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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
22日目、しゃるうぃー?なのです
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舞踏会⑦


「体でかいのに、あまり食わねーのな」

「あ?」


 ウィンツェッツが、隊商護衛の際知り合った同僚たちと食事を食べている。


「今日は動いてねぇからな」

「子供達と遊んでたじゃねーか」

「巫女様達の尾行はやめたのか?」

「レティシアさんに何したんだよ」


 茶化すようにウィンツェッツに軽口を叩いていく。


「だから違ぇって言ってんだろ!?」


 ウィンツェッツがイジられている。しかしディルクから勘違いだと聞いていたため、本当に冗談なようだ。


「はぁ……二人とお近づきになれねーかなー」

「辞めとけ」

「なんでだよ」


 独身男たちの集いがアルレスィアとリツカの話題になったようだ。一人の言葉に男たちが頷いている。しかし、ウィンツェッツは冷めた目で切り捨てた。


「赤いのが守ってる巫女と巫女が守ってる赤いの、どっちを狙うにしたって無理って話だ」

「経験者は語るってやつか」

「襲ったのは本当らしいからな」

「襲うの意味が違ぇよ」


 忠告してやったのにそれかよ、とウィンツェッツがため息をつく。


「お前みたいに襲ったりしねーよ」

「話したいだけだ!」


 男たちは嘆きながら願望を口にしている。


「じゃあ行ってくりゃいいじゃねーか」

「行き成り行って変な奴って思われたらどうすんだよ!」

「それに天使の様な二人に声かけていいのかわからねーよ」

「近づくのも難しいわ」

「ヘタレどもめ」


 普段の二人相手でも、緊張したり、及び腰になって上手く喋る事が出来なくなったりと、まともに会話できない者達だ。今日の二人に話しかけるのは難しいだろう。生半可な覚悟では一瞬で意識をもっていかれるかもしれない。


「同じ空間に居られるだけで儲けもんだわ」

「それに二人に男が出来るなんてありえないしな」


 独身を拗らせすぎた男たちは周りの冷ややかな目に気づかずに居る。


(そんなだから女が出来ねぇんだよ)


 ウィンツェッツは呆れながらも、その場を離れない。それなりに馬鹿話を楽しんでいるらしい。




「陛下、女王陛下」

「お招きいただきありがとうございます」

「もう大丈夫のようですね」

「安心しました」


 来賓の方たちと話していましたが、挨拶は大事です。

 お二人にも心配されていたようです。安堵に顔をほころばせています。


「もう直ダンスも始まりますよ」

「お二人は、踊らないのかしら」


 コルメンスさんが予定を教えてくれます。エルさんも、エリスさんと同じ事が気になるようです。


「私が、踊れませんので」

「私は向こうの世界の踊りしかしりませんから」


 アリスさんが申し訳なさそうに言います。ですが、踊るような場面に出くわすなんて思いませんし、神さまも教えなかったのでしょう。


 私は、踊り自体は好きでした。でも男から遠ざけていた母や父は何を思って選択教科をダンスにさせたのでしょう。


「何より、リツカさんはミニドレスですし、踊るのは難しいですね」

「そうなのですか?」


 エルさんの言葉にコルメンスさんが首を傾げています。


「スカートが短いので、ねぇ?」

「そうですね」


 エルさんとアリスさんが呆れたようにコルメンスさんを見ています。

 すぐにでも思い至って欲しかったです。


「も、申し訳ございません」


 やっと思い至ったようで紅潮しています。


「それでは、初めから踊る予定はなかったんですね」


 エルさんが残念そうに尋ねます。

 私のドレスはアリスさんが選んでくれたものですが、どんなドレスでも踊る気はありませんでした。


「踊る事自体は好きですけど、息が合ってないのか、私の相手になった子たちは皆踊り終わった後、息を荒くしてへたり込んでしまうんですよね」


 そんなに激しく動いている訳ではないのですけど。


「……」


 アリスさんがまた考え込んでしまっています。先程と同じ理由なのでしょうけど、気になります。


「向こうのダンスがどのようなものなのかは気になりますね」

「三拍子の音楽があれば、踊れはしますが……」


 一拍子目にアクセントのある三拍子ならば、ベニーズワルツは踊れるはずです。


「そう、それなら――。ありがとう、リツカさん」


 エルさんが、シーアさんが見せるような悪戯を思いついた様な笑みを浮かべます。

 良い事では、なさそうですね。



「ご来場の皆様、中央を空けますので準備をお願いします」


 アンネさんから指示が出されます。踊らない方は立食パーティのままでいいみたいですね。


「まず、コルメンス陛下とエルヴィエール女王陛下に踊っていただきます」


 踊り始めて良いといわれても、急に踊るのは難しいでしょうから、コルメンスさんとエルさんが最初に踊る事で後に続きやすくする、って感じと思います。所謂デモンストレーションですね。


「では、エルヴィ様」

「はい」


 コルメンスさんがエルさんの手を下から取り、ホールの真ん中へ歩を進めます。


 少し緊張気味のコルメンスさんとは対照的に、エルさんは極めて優雅な足取りです。これから踊る女性たちはエルさんを参考にする様で食い入るように見ています。何人か熱い視線を向けているのが気になりますね。


 曲のテンポ踊りだしのステップからスロー・リズムに似ていると感じます。全てのダンスに応用できる、ホールド、フットワークの基本が組み込まれていいるため、お手本として踊っている面もあるようです。


 普段冒険者をやっていて、ダンスを踊る機会の無い方たちも、このダンスならばすぐに出来るでしょう。


 エルさんの髪がキラキラと舞、深いブルーのドレスが金の髪と混ざり合い輝きを纏っているかのようです。楽しげに踊るエルさんに緊張はなく、純粋な喜悦が見えます。


 コルメンスさんは、そんなエルさんに見惚れているように感じます。大人の女性に見えたエルさんは今、少女の様にステップを踏んでいます。完全に魅了されていますね。


「コルメンス様」

「はい」

「明日、楽しみにしていますから」

「っ! も、もちろんです」


 曲もクライマックスです。ですけど、コルメンスさんが最後の最後に動揺して躓きかけましたね。


 コルメンスさんとエルさんが踊り終え、お辞儀をします。

 大きな拍手が降り注ぎ、コルメンスさんとエルさんが中央を空けます。

 それを合図にしたように音楽が流れ出し、各々が、思い思いの相手と踊り始めました。


「アナタ」

「う、うむ」


「ライゼ様」

「あぁ」


 見知った顔の方も踊るようです。

 エリスさんとアンネさんは余裕を感じますが、ゲルハルトさんとライゼさんは大丈夫でしょうか。


「リッカさまも、踊りたいのではないですか?」


 アリスさんが少し落ち込んだ様に尋ねます。

 考え込んでいたのは、これだったのでしょうか。踊る事自体は好きと言った私の言葉に気を揉んでいたようです。


「確かに踊るのは好きだけど」

「では――」


 アリスさんが弱弱しく言葉を発します。きっと、踊ってきても良いと言おうとしているのでしょう。

 

「誰でも良いって訳じゃないんだ」

「そう、なのですか?」


 選択科目で色々な人と踊った事を聞いているので、アリスさんは疑問に感じているようです。


「私から誘った事はないから」


 お願いされて踊ったことは多くありますが、自分からは誘ったことありません。


「私の初めては、アリスさんに上げたいな」

「えっ!?」


 落ち込んでいたはずのアリスさんが勢い良く頭を上げ、頬をみるみる紅潮させていきます。


「ん? ――あっち、ちがっ!」


 自分の発言がいかに危ういものだったか悟ります。流石に私であっても一瞬で気づきます。


「ご、ごめん。また言葉足らずで……」

「い、いえ」


 かっこよく決めるはずが、何時もの様にドキドキしてしまいます。


「えっと、だからっ私の初めて自分から誘うダンスは、アリスさんがいいなぁって……」


 今日は無理でも、いつか私が教えて、一緒にちゃんと踊りたいです。


「――は、い。私も、初めての相手はリッカさまが良いです」


 アリスさんが頬を染めて、同意してくれました。


(私の失敗のせいで、別の……。)


 頭を強く振って考えを外に出します。こんな邪な考えだめです。

 ほんと、何で私はこんなに、ピンク思考なお馬鹿になってしまったのでしょう。




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[一言] 読者はそろそろ悶絶死するのではないだろうか
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