兆し⑪
北門側での警備中に、ニ、三体、マリスタザリアに遭遇して、倒したまでは良かったんですけど……体を慣れさせるために、本気の魔法で対応したのが間違いでした。
朝のダメージがまだあったのか、フラついてしまったのです。
それだけなら、そのままゆっくり王国に戻ったのですけど、アリスさんが、また抱えて良いですか? って聞いてくれたので、つい、お言葉に甘えちゃったんですよね。
北門までってお願いしたのですけど……。
「アリスさん、見られてる……」
「朝もそうだったので、気にしてはいけません」
広場まで、来ています。
朝とは、人の数も違いますし、新しい視線も多いです。
このまま大通りになんて行こうものなら……。
「リツカ、さん?」
「はぇ?」
コルメンスさんと、エルさんがこちらを見ていました。
「お散歩ですか?」
「はい、その様なものですけど。えっと」
アリスさんがあまりにも自然に質問するので、コルメンスさんは普通に答えていますけど、困惑してます。
「お二人は、何を?」
エルさんも、どう反応したらいいのかって感じですね。
「シーアさんが用事があるという事で、北門の警備を変わっていたのですけど、先ほど戻ったと連絡を受けたので南門へ戻っています」
「アリスさん、ギルドまでってさっき――」
「この際、このまま警備をしましょう」
このまま、今日を過ごすようです。気持ちいですから、構いませんけど、アリスさんが疲れきってしまいそうです。
「私も実は、そこそこ鍛えているのですよ」
「それは、分かってるけど……。人間一人を抱えたまま何時間も歩き回るのは疲れちゃうよ?」
私は結構足速いですけど、アリスさんはそれについて来れますし、腕力も見ての通りです。
「リッカさまならば、一日中でも持っていられますよ?」
意地でも、おろしてくれないようです。
アリスさんは楽しそうですし、この際、気が済むまで、アリスさんの腕の中を堪能させてもらいましょう。
「お二人は、商業通りから出てきたようですけど」
「えぇ、先ほどまで美術館に」
「核樹ですか?」
美術館といえば核樹です。コルメンスさんも核樹に興味あるって話でしたし、きっとそこにいったのでしょう。
「キラキラ輝いていたり、花が咲いていた――」
「花!?」
コルメンスさんの言葉に被せるように、食いついてしまいます。
輝いて見えたのは、私だけだとシーアさんから報告を受けています。残念。
そう思ってたのに、まさか、本当に輝くなんて!
更に、花を咲かせる!?
「アリスさん」
アリスさんの首に腕を絡ませ、耳元に顔を近づけます。
「ちょっとだけ、だめかな?」
囁くように、お願いしてみます。
アンネさんにお願いすれば、少しくらいなら……。
「連絡してみますね」
「うん!」
なんでそんな変化をしちゃったのかも気になります。神さまも近くに居るでしょうし、聞いてみましょう!
(私も、あれくらいしたほうがいいのだろうか)
コルメンスが、エルヴィエールを見ながら考える。
お姫様抱っことかに、憧れるものなのかと。
(あれくらい大胆に迫った方が良いかしら)
エルヴィエールは、耳元で囁くリツカを見ながら考える。
コルメンスにあれをすると、どうなるのだろう、と。
ライゼルトとアンネリスもそうだったけど、手本にする相手を間違えていると思うのだけど。
「少しくらいなら良いそうですよ」
「わーい!」
喜ぶ私を見ながら、アリスさんが微笑んでいます。
「では、私達も美術館へ行きますね」
「はい、いってらっしゃい」
「お気をつけて」
コルメンスさんとエルさんに別れを告げ参ります。
「ありがとうございました!」
もし教えてもらえなかったら、見れなかったかもしれません。感謝です。
手を振って、離れていく二人にお礼を言いました。
「リツカさんは、可愛いですね。エリスさんの言葉が良く分かります」
「アルレスィアさんも、嬉しそうでし……だったね」
リツカに手を振り返しながら微笑んでいる。
「戻ろう?」
コルメンスが手を差し出す。
「えぇ。エリスさんも結果が気になっているでしょうから」
手を取り、頬に手を当てて微笑む。
「程ほどにお願いするよ?」
「それは無理ってものです」
クふふふ! と矯正しても偶に出てしまう、本来の笑い声が、広場に小さく響く。
コルメンスは、エルヴィエールのこの笑顔と笑い声が好きだった。
「……」
浮かれてて忘れてました。
「リツカ様……?」
「リツカさん?」
「どうしたんだい」
ラヘルさんのお店に、ロミーさんとリタさんが来ていました。
驚いた様な顔で、私を見ています。
「えっと?」
「ご安心を、ちょっと疲れているだけですから」
リタさんはしきりに、私とアリスさんの顔を交互に見ています。
アリスさんのドヤ顔が眩しいです。
「そうなんだろうけど」
「どうして……お姫様抱っこ……?」
リタさんとラヘルさんに問われますが、どう答えればいいのか……。
「そこまでにしときな」
ロミーさんが、リタさんの頭を掴んで左右に振っています。あれは……。
「リッカさま?」
思い出したせいか、少しアリスさんの腕の中で縮こまってしまいます。あれは危険です。私は、揺らされた程度で気分悪くならないのに、ロミーさんのあれは私の意識を朦朧とさせるのです。
「リタ……大丈夫……?」
「うっ……」
店先の椅子に座り込んで俯いてるリタさんの背中をラヘルさんが摩っています。
「詮索するもんじゃないよ」
「ありがとうございますロミーさん」
アリスさんが、会釈します。私を抱えているのでお辞儀できないのです。
「歩けないほどの怪我なのかい?」
「いえ、用心で安静にしていただいています」
「心配なさそうだね」
「はい」
抱えられた私を挟んで、二人が話しています。
「申し訳ございません。今から少し美術館に行きますので」
「ん? また何かあったのかい?」
「はい、今度は光り輝いて、花が咲いたそうです」
”神の森”の核樹でも、桜が咲いていました。”神林”の核樹は、どんな花を咲かせるのでしょう。
「へー、そりゃすごいね。開放されてんのかい?」
「一応、私達が診てからですね。アンネさんから放送があると思います」
「じゃあ、後から見に行くかね」
ロミーさんも花が気になるようです。
「リツカちゃん、眠いのかい?」
「はぇ?」
「リツカちゃんの目が閉じかけてたからさ」
気が抜けていたのか、目が閉じかけていたようです。
でも、ちゃんと周りは視てますし、眠気はないです。大丈夫、私はアリスさんを守れます。
「アリスさんの、気持ち良よくて――」
「リ、リッカさま」
アリスさんが急いで私を止めます。何かまずい事言ってしまったのでしょうか……。
「それでは皆さん、また!」
まったく揺れを感じさせない抱え方で走り去ります。
「……」
「ロミィさん……どうしたの……?」
呆然と、アルレスィアとリツカが走り去った方を見ているロミルダに、ラヘルが話しかける。
「ん? あぁ、問題ないよ」
(見てたのが私だけで良かったよ)
ロミルダが頭痛を感じている様に頭を抱えている。
アルレスィアに抱かれ、安心しきっていたのか、リツカの顔は緩みきり、頬は染められ、瞳は潤み、閉じかけた目と合わさり、異常なまでに艶麗だった。
女性であってもドキリとくる破壊力を目の当たりにし、ロミルダは静かに息を吐く。
(注意した方がいいのかねぇ。幸せそうだから邪魔はしたくないけど、男には見せられないよ、まったく)
あの二人に限って、そんな姿をむやみやたらに見せる事はないと思っているけれど、それでも注意くらいはしておいた方が良いと考える。
「次会った時にでも、アルレスィアちゃんに言っておくかねぇ」
苦笑いで、店に戻っていく。
「うっぷ……」
「ロミィさん……行ったよ……? リタ……?」
「もうちょっと、待って……」
「……店の前で……吐かないでよ?」
目を回して動けないリタを介抱するか迷ったラヘルだけど、常連客が見えた為見せの中に入っていった。




