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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
16日目、街には噂がいっぱいなのです
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街の日常2

A,C, 27/03/11



 朝の日課から帰ると、アンネさんから王宮へ行って欲しいと頼まれたとアリスさんから聞かされました。


 疲れも痛みもなくなったので依頼をこなそうと思ったのですけど、神誕祭の打ち合わせでは行くしかないです。


 悪意への対応が必要になるでしょうから、その辺りもつめなければなりません。

 シャワーを浴びて、身を清めてから行きます。


「リッカさま、まずは朝食をとりましょう」

「うん」


 アリスさんによる()()()()()()()()()を受け、その後アリスさんが私にスープを手渡しながら微笑みます。


「では祈りを――」


 アリスさんは自分の席につき、私は渡されたスープを置き祈るために手を組みます。

 アリスさんの祈りが静かな朝に紡がれます。




「……」


 ライゼルトがそわそわとしている。


「……」


 そんなライゼルトを、邪魔だという目で店主が見ていた。


「おい、いつまでそうやってんだ。出かけるんじゃなかったのか」


 ついに痺れをきらし、声をかける。


「……ん? なんか言ったか」


 ライゼルトには珍しく、上の空だ。


「はぁ……まぁいい。ただ奥に引っ込んでてくれ、準備の邪魔だからな!」


 ライゼルトが居るのは武器屋の真ん中、そこで先ほどから右へ左へ落ち着きなく歩き回っている。店主が商売を始める準備をしている横で、だ。


「あ、あぁ。すまん」


 謝るライゼルトだが、行動には移していない。何がそこまで気になるのだろうか。


「はぁ……」


 店主のため息が朝の武器屋に響く。




 レティシアもまた朝の活動を開始させる為に動いていた。黒いマントを羽織ながら朝食を食べている。


「さて」


 パンを食べながら着替えるのはお行儀が悪いですが、今は急いでますので許して欲しいです。こんなところお姉ちゃんには見せられません。


「今日は昨日の延長ですね。緊急事態がおきたときのために街で待機。マリスタザリアの発生が少ないのが気がかりです。平和ですガ、ふむ」


 独り言を話しながらだとよく考えがまとまる気がします。


「街で噂集めしながら待機しますか。二人に会ったらマリスタザリアのことを相談しましょう。きっと二人も同じ考えですから」


 まずは市場ですね。二人は王宮でしたし、会うことはないでしょう。




「ふわぁぁぁ……」


 リタは大きなあくびをしながら階段を降りる。


「おはよぉ……。母さん」


 夜遅くまで友人と話していたのだろう。あの職人通りの装飾品店の主と。


「あんた今日も学校だろう。何あくびしてんだい」

「まったく、リツカちゃんは毎日朝早く走ってるってのに。あんたも一緒に走ったらどうだい」


 ロミルダはそう言いながら手早く朝食を用意する。


「無理だってぇ」


 早々に諦め、朝食を食べていく。


「はぁ……。私は今日出かけるから、帰ってきたら留守番頼んだよ」

「珍しいね」


「あぁ、アンネが久しぶりに休み取れたらしいから会ってくる」


 アンネリスは朝、アルレスィアに連絡を取ったことで仕事を終えている。今日は他の面々と一緒で待機だ。


「へぇ、わかったよ。いってらっしゃい」

「あぁ、あんたも遅れずにいくんだよ」

 


 街の一日が始まる。




 王宮の門につくと、そのまま執務室へ通されました。所謂顔パスです。

 執務室の蓄音機みたいな物には何かの魔法がかけられていました。執務で使っていたのでしょうか。


「忙しい中お越し頂きありがとうございます」


 陛下からの敬語はやっぱり慣れません。


「ご安心ください。アンネさんのお陰で予定は調整されています。本日は神誕祭の打ち合わせとお聞きしました」


 アリスさんが気にしてない事を伝えました。


「ありがとうございます。では早速始めましょう」


 陛下が頭を下げ、打ち合わせを始めます。


「まずは神誕祭の流れをお伝えします。お二人はご存知ないとアンネから聞きましたから」


 陛下はアンネさんからある程度報告を受けているようです。そういえばシーアさんが、私の普段の行いを知っていると言っていました。もしかして、全部報告されてるのでしょうか。


「私は集落でアルツィアさまの誕生日を祝ってはいましたけれど、お祭りのことは話でしか聞いていません」

「私は、言わずもがなですね」


 私たちの神誕祭についての知識度は神さまの誕生に感謝する日、くらいのものです。


「では神誕祭についての詳しい説明から初めさせていただきます。知り、理解する、ですから」


 陛下は昨日の講話の出来事も知ってますね。アンネさん経由でしょう。なにしろあれは、ギルドへの依頼だったのですから。


「あはは……。その、小娘が生意気を言ってしまいました」


 恐縮してしまいます。まだ十六年しか生きていない、それもただ平和に生きてきただけの私の言葉でしかありません。気にしてないと伝えるために色々言ってしまいましたけど……少々生意気すぎました。


「いえ、私もこの話をアンネから聞いて感激いたしました。懐の深さもさることながら、この世界の未来まで考えていただいて……。アルレスィアさまも、生徒たちを叱っていただきありがとうございます」

「彼らも間違いに気づき、より一層日々の生活を気をつけることを決めたようです。噂に流されず、自身の目で見る大切さを学べました」


 陛下がべた褒めしてきます。恥ずかしいです。


「お二人の演説は心配いらないとさえ思えました」


 ……ハードル上げてしまいました! まさかそこに繋がるとは……!

 私はおろおろとアリスさんを見ます。


「リッカさまの御言葉を、ぜひ皆さんにお届けしてください。普段通りでよろしいのです」


 アリスさんが私を落ち着かせるように、ゆっくり優しく言い聞かせてくれます。


「うん」


 私の心が穏やかになっていきます。でもやっぱり、演説のプレッシャーを感じずにはいられないのでした。



「で、では続きをお願いできますか。陛下」


 私は頬を赤に染め促してしまいます。私が止めてたのに失礼なことしちゃいました。


「えぇ、では改めて神誕祭の始まりからお話いたします」


 陛下は微笑みながら話を始めてくれます。気にしてないと見せてくれるように。


《そのことについてですが、私も参加いたします》


 横から声がします。


 誰も居ないところからの声ということで神さまを連想しましたが、どんなに懐かしい響きであろうと……神さまの声音を忘れることはありません。アリスさんの次に、私のことを理解してくれるあの声を。


《いきなり申し訳ございません。実は最初から聞いておりました》


 声は、あの蓄音機のようなものから……?


「リッカさま、”伝言”魔法です。個人設定と公開設定を切り替えることができ、物に魔法をかけた場合、それから声を出せるようにすることもできます」


 アリスさんが説明してくれます。自分で使えないので完全にアリスさん任せでした。

 つまりあの蓄音機のような物は今、電話になっているんですね。


「そうなんだ。えっと、初めまして六花立花です」

「アルレスィア・ソレ・クレイドルです」


 先に自己紹介をします。


《はい。お二人のことはコルメンス様からお聞きしていました。私はフランジール共和国女王、エルヴィエール・フラン・ペルティエです。どうぞ、エルヴィとお呼びください》


 弾むように、優しい声音が衝撃の名前を告げました。


「じ、女王陛下!? 様……」


 思わず声を上げて驚いてしまいます。


「はははっ、リツカ様の驚いた表情が見れるとは運がよかった。アンネから表情豊かと聞いていたが、私の前では緊張からかあまり表情を変えてはくれなかったからね」

《あら、コルメンス様だけズルいですよ。私はまだお顔すら拝見できていないのに。うふふ》


 陛下が笑いながら、女王様と談笑します。シーアさんから聞いていたけど、仲いいんだなぁ。


「あの時も結構表情変わっていましたよ?」


 アリスさんがくすくすと笑いながら二人に混じって談笑します。場を和ませるための会話ですね。


「緊張はしてたから、アリスさんにしか分からなかったと思うよ」


 困ったように私は笑います。


《うふふ。シーアから聞いていた通りね。今日はよろしくお願いします。アルレスィア様、リツカ様》


 シーアさんが怒られたって言ってたとき、私たちのことも話したようですね。えるびえーる女王が打ち合わせに参加しました。


「「はい、よろしくお願いします。女王陛下」」

《うふふ。エルヴィでいいんですよ?》


 悪戯っぽく言っていますけれど、どうやら本気でそう言って欲しいようです。でも……。


 私はちらっとアリスさんを見ます。女王陛下の名前を間違えるわけにはっ!


 アリスさんに助けを求めたのも束の間、アリスさんが口を開くより先に陛下までも――。


「では私も、コルメンスと呼んでください」


 陛下まで、こ、こうなっては……。

 私は困惑しながらどうしようかと悩みます。


 ですけど――。


(ん? 陛下の目が私を観察する感じに。ふむ……)


 アリスさんも思案顔です。確信します。


「……シーアさんかアンネさんに、何か聞かされてます?」

「!」

《あらぁ?》

「陛下……いえ、コルメンスさん。いけませんよ。リッカさまの前でそんな簡単に表情を変えては」


 アリスさんが楽しそうに笑みを見せます。私の前と言いますが、アリスさんもとっくに気づいてました。陛下は表情隠すのが余り上手ではありませんね。


《うふふ。聞いていた以上ですね》

「そんなに分かりやすかったですか」


 女王様は楽しげに、陛下はちょっと落ち込んで、認めます。


「はぁ……では、御言葉に甘えて、コルメンスさん、えるびーさん。本日はよろしくお願いします。私のこともリツカで構いません。お二人に様付けされるのは、その、慣れませんので」


 今まで陛下ってことで畏まっていましたが、弄られてしまったので普段通りに変えます。


「私もアルレスィアで構いません。どうぞよろしくお願いします。コルメンスさん、エルヴィさん」


 アリスさんが頭を下げました。


《えぇ、よろしくお願いします。アルレスィアさん、リツカさん。リツカさんは、そうですね……私のことはエルとお呼びください》


 エルさんが私に気を使ってくれます。どうやら、私たちの緊張をほぐすためだったようですね。


「ありがとうございます、エルさん」


 私は普段の調子に戻って、この場で打ち合わせを行います。

 王様たちとフランクに話す日がくるとは、思いませんでした。


 はぁ……名前を言えないのは神さまの翻訳システムのせいなんですけれど、言っても仕方ないですね。


 平和になって集落に帰って神さまに会ったら、追求します。




「追い出されちまった」


 ライゼルトはついに店から追い出された。


「はぁ……腹ぁくくるか」


 そう言って市場方面へ歩いていく。


「まずは、花屋か……? いや、装飾品? いきなりはねぇな。だが――」


 普段背筋は伸び、歩きは自信に満ち、まさにこの国を一度危機から救った英雄といった姿は見る影もなく。そこには、今からやろうとしていることを不安がり、焦り、恐れている。そんな一人のダメな男の姿があった。


 レティシアが二人の昨日の様子を聞きまわっている。共和国の言葉で独り言を話しながらスキップするように歩いて周囲の注目を浴びている。


 普段はリツカとアルレスィアの影に隠れているが、フードからちらちらと見える顔はまさに美少女であり、周りの人間は、ご機嫌なレティシアを微笑ましそうに、あるいは見惚れながら、眺めていた。




 市場に来ましたが大当たりです。


「いきなり良い出だしです。ほっぺを手で挟み合って見つめ合うですか。クふふふ! やっぱり二人きりにしたのは正解です。これからもっと聞けるはず――ん?」


 こんなことが起きていたとは、直接見たかったですね。

 っと、あちらに見える無駄に大きい背中は誰でしょう。やけに丸まってますけど。


「あれは、お師匠さんですか。なにやらおどおどと……ふむ。クふふふ。あの姿は見覚えがありますね。国王さんがお姉ちゃんに贈り物をしようとしたときの姿です」


 あの時の王様は面白かったですね。


 確か、キャスヴァルが出来てから二、三年目ですから、私が五歳の時ですか。まさか、クふふふ! 初めての贈り物に選んだのが、まさか指輪だったとは! お姉ちゃんの顔は今でも覚えてます。次はいつ見れるでしょうか。


「巫女さん達二人の話も気になりますが、今はお師匠さんですね。二人のことはお姉ちゃんへのお土産話ですが、お師匠さんは弄り話ですからね。クふふふ!」


 お姉ちゃんへのお土産は大事です。きっと楽しんでくれるでしょう。世界の英雄が普通の女の子で面白い方たちですからね。知ってもらわないと。


 とにかく今はお師匠さんです。私の勘が言ってます。あの人はきっと面白いことを提供してくれると!


「二人の噂は後から集めるとして、お師匠さんの尾行を開始します。剣士の気配察知はリツカお姉さんとお師匠さん自身からお聞きしてましたからね。この距離なら問題ないです」


 こういうときのために用意していたのです。しっかり活用しないといけませんね。


「さぁ、どんな面白い姿を見せてくれるんですかね。クふふふ!」


 さぁ、いきましょう!




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