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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
22日目、しゃるうぃー?なのです
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後日祭⑪



 広場にやってきてみれば、なかなかに。


「刺激的な光景ね」


 お姉ちゃんも同じ事を思っていたようです。一度は男女の睦言の方が~とか言っちゃいましたけど、前言撤回ですね。二人の方が危険です。


「エリスさんとゲルハルトさんが止めてないし、止めなくていいのかしら」

「どうでしょう。止めるに止められないとかでは?」

「ありえそうね」


 クスクスと笑ってますけど、頬が少し染まっています。そうなるのも無理はありません。私も少し目を逸らしたいです。


「とりあえず、近づいてみましょう」

「えぇ」


 止められないまでも、壁くらいにはなった方がいいでしょう。エリスさんとゲルハルトさんだけでは足りないようですし。



『アルレスィア、リツカ』

「は、はい!」


 神さまの、直接頭に響く声にびくっと肩を震わせ反応してしまいます。アリスさんの肩から顔を離します。


「ぁ……なんでしょう、アルツィアさま」

『あー、アルレスィア落ち着いて、きみ達を想っての事だから』


 アリスさんが少し名残惜しそう? な顔で私を見て、神さまに少しだけ語調を強くして応えています。それに圧倒される神さまが意味深な笑みを浮かべました。


「私達の、ですか?」


 アリスさんがその言葉に首を傾げます。どうやら落ち着いてくれたようです。


『きみ達まだ、ゴミ集めしてないじゃないか』


 ……あっ

 神さまが私達のゴミ袋を指差してクスクスと笑っています。


「ア、アリスさん」

「はい、急ぎましょう」


 とにかく、ゴミの多い所に出張しましょう。


「おや、元に戻りました」

「反応から察するに、アルツィア様から声をかけられた様だけど」


 シーアさんがエルさんと帰ってきました。

 ゴミ袋一杯に木材や鉄片をいれて。ちゃんと分別も出来ていますね。


「ごめんなさい、二人共。私達ちょっと裏通りに行って来ます」

「まだ一つも拾えていないので」


 それだけ言ってアリスさんと駆け出します。裏通りならたくさんあるって、ちょっと安直ですが仕方有りません。


「あっちょっと――」


 後ろからエリスさんの声が聞こえた気がしますけど、アリスさんに手を引かれていたので、止まることなく行ってしまいました。



『私に聞けばゴミがあるところくらい教えてあげるのに、真面目すぎるね』


 私の独白は聞こえない。はずだけど。


「アルツィア様に聞けば良いと言おうとしたのだけど」

「きっとお二人はそんなズルっこいのはしませんヨ」

「そうよねぇ」


 エルタナスィアは同じ事を考えたようだ。だけど、レティシアの言うとおり二人はそんなことはしないだろうね。


「だけど」


 エルタナスィアは更に続ける。


「裏通りにも、殆どないわよ?」

「そうなんですか?」


 広場の椅子に向かいながら言うエルタナスィアに、エルヴィエールがあらあらと困ったように応えている。


「仕方ないわね、もしもの時は私のを上げましょう。二人は欲しがっていたみたいですし」


 エルタナスィアの言葉に、エルヴィエールとレティシアが微笑んでいる。


「まァ、巫女さんは知ってるんですけどネ。少しでもいいっテ」

「少しくらいなら見つかるでしょう」


 姉妹もエルタナスィアとゲルハルトの後についていき、座る事にしたようだ。



「裏通りにもありませんね」

「エリスさんたち、もしかして裏通りからきたのかな」

「かもしれません」


 二人で途方にくれます。このままでは……。


 アリスさんが言うかどうか迷っているといった感じに考え込んでいます。


「リッカさま、実は少しだけでも交換は出来るのです」


 言うか迷っていたのは景品交換のルールのようです。少しでもいいのなら、希望はもてますね。本当は一杯集めたかったのですけど、ゴミがないのは嬉しいことなのです。


「でも、その少しすら……」

「まだ、北区があります。北東か北西ならばあるいは」


 北西、北東は出店がないので人は少ないです。ですが、普段の人通り自体は悪くありません。今回の祭り前のゴミがあるかもしれません。


「行ってみよう!」

「はい!」


 なんとしても、少しくらいは見つけます。アリスさんと交換するために、ちゃんと景品としてもらいたいですから。



「ワンッ! ワンッ!」


 北東につくと犬の鳴き声が聞こえました。王都内に犬、ですか?


「リッカさま」


 アリスさんが緊張感を纏います。何かが起きているとか関係なく、動物が国内に居るというだけで問題です。


「悪意は感じないけど、いつマリスタザリアになるか分からない」

「アンネさんに連絡します。私達は犬の確保を」

「うん」


 方針を決め、アリスさんが”伝言”を開始します。一歩ずつ近づきながら、気配を殺します。


「なんで犬がこんなところに……」

「昨日の地下闘技場では闘犬も行われていた様ですが、一匹行方不明だったので探していた、とアンネさんから報告を受けました」

「じゃあ、その時の子だね」


 無理やり戦わされていたでしょうから、気性が荒いかもしれません。マリスタザリアでなくても、人を襲う可能性もあります。何より、この世界で狂犬病の対策が出来ているか分からないのですから、確保は迅速に行わなければいけません。


「少し乱暴だけど、峰打ちで気絶させるね」

「はい、私は”光の剣”の準備を」


 刀の柄に手を当て”強化”だけ発動させます。犬相手に生身では捉えきれない可能性もあります。


 もしマリスタザリア化しても、アリスさんの”光の剣”で迅速に対応できるでしょう。

 

「ジャク、静かにして! 誰かきちゃう!」


 子供の声? でしょうか。


「アリスさん、誰かが保護してるみたい」

「そのようです。ですけど――」

「うん」


 犬は、私達の世界では良き友人として、家族として人気があります。きっとこちらでも、その忠誠心や愛嬌などでペットにしたいという人も多いでしょう。


 ですが、この世界では国内での飼育はできません。牧場のように王都外に作られています。


「ジャク!」

「ワンッ! ――グルルルッ!」


 男の子と、大きな犬が居ました。


 犬種は土佐犬の様にも見えます。子供と犬の大きさはほぼ同じです。闘犬に使われていたとのことですが、襲われていないどころか名前をつけて可愛がっているところを見るに、やはり無理やり戦わされていたのでしょう。見れば犬は怪我をしています。治療を施していたようですね。


 犬が私達の魔力に気づいたようです。


「こんにちは」

「!」


 少年が犬を庇うように私達を睨みます。


「み、巫女様……?」


 すぐに私達の正体に気づきますがそこに安堵はなく、絶望にも似た感情で顔が歪んでいます。私達が来た理由に気づいているようです。


「ごめんね。そのわんちゃんは、ここには居られないんだ」

「で、でも……怪我をして……」

「失礼しますね」


 怪我をしているから待って欲しいということでしょう。ですが、アリスさんが犬に近づいていきます。


 威嚇しているワンちゃんに近づくのを止めようとしますが、アリスさんが近づくにつれ、犬は唸るのをやめていき、大人しくなっていきました。


「大きな怪我はありませんけれど――」

かの者に癒しを(【ヒルテ】・イグナス)


 銀色の光がワンちゃんを包み込み、傷が癒されていきます。

 これで、怪我をしているからという言い訳は通用しません。


 理詰めのようで気が引けますが、平和な世界を約束した以上街中でのマリスタザリアを許すわけにはいかないのです。


「ごめんね、ぼうや」

「……」


 落ち込んでいます。


「きみのやった事は、偉いと思うんだ」

「え?」

「誰かに優しさを上げるって、結構出来ないものだから。それが例え動物であってもね」

「……」

「だから、きみには教えてあげる」

「なに、を?」


 せっかく優しく育っている小さな芽なのですから。潰してはいけません。


「あのわんちゃんも、魔王によってマリスタザリア、化け物になる可能性もあるんだ」

「うん、知ってる。巫女様達が言ってたことじゃないか……」


 それはそうですね。


「そうなった時、きみだけじゃなくきみの大切な人も犠牲になってしまう」

「うん……」

「きみの優しさは確かに偉いことだよ。だけど、手段を間違えたね」

「手段?」


 黙って育てるのは、この子の甘さです。きっと犬を飼いたかったのでしょう。


「そうですね。坊や、この国には飼育区画が設定されているんですよ」

「飼育、区画?」


 アリスさんが少年に笑顔を見せます。


「牧場の近くに犬や猫などを飼育するための場所があるんです」

「そうなの?」

「えぇ、ギルドへ申請した方にのみ教えているのです」


 他の方に教えては、悪意ある者が逃がすかもしれないですから。本当に動物を愛している方にのみ、飼育区画の事が伝えられます。


「坊や。この国は皆の願いにしっかり応えてくれます。ですからまずは相談しましょう」

「一人で解決できる事は少ないから、ね」

「はい……」


 足音が聞こえてきます、きっとアンネさんたちでしょう。


「申請しよう? わんちゃんもきみに懐いてる。ちゃんと両親と相談してからだけどね」

「はい!」


 落ち込んでいましたが、顔を輝かせています。


 一件落着ですかね。元々は地下闘技場事件の余波です。何事もなくてよかったと、ただただ安堵します。


 悪意を一身に受けてしまった犬がマリスタザリアにならなかったのは、不幸中の幸いですね。



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