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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
23日目、つかの間? なのです
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兆し③


 アリスさんはアンネさんに報告を入れています。


『いやぁ、嬉しそうだね。リツカ』

「余り見ないで下さい……」

『写真とっておくよ』

「え!?」

『その顔いいね』


 手をカメラに見立てこちらに向けています。それで撮れるんですか?


『撮れないよ』


 どうやら私の手を顔から外すためだったようです。


「策士めっ!」

『ハハハッ!』


 視線を鋭くしてみますが、アリスさんに抱えられたままでは、迫力なんてないでしょう。

 ただでさえ神さま相手に効果がないのに、逆におかしいのではないでしょうか。


「アルツィアさま、リッカさまで遊ぶのは辞めてください」

『すまないね。可愛かったものだから』

「当然です」


 あぁぁぁ……アリスさんが恥ずかしい事をさらっと……。


『病院まで行くんだろう? 広場まで一緒にいくよ』

「はい」


 そうでした、このまま街を通るんでした。


「え?」

「何かあったのかしら」

「怪我?」


 通行人たちから困惑や心配が伝わってきます。

 きっとイメージ的には私が抱える側です。アリスさんが抱えられる側なんです。


 もう歩けるのですけど、アリスさんの笑顔が見たくて言えずにいます。

 満面の笑みで、今にもスキップをしそうな程楽しそうに歩いているのです。それなのに、私に揺れが伝わりません。


「リッカさま、顔が見たいです」

「ご、ごめん。今は無理……」


 アリスさんが甘い声音で懇願しますが、私の顔、今どうなってるか分かりません。人に見せられるものじゃないかもしれません。


 触っただけで分かります。顔の筋肉が緩んでいます。きっとすごくニヤけているでしょう。


「その顔を見たいのです」

「ダメ!」


 意地悪な笑みを浮かべたアリスさん可愛いので、ちゃんと見たいっていうのはありますけど、今は周りに人が多いですからダメです!


「あらぁ」


 神さまに続いて、今会うのは遠慮したい方の声がしました。


『悲しいよリツカ。私は会いたくて仕方なかったから、ここまで来たのに』

「アルツィアさまでも、それは許されません」


 アリスさんが神さまを睨んでいます。抱えられているからか、アリスさんがより凛々しく見えます。


 姫様を守る騎士ってこういう……。いえ、騎士は私がいいです。


「なにをしておるのだ……」

「また、リツカさんが無茶したの?」


 呆れているゲルハルトさんと、何となく察しているエリスさんが居ました。


「私の命を狙った方が居まして、それにリッカさまが……」

「怒って無茶したのね?」


 しっかり私を持ったまま、アリスさんが二人に説明しています。

 アリスさんの細い腕のどこにこんな力が……。かれこれ二十分は抱えたままです。

 顔を隠した私の手に、アリスさんが頬擦りします。

 ゾクゾクと、体が震えました。


『手加減してあげなさい? アルレスィア』

「何のことでしょう」

()()()()()()()()()()()()()


 神さまが嬉しそうに、アリスさんを見ています。思うところがあるようです。

 アリスさんは私に頬擦りしながら微笑んだままです。 

 頬擦りされるたびに、ピクンと体が反応してしまいます。


「これで三回目ね」


 うふふ、とエリスさんが笑っています。


「三回、目」


 もはや珍しくもない、弱弱しい声音で尋ねます。アリスさんも、三回目と言っていました。


「えぇ、集落の時と、昨日と今日」


 エリスさんが指を折り数えています。

 集落の時ということは、最初の戦いの時ですよね。


「オルテが運ぼうとしたのを鬼の形相で――」

「お母様!」


 アリスさんの温もりを二度逃していたのですか……。


「アリスさん、そろそろ……」

「そうですね。お母様お父様、私達はそろそろ失礼します」

「えぇ、いってらっしゃい」

「気をつけて行きなさい」


 二人と別れて病院を目指します。



 少し時間がかかりすぎました。

 でも、アリスさんが一応と言ったように、私たちは余り期待していません。あれほど用意周到な犯人が、街の中の病院なんて使うはず無いんです。


「この街に、”治癒”が特級なのってアリスさんと、病院の人?」

「アンネさんの情報によると、それだけのようです」


 それでは、足を怪我したままなのでしょうか。

 流石に期待しすぎですね。


「ごめんください」

「おや、巫女様方がここにおいでとは珍しいですね。どうなさいました?」


 病院の方たちとは何度かお会いしています。


「実はですね――」

 

「――そうでしたか。ですが、私たちのところにはいらっしゃっていません」


 院長さんが応対してくれます。

 特徴はナイフによる深い刺し傷です。そんな人であれば記憶にあるでしょうから、来ていないのでしょう。


「ありがとうございます。もし今後見つけた際はお願いしてもよろしいでしょうか」

「もちろんです」


 もし見つけたら通報してもらうようにしていただきました。念には念を、です。


「ところで」

「はい」


 病院の方たちが全員こちらを見ています。


「どうして、リツカ様は抱えられているのですか?」


 アリスさんが、降ろしてくれないからです。



「安心しました。てっきり調子が悪いのかと」

「ご安心を。私が居る限り、病になどなりません」


 アリスさんがキリっとした顔で宣言します。

 私を抱えたまま、皆が見ている前で、です。


「そうでしたね」


 院長さんが笑っています。


 病院の方たちからも、生暖かい視線が向けられていて、縮こまってしまいます。こういうのを何と言うのでしたっけ。確か、外堀を埋める? 何か、違いますね。



「アリスさん、疲れてない?」

「大丈夫です。リッカさまは羽根の様ですから」


 汗一つかいていません。本当に疲れていないようです。

 私は一応、平均体重を少し超えてるくらいはあるのですけど……。


「でも、抱えたままはキツいんじゃ……」

「降ろしたくないです」

「えっと」

「降ろしたくないです」


 抱く力を強くして、降ろすことなくそのまま病院を出ようと歩を進めました。


「ア、アリスさん? あっ、ありがとうございました! もし見つけたらよろしくお願いしますー!」

「はい、お任せください」


 大声で院長にお願いして、手を振っておきました。


 ゲルハルトさんとか門番さんとか、牧場の方達は凄く狼狽していたのですけど、院長さんも看護師さん達も、特に驚いた様子はありませんでした。


 病院に担ぎ込まれる方達も多いでしょうし、お姫様抱っこくらいなら見慣れているのかもしれません。


 変に驚かれるよりずっと、居心地は悪くありませんでした。


 恥ずかしいのは変わりありませんけどね!




 犯人を捕らえることが出来ませんでした。アリスさんを狙った不届き者を潰せなかったのです。悔しい。見つけたら絶対に――。

 それに、しても……。


(今日はこのままなのかな?)

「リッカさま、南門へ戻りましょう」

「うん」


 急がないと、この姿をあの人達に見られてしまいます。そうなったら、何と言われる事か――。


「アンネに聞いて戻ってきてみれば」

「面白い状況ですネ」

「何やってんだ……」


 言霊ってあるんですね。ああ、ここは……言葉が力を持つ世界でしたね。はぁ……。



「これから真面目な話がしたいんだが」


 ライゼさんがジト目で私たちを見ています。


「えぇ、どうぞ」

「いエ、リツカお姉さんを降ろしてくださイ」

「嫌です」


 シーアさんの尤もな要求に即答します。アリスさんは時に私より、頑固なのです。


「まぁ、いいか」

「えぇ、お気になさらず続けてください」

「巫女さんも我侭ですネ」


 ライゼさんとシーアさんの呆れを物ともせず、アリスさんは私を持ち続けるようです。


 私も、このままが良かったり。もはや恥ずかしさはどこかへ行きました。諦めたとも言います。


「お姫様もご満悦のようでス」


 シーアさんのため息が聞こえます。



「そんで、剣士娘の投擲を受けてんだな」

「えぇ、あの出血量から予想される傷ですと、腕の良い医者が必要です」

「相手は魔法を使わなかったのですカ? 影に潜る魔法っていうのであれば隠れるのは容易ですよネ」

「悪意を制御出来るのか、リッカさまでも感知できなかったのです」


 情報共有中です。ある程度はアンネさんから聞いていたようで、スムーズに進んでいます。


 狙いはアリスさんですが、皆にも警戒していてもらいたいです。


「つーかよ、なんでそんときに殺さなかったんだ?」

「おい馬鹿弟子」

「あ?」

「はァ……」


 兄弟子さんの言葉をライゼさんが窘め、シーアさんは首を横に振っています。

 殺し、ですか。


「巫女さんを狙うなんて魔王の手下に決まってまス。捕まえて吐かせるべきでス」

「それもあるが」


 シーアさんの言うとおり、情報が欲しかったのです。

 でも、ライゼさんは別の理由があると思っているようで、私を見ています。


「剣士娘、あんさん。攻撃を躊躇ったな」



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