街の探索②
昨日の今日で歩き回るのは、間違いでしたね。色々ありましたから。色々。凄く注目度上がってます。
「とりあえず牧場からスタートして、王国内を一回りしようか。まだ行ってないところ多いから」
リタさんから聞きましたけど、裏通りには装飾品を作ったりする場所があるようです。職人通り? みたいな。
「えぇ、教会にもそろそろ顔を出さなくてはいけません。司祭様が帰ってきたそうですから」
アリスさんがちょっと嫌そうに言います。どうやら、この世界の教会の主も、神主さんの同類っぽいです。
私はすっかり、教会のことは忘れていました。神さまを讃える方たちですし、行ったほうがいいんでしょうね。
「私も、挨拶しないとね。アリスさんと同じ”巫女”だから」
「えぇ、一緒に参りましょう。リッカさまが一緒なら心強いです」
アリスさんが笑顔に戻ります。アリスさんを一人でなんて行かせません。
「あなた方は……」
門に居た男性が驚愕に目を見開きます。
私にとっては思い出深い方が居ました。その後の出来事含めて。
「あの時の、商人さん」
「その節は、ありがとうございました」
男性が頭を下げます。
集落から出て初めての戦闘。その時助けることが出来た男性達がまた、荷馬車を伴って門に居ました。家族と一緒に居ます。
「リツカ様。また会えました」
私に感謝をくれた女の子が、私の傍に走り寄ってきてくれます。
「久しぶり。元気だった?」
私も自然と顔が綻びます。少し頬を赤らめ、上目遣いで私を見る少女が微笑ましいです。人見知りなのかな。
「初めまして、アルレスィアです。あの時は丁度すれ違いで会えませんでしたね」
アリスさんがその女の子の頭を撫でながら微笑みかけます。
「初めまして、アルレスィア様」
女の子の顔が更に赤に染まります。名前をまだ聞けていませんでした。
「名前まだ聞けてなかったね。教えて欲しいな」
私は視線を合わせるようにしゃがみ尋ねました。
「はい。クランナ、です」
「ありがとう。クランナちゃん。今日は、お見送りかな」
神誕祭に向け商売でしょうか。
「はい」
返事をするクランナちゃんの顔は少し暗いです。不安と寂しさですね。
「クランナ、巫女様たちはお仕事中よ。こっちにおいで?」
クランナちゃんの母親と思われる方が呼びかけます。
「……。アルレスィア様、リツカ様」
母親の呼びかけに反応は見せますが、その目に決意を携え、私たちを見ます。
「どうしたの?」
私はどんな話なのか分かっていますけど、クランナちゃんから聞きたいので、聞き返します。
「お父様が、また危なくなったら……。助けてくれますか?」
私たちを見て、力なくお願いをしてくれます。それがどんな意味を持つのか分かっているのでしょう。最初血まみれの巫女様って呼ばれましたからね。
だからこそ、私は言わなければいけません。ただの血に塗れたドジではないと、伝えるために。
「任せて。私たちは、”巫女”だから」
そう言って頭を撫でます。この子の顔が悲しみに染まらないように。
「はい。ありがとう、ございます」
緊張か、恥ずかしさからか、表情を余り変えませんでしたけれど、やっと笑顔になってくれました。
小さく手を振って、クランナちゃんが母親の元に行きました。
「巫女様方、申し訳ございません。娘が無茶を」
クランナちゃんの父親が、頭を下げます。
「いえ。父を想うのは、子にとっては当たり前のことですから」
アリスさんがそう返します。だから、気にしないで欲しい、と。
「ありがとうございます……。そしてあの時は、お礼もそこそこに、そして街に帰ってからも機会が作れず申し訳ございませんでした」
行商と言うことですから、忙しかったのでしょう。
「私たちは気にしていません。無事であったことが何よりです」
アリスさんがお辞儀する男性を止め、告げます。
「はい、ありがとうございましたっ」
思わぬ出会いでしたけれど、元気そうでよかったです。
あの時を思い出します。私が血まみれと呼ばれてしまっていたこと。あの時一人で散歩していたこと。
あの時は、一人で散歩できてましたね。アリスさんが家を出て、私を探しにきて……。
いつ頃からだろう。私が……アリスさんが絶対家を出ないと分かってるときにしか、一人で外を歩けなくなったのは……。
我ながら、依存しすぎですね。思わず自嘲的な笑みがこぼれます。
「リッカさま」
アリスさんが私の手を握り、歩き出します。
「さぁ、一緒に牧場へ行きましょう」
私の自嘲を、アリスさんの笑顔が拭い去ってくれました。
「うん。一緒に、行こう」
ありがとう。と口の中で呟きます。
牧場は今日も家畜のお世話で忙しそうです。悪意も感じません。のどかですね。
「巫女様方、どうですか」
牧場の方が様子を聞きに来ます。
「はい、平和ですね」
私はのほほんと言います。風が吹きぬけて気持ちいです。
「……昨日、また出血してしまわれたとお聞きしました」
私はビクっと顔を上げます。
「巫女様もお疲れでしょう。よければ、こちらを食べて下さい」
そう言われてお皿に乗ったお肉のサンドイッチを渡されます。
「いいんですか?」
「はい、我々一同からの差し入れです」
見れば牧場の方たちが集まっていました。
「そういうことでしたら、ありがとうございます」
私たちは笑顔で受け取ります。
お肉はほどよく柔らかく、肉汁が溢れます。おいしいです。
でも――。
(なんで、私をじっと見てるんだろう)
私がそわそわしだします。どんなに思考を回転させてもわかりません。
「あんたたち、いい加減にしなさいよ」
牧場の数少ない女性陣のリーダー格と思われる方が止めてくれます。そして申し訳なさそうに頭を下げました。
「申し訳ございません、赤の巫女様……。こいつら、赤の巫女様が広場でご飯をおいしそうに笑顔で食べてたって聞いて……それ見たさにそれを」
「……えっ」
「それは、いけないことですよ。皆さん」
アリスさんがちょっと固い笑顔を向けます。その変化はわかり難いものですが、微妙にアリスさんの存在感が増します。魔力が、練られてます。
「ちゃんと聞いてたのかい、あんたら。赤の巫女様がそうなるのは巫女様の料理だけって言ったろ!」
どうやらその噂を流したのはこの女性の方で。ちゃんと伝えたはずなのに、料理ならなんでもいいと思われた、と。
あの時の全部見てたんですね。
「私、そんなに腹ペコ娘って思われてるんですかね……」
少し肩が下がり、俯きます。食べる量は普通なんですけどね……。
「リッカさまが満面の笑みで食べてくださるのは私の料理だけです。お間違いのないようお願いします」
アリスさんが何故か巫女の雰囲気を纏い、恥ずかしいことを言います。
本当のことだから否定できない。でも恥ずかしい。
えっと、訂正するのはそこなんですね。
「え、えぇ、ちゃんと徹底させておきます。巫女様」
笑いを堪えるように女性が訂正を受け入れます。アリスさんの少しズレた訂正が微笑ましかったようです。
私は縮こまって、サンドイッチを少しずつ食べることしかできませんでした。おいしいけど、アリスさんのが一番私に合ってるなぁと思う辺り、私は救いようがないお馬鹿さんですね。
牧場で暖かい? 心遣いを頂き、門へ戻りました。
「お疲れ様です。巫女様方」
門番兼入国審査官の男性が敬礼をしました。今では、顔パスです。
「「お疲れ様です」」
私たちは一礼で返します。
「何か変わったことがあった、とか聞いたことありませんか?」
世間話感覚で来訪者からの話とか聞いてそうな門番さんから、情報を集めます。
王都内の話は、アンネさんやシーアさんからすぐに伝えられます。でも、王国内の異変は中々耳に入ってきません。その点、門番さんは大勢の来訪者から話しを聞けますから、情報を何か知らないかな、と。
「は、はい。最近はあまり。マリスタザリアもそんなに多いわけではなく、行き来が楽だった、と」
門番さんが急な質問に困惑しながらも応えてくれました。
マリスタザリアが多いわけではない、ですか。
あの元選任候補の盗人さんも言ってましたね。アンネさんは気のせいと言っていましたし、昨日は七体現れました。
……私たちを狙っている? 何か作為的なものを感じます。
考えすぎでしょうか。
「それでは、私たちは次へ参ります。神誕際で往来が増えるでしょうから、お気をつけ下さい」
アリスさんが一礼します。それに倣って私も礼をして、歩き出しました。
次は国内ですね。ちゃんと見れるのは初めてです。
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