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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
23日目、つかの間? なのです
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兆し

A,C, 27/03/18



「はぁっ……はぁ……」


 三十分くらい、全速力で走り続けましたけど、脚の痙攣はありません。魔力運用は結構上手くなったのではないでしょうか。


 体に変化はありません。脚も太くなりません。女性としては嬉しいことですが、どうしてここまで変化しないのか不思議です。


(何か、違うのかなぁ)


 体の構造とか、普通の人と違うのかもしれません。普通はもっと筋肉がついて太くなると思うんですけど。


(魔力に頼りすぎなのかもしれないけど、この世界で戦うには必要なことだし)


 スタイルが変わらないのは、いいことでしょう。私も、女の子ですし、気にします。


「あと十分は、ゆっくり走ろう」


 この後、ライゼさんと兄弟子さんと稽古ですし。



 神誕祭後ということで、皆疲れているのかもしれません。人が今日も居ません。だからといって歌いません。いつどこで、あの師匠が見ているか分からないのですから。


 それに、今は――。


『私も居るからね』


 神さまも居ますからね。


『でも私はずっと見てたから、きみの歌声も知っているよ』

「どこまで知ってるんです?」

『きみの生活は、向こうの世界に居た時から偶に見てたよ。こっちに来てからはずっと』


 殆ど、知られていそうです。


『そうだね。きみの密かな楽しみである、森での一人ミュージカルとか――」

「あれはミュージカルじゃないです!」


 ハハハッと笑いながら分かってるよ、と言います。

 ただ単に、森に居るのが嬉しくてクルクルと回ってただけです。

 本当に見ていたようですね。


『リツカとアルレスィアの()()も知っているよ。これからやるんだろう?』


 何気ない感じで、ニコニコとしています。


「ぅ……。はい、そうですよ」


 バレている以上、隠すことはありません。それに、神さまにバレても問題ないです。私の事は全部、知られています。アリスさんとの日課が、私にとっていかに必要な事かも知っているのです。


『そういう事。アルレスィアにどんどん甘えるといい』


 慈愛の顔で、提案してくれます。

 ですけど、甘えすぎて、申し訳ない気持ちになってしまいますけどね……。


「アリスさんの方にはいかないんですか?」

『さっきまでアルレスィアの方に居たよ。きみの帰りを今か今かと――』

「じゃあ帰りますね」


 神さまからの情報に感謝しつつ、宿に歩を進めます。


『私は核樹の傍にいるからね』

「はーい」


 アリスさんが待ってくれているようです。すぐに行かないと。




「ただいまー」

「おかえりなさい、リッカさま。少し早いですね?」

「神さまから、アリスさんが待ってるって聞いたから」

「……え!?」


 アリスさんが顔を赤くして困惑しています。


「アルツィアさまが?」

「うん」

「私はお会いしてませんよ……」


 あれ? どういうことでしょう。


「す、少し待ってください」

「うん」


 アリスさんが考え込みます。


「確かに、呼んで……。あの時見られて? 私に隠れて……」


 アリスさんが小声で呟きながら状況を整理しています。


「アリスさん?」

「だ、大丈夫です!」


 アリスさんが勢いよく私に抱きつきます。


「わっ!?」

「さぁ、いつもの日課ですよ」


 ぎゅっと力を込めて抱かれます。いつもよりずっと強く抱きつかれて、色々と押し付けられてアリスさんの頬が私の頬に当たって。


(きょ、今日は……落ち着けないかも)


 アリスさんの心臓の音なのか、私の音なのかは分かりませんが、目がパチパチするほど、ドキドキしています。


 ぎゅーっと抱かれたまま、数分経ちました。


「はい、アルレスィアです」


 アリスさんが耳元で話し始めます。”伝言”を受け取ったようですが、抱きしめたまま受け取るのですね。


「どうしました?」

「――はい、分かりました」


 緊急の用事ではないようです。一安心しますが、耳元でこんな……。


「んっ……ぁ……」

「はい、伝えます」

「は、ぁ……」

「え!? 変な勘繰りは止めてくださいっ」


 アリスさんが突然大声をあげ、より強く抱きしめられます。


「あぅ……」

「あっ、ごめんなさいリッカさま……強くしてしまいました」


 ”伝言”を切って、アリスさんが離れ、私の頭を撫でます。


「うん、大丈夫。ちょっと、くすぐったかった、だけだから」


 少し息が荒くなってしまいます。


 ちゃんと、落ち着けたのかは分かりませんけど、目もしっかり醒めましたし、疲れも吹き飛んだように感じます。


「何の伝言だったの?」

「今日は、朝の鍛錬は無しの様です」

「そっか――ん?」


 じゃあ、さっきの”伝言”、ライゼさん?


「何か、変な勘繰りされてたみたいだけど……」

「お気になさらずに。ギルドで会ったら、一言申す必要ができただけですので」

「う、うん」


 アリスさんが、笑顔になります。目は笑っていませんけど。


 また、少し離れることになるのですね。でも、目の届く範囲ですし、ちゃんと我慢しないと。


「……」


 先ほどの笑顔と違い、本当の笑顔になって私の頭を撫でてくれます。


「うん」


 もう一度アリスさんに体を預けてから、シャワーを浴びに向かいました。

 神さまから、どんどん甘えるといいって言われましたけど、これだとただの依存ですね……。




「おぉ、来たか。あんさんらなぁ、いくら家の中は二人だけだからって――」

「ライゼさん」


 ギルドにつくなり、ライゼさんが呆れ顔で何かを言ってきますが、私には何の事なのかさっぱりです。


 アリスさんが魔力すら纏って、ライゼさんを威圧しながら端へ追いやっていきました。

 やっぱり、私の手が伸びそうになります。寂しがり屋な手ですね……。


「一体何をしたんでス?」


 シーアさんが椅子から立ち上がって私のほうにやってきます。


「ライゼさんが?」

「いエ、どちらもでス」


 シーアさんが私をじとっとした目で見ますが、ライゼさんが何かをしたから、アリスさんに追い詰められているんじゃ……。


「分からないんだよねぇ」

「何時ものリツカお姉さんで安心しましタ」


 シーアさんがやれやれ、と頭を横に振ります。何時もの私がどういう認識なのか気になるところですけど、非難されているわけではなさそうです。


「見た事がある光景ですね」


 アンネさんがやって来た頃、アリスさんがげっそりとしたライゼさんの下から帰ってきました。一体何に怒っていたのでしょう。


「結局、なんだったの?」

「しっかりと言い含めてきました。アンネさんと良い関係になって余裕が出てきたのか、ライゼさんの無自覚な物言いが目立っていましたので」


 ライゼさんが、何か失礼な事を言ったようです。それでアリスさんが怒った、と。何を言われたのか分からないので怒るに怒れませんが、アリスさんが解決したと言うのなら、私が怒る事はないですね。


「何をやらかしたんでス?」

「勘違いで、巫女っ娘の逆鱗に触れちまっただけだ」

「無自覚に軽口を叩くからでス」


 肩を落としてシーアさんに説明しています。アリスさんの逆鱗ってなんでしょう。


 アリスさんが怒った時。ダメです、私がやらかした時しか思い浮かびません。

 今回は違うはずです、たぶん……。



「本日は王都外の警備をしていただきます」


 アンネさんから今日の予定が発表されます。

 王都外警備は初めてです。


「巫女たちは王都内の方がいいんじゃねーか?」

「王都内も心配ですが、それ以上に外が気になります」

「そうですね。神誕祭中はずっと任せきりでしたから」


 魔王が何か痕跡を残しているかもしれませんし、動きがあったかもしれません。

 悪意関連は私たちしか、分からないのですから。


「では、ライゼ様は東門、ウィンツェッツ様は西門、レティシア様は北門、アルレスィア様リツカ様は南門をお願いします」


 南門は、牧場も範囲ですね。悪意が溜まっているかもしれません、見ておきましょう。


「大型出現の場合は私へ連絡をお願いします。すぐに増援を手配します」

「それでは、解散とします」


 会議を終え、各々移動していきました。




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