舞踏会③
会場には多くの冒険者が集まっている。ライゼルト、ウィンツェッツ、ゲルハルト、コルメンスもすでに会場で談笑していた。
談笑に興じながら、会場全員が楽しみに待っている事がある。
アンネリス、エルタナスィア、レティシア、エルヴィエール、そしてアルレスィアとリツカのドレス姿が見たくて仕方ないようだ。
特にアルレスィアとリツカは普段は”巫女”としての服しか着ないため余計にね。
『さぁ、どんなドレスで来てくれるのだろう』
私も、楽しみだ。
「んじゃ、俺は向こうに行く」
「あん?」
ウィンツェッツが一向から離れていく。何か目当てがあるのか、一直線に歩いて行った。
「何処行ってんだ、アイツ――」
「皆様お待たせしました、アンネリスです。これよりレティシア様、エルタナスィア様、エルヴィエール様、アルレスィア様リツカ様がご入場いたします」
アンネリスが壇上に立ち司会を務めるようだ。普段と違い薄い青のドレスで着飾り、メイクが施されている。
「ぉぉぅ……」
「アンネも気合が入っていますね。誰かに見せたかったみたいです」
「そのようですね。お相手は愛されてらっしゃるようだ」
ライゼルトはだらしなく顔を緩ませにやけそうになっている。そんなライゼルトにコルメンスは悪戯な笑みを浮かべ、ゲルハルトは微笑ましそうに目を伏せている。
「……」
アンネリスはライゼルトの反応がお気に召したようだ。嬉しそうにしている。
「レティシア様、エルタナスィア様」
まずは二人が入場する。白銀のドレスと黄のドレスが並んで歩いている。
オォ! と周囲の男たちが歓声を上げる。冒険者は主に男がやる仕事だ、この部屋にも男が多い。そのため部屋に舞い降りた二人の美女と美少女に喜んでいる。
ま、恋人や妻をつれて来た子たちは蹴られているけどね。
「あら、皆様ご一緒でしたの?」
「二名程だらしない顔をしていますヨ」
「私もアンネさんも普段はこんな格好しないから、仕方ないわ」
レティシアがライゼルトとゲルハルトをジト目で見ている。そんな二人を庇うようにエルタナスィアがレティシアを宥めている。
「……」
「アナタ、どうかしら?」
「う、うむ」
エルタナスィアが微笑みながらゲルハルトの反応を楽しんでいる。
彼女は結婚前は修道服で過ごしていたし、結婚式は慎ましく行ったためドレスなどは着用していない。普段は集落の者たちと同じ服を着ているから、ゲルハルトがドレス姿を見るのは初めてだった。
だからだろう。動揺しエルタナスィアを直視できない。
「ちゃんと見てください」
「お、おい」
うふふふ、とそっぽを向くゲルハルトの視界に入る様にエルタナスィアが移動していく。ひらひらとドレスの裾が踊り美しく煌く。
「エリスさんも楽しそうですネ」
「ゲルハルト殿の反応が楽しいんだろ」
レティシアがエルタナスィアの楽しそうな様子を楽しげにみている。ライゼルトがそれに反応する。
「みたいですネ。それにしても」
「ん?」
「お師匠さン、馬子にも衣装ってヤツですネ」
クふふふ! とニヤニヤとレティシアが笑っている。
「うっせぇ。そう言うあんさんは普段からそうしとった方がいいぞ。よぉ似合っとる」
「アンネさんに怒られてくださイ」
「まてまて! 口説いたわけじゃねぇぞ!」
レティシアがアンネリスの下に行こうとするのをライゼルトが焦りながら止める。
「冗談でス」
「あんさんの冗談は洒落にならん……」
レティシアは自身の格好に自信が持てていないようだ。しきりに周囲を見渡し気にしている。そんなレティシアに似合ってると言えば皮肉に聞こえていてもおかしくない。
レティシアは本気でアンネリスの下に行こうとしたが、ライゼルトがこの場で皮肉など言わないと思い直して止まったたけだ。
「エルヴィエール様」
アンネリスが次の入場を告げる。
ざわついていた周囲が入り口に注目する。
「国王さン」
「うん? なんだいシーア」
「早く行ってくださイ」
「どこに?」
「はァ……」
察しの悪いコルメンスにレティシアが呆れている。そして指をたて
「ちゃんとエスコートしてくださいよ」
「ちょ、ちょっと待っ――」
「氷と風よ、道となりてかの者を運べ」
「シ、シーア――!?」
「お姉ちゃんを悲しませないでくださいよ」
クふふふ! と笑いレティシアは手を振った。
レティシアの発動した魔法は氷の上を風の力で滑らせる移動用魔法だ。犯罪者に行った水の玉による運搬は服が濡れるため使わないで上げた。
「うわぁ!?」
「コルメンス様?」
「も、申し訳ございません。エルヴィ様」
エルヴィエールの前に投げ出される様に滑り込んだコルメンスは、レティシアの手によって強制的にエスコートすることになった。
「……皆さんのところまで、私がお連れ致します」
「えぇ! お願いします、コルメンス様」
覚悟を決めたコルメンスが手を差し伸べる。エルヴィエールは喜び、そっとコルメンスの手をとった。
「シーアに感謝しないと」
ぼそりとエルヴィエールが呟く。
「何か?」
「いいえ、何も。ちゃんとエスコートしてくださいね?」
「お任せください」
コルメンスのエスコートでエルヴィエールが会場の中央へ向かって行く。
緊張しないようにする、と覚悟を決めていたにも関わらずエルヴィエールのドレス姿と何時もより丁寧に施されたメイクに、コルメンスの覚悟は脆く崩れ落ちた。
「あーア、緊張しすぎでス」
「仕方ないわ。今のエルヴィ様相手に平静でいられる殿方なんて居ないわ」
「ですよネ」
コルメンスはエルヴィエールを見つめすぎて足元がおぼつかない。それでもこけることがないのは意地だろう。
周りの男たちは一言も発することなく二人の様子を眺めている。女性たちもため息で見ている。女性として勝てるところがない存在にお手上げといったところか。コルメンスに対する嫉妬もちらほらと見えるが、エルヴィエールの顔を見て嫉妬は諦念と変わっていく。
元々チャンスなど欠片もないが、コルメンスに向けている笑顔は入る余地などないと静かに、強く告げている。
「リッカさま」
「なぁに?」
「どうして、その色に?」
「……この色が、好きだったの」
「――」
「そろそろ行かないと」
「は、ぃ」
「アルレスィア様リツカ様」
さぁ、主役の登場だ。この場全てを魅了するのは分かっているが、人生初であろうメイクとドレスがどのような効果を生むのか気になるね。
「ん? 出てこねぇな」
「きっト、渋ってるんでス」
「何?」
ライゼルトが首を傾げている。それに応えるレティシアはやれやれと首を振って呆れている。ライゼルトに呆れているわけではないようだ。
「自分で選んだのにね?」
エルタナスィアは呆れながらもクスクスと笑っている。
「リツカさんも、アルレスィアさんのを見られたくないのでしょうね」
エルヴィエールは意味深な事を言いながらエルタナスィアに笑いかける。二人の事が微笑ましくて仕方ないようだ。
「なんだ、二人で選び合ったんか」
「えェ。お互い色だけ自分で決めテ、その後は全部お任せでス」
カカカッと笑いながら、アイツららしいとライゼルトが呟いている。シーアもその言葉に反論はないようだ。
二人らしい選び方で選び、お互い嫌な顔一つせず頬を染めながら微笑み合い、着たと容易に想像できる。でも、他人に見られるのが嫌なようだ。嫌なのは自分のドレス姿ではないだろうけどね。
扉が開く。どうやらやっと入場するようだ。
二人の晴れ姿だ、しっかり目に焼き付けよう。




