胸騒ぎ
この集落だけでの話しなので、わかりませんが……。私のような真っ赤な髪は珍しいようです。
「リツカさまー。どうしてリツカさまはまっかっかなのー?」
日記書き終えて、ぼーっとしてたら子供くんたちにかこまれてしまいました。
子供はやっぱり、怖いもの知らずですね。私みたいに行き成り現れた謎っ娘にぐいぐいくるのですから。
「んー、どうしてなんだろうねぇ? アリスさん見てるとなっちゃうんだよぉ」
可愛いから? 綺麗だから? よくわかりません……。椿とは違いますね。抱きしめたことも、一緒にお風呂に入ったこともありますけど……あんなにドキドキはしなかったです。
こんなにときめいたのは、”森”に入った時くらい……?
「?? ちがうよー、おけけ!」
―――策士めっ。私の髪に手を伸ばす子供くんに、謀られてしまいました。
こらこら。女性の髪にいきなり手を伸ばしちゃダメだぞー。私は気にしないので構いませんけど。
「そ、そっちね。この国には、赤い髪の人いないの?」
聞いてみます。
「んー、わかんない! みたことないから!」
キャッキャッと私の結ばれた後ろ髪をペシペシと叩きます。ふむ。赤い髪って珍しいのかな……。
見渡すと、黒や金が大半ですね。たまに茶や、染めたと思われる緑。赤はいませんね。
「あ、あのリツカ様……」
おずおずと、子供くんより少し大人の女の子ちゃんが話しかけてきます。
「なにかな? なんでも聞いて?」
笑顔で答えます。子供は好きです。素直で、まっすぐで。
「――アルレスィア様とは、どういうご関係なんですかっ」
女の子が私にぐいっと近づくように言います。
「カ、カンケイ……?」
私は思わずカタコトになってしまいます。
「はいっ、あんなアルレスィア様初めてみましたっ! アルレスィア様を愛称で呼んでますし……」
誰も何も言ってなかったけど、アリスさんって皆の前だとあんな感じじゃないのですか?
「アリスさんが、アリスで構いませんって言ってくれたんだよー」
とりあえず、こっちだけ答えます。前者の説明は、私にもわからないのです。
「そうなんですか?……じゃあ親密な」
そこまで言いかけたところで、子供ちゃんがハッとした表情で口を噤みました。
「リッカさま、もう準備ができましたよ」
どうやら時間になったようです。アリスさんがにこやかにやってきました。アリスさんの笑顔には、川のせせらぎのような……癒し効果がありますね。
アリスさんは笑顔で、子供たちを諭しています。
「さぁ、皆さん。準備ができましたよ。先に行って最後の仕上げをお願いします」
優しく、慈愛をこめて子供くんと子供ちゃんの頭をなでつつ、先にいくようにお願いするのでした。二人は姉弟なの、かな?
「はーい!」
「はい……」
子供くんはうれしそうに、女の子ちゃんは物足りないといった感じに、走り去っていきました。質問がまだまだあったようです。
(あれくらいの子が一番、嫉妬深いですからね。アリスさんをとられちゃうって思ったのかな?)
そんなことにはならないと思ってるんですけどね……。
「そういえば……名前、聞きそびれてしまいました」
「ふふ。今からいくらでも聞けますよ」
私の呟きにアリスさんは笑顔で、意味深に答えるのでした。
「そういえば、子供くん……男の子のほうが私の髪をみて喜んでましたけど、この国では赤い髪、珍しいんですか?」
自分の髪を弄びつつ尋ねると、アリスさんは困ったように笑ってしまいました。
「はい、そう聞いています。私もこの集落より向こうへ……森から出た事がないので見たわけではありませんけれど、”神さま”から聞いた話しでは、私の銀色や、リッカさまのような赤い髪はいないようです」
ああ……自分の浅慮に頭を殴られたように後悔をしてしまいます。”巫女”、同じルールと聞いているのに、何故そんな質問をしてしまったのでしょう。
この集落までって、私より活動範囲が狭い……です。外に興味があるようでしたし、なんとかならないものですかね……。神さまは何とも思わないのでしょうか。
アリスさんや私の髪色は、この国にも居ないようです。そういえば、私の町にも、私の家以外にはいませんね。気にしても、しかたない? のでしょうか。髪の色なんて、遺伝や体質、環境で変わるものですし、ね。
「では、リッカさま。参りましょう」
そういえば、何処へ行くのでしょう。
「お腹、すきませんか?」
にこり、というアリスさんの笑顔とともに、私のお腹はくぅと鳴ってしまうのでした。