鎮魂祭⑮
「それでは、アンネ」
「はい、明日の日程を話します」
どうやらこの集まりは、これがメインのようです。
「午前中は軽く祭りの余韻を楽しんでいただき、午後は清掃行事となっております」
「選任の方はその間も警備をお願いします」
「その後十七時頃を目安に、全来場者の帰宅を終了させたいと思っています」
「皆様は十九時頃には王宮へ来ていただきます。選任、一般冒険者は王宮の大広間に集合となっています」
「慰労を兼ねて舞踏会などを予定しております。衣類はこちらで用意しておりますが、ご自身でお持ちの方はそちらを」
アンネさんによる明日の予定が先んじて発表されます。舞踏会ですか。一応学校の選択科目で踊りましたけど、こちらの踊りってどんなものでしょう。
「結構あっという間でしたネ」
「シーアさんは結局どれくらい食べたの?」
「お店の一つが三日目まで持たなくなるからと途中でお店を閉めましタ」
「……え?」
私の質問にさらりと恐ろしいことを言います。
「冗談でス」
「シーアさんなら本当にやってしまえそうですね」
「ちゃんと節制なさい? 子供の時は良くても大人になるとすぐ太ってしまうわよ」
アリスさんが楽しげに微笑み、エルさんはシーアさんを心配していました。
「それでは解散としましょう」
コルメンスさんの一言で解散となります。
各々別れていきます。
「アリスさんアリスさん」
「はい、参りましょう」
『リツカはブレないなぁ」
私が袖を少し引いてアリスさんに懇願します。それを快く受け入れてくれるアリスさん。神さまも微笑ましそうに見ています。
仕方ないです。待ってましたから。
「核樹ですカ」
「なん、でバレて――」
「あんさんがそんなに跳ねるのは巫女っ娘と核樹だけだろ」
シーアさんとライゼさんに突っ込まれますが、構いません。参ります!
シーアさんはエルさんと、ライゼさんはアンネさんと話すそうで三人で向かっています。
街に出ると一斉に視線が向きますが、昔のように疑惑や不信感は欠片もなく受け入れられた様です。演説の成功をひしひしと感じます。だからこそ、この信頼を失わぬよう頑張ろうと思うのです。
「あそこにアルツィア様も……」
「アルレスィア様とリツカ様と共に――」
「お二人は本物だった。長い神誕祭の歴史において、このような出来事はなかったのだから」
「生きているうちに神の威光を受ける機会があるなんて!」
「お二人の演説は素敵だった」
「私達のために平和な道を創ってくださると」
「巫女かどうかではない、アルレスィア様とリツカ様だからこそ」
「そうよ、お二人だからこそよ!」
「口だけはなく、行動で示してくださるお二人だからこそ、我々は誠実にならなければ!」
街では私達の話題で溢れています。気恥ずかしいですが、私達が掴み取った信頼です。
多くの人の支援を受け、私達はこの世界に根付く事ができました。後は、平和へ向けて背を伸ばし、笑顔という葉を芽吹かせ、平和な世界という大樹を完成させるんです。
その為にまずは――。
「核樹はどうなっているのでしょう。高く伸びているのでしょうか。天井がどれ程かは分かりませんが足りるでしょうか。光合成したいのではないでしょうか。葉はどれ程芽吹いているのでしょう、根はどうやって? あそこは大理石でした、きっと苦しんでいます。水をあげなければ。神さまが居る間だけの夢幻なのでしょうか、急ぎましょう!」
目の前にあったのに見れなかったということが私を抑圧していたのでしょう。止まりません!
『あの、アルレスィアサン。私を睨まないでおくれ。リツカの気持ちは分かっているだろう? 核樹よりきみ――』
「そう言う問題ではありません!」
『あぁ――すっかり恋する乙』
「アルツィアさま!」
『ごめんごめん』
「神さまがアリスさんを怒らせたんですか?」
『急に素に戻らないでおくれリツカ。情緒不安定を疑われるよ?」
「神さま?」
「アルツィアさま?」
『あぁ、やっぱりきみ達といると飽きないね』
和気藹々としながら、美術館に向かいます。
美術館に人だかりが出来ています。どうしたのでしょう。
「巫女様方! どうかお助けください!」
美術館につくと警備の方が困惑していました。
「どうなさいました? この騒動は――」
「アルレスィア様だ」
「リツカ様だ」
「ではアルツィア様も――」
アリスさんを見て一斉に祈る人たち。今回は、私にも捧げているようです。
祈りを受けた後、警備の方と話します。
「実は核樹の欠片が急成長と言いますか、大きくなりまして。安全のため閉鎖している次第でございます」
確かに、急成長に巻き込まれては大変ですからね。
しかし、これはじっくり見るチャンスです!
「分かりました。では、私達が見てまいりましょう」
アリスさんが私を見てクスっと笑ったかと思うと、そう切り出しました。私の気持ちを汲んでくれたようです。
「ありがとうございます!」
警備の方が頭を下げ、門を開けてくれました。
「ありがとうアリスさん」
「いえ、ちゃんと確認しないといけないのも事実ですから」
アリスさんが少し嬉しそうに顔を綻ばせますが、すぐに引き締めそう言います。
『謙遜しなくていいんだよ、アルレスィア。解決させるだけなら私に聞けば終わり――』
「アルツィアさま」
『余計な事だったね』
意地悪な笑みで指摘する神さまを遮るアリスさん、そんなアリスさんを微笑ましそうに神さまが見ていました。
謙遜するアリスさんがあまりにも可愛いので、アリスさんの腕に抱きつきます。
「リ、リッカさま」
顔を赤くするアリスさんですが、きっと私の方が赤いでしょうね。少し大胆すぎた気がします。
「わぁ」
思わず声が出てしまいます。礼拝堂のような広さと高さを持つ美術館の最奥に核樹が捧げられていたのでしょうけれど、その台座を押し潰すように根を張らせ、上へ上へと伸びた核樹はまさに――。
「木に、なってる」
欠片とはもう呼べません。本当に、第ニの核樹となっています。
いえ、正確には第三ですか。
「”神の森”の核樹くらいの力を感じる」
たった数時間でこれほどの成長をした上に、この力強さ。圧巻です。
「触ってもいいですよね?」
『この国に授けたものだけれど、構わないよ。巫女以外でも大丈』
「わーい!」
『リツカサーン』
神さまがまだ何か言っていましたが、待っていられませんでした。
肌触りも力強さも、香りもノックした時の音まで完璧です! ここに新な核樹が誕生しました。
『四日間だけだよ』
「えぇ……」
四日だけの命なんて……。
「どうして、あそこまで」
『それは本人から聞いて欲しい。ただ、今私から言えるのは――あの子は核樹だけじゃ満足できないってことだけだよ』
「どういう――」
『何れ、あの子が気づけば分かることだよ』
これは自分で気づかないとダメなんだ、アルレスィア。
『成長はここで止まっている。これ以上大きくなることも小さくなることもないよ』
「礼拝堂の三分の一が埋まってしまいましたけど、問題ないでしょう」
「そうだね。むしろ神さまの存在を強く感じられるし、早く開放して参拝してもらおう」
「はい」
警備の方に説明して、多くの人に見てもらいましょう。
事情を説明し開放されると、門の前で待っていた方たちが入っていきました。
アリスさんが一言、前の方を押すことなくゆっくりお願いします。と言うだけで皆が言うとおりにしてくれます。怪我人は出ないでしょう。
神誕祭が何度目かは分かりませんが、多分初めての出来事となるでしょう。後世まで伝えて欲しいです。神さまに選民意識などなく、誰であっても愛してくれるのだと。その証として、核樹の欠片があるのだと。
「今日も完全に平和という訳ではありませんでしたけれど」
「そうだね……。でも、きっと多くの人が考えを改めてくれたはずだよ」
「はい。前に進むために、真っ直ぐに、人を思いやって」
アリスさんと手を繋いで、街を歩きます。まだ人が残っており、何か起きるかもしれないので。
「完全な平和は難しいかもしれないけれど、少しずつ良くなっていくはず」
「はい、私達がその先駆けとなれる様に」
微笑みあって、前に進みます。私達が認められた日、この日を夢にしないために。
核樹は四日でなくなりますけど、平和の木を残すために私達が”光”となるのです。
少し、強くアリスさんの手を握ります。私自身の覚悟が揺らがないために。
アリスさんはそんな私の手を優しく、握り返してくれました。




