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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
19日目、3組なのです
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一時③



 先に正気に戻ったエルヴィエールが、固まったままのコルメンスを見ている。


「ごめんなさい、コルメンス様。久しぶりだったもので、はしゃぎすぎてしまいました」


 悪戯っぽくクスクスと笑うエルヴィエールに、やっと思考が回復したコルメンスが応える。


「え、えぇ。私も久しぶりにお会いできた貴女が更に美しくなっていたもので……つい、緊張しすぎてしまいました」


 コルメンスが照れるように笑う。しかしそれ以上に照れているエルヴィエールは、震えそうになる声を自覚していた。しかし、生まれながらの女王である彼女は抑え込む。


「ちゃんと私を見てくださいね?」

「えぇ、もちろんです」


 再び同じ言葉でコルメンスに微笑みかける。力強く頷き見つめてくれるコルメンスに、エルヴィエールもご満悦だった。




 アリスさんに撫でられた後、しばらくするとお客さんが何人か来てくれました。少し安心します。


 土や肥料などのお求めが多いので、常連さんが多いですね。助かります。店番を引き受けたものの、もし誰かへの贈り物のお勧めでも聞かれようものなら――。


「娘への贈り物をしたいのですけど、よろしいでしょうか」


 一人の男性が恐る恐るといったように、やってきました。


 贈り物の場合、花言葉が重要になります。ただの観賞用であれば見た目の美しさ、香り、育てやすさや花の保ち期間で決めますけれど、贈り物の花を、それだけで決めるのは危険です。花言葉がマイナスであれば、一気に関係を悪化させることもあるのですから。


「はい。贈り物ですね、どのようなお祝いで贈るのでしょう」


 まずはどういった理由での贈り物か聞きます。その間で対応策を練らないと。


 見れば男性の歳はこの世界基準で見れば三十五,六といったところでしょうか。娘さんの年齢は高くても十七,八くらいですか。誕生日が一番として、卒業祝いか婚約祝いでしょうか。ブルースターやカスミ草、アマリリス、白薔薇などが好まれるでしょうけど、この世界にこれらはあるのか、そして花言葉は?


 しっかりと仕事をしないといけないという想いから私の頭がフル回転します。


「ありがとうございます。娘が結婚しますので、その祝いに」


 結婚、ですか。ガーベラや薔薇、胡蝶蘭ブルースター辺りが人気だったはずです。これらに似た花はこのお店にもあります。問題は花言葉がそのままではないということ。これから幸福へ向かっていく方たちが受け取る花です。間違いがあってはいけません。


「おめでとうございます、お二人の未来に幸多からんことを」


 微笑んで祝福します。あまり慣れていませんが、”巫女”として祈ります。


「よろしければ、お客様が込めたい想いなどを伺ってもよろしいでしょうか」


 男性に尋ねます。男性の想いにあった花を探すためにまずは想いを確認します。


「――。は、はい。これからの人生にたくさんの喜びと幸せを、と」


 少し呆然としていた男性がハッとし、応えてくれます。


 あまり似合ってませんからね、私の祈りの姿は……。アリスさんならしっかりとした祈りを捧げてくれるのですけど。


 喜びと幸福ですか。ブルースターと鈴蘭あたりですか。ブルースターを一輪、カスミ草と白薔薇で包みながら、アマリリスを添えるのもいいですね。ちゃんと花言葉を学んで自分でコーディネートしたいです。


 でも今は、これらの花言葉に類似する花をアリスさんとロミーさんに見繕ってもらいましょう。


「畏まりました。では少々お待ちください」


 お辞儀をし、二人のところへ向かいます。



 男性含め店内、店内を伺う人々は呆然とリツカを見ていた。正しくリツカが認識されつつあるが、それでも噂は深く根付いている。注目度は変わらない。


 ただの任務の一環と思われる花屋での手伝い。宣伝や集客を狙ったものだと多くの人が思っている。しかし、実際に接客されると違うと男性たちは悟った。


 リツカは男性のお願いを真摯に受け止め対応している。真剣な顔で男性の話を聞き、丁寧に対応する姿は噂とはかけ離れていたことだろう。


 戦いにおける鋭い刃のようなリツカ。日常における柔和で暖かい焚火を思わせるリツカ。この二つを知っている人はあまりの違いに困惑することだろう。しかし根っこは変わらない。リツカは、優しいんだ。


 

「アリスさーん、店長ー」


 二人に助けを乞います。


「結婚式用の花束ってど」

「リッカさまのですか!?」


 微笑みながら走り寄る私を見ていたアリスさんが、私の言葉を聴いて一気に表情を驚愕に変え立ち上がります。ロミーさんがそんなアリスさんに困惑しています。


「あ、ごめんね。お客様が娘さんの結婚式用にって」


 私は言葉を足します。いつも簡潔に言ってしまって勘違いさせてしまうので、治さないといけません。


「そ、そうですよね。当然、そうです。申し訳ございません。つい」


 アリスさんが胸を撫で下ろし深呼吸します。


「では、私が一緒に参りましょう。ロミーさんいいでしょうか」

「ん、頼んだよ」


 ロミーさんに許可をもらったアリスさんが私についてきてくれます。


「ごめんね、勘違いさせちゃって」

「いえ、私の早とちりでしたから。――よかった」


 たった十数分離れていただけなのに、微笑むアリスさんに跳ねる心臓を自覚します。でもそれが心地よくて、後半の口の中だけで呟かれた言葉を聞き逃してしまいました。


(あー、なんだい。仲が良すぎというか、あれだね)


 ロミルダは作業を止めずに笑いを堪えるように思う。


「二人の前途に幸多からんことを。ってことかね」


 微笑みあい、想い会う二人を見てロミルダが呟く。

 気が早いと、思うけどね。


「お二人の門出を祝うのであれば、こちらのダンラルの花は幸福ですね。カルバが希望、スタゥスが変わらない心になります。落ち着いた花で纏めてみましたが、いかがでしょう」


 選び出されたのは黄色が眩しい花と、純白の花、数本の淡い赤です。私が考えていたコーディネートに近い形に彩られます。


「はい、ありがとうございます。巫女様方に選んでいただけて、あいつも喜ぶでしょう」


 男性が畏まりお辞儀します。緊張より喜びのほうが強く感じます。


「畏まりました。では少々お待ちください」


 アリスさんが丁寧に優しく花を選び出していきます。


 もう花を覚えきったのでしょうか。初めてきたときは分からないこともあったはずですけど。私も早く覚えないといけませんね。

 アリスさんと外を歩いたときに、二人で花を楽しむためにも。


「ではこちらをどうぞ」

「ありがとうございます」


 お買い上げいただけました。私だけで対応は出来ませんでしたが、叱られっぱなしだった初日よりは成長できましたか、ね?


「またのお越しをお待ちしております」


 私はお辞儀をし、送り出します。


「ありがとうございました。また来ます、今度は娘夫婦をつれて」


 男性が微笑み会釈し、歩いていきました。やっぱり感謝されるのは嬉しいです。



「アリスさん、もうお花覚えきったの?」


 気になったので聞いてみます。特別な勉強法があるなら教えてもらおうと思います。


「はい。――リッカさまとお花を楽しむために、少しだけ頑張りました」


 頬を染め、アリスさんが微笑みます。その暖かい微笑は、私の頭を沸騰させます。


「はぇ」


 頬が急激に熱を持ちます。同じ考えで居てくれたこともそうですが、アリスさんの微笑がより強く鮮烈に私の脳を直撃しました。


「わ、わたしも……がんばるね!」


 辛うじてそれだけ言うことができました。早く勉強して、私もアリスさんと一緒に楽しみたいです。


「はい、お待ちしております」


 アリスさんが私の頬を撫で、私の体温を確かめるように愛でます。


「うん、すぐ、おいつくね」


 私の頬の熱は全身に伝播し、体が喜びに打ち震えます。


 アリスさんの手が、熱くなったはずの私の頬より熱く感じます。その熱は心地よく、身を委ね続けたく、なってしまうのでした。




(結局手すら握れんかった)


 ライゼルトは誰にもバレないように落胆する。しかし、隣のアンネリスは機嫌がいい。結局寄り添うことはできなかったが、静かに過ごすのも悪くなかったようだ。ライゼルトの思惑とは別に、アンネリスは楽しめている。


(やはり、剣士娘や巫女っ娘みてぇに触れ合ったほうがいいんか?)


 ライゼルトが危ない思考を走らせる。参考にする相手を完全に間違えてしまっている。


(いや、あれはやりすぎか。……第一あんなに近づいて恥ずかしい台詞なんざ吐けん)


 ライゼルトが失礼な思考を走らせる。普通のカップルたちの睦言と一緒にしてはいけない。リツカもアルレスィアも、ただ相手を慮っているだけなのだから。


「ライゼ様、花屋のほうへ寄ってもよろしいでしょうか」


 アンネリスが少し声を弾ませ言う。


「あ、あぁ。構わんが、買い物か?」


 ライゼルトがやっとまともに会話する。


「いえ、牧場の空気を吸っていると、花の香りも味わってみたくなったものですから」


 どぎまぎするライゼルトを楽しみながらアンネリスは応える。


 牧場で感じた解放感と爽やかな風を浴び、もう少し自然を味わいたいという想いが芽生えたアンネリスは、ロミルダのいる花屋へ向かいたかったようだ。


「そうか、じゃあいくか」

「はい」


 アンネリスの素直な言葉と、その愛らしい理由にライゼルトの感情は更に昂ぶる。

 二人の一日は始まったばかりだが、こんなことで最後まで持つのだろうか。



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