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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
22日目、しゃるうぃー?なのです
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舞踏会⑪



 事情を知らない者たちがざわついている。


 ただの付き添いで出て行ったのなら、疲労とか化粧直しとか言えただろうけど、いきなりリツカを抱きかかえて出て行くという珍事が起きたのだから仕方ない。


「すまん、俺が剣士娘に酒飲ませちまった」


 ライゼルトの告白に野次が飛ぶ。


 何してるんだよ! 何する気だったんだよ! お前にはアンネさんが居るだろ! と、変な勘繰りも多々ある。


「そんで? リツカ様は大丈夫なのか?」

「あぁ、巫女っ娘が連れて行った」

「そうか」


 防衛班の長ディルクが心配そうにライゼルトに確認をとる。


「大袈裟だな」


 ウィンツェッツが酒を飲みながら言う。


「お前もまだ飲める年齢じゃねーだろ」


 ライゼルトが頭をはたく。


「ってーな」

「人によっては一滴のアルコールすらダメな人が居ますかラ、気をつけるに越した事はありませン」


 頭を叩かれ悪態をつくウィンツェッツを、レティシアが諭している。そのチグハグな光景に突っ込む人間は、ここには居ない。


「リツカ様は心配ありません。パーティも、もうじき終わりです。最後までどうぞ、お楽しみください」


 アンネリスの言葉に会場のざわめきも収まる。


 リツカが帰ってくるまで、私もこちらに居るとしよう。

 今は、二人きりがいいだろうから。




「ごめん、記憶が飛んじゃってて……」


 頭がぼんやりしています。何かを飲んで、それで? 体の中にアリスさんの魔力を感じます、治癒をかけてもらったようです。


 体が、少し熱いです……。


「ライゼさんがお酒を持ってきてしまったんです」

「じゃあ私、酔ってたんだ」


 あの一杯の半分程しか飲んでませんが、記憶が飛ぶなんて。母も弱かったですが、私はもっとひどいのかもしれません。


「もう少し、涼みましょう?」


 アリスさんが優しい笑みで提案してくれます。

 ここは、すでに定番となっている、私が向こうの服に着替えた部屋です。

 窓を開けると、夜空が良く見えます。


「うん、もうちょっとだけ」

「はい」


 私の頬を優しく撫でながら、じっと見つめています。


「どうしたの?」


 余りにも優しく、丁寧に撫でるので尋ねてしまいます。


「いえ、こう、したいのです」

「そっか、じゃあ私も」


 まだ私は、少し酔っているのかもしれません。

 簡単に手を伸ばして、アリスさんの頬を撫でる事が出来ました。


「リッカさま」

「なぁに?」

「リッカさま」

「アリスさん?」


 私の名前を呼びながら、アリスさんの顔が近づいてきます。


「アリス、さん」

「リッカさま」


 アリスさんの顔が私の顔の横を通り抜け、強く抱きしめられます。

 強く、強く、抱きしめられます。


「ごめんなさい、少し、甘えてしまいました」

「――アリスさん」


 今度は、私から抱きしめます。


「どんどん、甘えて?」

「はい、リッカさま」


 耳元で囁いて、囁かれて、ほんの少しの静かな空間が、私たちを包み込みました。

 観客は星空だけとはいえ、恥ずかしいですね。




 会場へ戻ると、皆から安堵の視線を向けられます。どうやら心配させてしまったようです。


「ごめんなさい、酔ってしまったみたいで」

「元はと言えばお師匠さんのせいですシ」


 シーアさんがライゼさんを睨みながら言います。


「すまん」

「それで謝ってるつもりですか、ライゼさん」


 ライゼさんがカカカッと笑いながら謝りますが、アリスさんにも睨まれて頭を勢いよく下げました。


「お母様、お父様」

「分かってるわ、言ってないから安心なさい」

「理由は教えてくれぬのだろうが、もういいのか?」

「はい」


 アリスさんがエリスさんとゲルハルトさんと話をしています。何の話かは分かりませんけど、私のことでしょうか。


「リツカさん、大丈夫?」

「ありがとうございます。アルコールは抜けきれてない気がしますけど、アリスさんが治癒をかけてくれたので、頭痛や吐き気はないです」


 エルさんも心配そうにしています。アルコールは危険ですからね。私はまだ未成年ですし、どうやら弱いみたいですから。


「気をつけてくださいね?」

「はい」


 今後、飲まない方がいいでしょう。母の酔い癖を見ると、絡み酒の様ですし、迷惑かけちゃいます。


 絡み酒で思い出しました。


「私、絡んだりしてません、よね」

「巫女っ娘に甘えるように頬擦りしとったぞ」

「猫みたいでしタ」

「呂律が回ってないのか、可愛らしい言葉使いでしたよ」


 ライゼさん、シーアさん、エルさんから次々と痴態が暴露されます。


「……もう一生飲みません」


 母のこと、馬鹿に出来ませんね。


「巫女さんも少し飲んでいたようですけド、大丈夫なのですカ?」

「アリスさんは、酔ったりしなかったの?」

「はい、私は少しだけでしたから」


 シーアさんがアリスさんを心配します。私が酔う前でしたけど、確かに少し飲んでいました。


「アリスは強いと思うわ。私もこの人も酔った事無いから」


 エリスさんがゲルハルトさんを指差しながら補足してくれます。


 親が酔わないからっていうのはどうかと思いますが、母がアレで私もアレになったので、遺伝してしまうのでしょうか。


「リツカ様、お水です」

「ありがとうございます、アンネさん」


 水がおいしいです。お酒って喉渇くんですね。水っぽいですけど、水じゃないですし、当たり前でしょうか。


「アルレスィア様も」

「ありがとうございます」


 落ち着いて水を見ると、お酒とは全然違いますね。お酒ってどろっとしてます。おいしいものではありませんでしたし、何がいいのでしょう。


 母は、忘れたい時に飲むのよって言ってましたっけ。確かに、すぽんと記憶が抜け落ちてます。


「お酒って、怖いですね」

「リツカお姉さんが特別弱いだけでス」


 シーアさんが、ばっさりと切り捨てます。

 弱くたって、困りませんし……?


「あァ」


 シーアさんがトテトテと走っていきました。


「どうしたのでしょう」

「何か思い出したみたいだけど」


 アリスさんと考えていると。


「お二人さン」


 袋に包まれた棒を渡されました。


「これは?」

「渡そうと思ってたの忘れてましタ」

「開けても良いのでしょうか」

「はイ」


 開けてみると、赤い丸い物が出てきました。


「リンゴ飴?」

「確か、出店にありましたね」

「お昼に渡そうと思っていたのを忘れてましタ」


 まだひんやりしてます。赤い飴も、まだパリっとしてますね。


「氷で冷やしてましたから大丈夫なはずでス」

「ありがとう、シーアさん」

「リンゴ飴は初めてです」

「良かったでス」


 おいしいデザートですね。お祭り感があります。


「どう食べればいいのでしょう」


 リンゴ飴を舐めているアリスさんが首を傾げます。


「舐めたり、齧ったり?」


 アリスさんが齧ってみようとしていますが、中々減りません。


「ゆっくり食べる物なんですね」

「そうだね」


 三人でゆっくりリンゴ飴を味わって――。


「ごちそうさまでしタ」

「「え?」」


 シーアさんが棒だけ持っています。


「大食いというより、早食い?」

「ちゃんと噛まないとダメですよ?」

「これくらいぺろりでス」


 ドヤ顔でシーアさんが胸を張ります。威張る事では、ないと思うんですよね。



「これにてお開きとなります。皆さん、三日間ありがとうございました」


 コルメンスさんが壇上に立ちます。


「一人の犠牲もなく終えた事を嬉しく思います。全て、皆さんが尽力してくれたお陰です」


 お辞儀をしたコルメンスさんに、会場の全員が照れつつも拍手を送ります。


「明日から通常業務となります。これからもこの国に住む全ての者たちのために、力をお貸し下さい」


 拍手は更に大きくなり、神誕祭の成功を祝いました。


「ドレスやタキシード、スーツ等はプレゼントとなります。どうぞ、お持ち帰りください。持参していただいた方も、先着順ではありますが衣装室の物をお持ち帰りいただいて構いません」


 相変わらず、太っ腹ですね。あっても仕方ない物とはいえ。


「リツカ様とアルレスィア様、どうぞ来ていたドレスもお持ち帰りください」


 あの、白のミニと赤のハイ&ローの事でしょう。アリスさんに似合っていて可愛かったですね。どうせなら、白のミニも着てみて欲しいです。


「ありがとうございます、アンネさん」

「大事にしますね」


 いつかまた、着る機会があるのでしょうか。楽しみですね。



「ねぇアリスさん」

「どうしました?」 


 誰も居ない廊下を歩きながら、アリスさんに尋ねます。


「私、甘えてただけ?」

「え――」

「酔ってた時、本当に、甘えてただけ?」


 声が震えているのが分かります。

 記憶はありませんが、胸の痛みと、アリスさんの悲痛な顔だけはおぼろげながら覚えています。


「……」

「アリス、さん」


 言うか、言わないか迷っている、そんな表情で私をじっと見ています。


「えぇ、甘えてくれていましたよ。本当に」


 少々悲しみを含んだ笑顔で、教えてくれます。

 甘えた()()では、ないようです。


「そっか。ありがとう、アリスさん。私を支えてくれて」

「はい、リッカさま」


 アリスさんの腕を抱きしめ、小さい声で呟きます。

 どこまでも、私のために居てくれるアリスさんの優しさを感じます。

 そんなアリスさんに、言い出すことが出来ない自分の弱さに、蓋をしながら。


「ごめん、ね」

「待っています、何時までも」

「ありがと……」


 アリスさんが居ないと、私は簡単に、私でなくなるのでしょう。

 だけど、アリスさんは私の傍に居てくれます。


 アリスさんに、甘えっきりの私ですが、いつか……アリスさんにちゃんと、伝えたいです。

 本当の、私を――。




「楽しかったね」

「はい、本当に楽しかったです」

「ねぇ、アリスさん」

「はい」

「白いミニドレス、着て欲しいな?」

「リッカさまも、赤のハイ&ローを着てくれるのなら」

「じゃあ、帰ったら着てみよっか」

「はい」


 腕に抱きついている私の頬を撫でてくれながら、アリスさんが微笑んでくれます。より強く抱きしめ、その温もりを堪能しています。

 もう少しだけ、私たちだけのパーティを、楽しみたいと思います。



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