鎮魂祭④
まずはギルドに行きます。今日の予定を聞かなければいけません。昨日の状況を考えると、私たちは大通りにはあまり行けそうに無いですから。
今日の出店はそこそこのようです。鎮魂祭であることを重視しているため、娯楽な部分が減っています。それでも全く無いというわけではないようです。大通りにはちらほらと見えます。持ち回りで担当が決まっていたりするのでしょうね。
出店の変わりに鏡が置かれていました。すごく大きな鏡です。六十インチテレビくらいはありそうです。きっとこれで演説を見せるのでしょう。広場に入れる人は限られているでしょうから。
「本日も基本は変わりません。ですが、昨日予想以上に巫女様たちへの参拝が多かったので、申し訳有りませんがお二人には広場で皆様を迎えていただきたいのです」
アンネさんが今日の予定を言います。
移動を繰り返していてはいらぬ混乱を招きますからね。
「分かりました」
アリスさんが頷きます。
「夕方からは演説が行われます。目立つ位置に陛下たちが立ちますので注意してください」
「では、本日もよろしくお願いします」
アンネさんの号令で散り散りになります。
要人暗殺を考えると、演説中が一番警戒しなければいけません。でも、壇上に私達も居る以上、もしもは絶対に起こさないと約束します。
「巫女さんは大丈夫でしょうけド、リツカお姉さんはちゃんと演説は考えてきたんですカ?」
「まだ……」
シーアさんが現実を突きつけてきます。
「ずっと考えてるけど、何を言えばいいのか分からない」
「私も正直なところ、まだ纏まっていません」
アリスさんも困っているようで、二人で考え込んでしまいます。
「なんならリツカお姉さんはまた」
「シーアさん」
アリスさんがシーアさんを遮ります。
また、なんでしょう。アイドルっぽくやればいいってことでしょうか。二度としません!
「まァ、お二人ならなんとかなるでしょウ。でハ、私は市場を通ってからいきまス」
手を振って駆けて行きました。
「私たちもいこっか」
「はい」
演説のことは、なんとか夜までに考えましょう。
後ろでライゼさんとアンネさんが話しています。昨日よりも距離が近く、ぎこちなさは消えていました。結婚は近いかもしれません。
結婚式、どんな風なんでしょう。って、気が早すぎますね。付き合い始めたかどうかも私の想像でしかありません。あの様子だと初デートですし、ただ単に仲良くなっただけの可能性も……? ライゼさん奥手ですからねぇ。
「皆さんの此れからが穏やかでありますよう、願っております」
今日も多くの人が祈りを捧げにやってきました。鎮魂祭ということもあってより熱心に祈っています。
アリスさんが大虐殺の真実を神さまから聞くまで、聖伐説派と大虐殺説派で分かれていました。大虐殺説を唱えた賢王様を愛していたこの国では、大虐殺説を推す人が多かったようです。ですけどそれは、想像でしかなく、初代”巫女”の後押しがあった聖伐派が強かったと聞いています。
しかしアリスさんの登場によって、立場が逆転します。アリスさんが”巫女”となってからはそれが加速し、今では聖伐派は司祭と先日の男性のような、この国から遠い所に住んでいる方だけのようです。ライゼさんが言っていた、端のほうの人間かもしれません。
神さまの代理人たるアリスさんに祈る方たちの目には、謝罪と過ちを犯さないという確かな決意がありました。
核樹をもたらし、自身の悲しみと想いを届けた神さま。その想いはアリスさんを通してしっかりと世界へ届いています。
願わくば、世界の全てがアリスさんと神さまの優しさに包まれて欲しい。そのために、今日の演説をしっかりとこなします。”巫女”として、神さまに選んでもらえた六花立花として。恥をかかせてはいけません。
「――」
祈りながらアルレスィアは、隣で真剣に考え事をしているリツカを想って微笑んでいた。
その姿はまさに聖母であり、多くの者がその微笑に幸福感を抱いていた。
「あれが核樹?」
「そうだよ」
「なんていうか、普通の木ね」
「そうだけど、赤の巫女様には違うみたいだよ」
「そうなの?」
「高級宿で巫女様たちが働いてるだろ。あそこで赤の巫女様が神林のことベタ褒めしてたんだよ」
「へー、ってあなた行ったの? ひどいわ! 私というものがありながら!」
「ご、誤解だよ! ただ休憩に――」
一組のカップルが痴話喧嘩をしながら美術館から出て行く。どうやらこの国の人間のようだ。
皆が言うように、核樹は普通の木だ。不気味な程姿を変えないなどの特異性はあるが、リツカのように興奮することはない。アルレスィアですら、高揚感が少しある程度のものだ。
六花として長く巫女としての血を守ってきた一族の末裔で、最高の”巫女”だ。核樹とより深く、強く、結びついているのだろう。
何しろ過去を遡っても、この二人以外で核樹をこんなにも感じ取れる”巫女”はいなかったのだから。
でも、そんなことは誰にも分からない。だから――。
(やっぱ、巫女だけなんだな。他の人間からすりゃ剣士娘は森で興奮する変人ってことになるな)
カカカッと笑うライゼルトが思ったように、リツカが見られてしまうのは、悲しいことだ。
ライゼルトは美術館から離れて裏通りへ行く。
今年は”巫女”が居る事で、核樹より”巫女”の方が注目されている。核樹の警備は数人で持ち回りで行っているから、それだけで十分と判断したのだろう。
ライゼルトにとって、裏通りで発生する負の感情の方が気がかりだった。
「おい、向こうらしいぜ」
「今日のために金を貯めて来たんだ、稼がせてもらう」
裏通りへ着くなり、怪しい会話が聞こえてくる。ライゼルトは気配を消し、後をつけた。
「こいつぁ……」
視線の先には、ライゼルトですら絶句してしまう光景が広がっていた。
《本日はご来場、まことにありがとうございます! 皆様お待ちかねのメインイベント!》
非合法どころの騒ぎではないだろう。
地下には広い空間があり、その中心は闘技場のようになっていた。そして今まさにそこで向かい合っているのは――
「グルルルルッ!」
「ガウッ!」
二匹の犬だ。
「闘犬か……?」
(だが、闘犬でこんなに盛り上がるか?)
ライゼルトは訝しんでいる。
確かに賭け事としているのだから盛り上がるだろう。だが、ブラッドスポーツと呼ばれる闘犬闘牛などは、血が流れるほどの激しい闘争が見世物としての醍醐味だ。熊や牛の方が迫力があるため、興行としては好まれる。
2匹の犬が激しく戦う。片方が怖気づくが、後ろで調教師が鞭を打ち奮い立たせている。
ライゼルトにとっては不快極まりない光景であったが、目を逸らすわけにはいかなかった。
(早いとこ、連絡して制圧逮捕するか。ただのカードゲームならまだしも、これは違法だ。何より――)
「化けもんになるぞ、ありゃ」
勝った負けたの熱狂が負の感情を呼び起こし、悪意へと変わる。そしてその悪意を一心に受けるのは、不条理な戦いを強いられている動物たちだ。
「とにかく、アンネに連絡――」
《さぁ! 今日はこれだけじゃないぞ!》
「……なに?」
ライゼルトが中央の闘技場を再び見やる。
「!」
ライゼルトは再び固まってしまった。そこに居たのは……。
「……」
「……」
「馬鹿が――ッ!」
二人の、人間だ。
「アンネ、やべぇことになった。すぐに警備と軍を頼む。裏通りの地下だ。あいつら剣闘やってやがる」
《すぐに手配します、アルレスィア様たちにも――》
「待ってくれ、アイツらには刺激が強すぎる」
《しかし、そのような場所であれば悪意が……》
「ッ――! 始まっちまった、止めなきゃならねぇ。この場全員痺れさせる、対応任せたぞ!」
《ライゼ様!?》
ライゼルトは、怒っていた。
中央の二人はどちらも借金のかたに戦わされている。
片や業務上横領、親や妻、果ては子供からまで金を毟り取りギャンブルに興じた男。十人いれば十人、彼を罵倒するだろう。
片や母のために急遽お金が必要になった男。まともに働いていては間に合わず、かといって借りられるほどの担保も信用もなかった彼は、闇金に手を染め、ここに落とされた。
理由は違えど、彼らは金が欲しいという点では同じであり、望んでここに経っていた。
「お前みたいなクズには負けない……!」
「ハッ! マザコン野郎が、クソガキに社会の厳しさってやつを教えてやる」
お互いの経歴、ここにいる経緯、全て両者に伝えられている。この闘技場は賭け事だが、興行の面も強い。地に落ちた者を嘲るように、観客たちは熱狂している。
「――……」
アリスさんが”伝言”を受けています。いつもと違い、青ざめ、私を心配そうに見ながら話を進めています。胸騒ぎがします。
「リッカさま……」
「どう、したの?」
アリスさんが神妙な面持ちで私を呼びます。
私は、そっと、聞きました。
「裏通りで事件です。人と人を戦わせて賭け事をする、大規模な裏賭博の制圧です」
「――え?」
ブクマ評価感想ありがとうございます!
満足のいく作品作りを心がけます!




