胸騒ぎ④
「申し訳ありません、リッカさま……父と母がご迷惑を……」
アリスさんが私に謝りました。確かに疲れましたけど、不快感はありません。
「いえ、その、気にしないでくださいアリスさん。確かにその……衝撃的ではありましたけど、アリスさんが愛されてるのがわかって、微笑ましかったですよ」
お父様は厳格そうでしたし……お母様はその、ユニークな方でしたけど。どちらもアリスさんを大切にしているのがよくわかりました。
お父様の怒りも、納得出来る部分がありましたから……。
「―――はい。リッカさま」
アリスさんも落ち着いたようで、いつものように静々と、微笑みながら歩き出すのでした。
宴会の中であっても、アリスさんの所作には光があります。アリスさんの歩く所には、レッドカーペットが常に敷かれているように錯覚してしまいます。
「リッカさま、そろそろ御食事を食べましょう。すぐにご召し上がっていただきたかったのですけれど……挨拶が先になってしまいましたね」
「いえ、挨拶は大事ですし、これらを作っていただいのですから。ちゃんと礼は尽くさないと」
アリスさんは申し訳なさそうにしていますけれど、挨拶は大事です。集落長夫妻、ご両親への挨拶は、礼をつくせたかどうかは怪しいですけど……ちゃんとしないといけません。
ご両親には余裕のあるときに、改めてやりましょう。
「それに今でも充分おいしそうですよ。このスープとか」
数多く料理があるなかのそれを選んだのは、一番おいしそうだったからです。香りからもう、私の食指を刺激しています。
「んー! おいしいですよ! アリスさん!」
食べたことのない木の実や香草が使われていましたが、空腹のお腹に染み渡るような味でした。
木の実と香草の酸味と苦味甘みがちょうどいいバランスで。何かの動物のものと思われるスープによくあっています。
私の舌にぴったり合う料理。
「すっごくおいしいです。料理上手な人って憧れちゃいます、私料理だけは不得手で」
アリスさんを見ると、頬を染めていました。
「こんなおいしい料理作れる人が奥さんだと毎日の食事が楽しくなっちゃうでしょうね」
あまりのおいしさに、一人で盛り上がってしまいます。その美味しさと感謝をアリスさんに笑顔で伝えていると、アリスさんのお母様が頬に手を当てやってきました。
「あらぁ。アリス、よかったわね」
「お、お母様……」
アリスさんが照れています。
「そのスープ、あなたが作ったものでしょう?」
……私はゆっくりと、アリスさんに向き直ります。
「はぃ、私が、つくりました」
その後、私とアリスさんは頬を染めたまま、集落の人々との交流を続けました。