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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
20日目、お祭りなのです
200/934

前日祭⑨



「リツカさんの世界は気になりますね。どのような物があるのですか?」


 エルさんが興味を持ってくれました。


「この世界との大きな違いは、魔法がなくて機械っていうので生活を支えてることですね」


 私は勉強が余り出来ないので、細かいところは応えられませんけれど、ある程度でしたら。


「蒸気で歯車を回して動かしたりですね」


 魔法があるだけで、この世界でも蒸気機関は作れそうですけど、環境壊しちゃいますし、お勧めしたくないですね。


「飛行機っていう鉄の塊を飛ばしたり、車っていうのもありますね、こちらで言う陸の船です」

「魔法が無い代わりに、そういうのが発明されていきました。こちらの世界では、これらの発明はそれこそ魔法のような物ではないかと」


 飛行機が飛ぶ理由は良く分かっていません。翼の形が揚力を生んで、ジェットで飛ぶってことくらいしか知らないのです。


 テレビになんで映像が映るかなんて、専門家じゃないので分かりません。電気信号で光らせ方を変えることで映像にしている? 神さまの方がテレビに詳しいかもしれません。


 こんなことなら、もう少し真面目に勉強しておくんでした。何も応えられそうにないです。


 唸るように、考えます。魔法があるってことくらいしか、こちらと向こうの違いがありません。あとは、信心深いってことですね。


「火を起こすのも、石を擦り合わせていた時代がありますから」


 火打ち体験なんてありましたね。かなり難しいんですよね。


「今では指一本で火を付けられますね、先人たちの知恵ってすごいです」


 向こうの世界で不自由したことはありません。これも遠距離魔法を使えない理由でしょうね。手から火が出たらなぁなんて考えたことないですから。


「リツカ様は、どのような生活を送っていたので――」

「アンネ!」


 アンネさんからの質問をコルメンスさんが遮ります。それにハッとしたアンネさんが謝っています。


 でも。


「気にしないで下さい。私は、そうですね。生まれた時から巫女になるための訓練をしてたんでしょうね」


 旅行に行ったことはありませんし、五歳には()()()を見越して稽古つけられましたし。

 母も祖母も、私が”巫女”になるって確信していたのでしょう。


「疑問はありましたけど、特にこれといって嘆いたことはないですね。”神の森”を知ってからは入り浸っていましたし」

「それのお陰でこちらに来れて、アリスさんに会えたと思えば、稽古をつけてもらっていた日々もいい思い出ですね」


 楽しげに笑います。アリスさんに会えた、それだけで全てどうでもよくなる。それほどまでに、今が楽しい。

 この楽しさを守るために、もっと楽しくなるために。そろそろ努めに戻りましょう。




 アルレスィアとリツカが広場に戻っていく。それを見送った後も大人たちの語らいは続く。


「アンネ、君の正直なところは長所だと思っている。それでも気をつけなさい」

「申し訳ございません、気が緩んでいました……」


 アンネリスが反省する。しかし、リツカは気にしていない。


 歴代の”巫女”は確かに外への強い憧憬を抱いていたが、事二人に関しては違う。二人は”森”にずっと居られるならそれでも良いとさえ、思っていたのだから。


 出会いが二人を変え、役目が二人を歩かせているだけだ。


「リツカさんは真面目で純粋ですね。アルレスィアさんはそんなリツカさんを……溺愛しているように感じました。アルレスィアさん本人も巫女としての印象や噂以上に接しやすく、柔らかな雰囲気が素敵でしたね」


 エルヴィエールが二人と直に会って感じた第一印象を話す。言い淀んだのは、先ほどリツカを気にする余り、殆ど話すことがなかったゲルハルトを気にしてだ。


「気にしないで下さい、女王陛下。親として複雑な部分はありますが、今の二人を見れば、意味のない感情と割り切ってはいますので」


 まだ納得し切れていない顔で継げるゲルハルトにエルタナスィアがため息をつく。


「ありがとうございます、ゲルハルトさん。――リツカさんも、アルレスィアさんを?」


 エルヴィエールの知りたがりな性格が出てくる。レティシアの性格は殆ど、エルヴィエール譲りだ。


「はい。私が知っている限り、リツカ様はアルレスィア様に対し親愛を抱いております」

「シーアとアンネで意見が分かれるのが分かった気がしたわ。今日見た限り、二種類の愛情を感じましたから」

「今日はあれでも落ち着いていましたよ。集落に居た時などは――」


 女性陣が二人のことで盛り上がっている。それを傍で聞いている男性陣は、少し居心地が悪そうだ。




「一先ず広場に行き、その後大通りを歩きましょう」


 嬉しそうに弾むように歩くアリスさんが提案します。


「うん、大通りに行く時はアンネさんに放送してもらおうか。広場を目指してくる人たちも居るだろうから」

「そうですね。二十分置きくらいに広場に戻るように致しましょう」


 予定を立てていきます。ご機嫌なアリスさんを見るだけで、私も嬉しくなります。


「嬉しそうだね、アリスさん。どうしたの?」


 微笑みながら尋ねます。


「リッカさまが、私と会えたことが嬉しいと言ってくれたからです」


 くすくすと笑いながら応えてくれます。少し、顔が熱くなりますけど。


「いつも、言ってるよ?」


 照れ隠しに、少し意地悪なことを言ってしまいます。


「それでも、です」


 私の先を行くアリスさんが立ち止まります。


「私も、嬉しいのです」


 振り返って、私に満面の笑みをくれるアリスさんに――。


「ぁ――私も、嬉しぃ」


 全身が熱を帯びたように熱くなり、顔が今にも燃えそうなほど赤くなっているのを自覚します。


「さぁ、参りましょう。リッカさま」


 アリスさんが私の手を握って引っ張ってくれます。

 私の手とアリスさんの手の温度が溶け合っていくような感覚に、心が弾みました。



 広場の端のテントにまず向かいました。六人の容疑者が幽閉されています。机の上に罪状が書かれているようです。アリスさんに読んでもらうと、現行犯四人、不審者二人ということです。


「あんだ? 偉い別嬪さんだな! 二人が俺らを楽しませてくれるってのか」


 下卑た笑みを浮かべながら、見た目通りの下品さでアリスさんを見ます。


「アリスさん、ちょっと離れててね」


 名残惜しいですが、アリスさんの手を離します。


 兎に角、さっさとこの人たちに”光”を打ち込みます。


「問答無用です」


 ”光”を纏って”強化”を発動させます。対六人です、一気に決めましょう。アリスさんにそんな目を向けるのは許しません。


「ヤっちごふっ!?」


 ”強化”はいりませんでしたね、掌底が深々と突き刺さりました。檻の入り口は狭く、一人一人出ることになりますから、余裕はありました。でも、時間をかけたくありませんし、行き場の無い怒りを抱え込む気はありません。


「次は、どなたが沈みますか」


 もぐら叩きのようですね。ゲームと違って私の槌は確実に叩き伏せますけど。


 

 浄化後、アンネさんの放送が行われました。


 ”巫女”としての活動を再開しますが、選任冒険者でもあるので大通りの警備にも参加するということ、そして二十分毎に広場に戻ってくることです。

 何度か行き来することになります、それなりに楽しむのも悪くはないでしょう。


「ゆっくり、出店を見ながら行こうか」


 近くの水場で手を洗い、アリスさんの傍に行きます。


「はい、リッカさま」


 再び、アリスさんが手を握ってくれました。

 手を握ったまま向かいます、事件が起きないよう願いながら。


 大通りが広いお陰で圧迫感は少ないですけど、それでもやはり多いです。普段なら走れるほどのスペースは絶対あるのですけど、今日は無理ですね。


「アリスさん大丈夫?」


 恐らく、こんなにも人が密集するのは始めてであろうアリスさんに声をかけます。


「流石に息苦しさを感じてしまいます……」


 普段の大通りでも少し緊張しているアリスさんですから、ここまで多いと辛いでしょうね。


「んー、開けたところがあればいいんだけど」


 キョロキョロと周囲を見渡すものの、そういった所は何も――――後ろから手が伸びてくる気配がします、狙いは私?

 アリスさんを狙っていたらあなた、大変なことになっていましたよ。


 伸びてくる手を手刀で叩き落します。手首を正確に叩けば、私の力でもしっかり痛いでしょう。


「いってぇ……何しやがる」


 結構な大男ですね。

 引ったくりか、誘拐未遂犯が、まるで私が悪いかのように言ってきます。


「未遂ですけど、”光”を打ち込んでおきましょう」


 ”光”と”強化”をかけ、打ち込む準備をします。


「リッカさま――」


 アリスさんの言葉に反応して拘束に切り替えようとしましたけど――どうやら、二人組みだったようです。



「一応”転写”して起きましたが、必要なようですね。早速持って行って――」


 巫女さんの後ろからもですか。リツカお姉さんは痴漢男に注意が行っていますし私が拘束を――。



「私の前で、アリスさんが傷つくことはありません」

「あ?」


 アリスさんに刀が当たらないように注意して回ります。

 アリスさんを軸に回り、後ろから襲いかかろうとしている男性との間に入り込み、顎の下のほうを掠めるように掌底で、脳を揺らします。


「てめっ!」


 まだ先ほどの男性が居ます、背が高い、顎は無理ですね。であれば、体を止めずに回し、両手を広げた男性の脇腹への――。


「――シッ!」


 鉄山靠――顎を打ち抜いた方は足の自由が利かずに震え、私の目の前の男性は片膝をつき悶絶しています。


「て、めぇ……ゲホッ何を!」

「質問をするのは私です」


 冷ややかな声で告げます。


「誰の差し金ですか、それともただハメを外しすぎましたか?」

「差し金ぇ? 知らねぇよクソガキが……」


 会話が出来ていますし、クルートさんのときのような手先ではない? 悪意も微量ですし、差し金ではないようです。


「アリスさんは”巫女”です。理解していますか」


 ”巫女”に手を出すのはご法度です。神の使いとして、人々の安寧を守る者です。そんなアリスさんを連れ去ろうなんて。


「神の使いだか知らねぇが関係ないんだよ。お前らの国の考えが全てだとでも思ってんのか? 俺らは宗教なんざ知らねぇんだよ」


 あざ笑うように神さまとアリスさんを侮辱してきます。


「それで、誘拐でもしようとしたんですか」


 次第に視線が強くなっていきます。限界も近いです、さっさと拘束して引き渡したいですね。


 それにしても、私が武器を持っているので護衛とでも思ったのでしょうか。その私の注意を引き、本命がアリスさんを連れて行く? 安いシナリオですね。


「あ? 誘拐? 何言ってんだてめぇ、女にすることなんざ――」

「リッカさま」


 アリスさんが誘拐未遂犯に割り込む形で私を呼びました。


「どうしたの? アリスさん」


 アリスさんの声でささくれ立った心が洗われるようです。少し落ち着きました。


「彼らは魔王の手下ではないようですし、すぐに引き渡しましょう。証拠はシーアさんが撮っていましたから」

「そういうことでス」

(リツカお姉さん怖すぎです。なんであの状況から正確に巫女さんの間に割り込めるんですか。その後の武術っていうのも訳が分かりませんし)


 シーアさんが二枚の写真を持っていました。

 しっかりとアリスさんに手を伸ばしているところと、下卑た顔が映っていました。


「ありがとう、シーアさん」


 これで文句は無いでしょう。


「拘束しまス」


 まだ隠れてるかもしれないので、シーアさんが拘束している間周りを警戒します。



「巫女さン」

「なんでしょう」

「過保護も大概にしないト、リツカお姉さんの知識偏っちゃいますヨ」

「皆さんからそう言われますが、つい……」

「反射的なんですネ……。今回は下衆すぎましたから仕方ないですけド、巫女さんから教えた方がいいですヨ」

「っ――分かっています」


 

 この世界の一部しか、私は知らなかったのですね。まさか、神さまの存在すらどうでもいいという輩まで居るなんて。


 それでも、私の知っている方たちは素敵な方です。少数の悪人を見て、全体を量るのではなく、自分の目で確かめた真実を認識しましょう。

 アリスさんが笑顔で居てくれる限り、私の見る世界は優しさに満ちています。


「リッカさま」


 拘束が終わって、広場への搬送準備が整ったようです。


「ありがとうございます」

「うん。何事も無く終わって、よかったよ」

「リッカさまのお陰です」

 アリスさんの笑顔で、世界は照らされています。


「うん」


 少し、照れてしまいます。



 今日が終わるまでまだ数時間あります。気を引き締めないといけませんが、綻ぶ顔を止められません。


 花火もあるようですが、ゆっくりは見れそうにないですね。

 隣を歩くアリスさんが出店を見ながら笑顔で歩いています。これを見れただけで、私の心は満たされます。


(もっと、見ていたい――)


 そんな私の心を見透かしたように、アリスさんは笑顔で――。


「さぁ、行きましょう!」


 私の手を強く握って、寄り添ってくれました。


「アリスさん」

「はい」

「明日も、一緒に」

「はい! いつまでも共に」

「――うん!」

 


ブクマありがとうございます!

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