胸騒ぎ⑤
私は外の空気を吸おうと外へ出ました。宴会という物は初めての経験なので、ちょっと疲れが出たというのも、あります。
(……アリスさんの手料理)
色々と見たことない材料を使った、食べたことのない料理の数々でした。
牛豚鶏、どれにも当てはまらない燻製や香草焼きのお肉、一番近いのは鴨肉でしょうか。
果物を煮詰めたジャム。多分大麦を使ったパンとの相性が良かったですね。
鶏のよりも白身に味のついた卵の料理は、塩コショウが掛かっていませんでした。それであの、味わい深さ。
牛乳より甘みの強い乳製品は口に入れると溶けました。体温で溶けるチーズ……どんな調理法なのでしょう。
そして、あのスープ。
今上げた物が、アリスさんが作った物だそうです。どれもおいしかった……特にスープは、本当に何度でも頂きたい。何時もより多く食べた気がします。
アリスさんの料理は、私の舌に合わせて作ったんじゃないかと思ってしまうほど、ぴったりなのです。今日初めて会ったのだから、そんなはずないので……アリスさんの味覚と私の味覚は近いのでしょうか。
ちょっと、嬉しいかもしれません。
「んーーーっ。……ふぅ」
大きく伸びをします。
空を見上げると星が見えます……? 星座、見えませんね。オリオン座やうお座しし座。どれもないです。私が知らないだけでしょうか。
「リッカさま?」
アリスさんが外に出てきました。
「どうしました? アリスさん」
なにかあったのでしょうか。
「いえ、リッカさまが……見当たらなかったので」
私を探して……。
「ごめんなさい、ちょっと夜風に当たってました」
きまりがわるいので、苦笑いがでてしまいます。
「そうだったのですね、よければ高台へのぼりますか?」
「いいんです、か?」
見張りの場といっていましたけど……。
私が集会前に気になっていたからでしょう。戻る提案ではなく、集会前に私が気にしていた高台へ行くことを勧めてくれました。
「大丈夫ですよ。見張りの方もそろそろ戻ってもらおうと思っていたので、呼びにいくついでということで」
そういってにこりと悪戯を思いついた子のように笑います。
「はい、お供します」
私も、笑みがこぼれました。
高台へ続く道は人工的に削られていて、すぐに頂上へつきました。重機が入れそうにない幅です。人力で掘ったのでしょうか。
「皆さん、そろそろ下へ降りて御食事をどうぞ。今日はもう大丈夫でしょう」
アリスさんが見張りの方々に声をかけます。
「アルレスィア様、しかし」
畏まるように見張りの方たちは言い澱みました。
さすがに直、「はいわかりました」とは、なりませんよね。守る対象が目の前にいて、仕事やめてご飯とはいかないはずです。
「早くいかないと、ご飯なくなってしまいますよ。せっかく女性陣全員で作りましたのに」
それを聞いた見張りたちの目に光が灯りました。
「アルレスィア様も、おつくりに?」
この流れは……。
「ええ、私も微力ながらお手伝いを」
アリスさんがそう応えます。
「……わかりました。食べてきます。すぐ戻りますので!」
男たちは競い合うように降りていきました。
風のようにといった感じですね。
(現金、ですねぇ)
アリスさんの料理の腕前を思えば当然と言えば当然でしょうが、もやもやします。これは一体……?
胸の違和感を感じつつ空をまた見上げます。
先ほどより視界が開け、さらに空に近づいたことでより鮮明に見えるようになった星々が美しくきらめきます。
(星座の有無とか、どうでも良いや。すごくきれい)
隣をみると、アリスさんも空を見上げていました。
(このまま、ゆっくり時が進めばいいのに)
―――っ
チリチリと、空気が震えているような……そんな気配を感じます。見ればアリスさんも遅まきながら感じ取ったようです。
「―――リッカさま、申し訳ありません」
次の言葉はわかっています、だから……。
「アリスさん、急いで降りましょう。いやな予感がします」
この感覚は、なんでしょう……。初めての感覚……手の震えが出てきました。
食事処で曝されたアリスさんの戯れのような怒気とは違い……純粋な、殺気?
「―――まだ――――それを早く――――!」
アリスさんがつぶやいています。また”神さま”と何か話しているようですが、私はこの生々しい殺気に、それどころではありませんでした。