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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
21日目、ほんの少しの奇跡なのです
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鎮魂祭⑨



 広場にはアリスさんを待っていた人たちで埋まっていました。アリスさんを視認すると、一斉に祈り始めます。


 祈りを終えると、演説のためにここを後にすることを述べました。


 ざわめきが広がりますが、アリスさんが歩き出すと再度祈りの形を取ってくれました。どんなことを話すのか楽しみといった様子ですね。


 ……まるで他人事のように言ってしまいましたけど、私もでした。


 話すことは決まりましたけど、ちゃんと緊張せずに言えるでしょうか。とにかく今は、皆さんと最終確認を行いましょう。


 シーアさんの反応は見たいですね。関係者席のようなものが用意されているのなら、そこに居て欲しいです。


 門に向かうと何時もの様に顔パスでした。こんな日くらいは、身分証確認したほうがいいんじゃないでしょうか。いつも言ってますね、これ。



「失礼します」


 通されたのは執務室です。


「こんばんは、どうぞ腰掛けてください」


 コルメンスさんに招かれ、二つあいている席に腰掛けます。コルメンスさん、エルさん、私、アリスさん、エリスさん、ゲルハルトさんで円状に座っています。


 アリスさんがどちらに座るか迷ったようにしていましたけど、エリスさんの方に座りました。何に迷っていたのでしょう。


「そんなに心配しなくても、誰が見てもリツカさんは――」

「お母様、今日は御ふざけ無しです」


 親子の会話をする二人を、コルメンスさんたちは微笑ましく見ていました。私はというと、私の名前が聞こえたので気になって仕方ないのですけれど。


「最終確認と言っても、流れの確認です。演説内容は皆様にお任せいたします」


 アンネさんが司会をします。

 今更ですけど、やっぱりおかしいですよね。


 普通はもっと、演説の内容まで精査すると思うのですけれど。私の内容はあれでいいのでしょうか。今朝のことを話そうと思っていますが、あれは話していいものでしょうか。


「では、まず鎮魂祭開始を私が宣言します」


 アンネさんの声に、私の思考はとりあえず休止します。


「その後、来賓の方の紹介です。皆様もその際壇上に上がってもらいます。順番としましては、コルメンス様から上がりまして、ゲルハルト様エリス様、アルレスィア様リツカ様、そしてエルヴィー女王陛下となります」

「その時に皆様のご説明を入れますので、少々時間がかかります。ご了承ください」


 初めて見る人も居るでしょうから、必要ですね。このときにシーアさんが吃驚するわけですね。


「シーアさんはどこに居るんでしょう」

「恐らく一番見晴らしの良い、お二人の宿の屋上かと」


 私の何気ない質問にアンネさんが、やけにハッキリと応えてくれます。

 屋上ですか、確かに良く見えましたね。


「楽しみですね」


 本当に楽しそうにクスクスとエルさんが笑います。今の今まで、完全な隠蔽工作を重ねて、この時のためだけに準備してきたサプライズです。成功させたいですね。


「演説というわけではありませんが、私から鎮魂祭の起こりなどの説明を入れさせていただきます。その後演説となりますので、お願いします」


 コルメンスさんの説明で現実に戻ります。演説、覚悟してたはずなのに……。


「演説後祈りを捧げ、終了となります」


 特別なことはあまりないようです。


「時間までもう少しあります。気楽にいきましょう」


 コルメンスさんがニコリと笑い締めます。

 気楽にはいけそうにないですねー。




「ここなら良く見えまス」


 ()()()()()()()()()()()()()場所です。


「まだ時間があるな、何か買って来てやろう」


 あの後子供達と分かれて今は私とお師匠さん、花屋の方と宿の支配人さんだけです。


「メモを渡すのでこれをお願いしまス」

「あぁ、どれどれ……本気か?」

「えェ、大いニ」


 それでも抑えているほうですよ。


「良く食べる嬢ちゃんだね。あんたのとこで用意してやりゃいいじゃないか」

「流石に、レティシア様に無料で渡しては店が傾きますので」


 そんなに食べるのかい? と楽しげに笑う花屋のお姉さん。確かリツカお姉さん達が働いていたはずです。()()()の一人でしたね。


「どんな話をしてくれるのでしょウ」

「私はやっぱり心配しちまうねぇ」

「ご心配は分かりますが……」


 花屋お姉さんは心配してますね。私も少しだけ心配です。

 でも――。


「リツカお姉さんはやる時はやりまス」


 それに巫女さんが隣に居るのですから、大丈夫でしょう。




「では、参りましょう」


 コルメンスさんが立ち上がります。

 しっかりしないといけませんね。


「武器は、置いていったほうがいいですね」

「えぇ、不安ではあるでしょうが、出来れば」


 コルメンスさんが申し訳なさそうに言います。


 アリスさんの杖は持ち込んでも大丈夫でしょう。それなら、一大事にはなりません。不安ではありますが、周りにはライゼさんやシーアさんも居るのです、武器を持ち込んで不安を煽るようなことはしてはいけません。


「いえ、大丈夫です」


 刀と剣を置いて、部屋を後にしました。

 



「皆様、お待たせいたしました。これより鎮魂の儀を始めます」


 アンネリスの中継と放送が街中に響き渡る。


「ご来賓の方に登壇していただきます」


 アンネリスの言葉で一人ずつ壇上に上がっていく。


「国王陛下、コルメンス・カウル・キャスヴァル様」

「神林集落より、此度の災いに際しお越しいただきました。ゲルハルト・クレイドル様、エルタナスィア・クレイドル様。巫女であるアルレスィア様のご両親でございます」


 登壇したエルタナスィアが手を振る。一部の女性からため息が漏れ、男性達は釘付けになる。ゲルハルトはそんな男達を力強く見ていた。


「そして、神林集落より、巫女アルレスィア・ソレ・クレイドル様。こことは異なる世界より、巫女ロクハナ リツカ様」


 多少のざわめきが起こっていた街が静まり返る。ある者は二人を神に愛されていると称する。それほどまでに、二人は美しかった。


 赤と銀が並び、二人の赤い瞳が世界を照らすかのように輝いている。一枚の絵画を見るかのように、皆見入っている。


 広場で見たときとは違う印象を抱くことだろう。人々のために祈っていた二人は柔らかい表情をしていた。しかし今は、責任感と緊張によって引き締まった顔をしている。


 男女関係なく、二人の少女に魅了されている。


「リツカ様は、アルツィア様によりこことは異なる世界からやってきました。この世界の危機に際し、アルレスィア様と共に救世主としてこの場に居ます」


 アンネリスの説明に広場にいる信徒たちが祈りを捧げる。


「最後に――」

「まだ居るんですネ」


 足をぱたぱたとさせながらレティシアが見ている。


「最後は誰でしょ――」

「フランジール共和国より、女王陛下、エルヴィエール・フラン・ペルティエ様」

「……え?」

 

 ニコニコと手を振りながら登壇し、カーテシーでお辞儀をする。その姿は堂々としている。


 アルレスィアとリツカの後にも関わらず、周囲の反応は遜色ない。

 そんなエルヴィエール、アルレスィア、リツカは一様にある方向を見ている。


「ま、まさか……!」


 レティシアがそんな三人を見ながら立ち上がる。


「この私に()()を仕掛けるなんて!」


 共和国語で糾弾しながらも、隠しきれない喜びがその顔にはあった。なんだかんだ言っても十二歳の少女だ、寂しかったのだろう。


「いい顔しちょるな、魔女娘」


 カカカと笑いながらライゼルトが戻ってきた。言葉は分からないが、顔を見ればすぐ分かるといったところか。


「乙女の顔をマジマジと見るなんてヘンタイさんですネ。その商品はお師匠さんの奢りでス」

「なん、だと……?」



「大成功ね、元気そうな顔が見れてよかったわ」


 クふふふ、とアルレスィアとリツカにも聞き覚えのある笑いでエルヴィエールが喜んでいる。


(シーアさんの笑い声、エルさん譲りなのかな)

(でしょうね。すごく嬉しそうですし、思わずって感じですけど)


 アルレスィアとリツカも、そんなエルヴィエールとレティシアを見て微笑んでいる。

 その表情だけ見えている観衆は、三人の表情の変化に気づき、更に息を呑むのだった。


「エルヴィエール女王は、革命の際コルメンス陛下を支援し、この国の平和を取り戻した立役者の一人です。兼ねてより神誕祭の参加を希望しておりましたが、此度の巫女様たちの来訪に合わせて参加となりました」


 アンネリスの紹介に軽く手を振るエルヴィエール。


「それでは、国王陛下よりお言葉がございます」



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