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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
17日目、魔の手なのです?
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影⑥



(警備のついでに赤いのの剣がどれくらい出来てるか聞くか。余り行きたくねぇが)


 剣が出来てからという約束だから聞きに行くしかない。ウィンツェッツはそう考えながら歩く。


 ライゼルトに話があるとは言ったが、極力会いたくないことに変わりがないということだろう。まだ自分の感情と折り合いをつけたわけではない。


「いらっしゃい」


 武器屋の店主はいつものように店の奥で座っていた。


「ライゼに用があるんだが、今いいか」


 ウィンツェッツは短く用件を伝える。


「あぁ、いいよ。ちょっと待ってな」


 あっさりとウィンツェッツの用件を聞く。きっとライゼから言われていたのだろう。そろそろ俺の客が来る、といったところか。


「こっちだ、ついてきな」


 店主がウィンツェッツを店の更に奥につれていく。


「来たか。けどな、もうちょいかかるぞ」


 鉄槌を振り下ろし、周囲に火花を散らせながらライゼルトが先んじて言う。すでに二本は完成している。まったく同じものではなく、性質が少し違うものだ。


「あぁ、確認に来ただけだ」


 ウィンツェッツは、ライゼルトを見ず辺りを見回しながら短く応える。

 そうやって見渡したからだろう。あるものを見つける。


(なんだこりゃ)


 軽い素材で出来た綺麗な菱形状の何かがそこにあった。宝石が埋め込まれている。何かのペンダントだろうか。


「あぁ、そいつは……まぁ気にするな」


 ライゼルトはそこに置いていたことを後悔しながら応える。


「これいつ造ったんだ」


 ウィンツェッツがそう言う。


 明らかに職人製ではなく、慣れていない者が造った歪みがそのペンダントには見てとれた。


 これをもらった人間にはその心が伝わるだろうが、ただの見物者でしかないウィンツェッツには歪な出来損ないにしか見えない。


 十年ライゼルトの下にいたウィンツェッツには、そういったことは関係なしに、ライゼルトが造ったものだろうという曖昧な直感が働いていた。


「あぁ、昨日――」

「あ゛?」


 リツカの剣を作り終えて居ないのにも関わらず、そのペンダントを造っていたことにウィンツェッツは眉を顰める。


「まぁ、待て。明日には剣士娘に刀を渡せる。柄ってやつもすぐ造れる。明後日には時間作ってやるから安心しろ」


 予定より遅れているが、それでも驚異的なスピードで造り終えている。出来ない工程は端折っていることを抜きにしても満足できる速さだ。


「……分かったよ。また来る」


 ペンダントを、そこそこ丁寧に置き出て行くウィンツェッツ。


 ウィンツェッツは所謂不良に見える。実際、言動は不良のそれだろう。だが現実はそうではない。

 余裕があるときにでも、ウィンツェッツを観察してみるとしよう。




「そういえば、リツカ様。陛下が核樹の」

「核樹!?」

「……」


 私は聞き逃すことの出来ない単語に、今まで俯き気味だった顔を勢いよく上げました。


「そ、その核樹ですが。その搬入の手伝いもして欲し」

「やります! ぜひ!」

「……は、はい。そうお伝えします」


 アンネさんが若干? 引いていますけど、今はそれどころではありません。警備中にちらっと見れればいいと思っていた核樹を間近で見れるのですから。


 私は踊るようにくるくる回りながら喜びを表現します。あぁ、夢のようです。遥か昔にこの地にもたらされた核樹。それをいち早く見ることが出来るなんて。木刀や神林との違いはどんなものなんでしょう。やはり感じれるんでしょうか。香りはどんなものなんでしょう。触ることはできないでしょうが、感触も確かめてみたいです。


「さぁ、行きましょう!」

「いえ、まだ先の話です」


 促す私を冷静に諌めるアンネさん。


「……そん、な」


 私は露骨に落ち込んでしまいます。


「リッカさま、後に取っておいたほうがより楽しめますよ」


 私の頭を慈しむように撫でながら、アリスさんがそう提案してくれます。


「そうだよね……うん、我慢するね!」


 楽しみは後に。良い言葉です。大好きな言葉です!


「リツカお姉さんが私より幼く見えまス。ところで――」


 シーアさんがそんなことを言います。けど、この国を影ながら支える核樹を間近で見れるんですから、仕方ないです。ところで?


「ここ、大通りのど真ん中でス」


 そういえば、ギルドに帰る途中でしたね。

 ……。


「もう、バレてるから」

「声が震えてますよリツカお姉さン」


 シーアさんに指摘されますけど、もう気にしません。

 この国の噂が巡るの、早すぎです。

 好きなものは好きなんです。気にしません。

 気に……。


「急いで、ギルド帰ろう」

「はい、行きましょう。リッカさま」


 アリスさんが微笑みながら提案を聞いてくれます。

 気にしてませんけど、何か事件が起きているかもしれません。気にしてないですけど、急いで帰ったほうがいいでしょう。


「ポンコツ帳一冊目が埋まるのもそう遠くないですネ」

「ポンコツ、帳……!?」


 シーアさんの手帳、そんな名前なんですか……?




「もう直つきますよ、あなた」

「うむ」

「ふふふ、リツカさんはしっかりしているかしら」

「……」

「気になります?」

「……」

「はぁ。あなたも顔に出やすい。アリスもちゃんとしてますかねぇ――」




「シーアさん、ポンコツ帳という名前はいただけません」


 アリスさんが訂正してくれます。


「もっとちゃんとした名前にしてください」


 名前変えるだけでいいんですね。内容も訂正……あぁ、全部本当のことしか書かれてませんでした。訂正しようがないです。


「リツカお姉さん奇行録」

「そうじゃありませんっ」


 シーアさんに弄られながら大通りを歩きます。



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