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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
17日目、魔の手なのです?
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A,C, 27/03/12



「ギルド襲撃犯の男性と会話が出来るようになりました」


 ギルドにつくとアンネさんが既に待っていて、そう伝えられました。


「今まで会話出来ない状況だったんですか?」


 考え付くのは、私が蹴ったことによる障害ですけど……。


「はい。逮捕後牢へ収監していたのですが、こん睡状態に陥りまして、今まで病院で治療しておりました」


 アンネさんが落ち着いているので、既に回復したと思いますけれど……。


 時間差での意識不明は脳へのダメージの可能性が高いと聞きます。やっぱり私の……?


「原因は、分かっているのですか?」


 私を心配そうに見ていたアリスさんが、原因を聞いてくれました。


「恐らく、というところですが。悪意に感染していたことによる何かしらのダメージと思われます。内臓にも脳にもダメージはありませんでした。医者が言うには、極限まで魔力が失われていた、と」


 私のせいでは、ないようです。


 魔力は生命力です。それが失われていたと言うことは命すら危なかったということでしょう。命が助かってよかった……


 少し、ほっとします。


「おはようございまス。何のお話ですカ?」


 シーアさんがやってきました。


「前にギルドが襲われた事件の犯人からやっと話聞けるみたい」


 あの日の朝シーアさんと出会ったので、きっとシーアさんも知っています。


「なるほド。ところで巫女さんとリツカお姉さんの考えを聞きたいのでス」


 シーアさんが納得といった風に頷くと、そう切り出しました。


「最近のマリスタザリア出現頻度についてですけド、どう思いまス? 本当は昨日会った時に話そうとしたのですけド」


 シーアさんのフードから覗く目が光っています。


 昨日会いましたけど、あの後驚かせたお詫びに宿の休憩スペースでご飯ご馳走しましたからね、ただのくつろぎタイムでした。


「私は、何かの前兆だと思ってる」

「私も同じ意見です」


 私とアリスさんは同じ意見です。きっとシーアさんも。


「私もそう思いまス。これは嵐の前の静けさでしかないト」


 小型はたまに出ているようですけど、それでも少ないです。大型は隊商を守った時に出てきた熊が最後で、その後一体も確認されていません。何かが起きる前兆と思うのは自然なことでしょう。


「ですが、何も出来ないのが現状です。対策しようにも、警備を厳重にするくらいしか……」


 アンネさんの言うとおり、現状で出来ることは今まで通り注意することくらいでしょう。それでも知っていることが重要です。何かあるかもしれない、それだけでも分かっていれば、咄嗟のことにも対応できるはずですから。



「では、今日の日程を確認します」


 マリスタザリアの動向の確認を終えた後、私たち三人はアンネさんと今日の打ち合わせをします。


 兄弟子さんはまた居ませんね。別働隊でしょうか。多分、私と極力会わせない様にしているのでしょう。戦力を固めるよりバラけさせるというのもあるでしょうけど。


「本日はまず、先ほど話した襲撃犯の聴取に参加していただきます」


 事情聴取への参加、ですか。


 相手は襲撃犯ですけど、感染による豹変でした。それも元の性格と離れすぎています。その辺りも含め聞くのでしょう。私たちの参加は、悪意の感知や聴取のお手伝いですかね。一度あれほど豹変した方です。万全を期さねば。


「その後マリスタザリアが発生していなければ見回りとなります。ウィンツェッツ様は既に見回りをしています」


 兄弟子さんが別行動なのは他にも理由がありそうですね。もし私が関係していたら、アンネさんは私をそういう感じで見ますから。


「それでは収監所へ参りましょう。私も同行します」


 アンネさんが立ち上がったので、私たちも続きます。


 ギルドから出るときに、悪意の診察をした一人がギルドに入ってきたのを見ました。


 ギルド襲撃事件の際、二組目に診察した、賄賂で解決しようとした大人しい人です。ギルド関係者になったのですね。道すがら聞いてみましょう。



「アンネさん、あの襲撃の日に診察した人の一人がギルドに入っていきましたけど、選任になれたんですか?」


 あの日診察した数人の中では一番まともでしたね。一人目はアレでしたし、ペアの人たちは戦えそうになかったですから。


「はい、一般ですが。真面目に働いてくれています。次の選任試験で昇格できるでしょう」


 ふむ、悪意のせいで賄賂と言う形で解決しようとしたのでしょうか。落ち着き方と、アリスさんの”光”を受けても仰け反りもしない度胸に驚かされました。


「一人でも増えてくれて嬉しいですね。神誕祭で人手が足りない時期でしょうから」

「えぇ、本当に……」


 アンネさんも疲れが出ているのか、いつものハキハキとした感じではないです。


 昨日が久しぶりの休みだったと、朝の日課で会ったロミーさんも言ってましたし。余り負担をかけないように、私たちも頑張らないといけませんね。いつも助けられてばっかりですから。




 収監所は北側にありました。王宮の裏手です。衛兵、王国兵が訓練している場所の近くです。


 兵の訓練は体力作りがメインですね。防衛メインですから、盾術でも学べばまだ違うと思うのですけれど。


 弾く、受け流す、受ける。殴る、押す、押さえつける。魔法で強化された盾でなら、良い武器にもなりそうです。


 収監所は刑務所のような見た目でした。門があり、高い壁と天井変わりに有刺鉄線が張り巡らされています。”疾風”であそこを通り抜ける事は出来ません。門番は四人。全員王国兵です。やはり厳重ですね。


 ここに一時収監され、裁判を経て監獄へ移送されます。


 ギルド襲撃犯の方は扱いが難しいです。マリスタザリア感染による豹変ではありますけど、襲撃したのは事実。


 どう判断するかで扱いが変わります。すでに悪意は完全に浄化されていますけど、もう安全と判断出来ない限り監獄行きです。


 そして、浄化完了の判断は私たちにしか出来ません。確かに私たちは”巫女”ですけど、司法に関わることが出来る存在ではありません。王様から信頼して貰えていますけど、それとこれは別です。


 つまり……浄化の判断は誰にも出来ません。

 悲しいですけど……ギルド襲撃という事実がある限り、監獄行きなのです。


「こちらです」


 アンネさんに通されたのは、地下にある広い部屋です。


 窓はなく、通気口と扉は一つずつのみで、鉄製。壁は分厚く、魔法でも貫けないでしょう。机が一つあり、向かい合う形で椅子が置いてあります。


 その片方の椅子にすでに男性は椅子に座っていました。


 顔は青ざめ震えています。体に力が入っていません。まだ後遺症があるようです。私たちが入ってきたことに驚いたのか目が見開かれています。


 ですけど、すぐに視線を下に向け、しきりに足を気にしています。何かあるのでしょうか。


 この時点で、悪意は感じません。しかし恐怖や困惑といった負の感情は巡っていそうです。注意したほうがいいでしょう。まずはアリスさんに”光”を撃ってもらったほうがいいかもしれません。


 この部屋では、ランプが私たちの後ろから照らされており、影の位置は常に同じです。私たちが横一列にさえなっていれば、影に潜む魔法も効果を成さないでしょう。


 あの時、ギルド職員の男性が投げ飛ばされました。その下には影が出来ており、そこに潜んでいたのでしょう。その後職員とライゼさんが接触。ライゼさんの影から机の影へ、そして机から私へ。移動はそうやって行ったと思われます。


 その場の状況に左右されすぎますけれど、奇襲効果としては絶大です。攻撃を影から直接ではなく、一回出なければ行えないのが救いでした。


「アルレスィア様、よろしければ一度”光”を……」


 豹変はしていないでしょうけど、元の性格を知らない以上確かめるにはそれしかないです。


「初めまして、アルレスィア・ソレ・クレイドルです。”巫女”をやっております。今貴方はマリスタザリア感染の可能性があります。ですので、一度貴方に浄化の光を放たなければいけません」


 アリスさんがゆっくりと言葉を投げかけていきます。まずは相手を落ち着かせ、”光”を浴びせます。痛みはないとはいえ、驚かせてしまいますから。いきなりやるのは対話できない相手のみです。


「は、はい……。存じております。まだ、疑われているのですね……」


 男性は衰弱しており、声も弱弱しいです。食事が喉を通らないといった感じかもしれません。


「申し訳ございません。今世界は危機的状況であり、わずかでも可能性がある以上私たちは”巫女”としての務めを果たさねばならないのです」


 アリスさんが申し訳なさそうに頭を下げます。


 現状男性が感染している可能性は限りなく低いです。そんな人に魔法を撃たなければいけないことに、アリスさんは心を痛めています。


「いえ……それで私に対しての疑惑が晴れるのであれば、ぜひ」


 男性が頭を下げます。ですけど、この行為で例え感染の疑いが晴れたとしても、それが証拠になるかどうかは、怪しいのです。


「では、参ります」


 アリスさんの”光の矢”が、男性の胸の中心へ刺さります。少し呻きますけど、衝撃は軽いはずです。衰弱しきっている男性のためにアリスさんが一番衝撃の弱い矢を選択しましたから。


「ど、どうでしょう……」


 男性が恐る恐る自身の体を確かめています。

 悪意が出た証である黒い靄は出ませんでした。


 あの時の悪意は……まさに闇。約六畳程の部屋が完全な黒に染まったのです。あの量は異常であり、完全に定着していなかったのが不思議なほどです。完全に定着していれば……この人は問答無用で、死刑だったでしょう。


 悪意があの時出た以上定着はしておらず、この人は今正常であるということです。なんとかして、これを証明したいですけど、この件において物的証拠は出てきません。


「悪意は出ていません」


 アリスさんが安堵しながら応えます。これで聴取ができますね。

 聞けることはそんなに多くは、ないでしょうけど……。



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