刀②
「大型の報告は現状ございません。小型は確認されていますが、そのどれもが先ほどのライオンと同じで変質しきれていないなど不完全であり、他の選任や冒険者でも対応できています」
判断が難しいですけど、神誕祭に注意することに変わりありません。人が今まで以上に集まりますから、そこで混乱を引き起こせれば……国一つ落とすことも可能でしょう。人間の変質も気にしなければいけません。
お祭りが楽しめるかは、微妙なところですね。
「では、緊急依頼がありましたら”伝言”致します。それまでは、警戒しつつ待機お願いします」
アンネさんがそう締めました。
「……」
兄弟子さんがすっと立ち上がり出口に向かいます。気になるところですけど、今は刀ですね。
「ライゼ様のところに行くのであれば私もいきます。報告を聞かなければいけません」
「はい、今から行きます」
アンネさんも一緒にライゼさんの下に向かいます。
木刀とは、いよいよお別れですね。
「お、おぉ……よぉ来たな」
ライゼさんがおろおろとしながら迎え入れてくれます。
私と目を合わせようとしません。
「……何をしでかしたんですか?」
ここまで露骨にうろたえということは、反省しているのでしょうけど。
「……実はさっきな」
ライゼさんが事情を説明してくれます。
「うわァ」
「ライゼさん」
「はぁ……」
シーアさんとアンネさんは呆れ、アリスさんからはその場が凍るのではないかと錯覚するほどの威圧感が放たれました。
「ちゃんと誤解、解いておいてください」
「あぁ……」
私のお願いに頷くしか、ライゼさんの選択肢はないのでした。
「それで、柄は大丈夫なんですか?」
誤解のほうはライゼさんに任せるとして、今は刀です。
「あぁ、しかし加工しちまっていいのか? 効果がなくなったりはないんか」
木刀を見ながらライゼさんが言います。
「神さまが加工を前提にくれたものですから、問題ないかと」
重要なのは核樹であることでしょうし、問題ないんじゃないですかね。
……急に不安になってきました。
「大丈夫です。私の杖は確かにアルツィア様からもらいましたけれど、細部は自分で調整しましたから」
握りや取り回しやすいように、アリスさん自身が手を加えたとのことです。
「良かった。じゃあ、ライゼさん。失敗したら……分かってくれますよね」
「お、おう」
ライゼさんが引きながら木刀をつかみます。
「……」
「……」
そのままの体勢で止まりました。
「リッカさま」
アリスさん呼ばれます。
「どうしたの? アリスさん」
「手を離さないと、ライゼさん困ってしまいますよ」
アリスさんが困ったように微笑みながら私を窘めます。
「……ライゼさん、一回離してください」
「あぁ、分かった森馬鹿娘」
手を離そうとしても離れません。こうなったら。
「アリスさんに渡すから、アリスさんから渡して欲しいな」
「は、はい」
アリスさんが困惑しながらも受け取ってくれます。
「さっきの森馬鹿っぷりはどうした、すんなり離しすぎだろ……」
ライゼさんが過去最大の呆れを見せます。アリスさんは別です。
「私の意志ではどうしようもないんです」
木刀を見ながらそう返します。
「ライゼさん。くれぐれも、くれぐれも扱いは慎重に丁寧にお願いします」
「あんさんの念押しは剣士娘のためだな……」
アリスさんからライゼさんに木刀が手渡されます。
あぁ……。
「あんな露骨に落ち込んで泣きそうな顔のリツカお姉さん初めて見ましタ」
「落ち込んでも顔を隠しますからね、普段なら……」
シーアさんはメモを取りながら、アンネさんはため息をつきながら言います。
そのまま完成を待ちます。
「……」
アリスさんとシーアさんは魔法のことを話しています。お互い譲れないものがあるのか真剣な顔で討論していますね。
「……」
アンネさんはライゼさんからもらった報告書を読んでいます。
「……」
あのペンダントはなんでしょう。やけに歪ですね。ふむ。アンネさんが居たのに、ライゼさんはあまり会話しようとしてませんでした。というより、目すら合わせてなかったですね。
浮き足立ってました。何かを楽しみにしているような、怖気づいているような。そしてあのペンダント。
やっとですか。結婚式とか見れるんですかね。
「……」
「あ、赤の巫女様。どうかなさいましたか……?」
ついに、店主さんから疑問を投げかけられます。
お店の待合所のような場所で右に左に歩き回っていたらそうなりますね。
「いえ、ごめんなさい。今は落ち着けなくて」
別のことを考えながら待ってますけど、落ち着けません。
シーアさんとアリスさんが仲良さげに話してるのにチリつく胸も気になりますし、今の私はさぞかし挙動不審でしょう。
落ち着きませんし、どこか広いところで素振りでもしますか。
そう思い腰に手を伸ばします。
「……」
誰にも気づかれないようにそっと手を腰から離し、誤魔化す様に前髪を弄ります。
ないんでした、木刀。
「ふふふ」
「? どうしたんですカ、巫女さン」
「いえ、なんでもありませんよ」
「?? それで”拒絶”についてですガ」
「えぇ、それは――」
デートの待ち合わせ場所で、今か今かと待つ人みたいですね。……ドラマでしか見たことないですけど。
ライゼさんとアンネさんもこんな感じになるんでしょうかね。
……私はどうなんでしょう。相手すら居ませんけど――。
――お待たせして申し訳ございません、リッカさま。
!? なんでアリスさんで再生されたんでしょう。
そういえば先輩と結ばれた椿が、女の子同士でもデートはデートでしょ。って言ってましたし、そういうことでしょうか。
でも恋人同士がやることですよね?
? ん……? うん……?
「?」
「動きが止まったかと思ったら今度は首をかしげテ、どうしたんでしょウ」
「どうしたのでしょうね」
「……? 巫女さんお顔が赤いようですガ」
「!? なんでもありませんよ」
「? そうですカ。では”光”についてですけド」
「え、えぇ。――」
「待たせた。出来たぞ……?」
ライゼさんが来ました。何故疑問系なんでしょう。
「中々に、状況が分からんが。ほれ」
ライゼさんから手渡されます。
「これが……」
鞘は普通の木ですね。でも柄からはしっかりと”神林”を感じます。鍔は、ただの板のような見た目ですね。装飾はないですけど、問題ないです。抜刀するにはここは余り広くないですし、広い場所に行きたいですね。
「それと、ほれ」
こちらも手渡されます。投げたら怒りますけどね。烈火のごとく怒ります。
「ありがとうございます、ライゼさん!」
木刀はもう見る影もありませんけど、核樹としての力は感じます。それに結構余りました。これなら指輪だけでなく何か別のも作れそうです。
今から楽しみです。刀も指輪も。
「うふふふ」
くるくる回りながら喜びを表現します。
これで戦えます。きっと斬れる筈です。歯痒い思いをしましたが、これで想いを果せます。
「ふふふふふ」
これで守れます。
「相変わらズ、綺麗にくるくる回りますネ。踊り子でもしてたのでしょうカ」
「普段から斬る時に回っとるからその延長だろ」
「リツカ様はああやって喜びを表現するんですね」
「リッカさま」
アリスさんから声をかけられます。
「どうしたの? アリスさん」
回るのを止め、アリスさんに向き直ります。
「刀は、手に入れられましたけど……無茶だけは、しないようにですよ……?」
アリスさんが心配そうに私に念を押します。
「うん。一緒に生きていくんだから、絶対死なない」
「――はい」
百点満点ではないようですけど、笑顔は見せてくれました。
「ふふふ」
大事に抱え、また喜びます。
「気をつけてくださいね、倒れては危ないですから」
「うん!」
「どうするんでス。巫女さんが止めないと止まりませんヨ」
「もうしばらくしたら我に返るだろ」
「お店が定休日で助かりましたね」
「俺は居るんだが、見てていいのか……?」




