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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
22日目、しゃるうぃー?なのです
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舞踏会⑨



「行きましたね」

「えぇ、シーアが連れ出してくれました」

「それじゃあ、アンネ」

「はい。皆様、最後に――」


 同質の笑みを浮かべたエルヴィエールとエルタナスィアに、顔が引きつりながらもアンネリスは従い、来場者に伝えた。


 リツカの使命感を利用して、逃げ場をなくすために。



 連れ出されたのはお手洗いではなく、更衣室です。


「さぁ、着替えて下さい」

「え?」

「二人共です」

「シーアさん?」


 私とアリスさんは困惑します。


「いいから早くして下さいね」


 シーアさんがそれだけ言って出て行きました。


「なんだったんだろ……」

「分かりませんが、着替えないと出してもらえないようです」

「着替えよっか」

「また、選んでくれますか?」

「――もちろん」


 シーアさんの意図は分かりませんが、アリスさんと二人きりになれたのは嬉しいですね。


 今度のドレスは露出が無いものにしましょう。周りの人、お酒が入って理性のたがが弱くなっています。そんな人達の前であの格好は危険ですから。


 ドレスの種類が変わっています。どれも、ダンス映えするものばかりです。


(まさか……)


 踊らせたいのでしょうか。


「リッカさま、こちらはどうでしょう」


 アリスさんが取り出したのは、白のモダンドレス? ひらひらとしたスカートはベニーズなどの激しく動くダンスに映えます。


「赤の一緒のがあったから、アリスさんもそれにしよう」

「はい!」


 アリスさんが喜びながら赤の方を手に取ります。


 踊る踊らない関係なく、露出が少ないものに変えたいです。素肌に触れる部分を少なくしようと思ったらこれしかありません。


 白のドレスを受け取って着ます。受け取って気づきましたが、わずかにピンクが見えます。真っ白のドレスは、ないようですね。提案した赤も、薄い赤が混じっていてグラデーションの様になっています。


(踊ったら綺麗に見えるんだろうけど)


 アリスさんが誰かと踊るって考えるだけで、頭の中で激しく、何かが燃え上がりました。




「戻りました」

「それで、何を企んでいるんです?」


 着替えて戻ると、神さま、エルさん、エリスさん、シーアさんが笑顔で迎えてくれました。


「さぁ、踊りましょう?」

「お相手は誰を選びます?」

「そういうことだったんですカ」


 エルさんとエリスさんがニコニコとダンスを催促します。シーアさんは目的を知らずに手伝っただけのようです。


 ダンスのためのドレスを用意したのは、アンネさんですね。申し訳ないといった風に頭を下げています。


『相手は決まっているだろう?』


 神さまが笑顔で言います。そうですね。


「アリスさん」

「はい」

「こんな形になっちゃったけど」


 本当はもっと、ゆっくりと、しっかりと誘いたかったけど。


「私と、踊りましょう」

「でも、私は……」

「任せて。私の目をしっかり見て」


 アリスさんとなら、できる気がします。


「――はい」


 私の差し出した手に、アリスさんの手が置かれました。



「殿方たちは残念ね」

「期待していたようですけど」

「少し考えれば分かると思いますけド」


 誰が誘われても良い様に、会場の皆には話しを通していたようです。


『楽しみだね。何度かリツカが踊っているのを向こうで見たけど、ドレスは着てなかったし』


 神さまも楽しそうですね。

 見ていたのですか。



「アリスさん、深呼吸して?」

「は、はい」


 緊張してしまっていますが、深呼吸してもらいます。


「私の目だけを見て、ゆっくり呼吸をあわせるように」

「はぃ」


 意識が溶けあうように見つめあいます。


「――」


 音楽が流れ始めます。三拍子です。このために私から話を聞いていたみたいです。

 曲に合わせステップを踏み出します。私が男役。常に背筋を伸ばし、アリスさんを導くように、ナチュラルターンを踏んでいきます。


「……」


 アリスさんはまだ少し緊張しています。


「アリスさん」

「は、ぃ」

「神誕祭、楽しかった?」

「え、もちろん楽しかったで、す」


 話しながらはまだ難しいでしょうけど、楽しかった時を思い浮かべて欲しいです。


「楽しかった時を思い出して?」

「楽しかった、時」


 まだ呼吸が合っていないため、少しぎこちなさの出ているナチュラルターンを続けます。


「リッカさまと、一緒に歩いた街が、輝いて見えました」

「私も、アリスさんと一緒に歩けた事が楽しかった」


 一緒の想いで歩いた街は、いつもより綺麗で、楽しかったです。


「今も、楽しもう?」

「――はい!」


 打ち合わせなんて何もしてない、アリスさんはこの踊りを知りもしない。

 でも、私たちなら必要ありません。


 ナチュラルターンで大きくステップ、この時右足が相手の足の間にいくように、しっかりと。


 ナチュラルターンからバックワードチェンジNtoR、回転を逆にします。リバースターン、リバースフレッカール。二色のスカートが混ざるように、はためきます。


 くるくると回り続けるベニーズワルツ。息のあったベニーズは二人が溶けあうように見えるほど、美しく滑らかな舞となります。


 コントラチェックで回転を戻し、ナチュラルフレッカールからナチュラルターンへ。

 これを曲に合わせ行います。

 曲は最も激しい部分へ突入していきます。


「ちょっとペース上げてみよう」

「はい、どこまでも」

「うん、私が連れて行くよ」


 ゆったり目で動いていた足取りを激しくします。

 前、後、前。アリスさんと意識が溶け合ったかのように、足取りによどみはなく、ホールを縦横無尽に駆け回ります。


 今まで踊ったダンスがお遊戯の様に感じる程、洗練された、本物のダンス。アリスさんが私と一緒に、どこまでも着いてきてくれます。安心感と充足感が私を昂ぶらせていきます。


 アリスさんも慣れてきたようで笑顔が強くなってきました。いつかは私もアリスさんにリードされたいですね。


「リッカさま」


 アリスさんが悪戯な笑みで私の名前を呼びます。


「お願いね?」

「はい!」


 二度目のバックワードチェンジNtoRで私とアリスさんの役が変わります。 

 人生初の女役です。


「初めて」

「私も、リッカさまをリードしたかったのです」

「アリスさんになら、全部任せられるよ」

「お任せください」


 変則的な演目になってしまいましたが、私たちが楽しければいいのです。



 リツカとアルレスィアのダンスは、言葉を失くすには充分だった。


 初めはアルレスィアの緊張が伝わり、微笑ましいものであった踊りは、二人の意識が溶け合う程、通じ合う程淀みないダンスへとなっていく。


 回る向きが変わろうとも、止まることなく。激しくなろうとも躓くことなく。二色のドレスが交じり合い。ホールに一輪の、桃色の花が咲いている。


 リツカの動きに合わせアルレスィアが舞う。音楽に合わせ緩急をつける余裕も出てきたようだ。


 リツカとのダンスを充分に楽しんでいるとすぐに分かる笑顔で、リツカと見つめあいクルクルと回る。


 このダンスの仕掛け人である、エルタナスィアとエルヴィエールも、言葉を発する事が出来ない。右回り、左回りとターンを変えホール全体を使って動き続ける。


 途中で男役と女役が入れ替わるというトリッキーさを見せながらも、不自然さは欠片もない。むしろ、その際見せた笑顔と流れるような体捌きは一つのステップとなって上手く溶け合う。


 リツカと組んだ同級生たちが息を切らせるのは、リツカのペースにあわせるのが難しいからだ。リツカもあわせる事が出来ずに苦労していた。だから、体力のあるリツカ以外は立てなくなる。


 それだけでなく、リツカと急接近すれば、否応無くその美貌が近づく。女性すら虜にする微笑は、ただでさえハイペースの動きを更に激しいものと錯覚させていた。


 アルレスィアのように、楽しむ余裕すらなかったわけだ。


 アルレスィアは楽しんでいる。リツカと一緒に居れる事、リツカが自分を想っていること、リツカの呼吸を感じる事が出来る。確かに、リツカの顔が近くにあり、ドキドキしている。それでも、リツカの優しさと感情が直接流れ込んでくる感覚にアルレスィアは悦んでいた。

 

 リツカとアルレスィアは今、一つになっている。

 一輪の花の様に見えるだけでなく、心も一つに。



 曲もクライマックスです。


「どうだった?」

「楽しいです。もう、終わるのが勿体無いほどに」

「また、踊れるよ。私は傍に、居るんだから」

「はい、リッカさまと、また」

「アリスさんだけの、私だから」

「はい。私も、リッカさまだけの――」


 楽しい時間は短いです。本来ニ分程のベリーズですが、三,四分程踊りました。でも、一瞬で終わってしまったかのように感じます。


 アリスさんの体が離れていき、手を離しアリスさんが一回ターンして。

 お辞儀して、終わりです。


 一瞬の静寂の後、万感の拍手を浴び、また一つお辞儀してその場を離れました。



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