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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
22日目、しゃるうぃー?なのです
218/934

後日祭

A,C, 27/03/17



「ゥグッ!?」


 うめき声を上げて兄弟子さんが倒れこみました。


「そこまでだ」


 ライゼさんが近づき、軽い治癒を開始します。治癒が必要ない程度には抑えましたけど、後に響いてはいけませんからね。


 アリスさんは今日も着いてきてくれています。アリスさんが見ている前で二日連続の醜態は曝せないので一撃で決めました。


 初めは心配そうに見ていましたが、動き出してからは一瞬だったので、ほっとしていますね。


 朝の日課として新しく加わった模擬戦。今日は兄弟子さんと私です。

 ですけど。


「流石に今の剣士娘とじゃ実力差が有りすぎるな」

「独学の限界ってやつですよ」

「あんさんが言うと重みが違うな」

「私は魔法のお陰で完成しましたけど、兄弟子さんは肉体を強くする術がありませんからね」


 ライゼさんと総評をします。


 私は魔法がないと、少し強いだけの女の子です。負けはしませんけど、普通ならライゼさんや兄弟子さんと闘おうなんて考えません。逃げます。

 アリスさんが危険ならその限りではありませんけれど。


「まだまだだな。少しは読めるようになったようだが、それじゃ対応できん」

「まぁ、経験が足りねぇな」

「あぁ……」


 ライゼさんの叱責に素直に応えます。まだ少し不貞腐れていますけれど。


「次は俺とお前だ、剣士娘は見てろ」

「はい」


 見るのも大事です。主観視点では見えないモノも有ります。


「お怪我がないようで安心しました」

「今日は怪我なく帰れるように頑張るつもりだから」


 アリスさんが笑顔で迎えてくれたので、力強く宣言します。

 


 その後何度か相手を変え試合をしていきましたが、ライゼさんの一撃が私の顔を掠ってしまいました。


 アリスさんが、乙女の顔を傷つけるなんて何事かと怒ってくれました。

 ライゼさんの背が低く見えるほど萎縮していたのが印象的です。

 どんなに傷ついても、アリスさんの治癒で跡形もなく消えるのですけどね。


 アリスさんが触れた傷のあった場所が、まだ少し熱を持っています。


 アリスさんが私のために怒っているということで、約束を守れず情けないという想い半分、嬉しさ半分で、頬が熱いです。


 今日は神誕祭最終日。終わりこそ注意が必要です。誰の犠牲も出さずに終わらせます。舞踏会も、少しだけ楽しみですけれどね。


 アリスさんのドレス姿見れるでしょうか。


「ライゼさん聞いていますか? リッカさまの綺麗で絹のような肌に傷をつけるなどどういうおつもりですか」

「ニヤけた顔で怒られてもな――」

「何か言いましたか?」

「す、すまん」

「いくら必要な事とはいえ限度があります」


 そろそろ止めましょう。帰って準備しなければいけませんし。




 ギルドには昨日までの慌しさはありません。

 多少の落ち着きと弛緩した空気が流れています。最終日ですから気が緩むのは仕方有りませんけれど、注意したほうがいいのでしょうか。


「おい、あんさんら。まだ祭りは終わってねぇぞ。今日は一番帰りの客が多くなる上に一斉に動くんだ。こういう時に事件ってのは発生するからな、気を引き締めろ」


 ライゼさんがギルドに入るなり檄を飛ばします。

 国の英雄からの叱咤に空気が引き締まりました。杞憂でしたね。


「気が緩むのも仕方ありませン。事件らしい事件が起きていませんかラ」


 シーアさんが遅れてひょっこりとやってきました。昨日は王宮でエルさんと過ごしたと聞いています。

 久しぶりの姉妹水入らずは楽しかったようですね、心なしか楽しげです。


「ただ細かい事件は起きていまス。塵も積もればというヤツですかラ、気を抜くべきではないでしょウ」


 気を引き締めるように言うシーアさんですけど。


「レティシアさん、今日も食べるんすか」

「もちろんでス、こちらをお願いしまス」


 昨日シーアさんを探していた冒険者の男性に財布とメモを渡しています。財布丸々?


「今日は一段と……。先輩も手伝ってくださいよ」

「いや、分担は必要だろ」

「俺らは警備係ってコインで決まったろ」

「あれ裏だけの失敗品だったじゃないっすか」


 シーアさんに捕まってしまったのが運の尽きです。最終日ですから食べ納めでしょうか。


 なんにしても……。


「シーアさん程ほどにね」

「はイ、あれでも抑えてまス」


 私の忠告にケロリとした顔でシーアさんが言います。

 そっか、シーアさんも我慢していたんですね。本当は自分で食べ歩きしたかったんでしょう。最後の最後に多めに頼むのは、仕方ないです。……たぶん。



「本日は最終日です。午前中はお祭り、午後は清掃となっております。ですが、皆様は今まで通り警備をお願いします」

「ただ、最終日ですのである程度は目を瞑ります。ご自身の判断で最終日の午前中だけでもお楽しみください」


 アンネさんからは飴が与えられます。飴と鞭でいいコンビですね。


 気を張りすぎてもいけませんし、少しくらいならいいでしょう。

 私はお祭り自体は初日に楽しめたので、アリスさん次第でこちらの警戒を広げます。


「それではお願いします」



 広場につくと、すでに結構な人が待っていたようです。大道芸の方々には悪い事をしてしまいました。結局、北口で歓迎するように披露しているそうです。広場にここまで礼拝希望者が来るとは、思いませんでした。巡回中に見つけられたら祈られる程度のものと。


「巫女様方」


 声に振り向くと隊商のリーダー、クリストフさんが居ました。隊商帰還後ギルドで感謝を頂いて以来ですね。


「お久しぶりです」

「何かありましたか?」


 アリスさんが一礼します。私は何かあったのかと思い問いかけます。

 クリストフさんは出店等の管理者ですから。


「いえ、その」


 何故か言い辛そうにしています。


「どうぞ、話してください」


 アリスさんが気にせず話すようにと言うと、クリストフさんが


「申し訳ございません。此度の広場での礼拝の多さは私に一因があるかもしれません」


 クリストフさんが頭を下げます。


 クリストフさんの言い分によると、隊商が向かった街は貿易が盛んで結構な街の人が行き来するということです。確か、お菓子と紡績でしたね。


 そして、その街に買い付けに行った際、私達の噂と一緒に私達の警備ルートと演説を前もってアンネさんから聞かされていたクリストフさんは、取引の際土産話にと話したそうです。その結果、広まりに広まって、今のように広場に人が集まるに至ったと。


「本当なら巫女様方にもお祭りを楽しんで欲しかったのですが、まさか広場に釘付けになってしまうとは」


 クリストフさんが後悔しています。ですけど、これは誰にも予想できませんでした。


「お気になさらないで下さい。私達は初日の午後楽しめましたし、今も楽しいですよ」

「そうですね。祭りって雰囲気だけでも楽しめますし、出店を回るのだけがお祭りじゃないですよ」


 祈りに来てくれた人たちが笑顔で喜びながら出店や美術館の方へ行く。それを見るだけでも楽しいですし、嬉しいです。


「ですから、頭をお上げください。クリストフさんのお陰で多くの人が私達の事を知ってくれたのですから」

「クリストフさんが私達のためにとしてくれたことですから、私達は嬉しいですよ」


 本当に申し訳なさそうに俯いているクリストフさんにお礼を言います。


「――ありがとうございます、アルレスィア様リツカ様」


 クリストフさんが再度頭を下げました。今度は感謝のために。

 


 クリストフさんがギルドへ帰っていった頃に、フッと後ろに気配を感じました。


『やぁ』


 神さまがひょっこりと帰ってきたようです。


 宿に一緒に居るものと思いましたけど、邪魔はしないよ。と笑いながら出て行ってしまいました。


 エリスさんと一緒のこと言ってましたけど、何の邪魔なんでしょう。


「おはようございます、アルツィアさま」

「おはようございます」


 私達がお辞儀をすると、周りの人もハッとし同じ方向へ祈りを捧げます。


『あぁ、おはよう。早速だけど真面目な話をしよう』


 神さまが真剣な顔つきで言います。


『舞踏会だけどね、アルレスィアは踊れないんだ』

「……アルツィアさま?」

「はぇ?」

『それだけだ、後は頼んだよリツカ』

「はい」


 そのまま大通りの方へ歩いていきました。


「リッカさま」

「う、うん」

「舞踏会とは、踊らなくてはいけないのでしょうか」

「んー、立食とか演奏に耳を傾けるとかだけでもいいと思うよ」


 神妙な面持ちのアリスさんに応えます。


 実際踊るのは、主役とかカップルとか夫婦が多かった様な。学校のお遊びみたいな舞踏会しか経験はないですけど。


「それでしたら、問題ありませんね」

「そうだね、見るだけでも楽しいと思うよ。今回はライゼさんとアンネさんも踊るだろうし」


 アリスさんが不安そうにしているので、別の楽しみ方を提案します。

 こういってはなんですが、ライゼさんは踊れないと思います。


「そうです、よね。こんな機会がくるとは思わなかったものですから……」

「だよね。私も本当に舞踏会に参加するなんて思わなかったよ」


 アリスさんが少しほっとしています。


 私もほっとしています。アリスさんが他の誰かと踊っているのを想像すると、胸が痛くなったものですから。

 神さまも厄介な事を……。あんな真剣な顔、丘の上でもあまりしませんでしたよ。



『さて、舞踏会が楽しみだ』

『また二人の慌てる様子が見れそうだね』


 思わず笑いが零れてしまうくらい、私は二人の事が好きなんだろう。



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