舞踏会②
『さて、私はここで待つとしよう』
楽しみは後にとっておくタイプだからね。
「二人はどんな服を着てくれるのかしら」
エルタナスィアも楽しみのようだ。
薄い銀のスレンダードレス。エルタナスィアの居る空間だけ漂白されたかのように輝いている。犯しがたい白がそこにある。普段綺麗なストレートヘアーは少しウェーブがかけられ大人の雰囲気を醸し出している。
「エリスさン」
「あらシーアちゃん。可愛いわね」
レティシアが少し恥ずかしそうに駆け足でエルタナスィアに近寄る。一人で居るのは落ち着かないといった様子だ。
青い髪に合う様に薄い黄色のプリンセスドレスだ。絵本から出てきたお姫様の様に愛らしい。普段適当に後ろで結ばれている髪は梳かれ、ストレートだ。
エルヴィエールにおもちゃにされていたのか疲れている。
「はァ……お姉ちゃんにずっとあーでもないこーでもないっテ」
「可愛い子のドレスアップってすごく楽しいのよ。どんどんやりたいことが増えていくから」
疲れて愚痴を言うレティシアにクスクスと笑いながらエルヴィエールの気持ちも分かると言うエルタナスィア。
「経験談ですカ?」
「そうしたかったのだけど……。でも、もしかしたら――」
「ン?」
レティシアの言葉に表情を曇らせながらも、ほんの少しの希望を抱きエルタナスィアが呟く。
その呟きの意味は分からなかったが、エルタナスィアの表情にレティシアは言葉を投げかける。
「よく分かりませんガ、巫女さんだけでなくリツカお姉さんでも遊べるんじゃないですカ?」
「あら、それはいい考えね。今から楽しみだわ」
レティシアが何気なく言った言葉にエルタナスィアは微笑む。
「じゃア、更衣室に向かいましょウ」
「えぇ」
アルレスィアとリツカの下に、二人の小悪魔が向かう。
(さて、アンネから連絡がきたしお二人の元に参りましょう)
エルヴィエールが悪戯を考えている顔で立ち上がる。
Aラインドレスだが、アンネのシンプルな物ではなく豪奢なフリルが施されている。色は青、深い海の色。綺麗なウェーブがかけられ降ろされていた金糸の髪はアップで纏められており、ラメが施されていないにも関わらずキラキラと輝いて見える。
「さぁ、どう彩ろうかしら」
楽しげに更衣室へ向かう。
「馬子にも衣装だな」
「そのまま返すぞ阿呆」
「まぁまぁ」
「元気な方たちだ」
ライゼルトがウィンツェッツの姿を見て茶化す。それを苦笑いで宥めているコルメンスと、呆れた目で見るゲルハルト。四人とも普段と違いタキシードで着飾っている。
「陛下、妻がどこに行ったか知りませんか」
「いえ、私には――。そういえば、先ほどアルレスィアさんとリツカさんが到着したようですよ」
ゲルハルトはエルタナスィアを探しているようだ。顔には出さないが今でも妻を愛している。まぁ、バレバレだけど。
コルメンスの言葉にゲルハルトは考える。
「そちらに向かったようですな」
「かもしれません」
「それならば、安心です」
「えぇ」
ゲルハルトの心情の変化だろうか、リツカを信頼しているようだ。
その信頼に間違いはないだろう。アルレスィアの両親もリツカの守るべき者だから。
「――」
「リッカ――」
扉の中から声が聞こえてくる。
「この中に居ますネ」
「えぇ、入りましょう」
「あら、二人も?」
レティシアとエルタナスィアが更衣室についた頃、エルヴィエールも到着した。
「お姉ちゃんもですカ」
「えぇ、せっかくだから遊――見繕ってあげようかと思って」
「私達も遊びに来たんですよ」
エルヴィエールは取り繕ったが、レティシアとエルタナスィアもそのつもりだった為笑っている。
「じゃア、あけますヨ」
レティシアが扉を開けるとそこには。
「ごめん、アリスさん……」
「いえ、少し横に――」
上半身裸のリツカがアルレスィアに抱きとめられている。リツカは少し息が荒く、肩を上下させている。アルレスィアの頬は上気し、リツカを強く抱きしめていた。
「ごめんなさい、お邪魔だったわね。でも、程ほどになさい?」
「しばらくここは立ち入り禁止にしておきますネ」
「あらあら、刺激的ね」
「ま、待ってください! 誤解です!」
誤解した三人を止めようとしてアルレスィアの手に力が入る。
「んっ……アリス、さぁん」
リツカの息が漏れ、甘い声音でアルレスィアの名前が呼ばれる。
「誤解には見えませんガ」
「えぇ、リツカさんの顔を見ても誤解とは思えないわ」
「はぁ……まだ早いわよ? ちゃんと順序良くなさい」
この時リツカは、周りの声など聞こえず。ただただ、アルレスィアだけを見ていた。裸で抱かれ、アルレスィアの柔らかい指がダイレクトにリツカを撫でている。二人きりで抱かれていた為、日課の様に気が抜けている。
リツカは今、蕩けきっていた。
「それで? どれを選ぶのかしら」
「ちゃんと誤解は解けたんですか?」
アリスさんがジト目でエリスさんを見ています。
私は先ほどの記憶が曖昧なのです。アリスさんがかっこよく見えて、柔らかくて気持ちよくて……。
「誤解も何もお二人ならそんなものかなト」
「何のことなの……」
「リツカさんもしかして意識飛んで?」
シーアさんは私達を見てニヤニヤとしてます。それに対してエルさんは私の状態を気にしてくれます。
「少しぼーっとしてしまいまして」
「あら、大丈夫なのかしら」
「はい。アリスさんが介抱してくれたようなので」
エルさんが心配してくれますが、体からはアリスさんの魔力を感じます。きっと治癒の跡です。毛布もかけてくれたようです。いくら女性だけでも裸のままは恥ずかしいですから良かったです。
「リッカさま、そろそろ選びましょう」
「うん」
アリスさんが座っている私に目線を合わせるように膝をつきます。ですが、アリスさんの方が低い位置に居るため、上目遣いの様になっています。
これが破壊力というやつでしょうか。ドキドキしてきます。
「どれを選ぶの?」
「そうですね」
エリスさんがドレスを見て回っています。
アリスさんに似合うドレスですか。
エリスさんは薄い銀色、シーアさんは薄い黄色、エルさんは青色。皆さん似合ってますね。エリスさんは白銀のようですし、シーアさんはお姫様、エルさんは深い海の様です。
(アリスさんには……)
何故か赤いドレスを着たアリスさんが思い浮かびます。赤は、言ってしまえば私の色なわけですが……。
アリスさんの色は白銀か白ですよね。でもそうなるとエリスさんと被ってしまいます。瞳は赤ですし、赤のドレスでもいいですよね。
「私は、赤がいいです」
「――え?」
アリスさんが頬を染めて赤を選びます。
「あら、どうしてかしら」
「……赤が好きだからです」
ぁ――。
「リツカさんは?」
エリスさんが満面の笑みで私に尋ねます。
意識がまた飛びかけましたけど、疲れではないです。
「私は……」
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