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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
22日目、しゃるうぃー?なのです
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後日祭②



「ぶぇーーっくっしょい!」

「うわぁ!?」

「あぁ、すまん」


 ライゼルトの豪快くしゃみが美術館警備の男を襲う。

 急成長した核樹を見に来たようだ。


「本当にでかくなっとるな」

「巫女様方が言うには、これ以上の成長はないとのことなので開放しております」

「あぁ、アイツらが大丈夫って言ったんなら大丈夫だ。神様の奇跡ってやつだからな、しっかり見てもらったほうが良い」


 副産物でしかない核樹の肥大化だが、わずか数時間で大木になった様は衝撃的だろう。


(アイツらの言葉だけでも十分だったろうが、神様のお陰で演説前までの空気は一切ないな)

(巫女ってだけじゃねぇ、アイツら個人を慕ってる感じだ)


 アルツィアの降臨は”巫女”の証明でしかなく、アルレスィアとリツカが慕われるのは言葉があったからこそだ。


 長い蕾の時期を終え、二輪の花となったアルレスィアとリツカの行く末を、世界が注目している。


「でかくなったお陰で持っていくヤツは居なくなっただろうが、削るヤツが現れるかもしれん。そっちに気をつけてくれ」

「はい、お任せください」


 ライゼルトの指示を出しその場を後にする。

 


(昨日の今日でするとは思えんが、一応見とくか)


 裏通りに歩を進めるライゼルトに”伝言”がかかってくる。


《ライゼ様よければ……》


 アンネリスからのお誘いだ。


「あ、あぁ。裏通りを確認後すぐ向かう」

《はい、お待ちしております》


 浮かれるなと言っておきながら、と思いながらもライゼルトの足取りは軽くなった。




「参りましょうか」

「えぇ、しっかりエスコートしてくださいね?」

「もちろんです」


 コルメンスとエルヴィエールも約束通り午前中だけでも楽しむようだ。


「二人も楽しんでくれているでしょうか」

「そうだといいのですが、彼女達は任務に誠実ですから……」


 アルレスィアとリツカを心配しながら王宮を歩く。


「広場で声をおかけしましょう」

「はい」


 きっと広場で祈りを受け続けているであろう二人に会いに行く。


 初日の午前中楽しんだと言っても警備ありきだったから、純粋に楽しめるように。

 リツカは警戒し続けるだろうけど、それでも認識を改めた街を感じて欲しかった。




「お母さんおはよ――」

「おはようじゃないよ、急いで準備しな」

「え?」


 学校が休みということでゆっくり起きてきたリタを急がせるロミルダ。


「リツカちゃんからの贈り物だよ」


 苦笑いで忙しそうにしている。

 三日目だけ開店するという予定を守り開けたところ――。


「アルスクゥラください!」

「花束で下さい」

「お土産用に!」

「どうやって育てるんですか!?」


 店先に溢れる人だかりがリタの目に入ってきた。


「なにこれ」

「二人があんなにも笑顔で受け取って喜ぶもんだから買いに来たんだってさ」


 客の一人から聞いた経緯を話すロミルダはため息をついた。


「リツカちゃんの言った通りになったね、まったく」


 そんなに多くない在庫を考えながら、ロミルダは苦笑いで頭を抱えた。




 広場で祈りを受けていると、アンネさんが来ました。


「何かありました?」

「いえ、こちらで待ち合わせとなりましたので」


 少し頬を染めて言うアンネさん、きっとライゼさんと見て回るのでしょう。


「そういえば、昨日捕まえた誘拐犯はその後どうなりました?」

「変質もなく、意識もしっかりしています。元々計画していた様で、やるかどうか迷っていたと」


 アンネさんが聴取の結果を教えてくれます。どうやら計画だけしてこちらに来て、そして悪意に侵されたようです。


 地下闘技場のものより、誘拐の時の方が大きかったのは今でも気になっていますけど……。


「個人の限界とも言える量でしたけど、溜め込む人だったんですかね」


 限界まで溜めて一気に爆発させる人って居ますし、そのタイプだったのでしょうか。小まめに発散させている人の方が悪意感染では軽症化しそうですね。


「心理的、精神的圧力を発散できる施設とかあれば、感染を抑制できませんかね」

「悪事を行う必要のない環境作りは必要かもしれませんね」


 私とアリスさんが提案してみます。


「国としても安定してきていますから、公共事業や競技といったものを充実させたいですね。先代のときに多くの失業者や文化が破壊されてしまいましたから」


 計画はあったようです。しかし、それを行うにはまず平和を創る必要がありそうですね。


「おや、アンネも一緒だったのか」


 コルメンスさんがエルさんと一緒に出てきました。シーアさんドッキリ作戦で城に篭りっきりだったみたいですし、最終日くらいはということでしょうか。


「アンネさんは、ライゼさん――」

「リ、リツカ様」


 アンネさんに止められてしまいます。もうバレバレなんですから良いのではないでしょうか……。


「お二人もですか?」

「えぇ、約束でしたので」


 アリスさんがエルさんに尋ねています。


「陛下と女王陛下まで――」


 祈りに来ていた方たちが、コルメンスさんとエルさんの登場に更に熱を帯び、お辞儀をしています。


「ありがとう、皆」

「ありがとうございます」


 二人が返礼し、頭を上げるように促します。


「アルツィア様もこちらに?」

「いえ、今は――」

『呼んだかい』


 コルメンスさんの質問に応えようとしたアリスさんに割り込む形で、神さまが帰ってきました。

 相変わらず神出鬼没です。


『まさに神さまだからね』


 ドヤ顔で私の心の声に応えてくれます。


「今は私の後ろに控えています」

「ありがとうございます。――おはようございます、アルツィア様」


 コルメンスさんのお辞儀に、エルさんやアンネさんも続けて挨拶をしています。


『ありがとう。アルレスィアとリツカ以外から、直接私に挨拶してもらえるのは初めてだ』


 嬉しそうにしているのが伝わります。神さまも楽しんでいるようです。

 やっぱり、会いたいんですね。


「ちゃんとお祭りを楽しんでくれていますか?」


 エルさんが少し困ったように笑っています。


「初日の午後は出店も回れましたし、楽しめていますよ」


 アリスさんが微笑みながら応えます。取り繕ったような感じではなく本当の笑みです。

 ですけど、他の方にはそうは見えなかったようです。


「よければ今から楽しんできてはいかがでしょう。少しくらいでしたら大丈夫かと」


 コルメンスさんが提案します。

 ですけど。


「先ほどクリストフさんにも応えましたけれど、私達は楽しめていますよ」


 アリスさんがクリストフさんに言った事を話して理解してもらいます。


 ですけど、私達のために言ってくれたことなので妥協点は必要ですね。


「それに、状況によっては私達が他を警備に行きますからその時にでも」


 アリスさんが最後にそう言うと、二人は納得してくれたようです。

 ”巫女”であると同時に、この国の選任冒険者なのです。


「ずいぶんと集まっとるな」

「そうですネ」


 商業通りの方からライゼさんとコーンと箸巻き? 二刀流のシーアさんがやってきました。コーン好きなんですかね。


「あぁ?」

「わっ。すごい……」


 西区からは兄弟子さんと、あの五人の少年たちですね。子守?



「何かあったのかしら……」

「陛下に女王陛下、英雄に巫女様たち――」

「あれは、レティシア様?」

「ほんとね、エルヴィ陛下もご一緒ですし何かあったのかしら……」


 周囲から困惑と焦燥が伝わってきます。この国と共和国の有名人が集まっている光景は異常でしょう。何事かと遠巻きに見ています。


「ご安心を、これより陛下、女王陛下、ライゼルトさん、アンネリスさんがお祭りを見学なさるそうです」


 アリスさんが機転を利かせて周囲に声をかけます。

 動揺は落ち着き、喜びにも似た感情が周りに立ち込めます。近くで見れることが光栄といった感じでしょうか。


「余りここで固まって居ても仕方ないですね、エルヴィ様」

「えぇ、それでは皆さん。また王宮でお会いしましょう」


 コルメンスさんとエルさんが先に歩き出しました。周囲に手を振りながら歓声に応えています。


「俺達もいくか」

「はい」

「あんさんらも適当に休めよ」

「えぇ、ライゼさんもしっかりアンネさんを楽しませてくださいよ」

「余計なお世話だ、馬鹿娘一号」


 私の軽口に苦笑いで応えながら、ライゼさんとアンネさんも行きました。もうデートしてた時のような緊張はないようです。


 周囲からはあの二人ってもしかして、といった黄色い視線が投げかけられていますね。


「おら、お前らいくぞ」

「は、はい」

「子守、ですか?」


 思わず兄弟子さんに聞きます。昨日の件を引き摺っているのでしょうか。


「あぁ……まぁ、俺も祭りを楽しめってこいつらがうるせぇからな」

「僕たちで誘いました!」


 どうやら違うようです。仲のいい兄弟って感じで微笑ましいですね。


「警備は私達に任せてください」

「あ、あぁ」

「ありがとうございます!」


 アリスさんも大分落ち着いたのか、兄弟子さんに告げました。まだ完全には信用しきれてない様ですけど、子供達が信頼している以上大丈夫って感じでしょうか。


「巫女様方、昨日はありがとうございました!」

「もう無茶しちゃだめだよ?」

「はい!」


 元気に頭を下げた子供達を連れて大通りにいきました。


 その姿に手を振りつつ考えます。


 これで警備の穴が増えましたが、昨日のような悪意は感じません。地下闘技場のように感じない上に大規模ということもありえるので注意は必要ですけれど。


 悪意限定ですが、範囲を広げてみますか。



ブクマありがとうございます!

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