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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
23日目、つかの間? なのです
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兆し⑦



 アリスさんが背中についた葉っぱや草をポンポンと叩いてとってくれています。


「目だった汚れはありませんね」

「着替えなくて良さそう?」

「はい」


 最後に髪を優しく梳いてくれました。


「大分、真っ直ぐになりましたね」

「こっちに来て、結構くせ毛直ったね」


 石鹸もそうですけど、アリスさんが丁寧に梳いてくれるからでしょう。


「私は、跳ねた髪も可愛くて好きです」


 まだ跳ねている部分を指で玩んでいます。


「嬉しいけど、アリスさんみたいなさらさらの真っ直ぐ、憧れるんだもん」


 元気な感じは、今の方が出ますけど、子供っぽさが強くなってしまうんですよね。せめて髪型くらいは、大人の女性になりたいです。


「気になるほどのくせ毛ではないと思うのです」

「昔は気にしてなかったけど、今は、ちょっとだけ大人になりたくて」


 見た目を気にしたことはありません。だから、皆が言うように、私が所謂美形だと言われても、ピンと来ないのです。


 でも、アリスさんと出会ってからは、自分の容姿がどういったものか、気になってしまいました。


「どうして、そこまで大人に?」

「えっと」


 アリスさんが不思議そうに首を傾げています。でも、アリスさんなら私の想っている事は分かっているはず。私の口から、言って欲しいと言うことでしょうか。


「アリスさんの隣を歩くなら、もっと、大人っぽい方が似合うかなって」


 どうしても、妹のような、娘のような感じになってしまいます。見た目だけでも子供から脱却できれば、妹や娘では見られなくなるはずです!


「アリスさんと一緒がいい!」

「それならば、私も尽力しますね」

「うん!」


 さらさらヘアーで大人の魅力を手に入れるのです。




「戻りまし、た?」

「どういう状況ですか?」

「お師匠さんの自業自得でス」


 シーアさんと兄弟子さんが呆れながらその光景を見ています。


「任務中にお酒とはどういう了見ですか、ライゼ様」

「俺はあれくらいじゃ酔わん――」

「酔う酔わないではありません。もしや、今までも何度か飲んでいるのではないですか?」

「仕事に差し支えない程度にしか飲ま――」

「はぁ……」

 

 ライゼさんがさっきまでお酒を飲んでいて、その件で説教を受けているみたいです。大きい体が小さく見えます。


 仕事中にお酒なんて、ダメな大人ですね。こうはなりたくないです。


「さて、リツカ様、アルレスィア様」

「え?」

「はい」


 ライゼさんを怒っていた時と同じ顔で私たちを見ています。


「何をしていたのですか?」

「何を? ですか?」

「アンネさん。それは誤解だと言ったではありませんか」


 どうやら”伝言”の時の話の様ですけど、私はただアリスさんの顔を見ていただけなんです。


「少しじゃれ合っていただけです」

「少し……?」


 アリスさんが答えますが、アンネさんは納得していませんね。


「何だ、またやって――」

「ライゼさん?」

「なんでもねぇ」


 まだ気落ちしているライゼさんが私たちをイジろうとでもしたのか、アリスさんに咎められて口を噤んでいます。この場で一番立場が弱いのは誰かと言われれば、ライゼさんですよ。


「んー?」


 私は、状況がわからず首を傾げます。確かに少し、任務の間の息抜きを堪能しましたけれど、問題がある行動ではなかったと思います。


「リツカお姉さんの反応からしテ、アンネさんの勘違いでス」

「そのようですね」


 誤解? は解けたようですが、どういった誤解をされていたのか、わかりません。


「はぁ……とにかく、これは没収です」


 お酒の入った、スキットルみたいな物を取り上げたアンネさんが歩き出しました。


「それは三十年物の銘酒――」

「しっかり保管しておきますから、任務終了後にしてください」

「……」


 まだ諦め切れてないようです。


「おつまみくらいなら作ってあげますから納得してください」

「解った」


 現金ですね。というより、最初からそれが狙いっぽいです。

 こういうやり取りは、二人が付き合っているって感じがして面白いですね。

 ライゼさんがダメな大人って印象は、より強くなりましたけど。


「ダメな大人でス」


 ため息と見下すような視線を向けたシーアさんが、ライゼさんを嘲笑しています。


「アンネの料理が一番なんだよ」

「平然と惚気るようになっちゃいましタ。面白くないでス」

「残念だったな、魔女娘」


 カカカッと豪快に笑っています。明らかに、少し酔ってますよね。酔った父と同じような雰囲気です。



「そろそろ会議を始めます」


 流石に遊びすぎですね。アンネさんが咳払いをして、場を収めました。


「まずはウィンツェッツ様から報告をお願いいたします」

「あぁ」


 戦闘の形跡はありません。

 どこにいったんでしょうね、マリスタザリア。




 ギルドで皆が会議をしていた頃、王宮では。


「エリスさん、これで大丈夫でしょうか」

「もう少し赤を強くしてみましょう」


 エルヴィエールがエルタナスィアにメイクの出来を見てもらっている。

 今日はコルメンスとの約束の日だから、失敗しないようにということだろう。


「エリスさんは、どういう告白を受けたのですか?」

「あの人無口ですから、王都に帰る日に、私を呼び出して一言だけ、傍に居て欲しいと」


 嬉しそうに、その時を話している。


 ”巫女”への挨拶に赴いた司祭のお供として、当時シスターだったエルタナスィアは集落に訪れた。


 そこで初めてゲルハルトと出会い、一週間の滞在期間でお互いを知り、恋に落ちていたというわけだ。


 余談だが、付き合いだして一週間の入籍は、あの当時では異例の電撃結婚だった。


「言葉ではなかったんですね」

「はい。私も、あの人との出会いは運命としか思えませんでしたし、一週間という短い間でしたが、彼が私を大切にしてくれていると、強く感じましたから」


 無口なゲルハルトは、行動でしか自分の愛情を表現できなかった。だから、そのたった一言が、ゲルハルトの本心で、強い想いとして、エルタナスィアに届いたのだろう。


 多くの言葉で飾るのではなく、一言に全ての想いを込めた。

 

「陛下は、どんな言葉で伝えるのでしょう」

「ま、まだそうと決まったわけでは……」


 違うかもしれないのですから、と呟くエルヴィエールを微笑ましそうに見ている。

 コルメンスは大事な話があるとしか言っていない。


「男性が女性に対しての大事な話は、それしかないと思うのですけど」

「いえ、いえ! コルメンス様ならありえます!」


 散々思わせぶりな態度や話をしておきながら一歩を踏み出しきれないコルメンスならありえる、と長い付き合いのエルヴィエールには分かっている。


 レティシアがわざわざ、勇気を出せ、今度こそちゃんとしろ、と言うくらいに、エルヴィエールを期待させては外してくる。


「私の意思を尊重して縁談を待ってくれている臣下たちも、そろそろ我慢の限界に来ているのです」


 エルヴィエールがコルメンスを愛してることは、共和国では周知の事実。エルヴィエールを小さい頃から知っている者たちは意思を尊重し、政略結婚を考えている者たちは、キャスヴァルの王と結ばれるのが一番と考え何も言ってこない。


 しかし、エルヴィエールは、共和国という決して恵まれた土地ではない国の女王だ。この際、キャスヴァルではなく他の国でも良いと、政略結婚派は思い始めている。


 エルヴィエールは、引く手数多なのだから。


「今日が最後のチャンスというわけではありませんが、臣下からの不満は避けられません」

「陛下も男です。きっとエルヴィ様の想いは伝わってますよ」


 悲痛と焦燥に染まった表情を見せるエルヴィエールの肩に手をおき、優しく語り掛けるエルタナスィア。


「こういってはなんですが、陛下はリツカさんと同じ眼をしています」

「コルメンス様も、そう言ってました」

「でしたら、きっと大丈夫ですよ」


 疑問に首を傾げるエルヴィエールだが、エルタナスィアの笑みは崩れない。


「あの眼の方は、やる時はやるんですよ」


 勝負所は間違えない。



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