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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
19日目、3組なのです
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一時



 酪農家さんたちが落ち着くまで軽い談笑をしていると。


「もう終わっていましたか」


 防衛班と思われる方たちがやってきました。


「はい。敵は一体、ホルスターンです。ですが最近の例に漏れず変質は中途半端でした。怪我人犠牲者共にゼロです」


 簡潔に私から報告を入れます。


「分かりました。それではここは我々が引き継ぎます。ありがとうございました」

「よろしくお願いします」


 アリスさんが一礼し、私は酪農家さんたちに別れを告げます。


「それじゃあ、またきますね」

「はい、ありがとうございました。アルレスィア様、リツカ様」


 感謝を受け取り、牧場を後にしました。



「よぉ、終わったか」


 心なしか浮き足だっているライゼさんが声をかけてきます。


「はい、間に合いました」


 ライゼさんの様子を観察しながら私は応えます。


「そうか、なら俺はもういいな」


 どうやらもしもの時のために待機してくれていたようです。


「ありがとうございました。デート頑張ってくださいね」


 そう言って私たちはギルドに向かいます。


「ま、まて何で今日だと――」

「「バレバレです」」



 ギルドにはアンネさんとシーアさんが居ました。


「おはようございまス」

「おはよう、シーアさん」

「おはようございます」


 シーアさんの目の下の隈がすごいですね。


「シーアさん、徹夜だったの?」


 魔法研究をすると別れた後から音沙汰がありませんでしたが、まさか……。


「はイ、ずっと図書館にいましタ。先ほどアンネさんに国王さんの護衛に呼ばれるまでずっト」


 眠そうにシーアさんが言います。

 私たちの引継ぎはシーアさんだったようですね。今日は休んだほうがいいでしょう。


「ありがとうございます、シーアさん」


 アリスさんが労いの言葉をかけます。


「シーアさん今日は休んだら? 私たちが緊急対応するから」


 明日から更に忙しくなるんですから、休めるうちに休まないと。


「そうさせてもらいまス。アンネさんそれでもいいですカ」

「はい、ありがとうございました」

「でハ、お先に失礼しまス」


 アンネさんからの許可をもらったシーアさんはフラフラと帰っていきました。大丈夫でしょうか。


「あ?」

「ン、野蛮お兄さんですカ。私はお先に休ませてもらいますのデ」

「あぁ、だろうな」


 兄弟子さんが出入り口でシーアさんと遭遇します。二言三言話すとシーアさんは再び歩き出しました。


「担当、今日も警備か」

「はい」


 シーアさんを見ていた兄弟子さんはそのままアンネさんに聞きます。そしてアンネさんの返事を聞いた兄弟子さんはそのまま歩いていきました。

 こちらをチラと見ましたけど、敵意は感じませんね。


「報告承りました」


 アンネさんに報告し、その後の予定を聞きます。


「本日我々は待機となります。緊急依頼がない限り自由行動で構いません」


 アンネさんとライゼさんがデートですし、待機かなぁとは思ってました。この後から行くのでしょうか、化粧がいつもより華やかに施されています。仕事中は落ち着いた化粧でしたからね。


「それでは、ありがとうございました」


 アンネさんの言葉に私たちはお辞儀し、その場を後にします。



 自由行動ということなのでとりあえず街を歩いていると、アリスさんが”伝言”を受けました。


「リッカさま、ロミーさんから暇なら手伝いに来て欲しいと」


 神誕祭前で手が足りないのでしょうか。アリスさんから伝えられます。


「じゃあ、いこっか」

「はい」


 アリスさんがにこりと微笑むとロミーさんに返事をします。そういえばいつアドレス? 交換したのでしょう。


「そういえば、”伝言”って誰にでもかけられるの?」


 分からないことは聞いてみようということで、早速。


「いえ、こちらを使います」


 そう言うとアリスさんが一枚の紙のようなものを見せてくれます。


「王国に来た時にリッカさまが住民登録したと思いますが、あの時の紙と同じですね。これに魔力を込めて渡し、それを頼りに”伝言”を飛ばすのです」


 耳に直接ではなく、この紙に伝言が飛んでくるようです。


「距離は得手不得手で変わりますが、中級になっていればこの王国中に届きますよ」


 知らない人からいきなりかかってくるってことはないようです。


「そうなんだ。……アリスさんに任せっきりでごめんね」


 覚えることが出来た魔法しかまともに使えないので、”伝言”は最初から諦めていました。思っていた以上に私の頭は固いようです。


「いえ、リッカさまの力になれて嬉しいです」


 アリスさんが微笑みます。いつも支えてくれるアリスさんを思わず抱きしめてしまいそうになりますが、大通りなので。


「ありがとう、アリスさん」


 微笑んで、手を握るくらいに、抑えました。




「待ってたよ、悪いね二人共」


 ロミーさんが店先で待っていました。


「おはようございます、ロミーさん」

「おはようございます、本日はよろしくお願いします」


 私たちは軽く挨拶をし、お店の中にロミーさんと共に入りました。


「思いのほか神誕祭用の花束が滞っててね、店番をお願いしたいんだよ」


 お店の中には、たくさんのあるすくーらの花が綺麗な香りを放ちつつ置かれていました。


「では、私たちだけで店番をすることになるのですか?」


 正直、私はまだ不安です。今日二度目になるわけですが、一回目は……怒られた記憶しかありません!


「そうなるねぇ。リタは今日学校だからさ」


 リタさんは学校ですか、そういえば――。


「学校は神誕祭の時はお休みなんでしょうか」


 国をあげてのお祭りですし、休みになるのでしょうか。


「確か一日目は学校で出し物をするらしいよ。二日目は学生だけで集まって祈りを捧げるってさ」


 文化祭、のようなものでしょうか。


「だから店は二日間は閉めるよ、花を祭りで買うやつなんてそうは居ないからね。三日目は一応開けるけども」


 ロミーさんに三日間の予定を聞かせてもらいました。


 イメージでしかありませんが、このお店で用意されたあるすくーらの花をコルメンスさんたちに渡した後は、お求めになる人は多いと思うんですよね。

 あの有名人に送られた花はこちらの! みたいな放送とかありますし。


「意外と売れるかもしれませんよ」


 私はとりあえずそれだけ言っておきます。


「どの街にでもあるからねぇ、期待はしてないよ」


 自嘲気味にロミーさんは言いました。


「包装のお手伝いはしなくてもよろしいのですか?」


 アリスさんが包みかけの花たちを見ながら尋ねています。


「あぁ、こっちも人手は欲しいねぇ。どっちか手伝ってくれるかい?」


 ロミーさんが作業を開始しながら言います。どちらか、ですか。


「じゃあ、店番は私がしますね。手間取ると思いますけど」


 無謀とは思いますけど、一応数字は読めますから、なんとかなるでしょう。


「これもいい経験だね、頼んだよ」

「では、リッカさまお願いしますね」


 ロミーさんとアリスさんが微笑んで送り出してくれます。


「じゃあ、早速」

「まちな、着替えが先だよ」


 ロミーさんに肩を掴まれとめられます。

 流れで着替えずにいけると思ったのですけど、甘かったです。


 ここに来る前に宿に行って一応持ってきてはいます。その際支配人さんに、神誕祭中は忙しいでしょうから、夕方から夜にかけて給仕のほうお願いします。と言われました。緊急任務がなければ、この後宿のほうでも働きます。今日一日これ着て過ごすことになりそうです。


「ダメ、ですか?」

「ダメだよ」

「ふふふ」


 ロミーさんと私のやりとりを、アリスさんが微笑みながら見ていました。




 北門にコルメンスとディルク含む防衛班が待機している。


「すまないね、訓練で忙しいだろうに」


 コルメンスがディルクに済まなそうに言う。


「気にしないでくれ。陛下に何かあったらこの国が傾いてしまう。訓練の意味がなくなりますんで」


 ディルクが畏まりながら言う。それでもそこまで緊張しているわけではない。コルメンスの人柄ゆえだろう。


「ありがとう、私は人に恵まれている」


 コルメンスは目を閉じ感謝する。彼の人生は出会いで溢れている。良き仲間に巡りあえたことが、コルメンスにとっての宝だった。


「そろそろつくころですぜ」


 照れ隠しにディルクは遠くを見やる。


「あぁ、そうだね」


 コルメンスは心なしか嬉しそうだ。何しろ――。


「見えましたぜ」

「あぁ」


 一人の女性が護衛たちを労いながらコルメンスに近づいてくる。


「お出迎えありがとうございます、コルメンス様」


 スカートを軽く上げお辞儀をしている。リツカの世界ではカーテシーと呼ばれるお辞儀の一つだ。


 その姿は決して豪奢というわけではない。着たドレスも、外行き用の軽いものだ。しかし、そこには気品がある。艶麗でありながらも品を損なうことなく、優しさと慈愛に満ちた表情はその場にいる男性の視線を釘付けにする。


「ようこそおいでくださいました、エルヴィ女王」


 コルメンスが恭しく礼をする。


「何年くらいになるでしょう」


 エルヴィエールがコルメンスを見ながらしみじみと言う。


「もう、七年になります」


 コルメンスが少し緊張して応える。無理もないだろう。七年経ち、エルヴィエールは更に美しさを増していたのだから。


「そうですか……。あの時以来でしたのね」


 エルヴィエールはそう言って、人差し指の指輪を摩る。


「その指輪は……まだ、付けていてくれたのですね」

「えぇ、もちろんです」


 エルヴィエールの微笑みに周囲は固まる。


 二人だけの空間が出来上がっている。しかし、誰も口を挟めない。ここに一石を投じることが出来るのは、レティシアとアンネリスくらいだろう。


「では、王宮へ参りましょう」

「はい」


 コルメンスが手を差し伸べる。その手にエルヴィエールの手が乗せられる。

 神誕祭のために、エルヴィエールが王国入りした。


「……ハッ。お前ら警備に戻るぞ。着かず離れずの距離を保て」


 正気に戻ったディルクが命令を飛ばす。二人に近づきすぎて、久々の再会を邪魔しないために。


「……巫女様たちの触れ合いも危険だが、あの二人のも危険だな。まったく」


 どうして美男美女ってのは、何をするにも様になっちまうんだろうな。とディルクは一人愚痴る。



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