて欲しいのです。
「分かりましタ」
「お願いね」
シーアさんが王国の方へ走って行くのを見送ります。
「アリスさん、行こう」
「はい」
まずは西の状況を正確に把握しなければ。
各々移動を開始する。
「俺は残るか?」
ディルクがライゼルトに尋ねている。
「いいや、まずはしっかり送り届けてこい」
「分かった、死ぬなよ」
「あんさんらもしっかり警戒しとけ」
ライゼルトがこの国に来てからの付き合いでしかないが、それなりに気の合う二人は、お互いの無事を祈る。
「なんで俺まで」
「仕事しろ」
渋るウィンツェッツの頭を叩き敵に備える。
「まぁ、良い練習台にはなるか」
剣を抜き、そこそこやる気を出した様子で構える。
その様子を見ていたライゼルトが剣に注目している。
「その前に、お前も一回街帰れ」
「あ?」
「武器屋に行って刀取って来い。お前のだ」
「なんだよ、急に」
親指で街の方を指差しながらぶっきら棒に伝える。
「もうその剣じゃ斬れん。分かっとるだろ」
「……」
「もう一本残っとる。取って来い」
話は終わりだ、と視線を逸らしたところで、ライゼルトは舌打ちする。
「そんな暇はねぇようだな」
ウィンツェッツが構えなおす。
雑木林や牧場の奥から、様々なマリスタザリアが出てくる。
「”風”は最高に保っとけよ」
「そんくらい分かってる」
退路は塞がれた。
戦うしか、生き残る事は出来ない。
「最悪な時に、この国に来ちまった」
「馬鹿が。どこに居っても変わらん」
少し汗を垂らすウィンツェッツと、余裕を見せるライゼルト。
「死ぬなよ馬鹿弟子」
「てめぇより先に死んでたまるか」
「それでいい」
カカカッとライゼルトが笑う。
それが合図となり、二人を押し潰さんと、マリスタザリアが押し寄せる。
「アンネさン」
「レティシア様?」
「リツカお姉さんに言われて会議に参加しにきましタ」
連携もそうですけど、まずはこの場の雰囲気が問題ですね。
「現在牧場にてライゼ様、ウィンツェッツ様が交戦中。数は三十以上、種族は複数、まだまだ増えるようです」
牧場も激戦ですね。周囲から息をのむ音が聞こえました。三十体以上のマリスタザリアなんて見たことないですからね。
「西では冒険者数人が魔法にて足止めを試みていますが、効果はありません。数は二百以上、こちらも様々な種族がいます」
広範囲魔法は威力が分散します。複合連鎖でも無い限り、魔法だけではマリスタザリアを倒せません。
「こちらには、アルレスィア様とリツカ様が向かっています」
二人の名前も、今回ばかりは、あまり効果がないようですね。
「魔法を使う固体が居まス。お互いの魔法を合わせて、擬似的な複合連鎖を行ってくるのでご注意ヲ」
「ただの魔法でもやばいってのに……」
殺意だけで放つ、無造作な魔法です。ですが、純粋な想いは強力な魔法となります。
ただの炎を巫女さんが複合連鎖で防がなければいけない程の威力は、回避が最適解といわざるを得ません。
「リツカお姉さんなら問題なく斬れるようですけド、皆さんは接近戦をしないほうがいいでしょウ」
お師匠さんは鉄程になると無理って言ってましたね。野蛮さんは岩が限界、と。
「なぁ、俺は巫女様の強さ知らないんだけど、どれくらい強いんだ?」
「俺も……」
演説で人となりは分かったようですが、実力はまだでしたか。
「リツカお姉さんは、先程牧場で出た六体のマリスタザリアを一分以内で倒しきれるくらいでス。魔法を使う固体、賢い固体、硬い固体も居た中を一分でス」
「……ハァ?」
まぁ、そういう反応になりますよね。一体十秒以内ですから。
「巫女さんはマリスタザリアを一時的に元の姿に戻せまス。その瞬間だけハ、魔法も斬撃も普通に通りまス。リツカお姉さんと一緒なラ、どんなマリスタザリアも一撃でス」
「対マリスタザリアで、アルレスィア様とリツカ様に敵う者はいません」
だんだんと、集まっている人達が安堵していってます。
「巫女様が居るなら勝てるんじゃないか?」
「そうだな!」
「ライゼもいるんだ、なんとかなるぜ」
良い感じに士気が上がりました。
本当は巫女さん達がこの場に居るのが一番ですけど、戦場に二人が居るっていうのは重要ですからね。
まさに襲われている西側の冒険者や西区にお住まいの方達にとって、二人の登場は安心感を与えます。
不安を感じれば、更にマリスタザリアが出るかもしれませんし。
現状の把握は終わったでしょう。
後は、この場に居る人達の役割分担ですね。
早く終わらせて、お二人のところに行かないと。いくらなんでも数が多すぎます。私が一番適任なんですから。




