後日祭⑫
「ありがとうございます。リツカ様、アルレスィア様」
「いえ、たまたまですから」
アリスさんとアンネさんが話しています。
「アンネさん、少年がその犬を飼いたいそうです」
「では、検査の後ご両親を交え精査してまいりましょう」
「ありがとうございます!」
坊やが嬉しそうにお辞儀をします。両親の説得が一番難しいでしょうけどね。そこは、坊やが勝ち取るべきものです。
「ところで、お二人の袋はまだ空の様ですが――」
警報の様な音が鳴り響きアンネさんの言葉が遮られます。
「……しまった」
「はい、時間切れのようです」
アリスさんが苦笑いで私を見ています。私も、苦笑いになっているかもしれませんね。
「結局一つも拾えなかったんですネ」
「あはは……。はぁ……」
「残念です……」
シーアさんが呆れ顔でこちらを見ています。はぁ……。
アンネさんと別れ広場に戻ってきましたが、結局一つもゴミを拾えずじまいでした。
「仕方ないわね、私のを上げるわ。欲しいのでしょう? アクセサリー」
エリスさんが苦笑しながら私達にゴミの袋を差し出してくれます。
ですけど、不正をしているようで気が引けますね。
いえ、でも……。
「変なところで真面目ねぇ。どうしてそこまで?」
「アリスさんに上げるものですから自分の手で……あっいえ、なんでもないです!」
考え事をしていた事と、エリスさんということでそのまま応えてしまいました。
「あらあらぁ」
「そういう理由でしたカ」
「素敵ね」
エリスさん、シーアさん、エルさんがニコニコと見てきます。
「ぁ、ぅ……」
別に秘密って訳ではないのです。こんなに恥ずかしがる必要ないのです。
「私もリッカさまに自分の力で差し上げたかったのですけど……」
アリスさんが頬に手を当てため息をつきます。アンニュイなアリスさんも綺麗ですけど、それは三人に油を注ぐ事に……。
「……」
アリスさんが、赤くなって俯いてます。アリスさんも思わず言ってしまったのでしょうか。
「巫女さんが自滅してるっぽんですけド」
「いえ、あれはリツカさんが何かしたみたいね」
レティシアの呆れ顔にエルタナスィアが微笑んでいる。
「リツカさん、ですか?」
「アリスには分かりますから、全て」
エルヴィエールの疑問も尤もだろう。リツカはただ心配そうにアルレスィアを見ているだけだ。だから、エルタナスィアの意味深な言葉に、レティシアとエルヴィエールは首を傾げるだけだった。
「リッカさま、ここはお母様のご厚意に預かりましょう」
「そうだね……つあるなのアクセサリーも欲しいから」
アリスさんがまだ納得し切れていない様子で提案してくれます。
私も納得は出来てませんが、どうしても欲しいです。
「自分の手で掴み取りたかったよ……あの香りを」
「……」
「リツカ姉さんが何かしたっていうノ、分かった気がしまス」
「そうね、リツカさんが何か言ってあんなに顔を赤くしたんだもの」
レティシアとエルヴィエールがエルタナスィアの言葉に納得している。
「リツカさんは可愛いわねぇ。アリスが夢中になるのも分かるわ」
エルタナスィアは落ち込んでいるリツカを見ている。
「さっきみたいに、早く抱きしめてあげればいいのに」
抱きしめたいけど周りの目があるのを、今更気にしている娘に呆れていた。
「集まっとったか」
「もう回収作業を開始していますよ」
ライゼさんとコルメンスさんが戻ってきました。
「アリス、リツカさん。行って来なさい」
エリスさんが二つのゴミ袋を渡してくれます。
「これは?」
「私とあの人の」
アリスさんと一つずつ受け取りながら聞いてみると、ゲルハルトさんを指差しながら微笑んでいます。
「私達はいらないから、貴女たちでもらってきなさい」
「はい」
「ありがとうございます。エリスさん」
自分だけの力では無理でしたけど、欲しいものを手に入れるためには時には妥協も必要です。後はネックレスがもらえる事を祈りましょう。
「陛下だけでなく、女王陛下と巫女様方まで、ありがとうございます!」
美術館近くにある交換所で職員の方が深々と頭を下げます。陛下と女王陛下はともかく、私達は本来そんなに敬われる様な者ではないんですけれど、ね。
「それではこちらの中からお選びください」
見せられたのは、イヤリング、ネックレス、指輪、ブレスレット、カフス? でしょうか。
男性用もあったようですね。
「アリスさんはどれにする?」
「そうですね、リッカさまはどちらがよろしいですか?」
イヤリングかネックレスの二択ですね。イヤリングはノンホールタイプの様です。穴を開けなくていいのは嬉しいです。ネックレスには結構大きいつあるながついてます。色々な形がありますけど、この大きさだと戦うときに嵩張りそうですね……。
「ネックレスのつもりだったけど、イヤリングかな」
「そうですね、少し大きすぎましたね」
花びらの形をしたのが綺麗ですね。これをアリスさんに――。
「ほぇ」
「あら」
アリスさんと手が当たってしまいました。同じ物を狙った様です。それではあちらの月と太陽? の物を――。
「はぇ」
「あら」
また当たって。
「何をやってるんでス。その両方をもらえばいいじゃないですカ」
シーアさんに突っ込まれてしまいました。
「そうだね」
「それでは、こちらの二種をお願いします」
「アリスさん、どっちがいい?」
「そうですね。では――こちらを」
アリスさんが太陽と花びらの片方を取って渡してくれました。
なるほど、でも私としてはアリスさんの方が太陽なのですけど。
「私にとっての太陽ですから」
照れながらも、しっかりとした口調で理由を教えてくれました。私はまた、顔が赤くなっているでしょう。
それでは、アリスさんには月ともう片方の花びらを渡しましょう。
「私の光でアリスさんを照らしてあげるね」
月は太陽の光を受けて煌くそうです。それなら、私がアリスさんを照らして、この世界に燦然と輝く月としましょう。
……少し、恥ずかしいセリフすぎますかね。
「――は、ぃ」
アリスさんが、頬を染め呆然と私を見つめています。やっぱり恥ずかしいセリフすぎましたかねっ。
「あぅ……」
出た言葉は戻せません。もっとかっこよく最後まで決めたかったです。
「巫女さン、リツカお姉さんに中てられましたかネ。あんな恥ずかしいセリフを言うなんテ」
「あら、素敵だと思うわよ?」
「そうね、シーアもいつか分かる時がくるわ。想い人からの言葉ならなんでも嬉しいんだから」
「そういうものですかネ。でモ、リツカお姉さん自滅してますヨ」
「そういう所が良いんじゃないかしら」
聞こえてますよ、三人共。
そういった良さはどうなんでしょうね……。
「リッカさま、私がつけます」
「うん、お願いするね」
アリスさんに手渡して、サイドヘアーを耳にかけます。
「――。それでは」
「うん」
アリスさんの顔が近づいてきます。ど、どきどきしてしまいますね。
アリスさんの頬は染まったままです。顔が近いからでしょうか、息が聞こえます。ただつけてもらってるだけなのに、どきどきが止まりません。
「出来ましたよ、リッカさま」
「ありが、とう」
不意の接近に相変わらず弱いですね。
「次は、私ね」
「お願いします」
そう言うと、アリスさんもサイドを耳にかけます。普段隠されている首筋や綺麗な形の耳が露になっています。綺麗――。
「……」
アリスさんが少し俯いてしまいます。このままでは傾いていてつけ辛いですね。
「アリスさん、ごめんね」
「――え?」
アリスさんの顎に手を添えて、顔をクイと持ち上げ私を向いてもらいます。
「ぁ……」
「それじゃあ」
少し赤みがかった耳を触ります。耳たぶが柔らかく気持ちい――ってそうじゃないです。傷がつかないように慎重に、それでいてすぐ外れない様にしっかりと。
「終わったよ、アリスさん」
「は、ぃ」
アリスさんがじっと私を見ています。その目に熱がこもっている様に見えます。少し、艶があって色っぽいです。
「自分で、つけれる様にならないとね」
「そう、ですね。毎日つけるものですから」
意識してしまいますね。ただつけただけなんですけど……。
「……」
「……」
私が意識してしまったからか、アリスさんまで真っ赤に。
あぁ、夕方になりそうですね。これで私達の顔色も誤魔化せるでしょう。
「――」
「エリスさんが無言で笑ってまス」
「微笑ましいから仕方ないわ」
「はァ、それよりも帰宅組が多くなる頃でス。私は北門に行くので巫女さんたちは南門に行くように言っておいてくれますカ」
「聞こえてるよ、シーアさん」
「それなら構いませン。お願いしまス」
「うん」
「お任せください」
南門からより北門からの方が多かった気がします。シーアさん働きすぎではないでしょうか。広域魔法使えるシーアさんが人通り多い所っていうのは定石ですけど。
「私は一足先に王宮に戻っていますので、後ほど舞踏会にてお会いしましょう」
「王宮までは私がお守りしますのでご安心を」
エルさんがカーテシーにてお辞儀してくれます。シーアさんが守るなら万が一は無いでしょう。
「はい」
「また後ほど」
私達もお辞儀をしてそのまま南門へ向かいます。
舞踏会までもう少しですね。なんだかんだで楽しみです。
まずは安全な帰宅が出来る様に祈りましょう。帰るまでが遠足ですからね。




